表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/76

第二十九話 弾丸の如く

可能な限り連日投稿を目指していましたが出来ませんでした。申し訳ありませんm(__)m

「ブモオウゥ」


 子狼を投げ捨て愉悦にひたるオークジェネラル。

 さて次は、と足元の大盾の下にうずくまった人間を踏み潰そうと足に力を込める。一気にではなく徐々に、じっくりと圧殺する腹積もりであった。


「……ァ…ァ」


 か細い声が聞こえる。

 まだあがこうとしているのか、それとも絶望にすすり泣いているのか、どちらにせよ(たの)しいと足を沈み込ませる。が、沈み込んだ分が押し返される。


「ブモモ!?」


 生意気にも抗うか、と更に力を込めるオークジェネラルだったが、期待していたのとは違う感触。


「……ァ…ウァ…ァ…」


 最期の悪あがきかと思われた押し返しは止まらず、最初の勢いのまま続いている。その頃にはオークジェネラルも本気で押し潰す気で踏んでいるのだが、押し留められない。


「ブモオオオ!!」


「……ウァァ……ァ……《闇操作(ダークムーブ)》」


 足元からうめき声以外の声が聞こえてきたかと思うと、周囲から黒い(もや)が集まってくる。


「ブモ!? ブモモオ!!」


 これまでの人生…いや、豚生だろうか?で、見た事のない現象が近づいてくる。未知の現象に(おのの)いたオークジェネラルは周囲の靄を払おうと鉄錘(メイス)を振った。


「ブモ!! ブモ…」


 振り払う事に傾注した一瞬、意識を外した足元が爆ぜる。


「ブモオ!?」


「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」

 

 得物を振り、僅かに体の重心がずれた時を狙い大盾を全力で押し上げたおっさんことアイバー。

 地面と大盾との間に空間を確保すると、そこから転がり出る。転がる勢いを削がぬよう。手足を使って飛びすさる、その速度は以前とは比肩出来ぬ程。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 人語を発っさぬままのアイバー。咆哮を続けながら向かうその先には、吹き飛ばされた際に手放したボロ袋があった。


「ウアアアアアアアアアアアアアア!!」


 ボロ袋を掴むと四肢を使った、獣じみた移動方法で方向転換。

 その際、近くにあった石を掴む。地面に出ている部分は手のひら大だったが、その埋もれて見えぬ全体像はその数倍はあった。ボーリングの球より一回り大きいくらいの岩塊、常人なら両手でも動かすことも難しそうな質量を片手で引き抜く。周囲の土も含めた重量物を、バランスを崩したオークジェネラルに《投擲》した。


「ウオアアアアアアアアア!!」


「ブモモ!? ブモァ!!」


 顔を狙った投擲だったが鉄錘を盾にして直撃を避けるオークジェネラル。岩塊も砕けたが、勢いまでは殺せずしりもちをついた。


 その様子を確認する事なく、すでに移動を開始しているアイバー。投擲後に移動した先には、


「シュウアアアアア!!」


 横たわる子狼の姿があった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 駆け寄りながらステータスを確認する。


【 H P 】1/99 瀕死


 ヤバい!! 前回確認時よりも3減ってラスト1!!


「シュウアアアアアア、《小治癒(ヒール)》アア《小治癒》アア!!」


 無詠唱も交えつつ、回復魔法を連発する。HPが回復するが24まで回復したところで数字の上昇が止まり、同時に回復魔法が発動しなくなる。


「アアアアアア!?」


 なんで!? と、言いたいのだが叫び声に変換されてしまうアイバー。

 実はオークジェネラルの足元から脱出した時から思考はハッキリしていたのだが、言葉を発しようとすると咆哮に変換されてしまう。どうやらスキル《狂化》発動中の仕様であるらしい。同様に体の動かし方も、自然と荒っぽい仕草になってしまう。

 狂戦士っぽい動きってこうだよね、という見本みたいな動きである。

 魔法だけは普通に発音出来ていた。ものすごい大声だが。


「ウアアアアアアア!!」


 続けて《小治癒》を続けようとするが発動しない。HPを確認しながら続けていると、急に発動の手応えがあった。


「ウアアアアアアア!?」


 確認していたHPが一瞬23になった、と思ったら24に戻る。それ以上は上がらない。またしばらくすると23になり《小治癒》が発動、24に戻る。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 後方からオークジェネラルの雄叫びが聞こえる。不意の反撃にしりもちをつかされたが、その事に矜持(プライド)を傷つけられたのか、目を剥き口から唾を飛ばしながら迫ってくる。


「アアア《風操作(ウインドムーブ)》アア!!」


 先程無効化されて崩れた《土壁(アースウォール)》と《土槍(アースニードル)》周辺から土埃を巻き上げた空気を動かしオークジェネラルの顔面にぶつけるアイバー。

 興奮して目を剥いていたためか、土埃をマトモにくらい目を閉じてしまう。全力疾走中の目眩ましに足がもつれて転倒するオークジェネラル。


「ブモオオオ!!」


 シューを抱えてオークジェネラルから距離をとるアイバー。開けた場所から少しだけ森に入り、木陰にシューを横たえステータスを確認する。


【 H P 】22/99 瀕死


 先ほどからまた2減っていた。直ぐ様《小治癒》をかけて回復させる。

 どうやら瀕死状態だと数秒毎にHPの減少を引き起こすらしい。スパンはおそらく10秒まではいかないぐらいだろうが6~8秒程だろう。

 瀕死状態の回復方法が分からない今、手持ちの物や魔法で治療の方法を試すか、急いで村に戻りたいところだが、どちらもオークジェネラルに襲われながら出来るかというと難しい。

 あとは、シューをここに置いて自分だけで村に逃げ戻るという考えが浮かんだが、それを即座に消し去る。

 それを選ぶくらいなら《狂化》する程足掻いたりしない!!


「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」


 先にオークジェネラルを始末すると決めた。


 その間の処置としてボロ袋から薬草を取り出しシューの体にぶちまける。顔だけ埋もれないようにして、残りの全身を薬草で覆う。地面とシューの体の間にも薬草をねじ込み、薬草を布団に見立てるように包み込んだ。

 薬草は直接摂取するだけでなく患部に接触させることでも効果があったと思い、全身打撲らしきシューに対する苦肉の策。


 オークジェネラルを気にかけつつHPの様子を見るアイバー。


「!! ウアアア!!」


 たった今、シューのHPが23に減り、すぐに24に戻った。

 まだ窮地を脱した訳ではないが、とりあえずの延命処置に成功し、時間が稼げる。


 この間にオークジェネラルを倒す!!


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 シューから離れ、ボロ袋から武器を取り出す。この場で選んだのは慣れ親しんだ刀、ではなく戦鎚(ウォーハンマ)だった。

 スキルがなくとも力で振り回せる重量武器の方が都合(・・)がいい。

 細見のテクニカルな武器ではへし折られてしまいそうだ。


「ブモオオオオオオオオオオオ!!」


 転倒から立ち直ったオークジェネラルもこちらに気付き、迫ってくる。鉄錘を振りかぶり、アイバーを肉塊に変えようと全力の一撃。


「ウアアアアアアアアア!!」


 敵を正面にじっと見据えて、戦鎚を構える。狙いは、振り下ろされる鉄錘。


「ブモァ!!」「アアア!!」


 金属と金属がぶつかり耳だけでなく体全体に響くような衝突音、飛び散る火花。


「ブモオウ♪」


「……アアアア!!」


 その邂逅後に訪れた光景は、その場に立ったまま武器を振り抜いたオークジェネラルと弾き飛ばされたアイバーだった。


 最初の激突程ではないが体制を崩し、森の木に向かって勢いよく弾き飛ばされる。が、ぶつかる瞬間に手足の力で体制を整え、逆に樹木を足場にして反転。再びオークジェネラルに迫る。


「ブモァ!?」「アアアア!!」


 先程の焼き直しとばかりに、攻守を替えて再びの激突。再度金属同士の衝突音。


「アアアア!!」「ブモオオオ!!」


 アイバーの戦鎚はオークジェネラルの鉄錘に防がれる。今度はその場で足を止めての撃ち合い。


「ブモオ!!」「ウアア!!」


 撃ち合い体制を崩すアイバー。突進力のない素の力ではオークジェネラルに軍配が上がるようだった。

 アイバーもスキル《狂化Lv4》の恩恵でステータスが上がっているが、まだオークジェネラルには届かない。打ち負けた腕が骨折したりする圧倒的な差ではないようだが、明らかに力負けしている。


 それを分かってなお、アイバーは撃ち合いを挑み続ける。足を止めた状態では打ち負けするため、2撃、3撃目には再び弾き飛ばされるが最初と同じように、走り出しに緩急をつけたり角度を変えたりといった細かい違いはあるものの、突進からの全力攻撃を繰り返した。まるで、極道映画の鉄砲玉のごとくに。


「ブモオオオ…」「ウアア!!」


 苛立つように唸るオークジェネラルだったが、徐々に相手の動きに衰えが見え始めるのに気付く。


 アイバーの方も焦りを感じていた。まだ抗えるレベルだがステータス増強の効果が落ち始めている。


 一般的に、あくまでオタ世界にのみ通じる一般であるが《狂化》のイメージというとどんなモノであろうか?


 短時間の限界を超えた超強化というメリットに対し、理性の消失。そして超強化の反動から来る体への負担、それによる筋繊維の断裂や衰弱、その果ての死。

 理性の消失はチートで抑えられているが、後者の影響がアイバーを襲い始めていた。


 頭痛や体の痛み、平行感覚の欠如、感覚の麻痺等の症状に襲われつつもスキルの恩恵か戦闘行為に滞りはない、ないのだが。

 不味いと思いつつも体は止めない。やがて…


「ブモァ♪」「!! アアア!!」


 武器の方に限界が来た。アイバーの持つ戦鎚の先端部分が壊れ弾けとぶ。武器の中でも比較的丈夫な部類に入る(ハンマー)だが、オークジェネラルと狂戦士の撃ち合いには耐えられなかったようだった。同様にオークジェネラルの鉄錘もかなりボロボロだったが。


「ウアアアアアアアアア!!」


 残った柄と棒状の部分を投げるとオークジェネラルの足をかすめてその後方へ飛んで行く。微かに出血したが微々たるモノだった。焦りながらも新たにボロ袋から武器を取り出す。今度はオークジェネラルと同じ鉄錘(メイス)

 そして、足を止めた状態での撃ち合い。


「ブモオウ!!」「ウアアア!!」


 金属の衝突音。

 素の状態では体勢を崩しつつも一撃は耐えきっていたアイバーだったが、今回は叶わず弾きとばされる。それは体勢を整える暇もない打ち負け。

 負荷による影響がステータス低下にまで及んできたらしい。

 踏ん張りがきかなかった為かかなりの距離を吹っ飛ぶアイバー。


「ブモオウ♪」


 あと一撃で終わると判断したのかゆっくりと近付くオークジェネラル。


「……これでいい。」


「ブモオウ?」


 スキル《狂化》が解けたアイバー。損傷(ダメージ)で自然と解けたのか、自分で解いたのか定かではないが通常の話し方になっていた。


「…ここが、ここがいいのだ、かかったな!!オークジェネラルッ!! これが我が『勝利(ヴィクトリー)への(ロード)』だ…きさまはこのアイバーとの知恵比べに負けたのだ!! 俺が吹っ飛ばされた、この場所に見覚えはないか? 魔物のおまえには、どこも同じ森の中に見えるのか?」


 どこかで聞いたことのある台詞を放つアイバー。これだと負けフラグになってしまうが。

 台詞を言いながらも《小治癒》()を無詠唱で唱え回復を図る。


「ブモァ!!」


 台詞の意味など知らないオークジェネラルは無造作に鉄錘を降り下ろす。

 律儀に「やろう!!」等と返してくれるはずがない。


「どわっ!? 《狂化》発動ゥアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」


 慌てて防ぐおっさんの左手には大盾が掴まれていた。アイバーの大盾とオークジェネラルの鉄錘が激突する。動きが止まった一瞬の間、右手に持った鉄錘で、オークジェネラル……の鉄錘を叩く!!


 戦鎚と大盾、そして同じ鉄錘と渡り合ったオークジェネラルの得物。

 《狂化》後に正面から対峙した際の鑑定ではアイバーの持つ『店売りの一般品』と同じと出ていた。その時から無謀な撃ち合いの道を選んでいたのだ。

 自分の刀と同じく、武器なら程度の差はあれ耐久性が存在するはずだ。オークジェネラルと狂戦士と化した自分との撃ち合いに、そう長く耐えられる物でもないはずだ、と。


 持ち主の地力の差か同じ打撃武器の戦鎚一般品では多少の差があるのか、先にヘタってしまったのはアイバー側であるが、偶然(・・)大盾の側に吹き飛ばされた事で、受け攻め2回分の武器破壊攻撃を行う事が出来た。


 その結果、


「ブモモオゥ!?」


 見事オークジェネラルの武器破壊を達成した。鉄錘の先端部の固定部分が破壊され、最も重量のある(おもり)部分が外れる。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 自身の武器が破壊された事が悔しいのか、鉄の棒状態になった得物を振り上げ、打ち付けるオークジェネラル。

 重量がなくなった分、速さの乗った横殴りの一撃。それを踏ん張らずに、宙に浮いた状態で大盾での受けを行うアイバー。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!! 《落穴(ビット)》《落穴》《落穴》《落穴》…!!」


 吹き飛びながらも土魔法の《落穴》を唱える。


「ブモオオオ!?」


 オークジェネラルの巨体が奈落に沈む。





 

 

お読みいただきありがとうございましたm(__)m


次回で序盤の山場(と作者が勝手に思っている)オークジェネラル戦終了予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ