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第二十七話 敵意

昨日は投稿できませんでした。

申し訳ありませんm(__)m

 森の中を進むおっさんことアイバー一行+1匹。


 最初に気付いたのはシューだった。

 歩を止めて、軽く鼻を鳴らす。クンクンといった行動を見たアイバーはいつものようにシューを待つ。

 今日1日でだいぶ慣れ親しんだ索敵時の初動。


 やがて、今までの進行方向からやや左を向くと小さく唸り始めるシュー。


「…こっちか、じゃあ湖側へ向かって少しずれよう」


 たしか湖岸は右方向だったかと考えて方向修正を行う。午後は戦闘を避ける方針の為、シューが魔物らしき反応をとらえた際にはそれを避けるように行動していた。

 元々の魔物の進行方向とかち合ってしまえば戦闘に至らざるをえないのだが、幸運にもこれまではやり過ごす事が出来ていた。


「……シュー、さっきからチラチラ見てるな。今回はかち合っちまうか…」


 吠えるのは抑えてもらうよう頼んであり、軽い唸り声しか出さないが、同じ方向を何度も向いて確認するシュー。

 方向転換をして少し経つが、一向におさまる気配がない。


「どうせなら、ここいらで待ち伏せして…」


 不意の遭遇をしてしまうぐらいなら先手を取って始末してしまうか、と考えるアイバー。

 歩みを止めて、シューの唸る方向に向き直る。

 その瞬間、


「ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!!!!」


 森に大音量が響き渡る。

 ただの大声ではなく、他者に向けられた咆哮。それに込められていたのは明確な敵対感情。


「ヒッ!?」


 一瞬、体が硬直するアイバー。

 前生でも今生でもここまで剥き出しの敵意をぶつけられた覚えはない。せいぜいが小学生の時にカツアゲされたくらいだ。

 その後の学生時代や社会人になってからもそういったトラブルを避け、盛り場にくり出すこともない刺激の少ない平穏な、ある意味ではひどく退屈な人生の選択をしてきた。


 咆哮の主がこちらの様子に勘づいたのかどうかはわからない。だが先ほどの敵意にあてられたアイバーの思考は逃げの一手に占められていた。


「…シュー、に、逃げるぞ。ゆっくり、音をたてずにアイツと離れられる方向に……先導してくれ」


「キュゥン…」


 どうにか声を絞り出し、斥候役の相棒の頭に触れると、そちらも怯えているのがわかった。

 主人であり年長者の自分が引っ張ってやらなくてどうする、と情けない自分を再認識すると同時にかけなしの矜持(プライド)を奮い立たせるアイバー。


 シューの頭から背中にかけてのラインを撫でて双方が落ち着けるようにする。


 大丈夫だ。あの大声には面食らったが、鳴き声からしてたぶん種族はオーク。オークソルジャーやウォーリアーとかの上位種だとしても、昨日今日のオークとの遭遇率や分布から推測すればそこまで大したことはないはずだ。

 そうだ!! 戦士系の魔物ならスキル《咆哮》とか持ってても不思議じゃない。それにちょっとあてられてるだけで、実力は大したことないんだ。そうだそうだ。


 いささか楽観的に考えているとの自覚はあるが、恐怖に震えて縮こまっていた体がほんの少し動くようになっている。自分に対する誤魔化しだとしても、効果があるならそれでいい。


「シュー、行くぞ。もどきは……悪いけど自分でなんとかしろよ」


「クゥ」


 念話を込めてシューに問いかけると小さく頷いて、進む方向へ足を出した。


「こっちか……」


 アイバーがシューに次いで足を踏み出す。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!!!!」


 再度咆哮が聞こえた。

 

 ドスンドスン ガサガサ バギャ ドスン


 さらには重量を感じさせる足音、木々の葉がこすれる音や枝の折れる音。しかもそれはこちらに近付いて来ていた。


「!! ヤバい!! 全力で走れ、シュー!! 真っ直ぐこっちに向かって来てる、補足されてる!!」


 未だ残る恐れもあり、全力で駆け出すアイバーとシュー、一心不乱に前へ向けて進もうとする。が、


「…クッソ!! 走りにくい!!」


 倒木や木の根、柔らかい土等が足を阻む。

 シューは野生の名残があるのかそうでもないが、現代日本のアスファルトに慣れ親しんだおっさんに森の中の全力長距離走は無理があった。

 ゴブリン狩りの際の短時間の疾走とは勝手が違う。


 ドスンドスン


 重量を感じさせる足音だが、アイバー達よりも速い。森を走り慣れているのか、先程よりも足音が大きく明らかに距離を詰められている。


「クッソォ、やるしかねえか!? このままだと後ろからズドンだ!!」


 普段ゴブリン相手にやっている事をやられる側になる。このまま何か対策しなければゴブリンと同じ結末、即ち死体にされる可能性が高い。

 

 走って体を動かしているうちに、だいぶ恐怖が薄れてきているように感じるアイバー。

 前生でも考えているだけでは恐怖や不安は大きくなるだけだった。なんの解決にもならなくても、頭を空っぽにして体を動かしていると不安が小さくなったり消えてしまう事があったのでその類いかもしれない。


 足音は確実に近付いて来ていた。もしかしたら素のAGI数値でも上をいかれているのかもしれない。


「ハアッ、ハアッ、あんまり近付かれてから振り向いても何も出来ねぇ!! よし、やるぞやるぞやるぞ…」

 

 走りながら戦法を考えるアイバー。


「ハアッ、相手を確認して、ハアッ、ドンしてブスッだ!!」


 擬音でイメージを固める。

 森の中はそれなりに木が密集しているが、少し先に開けている部分がある。そこを決戦場所に決めた。


「よし!! シュー、あそこまで行ったら離れてろ!!」


 相棒に呼び掛け、勢いのまま広場に突入。中心部分を過ぎて反転する。ズザザザッと足だけスライディングで急ブレーキ、今最高に主人公してる気がする!!


 追ってきている魔物はやはりオークだった。

 だが異世界に来てから狩ったオークとはデカさが2回りは違う。顔もや牙も厳ついし、体つきも普通のオークが豚のとそう違わない印象だったのに対し、かなり筋肉質である。装備も服が粗末な布なのは変わらないが、武器に鉄錘(メイス)を持っていた。力自慢の重装兵が持っていそうなアレである。

 明らかに上位種、それも肉体派だ。


 《鑑定》をしても読み解く時間がないと判断して後回しにした。自分の策が嵌まって生きてたらその時に鑑定すると決めた。


 念の為の一撃に備えてボロ袋から大盾を出しておく。重量ゆえに取り回しはかなわないが一撃を防ぐ程度には動かせる。あくまで接近を許してしまった時の保険である。

 おっさんの念の為は前生での習慣。念の為15分前行動、念の為研修会場の前日確認、念の為財布の中にスキン常備。


「準備万端、来い!!」


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 追いかけて来た勢いのまま、開けた場所に入ってくるオーク上位種。

 目測15m程に届いた所で《土魔法》を唱えるアイバー。


「《土壁(アースウォール)》!!《土壁》!!《土壁》!!《土壁》ぅ!!」


 4回の詠唱だけでは止まらずその後も《土壁》を連発する。


 アイバーの策は単純だった。土魔法《土壁》による足止めとその後の《土槍(アースニードル)》によるトドメ。いつぞやのビッグボア戦で使った組み合わせの焼き直しだ。


 もちろん目の前の魔物の迫力から、それぞれの魔法の回数は比較にならない重ね掛けをする。

 さらにアイバーの自信となっているのがINTの値とスキル適性【土魔法:A】だった。適性は言わずもがな、ファンタジーでINT値と言えば魔法の威力向上に直結することが多い。魔力という概念だとMAGなんて表記もあるが、アーニスにはなかったのでINT=魔法威力的な図式が成立するのでは? と考えていたのだ。


「仮にそうじゃなくてもこの数の重ね掛けなら!!」


 回数にして30回近く、総MPの半分を注ぎ込んでの土壁、城壁とまではいかなくてもちょっとした堤防ぐらいの頑丈さは誇るのでは? と考えて悦に入るアイバー。

 後は動きの止まったところに《土槍》を、


「ブモオオオオオオオオオ!!」


 ガラガラと絶対の自信を持った土壁が破壊されていく。こんなにも容易くと思える程の呆気なさ。


「なにぃっ!? クソッ《土槍》《土槍》!!」


 予想以上のパワーだったのか!?と考えつつも迫り来るオークに迎撃の土槍を放つ。


「刺し穿…にゃにい!?」


 オークの正面に配置し、そのまま腹を貫くかに見えた土槍が触れたと同時に崩壊する。

 

 いつぞやシューが起こした現象。


「ブゥモ~オッ!!」


「!! まさかの《土耐性》持ちぃ!? ヤべ…ガ、ギッ!!」


 左からかち上げられる鉄錘(メイス)を大盾で防ぐものの弾き飛ばされ、数瞬だが宙を浮くアイバー。

そのまま地面を転がった。


 大楯を構えた左半身のいたる所に鈍痛、地面との擦過傷が熱く痛むが我慢して元凶のオークの目を向け、同時に《鑑定》を行う。


『オークジェネラル:大陸全土に生息する魔物の上位種。生存競争に打ち勝ち進化を繰り返した個体。攻撃性・生命力が強い』


「…オーク…ジェネラ…ル!?」


 ステータスは読み取れないが、字面からだけでも強敵だということがわかる。さらに鑑定の説明文。


 オークキングの下で辺境都市を四方から攻める1軍の将的な役割で、結構アッサリ主人公の仲間にやられたりするけど、それは物語中盤から後半で主人公達が強いからなんだぜ♪ のオークジェネラルである。


「ざ…けんなよ、転生3日目で出会う敵かよ…こっちは微チートなんだぞ…」


 と(うそぶ)くが、アーニスはゲームの世界ではない事はわかっていた。こういう危険もあるか、とも思っていたおっさん。



 知ってたよ…

 だって世界(げんじつ)はやさしい部分もあるけど、それだけじゃないから…



 ギルドでも、比較的(・・・)安全、絶対ではないと言われた。どれだけ軽めに言われても起こり得る可能性は指摘されているのだ。


「イッてぇ、文句を言うのは…お門違い…だな、《小治癒(ヒール)》《小治癒》、《小…」


 ステータスのHPを確認すると半分近く持っていかれていた。直撃なら死んでいただろう。

 急いで回復魔法を自分に使いつつ立ち上がろうとするアイバー。


「ブモオオオ!!」


 当然襲った方としては待ってやる道理もない。上位種だけあってステータス値も高いのか、即座に距離を詰め追撃してくるオークジェネラル。


「チッキショ!! カッ、ハ!!」


 撃ち下ろしの鉄錘(メイス)を再び大盾で防ぐが、撃ち下ろしのため今度は至近距離で地面に激突する。《小治癒》を唱えている(いとま)がないため心の中で連呼する。

『回復し続けないと死ぬ!!』と強烈に思った。死を実感してか、かつてない集中力を発揮するアイバー。


『スキル《無詠唱》を取得しました』


 自身を回復し続ける間にも、さらに一撃が加えられる。大盾を布団のようにして防ぐしか出来ない。


 ガゴン!!


「グ、ガァ…?」


 そのまま追撃を続けられれば、いずれは圧死するしかなかっただろうがそれ以上の攻撃はこなかった。代わりに大盾に重さがのし掛かる。


「ブモモ…♪」


 見上げれば、そこには大盾に足をのせ愉快そうに笑うオークジェネラルがいた。どうやら魔物は人間をいたぶるのがお好みらしい。

 恐怖半分諦め半分に現状を受け入れかけるおっさん。


『こんなもんだよな…俺…』


 本当に情けなくて涙が出る。新しい人生が終わろうとしているのにこんな感想…


「ガウゥ!! ガウゥ!!」


「ブモ!?」


 オークに小さな獣が飛び掛かる。

 茶色の体毛に小型犬程の体躯、ここ二日ですっかり見覚えた従魔シュー。


「ガウウッ!! グガアゥ!!」


 オークジェネラルの体を飛び登り顔に噛み付き爪を立てるシュー。


「よせ、逃げろ!! 逃げろよ、シュー!!」


 先ほどまでの恐怖と諦めは失せ、どうにかあの小さな獣を助けようと手足に力を込める。

 こいつのバランスを崩せ!! シューに注意を向けさせるな!! 


「ウギッ!! このぉ!!」


『スキ…』


 押し潰されるのも構わず、片手と盾から離し、投げナイフをつかんで手投げでオークジェネラルに放る。刃筋など立てていなければ力も乗っていない。完全に関心をこっちに向ける為だけだ。


『スキル《…』


 うるさい!! 今はシューだ!! シューを!! 俺の友達を!!


「ブモォウ」


 そんな人間の様子をうかがいつつ、纏わりつく子狼を見たオークジェネラル。

 歪んだ笑みを浮かべて首周辺に纏わりつく子狼を掴む。


「ギャン!! ウゥ、ギャウ!!」


「ブモオ……」


 オークジェネラルは足元で半狂乱になって暴れる人間に一瞥し、子狼にも目を向けた。

 愉悦に満ちた笑みを浮かべて、


「テメエ、放せ!! シューをはな…」


『スキル《狂…』


「ブモォ!!」


「キャイン!? キャゥ!!」


 オークジェネラルはシューを地面に叩きつけた。


「…あ、シュー………シュー!!」


「………ゥ…」


 横たわった体の下から血が流れ出てくる。

 オークジェネラルの全力を受ければキッズウルフなど原型を留めていなくてもおかしくない。

 オークジェネラルはそれなりに加減していたのだろう。だが、子狼には十分致命傷。


「シュー!!シュー!!シュー!! しっかりしろ!! すぐに…」


 離れた場所に横たわる従魔に叫び続けるアイバー。その声が届いたのか微かな息が聞こえる。


「……クゥクゥ…」


『……にげて、こわいならないで…』


 微かな念話を聴いて、感じた瞬間。


「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!」


 景色が真っ赤に染まった。







『スキル《狂化Lv4》を取得しました』


 

お読みいただきありがとうございましたm(__)m


ありがちですかね!?(ノ´∀`*)

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