第二十三話 ゾクッとした
ゴブリン戦闘回です。
「別に全滅させてしまっても構わんのだろう?」
北側の森へ到着するとそんなことをのたまう、おっさんことアイバー。
言ってみたかった台詞らしい。
「ガウウ?」
村にいた時よりも元気を取り戻したシューが不思議そうに見上げてくる。
右前足には従魔の証をとして青い布を巻いてあった。いずれは腕輪や首輪を考えているがとりあえずの処置だ。提供元は布装備の一部からである。
先の台詞の始まりは、今後について考えたおっさんの計画を発端とするモノである。
ギルドを出たアイバーはこんな事を考えていた。
『この世界、何はともあれ暴力が必要だ!!』
言い方はあれだが、概ね間違ってはいない意見ではある。暴力の部分を武力とか力にしておけばもう少しマイルドな表現になったであろうが…暴力的な表現には規制がかかりやすい昨今である。
人の生活圏内のすぐ近くに魔物という危険生物が存在する世界である。
生きる目標等がいまだ明確ではないおっさんではあるが、とりあえず物理的な意味で強くなっておいて損な事はないであろうとの考えに至る。
という訳で主にゴブリンを狩ってレベルアップを図ろうとするおっさんであった。
ゴブリンといえば、ファンタジー世界と聞いて想像する魔物においてもスライムと並ぶ雑魚キャラ、しかも繁殖力旺盛で狩っても狩ってもいつの間にか増えたり、大発生的なイベントをおこしたりする輩だ。きっといっぱいいるだろう、やっつけよう、おかねにもなるし、つよくなっておおもうけとの安直な考えの元、先程の台詞である。
「ゴブリンなら狩りの手応えもわかってるしな。3匹程の集団なら不意を突かれなければなんとかなる…気がする。
こっちにはシューもいるしな♪」
「ガウウ♪」
かいぐりかいぐりして相棒の好感度をあげる。
「問題は経験値システムの詳細が不明なんだよな…レベル差が開きすぎると経験値もらえないのか、固定で少ないながらも積み重なっていくのか…後者だったら○リアハンでレベル99状態もできるな。やらないと思うけど」
当時の少年誌かなにかに写真でその様子が掲載されていた気がする。
当時は根気強いなぁと感心したモノだが、今思うと開発陣が直接データを書き換えてたりしたんじゃないかなと疑ってかかる世の裏側を知った大人。
おっさん自身もPCゲーでその手の数値書き換えプログラムを使った事のある経験がありますので…何のゲームかは言えねえ。ただ、好感度カンストさせ過ぎるとバグがおきちゃうゲームとだけ言っておく。懐かしきMSーD○S。伏せ字になっていない。
「まあ、ゴブリン中心でレベル15ぐらいまでを目標にしていくか。途中上がりが悪くなってきたら別の魔物を探していくようにしよう」
木の柵を乗り越えて森に入る。
シューを先導させて魔物を探すように念で伝えると了承の意が伝わって来る。
今回は村近くで、湖に出れば最低限村への道標になるため《土操作》による道標は作らない。
なので、
「《風操作》、《風操作》」
未習得の《風魔法》スキルを使ってスキル習得を目指す、と同時にMPを消費する。
《MP自動回復Lv2》があるため、満タン状態ではなくしてスキルを使用状態にするのが目的である。Lv強化の条件はわかっていないのでもしかしたら瞑想などの特定の行動をする必要があるかもしれないがダメ元でやってみる。少なくとも魔法習得の助けにはなるだろう。
移動中MPが満タンに近くなったらまた使う予定だ。
「金稼ぎとレベルアップによる強化計画の開始だ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「グルル!!」
出発して30分程、途中目についた薬草や魔力草を軽く採取のしつつ歩いたところで、シューが足を止めて唸り始める。
アイバーも腰を低くしてシューが見つめる先に目を向けた。
2匹のゴブリンがいた。木陰にうずくまって何事かしている様子だ。
粗末な衣類に身を包み、これまた粗末な木の棍棒。
鑑定しても普通のゴブリンと出る。
「不意打ち出来るな。いつものパターンだ」
周囲を警戒しながらゴブリンの後方へ移動し、投石による先制攻撃と追い討ちの刀で仕留めようとする。
今回は1匹は向かって来て、もう1匹が逃げ出した為少し焦ったが逃げる方をシューが牽制して足を止めていてくれた。止まった所にアイバーの追撃で終了である。
「よし、まずは2匹…」
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
「シュー♪ レベルが上がったぞ、あとナイス足止めな♪」
意志疎通がしやすいとは言え、予想外のシューのファインプレーだった。
猟犬というものがどんなものか実際に使ってみたことはないが『こうしてくれたらいいな』というアイバーの意識を汲み取ってくれているかのような動き。
「従魔との経路的なものだけじゃなくて、《統率Lv1》の効果かもな」
先程の結果について考察しながらゴブリンの右耳と魔石を切り取るアイバー。
シューには周囲の警戒を任せてある。今までの様子からみて任せられそうだと判断したのである。
ゴブリンについて食べるか尋ねたが、まだおなかがすいてないからいらない的な返事が来た。
「念話の精度が上がって来ている気がする…」
ボロ袋の容量にはまだ余裕があるようで2匹分のゴブリンが袋に消えていく。ついでに昨日仕留めたゴブリンの右耳と魔石、オークの魔石も取り出した。
オークは豚っぽいので食肉とかにも向いているかもしれない。ギルドの解体専門スタッフさんにそこら辺のところも聞いてみたい。ゴブリンも念のためとっておいてある…まあないだろうが。
今のところ換金できそうなのは、
ゴブリンの右耳×5(常時依頼用)
ゴブリンの魔石×10
ビッグボアの魔石×1
オークの魔石×2
である。カーミラさんに魔石についても聞けばよかったと思うおっさんであった。
「ゴブリンも朝飯の最中だったのかね?」
うずくまっていたところには茶色い毛皮の動物の残骸があった。念のため木の枝で魔石がないか調べてみるが、元々ないのかゴブリンが食べてしまったのか見あたらなかった。
鑑定しても『動物の死骸:ウサギ』という素っ気ない結果であったが、
「魔物の死骸って出ない…ならゴブリンの死体で《鑑定》してみたら!?」
ボロ袋からゴブリンを出して鑑定すると『魔物の死骸:ゴブリン』と出る。
「魔石を持たない生物も普通にいるのか確かめたかったけど、こんなところで判明した。しかも死体から種族も特定できる、ラッキーかな」
再びゴブリン探しを再開する。
今度は4体の集団と遭遇し、またしてもシューの索敵で先制を取れた。4体という数が少し心配だったがいつものパターンでやってみる。
仮に怪我をしても回復魔法を使う機会が増えると考えた。シューに使ってから使用していないからだ。
「シュー、さっきみたいに逃げようとする奴がいたら足止め頼むな………無茶はするなよ」
「ガウ!!」
ゴブリン達は移動中だったため息を潜めて通り過ぎるのを待ち、後ろを見せて少ししてから《投擲》を開始する。今回は最初の1発目を投げナイフにしてみる。
「石だけじゃなくてたまにはナイフも使わないと……なっ!!」
投げナイフはいつもより集中して投げたつもりで、ヘッドショットを狙ったのだが目標のゴブリンの隣の奴に刺さった。左肩の後方部分である。外れて森の中を探し回る事を思えば御の字だろう。
ゴブリンが何があったか気付く前からすでに投石の動作に入っているアイバー。滅多打ちならぬ滅多投げだ。
「ギゲァ!?」「ギギィ!!」「ゲッギャァ!!」「ギィ」
石の雨、と言うには些か間隔に無理があるがそれに向かって反撃に出るゴブリン3匹。ナイフが刺さったゴブリンは逃走に移ろうとしていた。
そちらはシューに任せて、わざと姿が見えるようにするアイバー。シューに意識が向かないようにする為だ。
「オラ、こっちぃ!!」
声も出して挑発がわりにする。投げた石が1匹の顔面に命中して足が遅れる。
刀を握り、迫る2匹の片割れの眼前に、
「《土壁》!!」
「ギッ!? グゥッ!?」
足止めとして2匹同時にかかって来られるのを防ぐ為の壁だったが、そそりたつ壁の上部分に引っ掛けられて宙に浮くゴブリン。そそりたつ壁の勢いのまま投げ出され地面に激突、動かない。
「ギギャァ!!」
1匹で襲いかかって来るゴブリンを袈裟斬りに切り捨て、足が遅れていたゴブリンの首を飛ばす。
「グアォッ!! ガウ、ガウウゥッ!!」
シューの声を頼りに最後のゴブリンに迫ると勢いのまま突きで背中を刺し押し倒す。
「フッ、ンン!!」
背中を足で踏みつけて固定すると抜いた刀を心臓付近に突き立て体重をかける。バタバタと動いていた手が止まった。
動かなくなったゴブリンを確認したあとシューに目を向けると、抵抗されたのか左の前足をヒョコヒョコと上げていた。
大事では無さそうなのを確認すると、
「少しだけ待っててくれ、すぐ来る」
きびすを返して3匹のゴブリンの元へ向かうアイバー。それぞれの様子を確認し、息があった土壁に放り投げられたゴブリンにトドメを刺した。
「……フーッ、終わったな」
軽く刀身を振って刀を鞘に戻すと息を吐いて緊張を解く。
『レベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
「お、やった♪ 天の声♪」
『スキル《刀術Lv3》を取得しました』
「更に来た!! スキル適正[近接戦闘]のお陰かな♪」
順調に強化計画が進む感覚。とはいえ酔いしれている事もできない。
「ごめんなぁ!? シュー、生きてるかと思うと落ち着けなくってなあ」
「ガウッ♪ ガウウ♪」
相棒のシューの元に向かい、すぐさま足に《小治癒》をかける。3回唱えた後は反応がなくなった、相変わらず高性能なAI魔法である。
再びシューに周囲の警戒を任せてゴブリンの死体を1ヶ所に集め右耳と魔石を切り出す。投げナイフを回収するのも忘れない。
「《土壁》には驚かされたな、カタパルト的な使い方も出来るか。あれ!? そんなアニメだかマンガがあったような…腰の刀……忘れよう。
う~ん、4匹となると手がギリギリだな。3匹でもそうだけど、一斉にバラバラの方向に逃げられたら追い付けそうにないな。
俺とシュー、で2匹まではいけそうだけど」
向かって来てくれるなら対処は出来そうな手応えは感じている。
現状では幸運なことに狙った獲物の討伐率は100%だが、これからもそうとは限らない。
特に逃走を許した場合のその後が気になる。
ゴブリンというと雑魚だが、創作物ではコミュニティを形成している場合が多い。おバカであってくれればいいが報復や被害による警戒をされたりすると自身の危険度が上がりそうである。
「レベル上げて強くなればいいか。
そんでダメなら、そんときゃ村の冒険者や兵士の手を借りるしかないな」
自分で全部背負い込むことはないか、と他力本願の思いでいったん思考を打ち切る。
「なるべく逃がさないようにはするけどな♪」
「ガウ♪」
その後、四時間程かけて2匹以下のゴブリンを主に狙い、間にオークとビッグボアを1匹づつ討伐しつつ20匹近いゴブリンの討伐を果たしたアイバーとシュー。
『レベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『レベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『レベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』
『スキル《風魔法Lv1》を取得しました』
『スキル《MP自動回復Lv3》を取得しました』
『従魔がスキル《気配察知Lv2》を取得しました』
ゾックゾックした。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




