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第三十一話 づけづけ言える仲になるまで

村への帰還回です。

 決め台詞の後、崩れそうになる膝で必死に踏ん張る。。


「ハァ…ハァ…、これで終わり…じゃない、シューの…ところに…行かないと…」


 オークジェネラルの討伐を果たしたものの、息も絶え絶えに従魔の元へ向かうおっさんことアイバー。


「待ってろ…シュー、死んだりしてんなよ…」


 全身の疲労感が強い。《小治癒(ヒール)》を掛け発動するが、10回近く使うと止まる。それでも疲労感はとれなかった。

 先程までは戦闘行為の(たかぶ)りもあり動けていたが、今日一番の危険を退けることが出来た安心感からそのままへたり込んでしまいたくなる。


「まだ、まだだ…シューを置いてきた場所は…こっち…」


 オークジェネラルとの戦闘行為で荒れた痕跡のある森の方へ向かう。


「あそこだ、ハァ…あの木陰」

 

 近付くにつれて、心に恐怖が沸いてくる。

 

『シューは無事か?時間が経ちすぎてないか?薬草は足りたか?戦いながらでも様子を見るべきだったか?』


 疑念が次から次へと沸いてくるのを止められない。いっそその木陰からシューが飛び出て来てくれれば良いのに…

 そんな現実逃避にも似た思いに駆られると、


「ガウガウ!!」


 茶色い子狼が木陰から飛び出して来る。一瞬妄想が現実になったかと目を疑うアイバーだったが、すぐにその正体に気付いた。


「…なんだよ、もどきかよ…」


 オークジェネラルに追いかけられて以来、姿を見ていなかったシューもどきの子狼だった。

 こちらに駆け寄って来る。


「なんだよ、今なら俺をヤれるってか? そんな事してる暇は…って、なに?」


 嫌われているかと思われていたので飛び掛かられるかと思っていたが、予想に反して足元でガジガジしている。

 まるで引っ張っているかのようだ…というか、引っ張っているのだろう。


「お前、シューと仲良かったもんな、早く助けろってか? ………ったく、人間様の都合も考えろよ♪」


「グゥウグゥウ…」


 切迫した状況だというのに、足元の狼に少しだけ和んでしまう。少し前まで敵視されていたもどきであるが、シューを助けたいとの点では同志だ。

 現金なモノだが、一人でないのが心強い。


「おっし、行くよ。だから引っ張んな…」


 少しだけ軽くなった足を動かして前へ進むと、薬草まみれになった子狼が見えてきた。よかった、と言っていいのかわからないがオークジェネラルとの戦闘に挑む前と変わった様子はない。


「……ゥ……ァ……ァゥ…」


 グッタリして浅い呼吸で横たわり首から下を薬草で覆われたままのシュー。


 もどきは心配そうにシューの周りをウロウロしている。時おり薬草布団からでた顔を舐めたりもしていた。


「クゥクゥ…」


「遅くなってごめんな、シュー。ステータス見るぞ」


 状態を確認する為に従魔のステータス閲覧を行う。


【 名 前 】シュー

【 年 齢 】0

【 性 別 】女性

【 職 業 】従魔

【 L V 】11(+5)

【 H P 】28/114(+15) 瀕死

【 M P 】37/45(+5) 意識混濁

【 STR 】98(+10)

【 VIT 】91(+20)

【 INT 】93(+5)

【 MIN 】100(+15)

【 DEX 】131(+10)

【 AGI 】154(+15)

【 スキル 】《噛み付きLv1》《爪術Lv1》《土耐性Lv2》《風耐性Lv1》《飢餓耐性Lv3》 《孤独耐性Lv2》《気配察知Lv2》


 

 瀕死状態でもパーティーの繋がりは消えないのか、レベルアップしている。

 レベルアップによる状態回復はないらしい。実は密かに期待していたのだが。


「最大HPが増えたのは、ちょっと安心材料だけど………現状で出来る事はないな…重傷患者を動かすのは本来ご法度だが…」


 回復は薬草でなんとか間に合っている。

 どうにかしないといけないのは状態異常的なモノなのだが、それを治す手段が分からないアイバー。


「…教会なら、可能性ありそうか? 村にもそれらしい建物あったよな」


 前生のオタ知識だと、教会や神官と言えば回復のエキスパートのイメージがある。高い寄進とか寄付とかを求められそうではあるが、思い付いた可能性にすがるアイバー。


「シュー、つらいかもしれないけど、村までお前を運ぶぞ。返事できないかもだけど、了承してくれな?」


「!! ガオウガオウ!!」 


「…心配なんだろうけど邪魔すんな、もどき。今の俺じゃ、出来る事がないんだよ!!

 これから治せるかもしれない所に、シューを連れていくんだよ」


「ウガウガゥ?…ガゥガゥ」


 なんかよくわかんないけど、危害を与える気はないんだな…という感じに吠えるのをやめるもどき。

 ホント、人語理解してんじゃねーの!?と言いたくなるアイバーだった。

 

「まあいいや、よっと、ん…結構重いな、シュー」


 手をシューの体の下にもぐり込ませて抱え上げる。

 中型犬より少し小さいくらいで、痩せ気味のシューだがそれなりの重量はある。犬猫を飼った事がある人なら分かると思うが、一瞬抱き上げるくらいならともかく抱き上げたまま歩くのは結構キツいモノである。


「行くぞ、多分…こっちだよな? ああ、そうだ。移動の前に…」


 移動前の諸事を済ませて移動を始めるアイバー。

 湖に出て湖岸沿いに村へ戻る事にする。シューに先導を任せていた為、ややあやしいが湖のある方向へ向かって歩き出した。

 もどきも以前とはちがって距離を置かずにすぐ隣で並走している。よほどシューの事が心配なのだろう。


「クゥクゥ…」


「そうだ。薬草じゃなく魔法で回復させてLv上げの糧にしよう。上手く上がれば状態を回復させる魔法も覚えられるかも…」


 シューの体に張り付いた薬草を剥がし、触れている箇所から《小治癒(ヒール)》を発動させる。

 数秒に1回《小治癒》が発動されるのを感じながら歩くとすぐに湖岸に到着した。


「よし♪ 後は湖を右に見ながら歩けば、村に戻れる。もうちょっとだぞ、シュー」


 先の展望が見えてきて少し安心する。


『スキル《回復魔法Lv2》を取得しました』


 湖についたとたん、天の声が聞こえてきた。内容も待ち望んでいたモノである。


「!! 来た!! Lv2で覚えられる回復魔法は《範囲小治癒(エリアヒール)》と……んん!? これいけるんじゃないか?《小状態回復(リカバー)》だよ♪」


 まさに今望んでいるものである。早速《小治癒》の代わりに《小状態回復》をシューに使ってみたところ、発動の手応えはあったがステータス欄に変化が見られなかった。


【 H P 】28/114 瀕死

【 M P 】37/45 意識混濁


「? 1回じゃ効かないのか? 『小』だけあって効果が小さいのかも、とにかく何度も使ってみよう」


 また明るい材料が増えた為、浮かれそうになるが歩みを止めるのはよくないと気を引き締める。


 正直足を動かすのがツラくなってきているアイバーだったが、休むとそのまま動けなくなりそうだったので歩きながら魔法を使い続けた。


「…おっとヤベ、瀕死状態は続いてるからHPの減少は続いてるのか《小治癒》」


 《小状態回復》をかけている間もHPが減り続けており、シューのHPが20を切っている事に気付く。慌てて《小治癒》をかけた後、剥がしてとっておいた薬草を再び張り付ける。


 効用がなくなったモノは茶色っぽくなっているようだったので廃棄し、その分をひくとあと20回分程だろう。


「HP回復は薬草に任せて魔法は状態回復に集中…Lv2魔法だけあってLv1の《小治癒》よりも消費MPが多いな…3MPか…」


 何となくこのまま《小状態回復》を使い続けていいのかと不安になりつつも、魔法が発動している手応えがシューを良い状態にしているのではと期待してしまって止められなかった。


 30回ほど使った所でMPが切れた為、ボロ袋から魔力草を取り出してムシャムシャする。正直食べ飽きたわ、青臭いわ、疲労感で食欲がないわで吐きそうになるが、我慢して飲み下した。

 1回摂取すればMP回復するのだが、回復した後なら吐いても大丈夫なのだろうか?


『スキル《過食Lv1》を取得しました』


『スキル《吸収Lv1》を取得しました』


 天の声が新スキル取得のアナウンスをしてくれた。その片方はどこかで聞き覚えのあるスキルである。

 少し腹具合が楽になった…気がしないでもない。


「ウップ…《小状態回復》」


 MPが全回復したため再び魔法を繰り返すアイバー。そして20回ほど唱えたところで、


「…やった…好転した…」


【 H P 】28/114 重傷

【 M P 】37/45 意識薄弱


 それでも重傷なので、まだまだ安心は出来ないかもしれないが、回復させる事が出来ると分かっただけで心が軽くなった。


 シューのHPを確認すると瀕死状態ほどではないが、数分に1の間隔でHPが減っているようだった。このままHP回復は薬草に任せておいて大丈夫だろう…何かが気にかかったが、今はおいておこう。


 そこからさらに30回ほど《小状態回復》を続ける。


「よし!! 予想通りぃ…」


【 H P 】42/114 負傷

【 M P 】37/45 


「クゥゥ…」


「ガウガウガウガウ♪」


「ヨッシャア♪ 重傷が負傷状態に!! MP欄の状態異常も消えた!! シュー、気がついたか!?」


「クウゥ?」


 アイバーの腕の中で小さく鳴くシュー。

 喜んでアイバーとシューの周りを飛び跳ねるもどき。

 安堵の表情を浮かべるアイバー。


「あれ? 足が!?」


 今までの疲労がたたったのか、座り込んでしまうアイバー。

 気付けば足だけでなく腕の力も上手く入らない。


 シューはするりと腕を抜け地面に降り立つ。心なしか自分の体を見て不思議がっているようだ。

 もどきはそんなシューの周りをチョロチョロしている。


「はは、安心して力抜けちゃったかな? 今日はオークジェネラル戦以前から疲労だなんだの騒ぎがあったし、疲れてても不思議じゃないな…少し休もう」


 だいぶ村に近付いているという安心感と、シューの命の危機をなんとか乗り切れたのでは?という満足感からへたり込むアイバー。


 休憩ついでにMP回復の為、魔力草をムシャムシャする。MP欄を確認すると残り30ほどのMP量だった。


「《過食Lv1》のお陰か、気分的にはゲロ吐きそうだけど食えるな。モグモグ…あ~なんか大学の新歓コンパの居酒屋で、ノリで大食いメニューに挑戦させられた事を思い出すツラさ…カツ丼は好きだけどあんなに食えねぇっての…」


 すり鉢いっぱいに盛られたご飯、その上に乗せられたレトルトっぽいカツ煮とグリンピースはトラウマだ。食えないだけならまだしも、残した事を責められて『空気が悪くなった』って代金請求されて二次会には来ないでいいよ、って言われた。

 俺は新入生で、勝手に『君なら完食できるでしょ?』って頼んだ癖になぁ~~長谷川先輩よぉ!!


「いかんいかん、っておお!? ついに!魔力草が無くなったか、MP量は…100に届かないくらいか」


「ガウウ…」

 

 座って休んでいるとシューがこちらに擦りよってきた。なんだか申し訳無いような、心配しているような感情の念が伝わってくる。


「なんだ? 助けてもらったからって遠慮してんのか? 殊勝なところもあるんだな」


「グゥウ…」


「俺もシューに助けてもらったからおあいこだぞ!?むしろ俺の方が助けてもらいすぎたと言っても過言じゃない、うん!! 過言じゃない!!」


 大事な事なので2回言いました!!


 オークジェネラル戦で身を挺してくれたこともそうだが、その前の『わたしたちズッ友だよ♪』宣言…あれ?ちがう?キモい?そんな目で俺を見るな!!  コホン、まあ両者の間に多少の意識の差はあれども、一緒にいてくれると言ってくれたことは嬉しかったのだ。

 大袈裟に言えば『救われた』と感じたおっさん。


「だから…まあ、その、あれだ。お前を助けるのは当然なんだぞ? これからもヨロシクだ!!」


「キャウン♪」


 おっさんの精神年齢的には結構恥ずかしい台詞を聞きながら、途中から元気さを取り戻したシュー。体を一層擦り寄せてくる。


「キャウンキャウン!!」


 そこへ割り込んでくるもう1匹。


「ああ、もどきもまだいたのか? あんまりシューにくっつくなって…」


『キッズウルフが仲間になりたそうに見つめてくる。仲間にしますか?』


「か? って、ヘエ?」


 突然の天の声さんにもだいぶ慣れたものの、今回は内容がいまいち理解できなかった。


「ガウガウ、ガウウガウウ!!」

 

 え!? なに、どういう事!? 今までツンしてたもどきがなんで急にデレたの!?

『あなたの事なんて全然、前世から好きじゃないですけど、しょうがないから仲間になってあげるです!!』などという幻聴が聞こえたようだ。


「それはともかく、仲間、従魔2匹目かあ~今のところシューを仲間にしてのデメリットは…毛皮をダメにされちゃった事ぐらいか?

 それ以外は斥候・猟犬ポジでメリットだらけだよなぁ、ズッ友だし…

 もどきの能力がどんなもんなのかが分からないけど、それほどシューと変わらないと思うし…ん?そう考えるとそれほど…」


『キッズウルフが仲間になりたそうに見つめてくる。仲間にしますか?』


 Oh!! 天の声さんから念押しの繰り返しが…なんだろう? 今までのシステマチックな天の声さんには無かった、情念のようなモノを感じるような感じないような…


「…でもまあ、足止め要員が増えるだけでも安全面では格段の向上か、『YES』…」

『両者の承認を得ました。キッズウルフをパーティーに組み込みます。パーティー内でのステータス閲覧が可能になりました』


 なんか食い気味に返事がきたような気がする。なんか怖いな。


「…まあいいや。んじゃ名前つけてやるか………………………ブランで」


「ガウガウ♪」


「ガウウ♪」


 特に異論はないようである。シューも一緒になって喜んで鳴いている。


 おっさんの長い葛藤の間に何があったのか!? それはシューの時と同じである。


 シューがシュークリームからつけたのに対して、ブランはモンブランからつけている。ドイツ語のフラウとも響きが似ていていいんじゃないだろうか?シューより黄色味の強い毛皮もモンブランっぽい♪


 自画自賛するおっさん、それに、選ぶスウィーツも微妙に昭和臭がする。


「んじゃ、シュー共々これからよろしくな♪」


「ガウウ♪」


「ガウウガウウ♪」


 この時にブランのステータス閲覧をして驚かされたのだが詳細は後ほど。


「さて、結構休んだかな? シューのHPを見ても減る様子はないし、負傷状態はHPに影響ないか、あってもかなり長いスパンなんだろう。

 じゃあ行くか…あれ?」


 立ち上がろうとして目眩に襲われるアイバー。そのまま地面と熱い抱擁をかわす。

 なんだ? と思って自身(・・)のステータス閲覧を行う。思えばオークジェネラル戦の途中から、しっかりと確認した覚えがなかった…


【 名 前 】アイバー

【 年 齢 】15

【 性 別 】男性

【 職 業 】調教師 ※異世界転生者 

【 L V 】15(+6)

【 H P 】93/368(+102) 重傷 疲労困憊

【 M P 】95/245(+60) 神経衰弱

【 STR 】219(+36)

【 VIT 】146(+24)

【 INT 】319(+18)

【 MIN 】100(+18)

【 DEX 】140(+12)

【 AGI 】254(+30)

【 スキル 】《経験値獲得2倍》《鑑定》《体術Lv2》《刀術Lv3》《投擲Lv3》new《回復魔法Lv2》new《水魔法Lv1》《風魔法Lv1》《土魔法Lv3》《闇魔法Lv1》《MP自動回復Lv3》《統率Lv1》 《狂化Lv4》《孤独耐性Lv6》《冷徹》《算術Lv5》《努力の才》 《採取Lv1》《過食Lv1》new《吸収Lv1》new《無詠唱》



「………自分が重傷だったの…忘れて…た」





お読みいただきありがとうございましたm(__)m


消費MPの設定です。

Lv1=一律1MP

Lv2=一律3MP

Lv3=一律8MP

Lv4=一律15MP

以降構想中ですm(__)m

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