第二十六話 ツンデレさん?
いつもより少し短めです。
いい話っぽく終わらせたつもりだったが、解決していない問題がある。
「なあ、あれどうにかならん?」
「ガウ…」
「ガウガウ!!」
シューもどきである。
主人と従魔の絆を確かめた後、村に戻ろうと森を行くおっさんことアイバーとシュー。
その後ろに一定の距離を取ってついて来る。
すでに襲いかかって来るという気配はない。ないのだが、付け回されるというのは精神的にキツいのである。
「小さい体でヨジヨジと倒木を乗り越えたりチョコチョコと距離を詰めて来る姿は可愛いんだけどなぁ♪」
その姿に若かりし頃のおっさんの姿が重なる。
おっさんが中学生の頃、好きな女の子の家を知って通りかかるとそれっぽい部屋の当たりをつけたり、何かそれらしい用事を作って周囲をウロついたりした。夜のランニングコースに入れたり、それを塾の送り迎えのバスが来る時間を狙ったりしてたなぁ…今冷静に考えるとドン引きだ。
保健委員の美里ちゃんゴメン、怖かったでしょ……当時は自分じゃバレてないって思ってたけど、絶対気付かれてたんだろうな。今じゃそう思える。
中学生って周りが見えなくて恐いな…
当時はまだストーカー規制法とかなかったけど、今じゃ立派な犯罪だよな。
可愛い・若いの方ではなくつけ回されている方に反応するおっさん。
「い、いかん、リアル中二時代の黒歴史に絡め取られてどうする」
「ガウ!!」
ガブッとシューに噛まれた。
ウジウジしたら噛んでっていったけど、こんなに早く噛まれるとは思わなかった。伏線回収、早すぎである。
「もう大丈夫!! 大丈夫だから、ケツに噛みつくのやめて!!」
「ガウ」
「グルグルゥ……」
なんかシューもどきからの視線が厳しくなった気がする。
さて、これまでの様子を見るに、もどきはシューに関しては悪感情を持っていないようだ。体を擦り合わせたり匂いを嗅ぎ合ったりもしている。
気に入らないのはアイバーの方なのだろう。最初の襲撃といい、その後の対応といい露骨に嫌われている気がする。
「今は取り合えずシューの説得に免じて抑えててやるって感じなんだろうか?」
「ガウ」
どうやら合っているらしい。
相変わらず食事関係以外では簡素な念話だった。あと、さっきからガウしか言っていない。
「このまま村までついてきたら討伐されちゃうんじゃないかな? シューは従魔だから大丈夫だったけど…」
警備隊の人とかに見つかったらヤバいかもしれない。自分は嫌われているが、シューとは仲良しっぽくなりたいみたいなので見殺しにするのも気がひけるアイバー。
「村につくまでに離れてくれればいいんだけどなぁ、シューそこら辺の事説明してやってくれない? かなう事なら、人へ危害を加えない事とシューとお揃いの青布巻くようにもお願い」
「ガウ!! ガオウゥ…」
「……ガオウガオウ!!」
今のシューは通訳だ、バウリンガルだな。
「ガゥゥ…」
なんか、ダメでした的な念が伝わって来た。
結果は残念だったようだ。
「そっか、しょうがないね。
にしても、そんなにシューが気になんのか? それとも実は俺が気になってるツンデレさんなのか?」
「グワオゥグワオゥ!!」
一際大きく吠えられた。いや、言葉通じてんの!? シューの時もこんなのあったよね?
意志疎通に関しては疑問符がつくが、取り合えず説得は通じないようなので、諦めて好きにさせておく。
村につくまでに離れてくれればいいなぁ、という希望的なモノを込めて少しだけ回り道をするように歩いた。
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「おっと、ゴブリンの死体」
森の中を歩いていると、時おり魔物や動物の死骸に出くわす事がある。朝から森の中でゴブリン狩りを行っていたがその際もそういったモノに幾つか遭遇していた。
「創作物のマナーだと燃やすか埋めるかしてた気がするんだけど、アーニスではほったらかしでいいのか?
あ、これ!! シューちゃん、臭いを嗅ぐんじゃありません!!」
開けた地面に仰向けに転がるゴブリンの死体。
目の前のゴブリンの死体は数日前のものなのか、傷みがひどいが右耳が切り取ってあるのは見てとれた。胸元周辺も切り開かれているようだ。
おそらくだが開拓村に派遣されてきた冒険者が討伐して、証の右耳と魔石を取って放置したのだと思われる。マナーがなってないなぁ。
「虫とか獣が処理してくれるだろうけど…あんまり多いと疫病とか怖いんだよなあ。汚物は消毒だ~って熱殺菌を兼ねて荼毘に伏したいところだけど《火魔法》はまだ覚えてないし」
《火魔法》スキル取得の為には元々燃えている火を対象にしたLv1魔法《火操作》を練習すべきなのだろうが、その火種自体がない。
仮にあったとしても森の中で使うには延焼の恐れがある為、二の足を踏みそうだ。
湖の近くで苔や腐葉土が多く、湿度の高そうな森なので心配はいらないかもしれないが。
「余剰MPは《光魔法》習得に充てたかったけど、《土魔法》のLv向上の為にも始末しておこう。
シュー、離れて。
よし、《落穴》《落穴》、穴掘ってからの《土操作》」
亡骸を中心に穴を掘り、周囲の土を操ってその上にかけてやる。少し柔らか目の土を上から踏み固め、簡易土葬の完成である。
午前中はゴブリン狩りを優先していた為、見かけた死体はそのままにしておいたが、今後は休憩を兼ねて埋葬業務ボランティアでもしようかと考える。
余談だが、午前中に《風魔法》を習得したため、今は森で調達可能な要素で《光魔法》習得を目指しているアイバーだった。
《闇魔法》の《闇操作》と同様に光の粒子が周りでキラキラしかけるという、視覚エフェクト重視の魔法《光操作》である。
「大岩の時もシューの食べ残しゴブリンをこうやって始末したわな…随分前の事に感じるけど昨日の朝の出来事か」
ゴブリン埋葬で足を止めたついでに採取を行う。湖が近いのか《薬草》《毒消し草》の草系植物の比率が増えてきている。
「ん? さっきここいらにも鑑定で《薬草》があった気がしてたんだが…」
最初に《鑑定》で周りを見渡した際に表示が出ていた箇所を探していたのだが、見付からず代わりに見覚えのある茎部分だけがあった。
「? 上部分だけ摘まれて根本部分に反応したのか? まだ摘んだ部分が新しく見えるから、少し前に俺とは別の冒険者が摘んでったとかかな…」
周囲の森を見回すが人影は見あたらない。
シューが警戒し、もどきがその周りをウロウロしているだけである。
「ま、こういう事もあるだろ。さて、そろそろ行くかぁ、う~~ん」
採取を打ちきり再出発しようと腰を上げ、伸ばす。採取中は屈み気味の姿勢が多いためすぐに腰が痛くなる。肉体が15歳といえどこればかりは変わらないようだ。
「シュー、そろそろ行こう」
「…クゥン」「クゥンクゥン!!」
シューを呼ぶとその進路を遮る様にもどきが割って入った。シューが右にズレれば右を、左にズレれば左をふさぐ。強行突破を図れば体を接触させて前進を妨げていた。
「キャウン」「キャウンキャウン!!」
「そんなに俺に近付けたくないのか!? なんかダメ男に近付けまいとする家族とか親友って感じだな。俺がダメ男なのは否定しないが。
……なかなか見る目のある狼さんかも…」
自虐しつつこちらから近付くと、唸りながらも離れていくもどき。そのまま森の中へ消えていってくれれば話は早いのだが、相変わらず一定距離を取ってこちらをうかがってくる。
「なんだかねぇ…愛が重いねぇ、シュー」
「クゥゥ…」
シューも決して嫌ってはいない。そういう感情が伝わってくる。いっその事、従魔になってくれるならまだやりようがあると思うアイバーだった。
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「ブモオオオオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!!!!」
襲撃は突然だった。
いや、もっと注意深く周りを観察出来れば、 もしくは相応の経験があれば、回避は可能だったのかもしれない。
だが、片や今日の朝から冒険者になった転生3日目の転生者。片や《気配察知》のスキルを所持しながらも0歳の子狼。
彼らには木陰や窪みに打ち捨てられた、比較的新しいゴブリンや獣の食い千切られた肢体に気付くことは出来なかったし、多少嗅ぎ慣れたオークと微妙に違う体臭も判別出来なかったのだ。
昼の休憩後、最短距離で村に戻っていれば出会わなかったかもしれない。疲労しつつも出来そうなことを探し、『大丈夫だろう』とタカを括り欲をかいた。
ゲームと違うと言いつつ、ゲーム感覚を捨てきれなかった。その報い。
「…オーク…ジェネラ…ル!?」
想像できていなかった異常事態が牙を剥く。
唐突過ぎる開戦だった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




