第二十二話 前世から探してた
説明回が続いてすいませんm(__)m
「ここ冒険者ギルドは冒険者を支援すると同時に管理・監督するための組織となっています」
冒険者ギルドの概要を説明してくれる受付嬢カーミラ。
依頼を達成して欲しい依頼主と依頼を達成して報酬が欲しい冒険者の調整・橋渡し役、等の決まり文句を聞いているとなんだか職業安定所みたいだなと思うおっさんことアイバー。
大方間違ってはいないかもしれない。
違うのはその案件の中に現代日本では考えられない程のハイリスクハイリターンが存在する事。
ハイリスクにふさわしく仕事に安全基準等は存在しないということだ。死ぬのも自己責任ということだな。
「お約束だな」
「…なんだか、急に上の空になってきましたね」
「そんな事はありません」
白い目を向けて来るカーミラさん。
正直そこらへんの設定はゲームでもラノベでも携帯小説でも散々見飽きている。
アイバーにとって気になるのはランクやカード等のロマン仕様や依頼達成の方法である。
「そうは見えないのですが、まあいいでしょう。
では依頼の受け方と冒険者のランク制について説明します」
そうそう、そういうすぐに使える実践知識が欲しかったんです。
「今度は目の色が変わりましたね。まあ領都でもこの手の人間はいましたが」
「すいません」
どこにでもいるおっさんなんです。
大衆の意見は大体自分の意見。
「通常の依頼ですが後ろのボードから依頼表を剥がして受付の私たちに渡して下さい。受理欄に了承の印を押して達成欄にサインを貰えば依頼完了、報酬と引き換えになります。達成のサインは依頼によって誰が書くか変わりますので注意してくださいね」
ふむふむ、例えばある品物の納品依頼でも、ギルドに持ってくるという条件ならギルドの職員が、直接渡してくれって言うなら渡したときにサインをもらうとかか?
よく聞く街中依頼とかはその依頼主に直接サインもらうよな。庭の草刈りとか壁の修繕とか。
「常時依頼といって常に受け付けている依頼もあります。恒常的に必要とされている仕事ですね。増えすぎたら困るゴブリン討伐やオーク討伐、常時必要とされている薬草採取などがそれです。
常時依頼はボードの横にまとめて貼り出してありますので依頼表は結構です。内容を確認して討伐や採取の証を直接お持ちください」
やっぱりありましたね常時依頼、薬草の準備はバッチリですよ♪
「他には指名依頼といって特定個人や、ギルド側が依頼達成への能力を満たしている持っている冒険者を選んで依頼する等といったものがあります」
国からの厄介事のイメージが強い指名依頼かあ~、来たらどうしよ?
「また、冒険者と依頼にはランクがありましてF~A、特例としてSランクがありますが…常人には関係ありませんね」
あれ? なんで俺を見て笑うの? なんか嘲笑する感じで!?
「アイバー様は登録したてなのでFからのスタートになります。受けられる依頼は該当ランクの上1つまでは可能ですし、下のランクは制限はありません。
貴方はEランクまでは可能です。ランクをあげるには自身のランク以上の依頼を一定数こなすか、下のランクを大量にこなすことでも可能です。なお、Cランクから上に上がるにはそれぞれ試験のようなものがありますので、ご留意下さい。」
よーしよしよし、良いぞ良いぞ。ぞくぞくする。
「最後にカードについてですね。こちらは冒険者ギルドの権勢がおよぶ場においての身分証として使用できます。国家をまたいでの使用も可ですので重宝すると思いますよ。
先程血液を提供していただいた事で、アイバー様とカードの間に魔力の経路を通し本人が持たないと表面に文字が出ないようになっています。紛失しないよう気をつけて下さい。ギルドでの成果も読み取れるようになっています。
現在は鈍色ですが、ランクが上がる毎に色が変わりますので何ランクかが一目瞭然となります」
「カッコいいですね!!」
「…冒険者の士気高揚の為に尽力した結果ですね。では説明は以上になります。どうぞ、お受け取り下さい。
何かご質問は?」
「あ、この従魔の事なんですけど」
ギルドに入ってから今まで、鳴きもせず足元で待機してくれていたシューである。
「はい、キッズウルフですね。」
「従魔の登録とかは要らないんでしょうか?」
「特に登録の必要はありません。ただ、野性の魔物と間違われないよう、見分けがつけられるようにした方が良いですね」
従魔に対する法律は無さそうだ。
無頼な輩に難癖つけられないよう出来ることをしておこうと胸に刻むアイバー。
「あとはやってみて疑問に思ったら尋ねてもいいですか?」
「はい、遠慮せずにお尋ねください。ではこれで今からアイバー様は冒険者となられました。
早速依頼を受けられますか? 本日の新しい依頼は8時頃に貼り出されます。今は…7時過ぎですか。
そこに残っているのは昨日までの依頼で期日が残っているものですね」
カーミラさんに一礼し依頼表の内容を確認する。まずは常時依頼だ。
『常時依頼:ランクF 薬草の採取 10本1束につき銅貨3枚』
『常時依頼:ランクF 毒消し草の採取 10本1束につき銅貨5枚』
『常時依頼:ランクE ゴブリン討伐 右耳の提出につき銅貨10枚』
これだけか? なんだか少ない気がする。植物の採取が2種でFランク、魔物討伐1種でEランクか。
魔物討伐はどんなに弱くても命の危険があるからか、採取の手間と比較しても高目の報酬設定に感じる。
「カーミラさん、常時依頼はこれだけなんですか?
」
壁際から大きめの声で呼び掛ける。
「開拓を開始してからまだ半年ですので、周辺の植物や魔物の分布がハッキリしていないのです。何が多くあるか、いるかで常時依頼は決まりますので、今はまだ一般的な依頼になっていますね」
そっか、確かにゴブリンは多くお目にかかったなあ。にしても何がいるか分からないって結構怖いな…
その事を尋ねると、この村は事前調査で比較的安全な立地にたてられたそうだ。
絶対ではないらしい…
「通常依頼は…なんだ?
『村周辺の森の伐採手伝い:ランクF 当方が指定する大木1本(根含む)につき銅貨20枚』
『畑の耕作手伝い:ランクF 当方が指定する耕地10平方m分につき銅貨30枚』
残ってるほとんどがこればっか!?」
「…まずは村の規模を広げつつ、収穫を増やしたいという領主の意向に沿う形の依頼です。
実は……ここに斡旋される冒険者の方々はほとんどが新人でして、半ば新人の義務的な意味合いでここに送られて来るのです…」
…なるほど、どこも面倒な役割を押し付けられるのは立場の弱い層ってことか。
でもそれじゃあ、あんまりやる気も無さそう…最低限の仕事をして時期が来たら領都に帰っちゃうんじゃないか?
ランクの高い依頼もないし上級者には魅力の無い土地なのかも…
カーミラさんに疑問をぶつけてみると、
「おおむねその様な状態ですね」
とのことだ。
「魔物の素材とか珍しい植物の買い取りはやってくれるんですか?」
「はい、それは行っています。
今はまだ出勤していませんが解体や買い取り専門のギルド職員がいますのでそちらの者にお渡し下さい。そちらの扉の奥が買い取り窓口です」
時計が置かれたところから更に奥に扉がある。そちらが解体所兼素材買い取り所のようだ。開いている時間に来てみよう。
特に興味を引く依頼はないようなので今日は受けない事にした。それよりはやってみたい事がある。
「すみません、今日はやめておきます。その代わりといってはなんですが、村に来る以前に採った素材や討伐した証でも依頼達成になりますか?」
「はい大丈夫です」
カーミラさんの窓口に薬草の束と毒消し草の束、ゴブリンの右耳を出す。
あくまでボロ袋から出しても不自然に思われない程度の量にしておく。アイテムボックスの存在を隠す為である。
「薬草が30本、毒消し草が10本、ゴブリンの耳が5つで計銅貨64枚、9件の依頼達成になりますね。大銅貨を混ぜてのお支払でよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。やった、初報酬♪」
「クスッ♪ なかなかカワイイ事をおっしゃいますね」
クールビューティーが少しデレた。
ボロ袋の中にはまだ多少の薬草や切り取っていないゴブリンの耳がある。本日の宿代分くらいは稼げていそうだ。
念のため切っていた左耳は森にでも廃棄する予定である。
「カーミラさん、今日は森でゴブリン討伐や薬草集めをしようと思ってるんですが、どこか良さそうなところはありませんか?」
「そうですね、東は街道作り、南側は伐採による拡張工事中ですから北側でしょうか?」
街道ってノックスさん達が警備してたところかな?
北側への行き方を教わりギルドを出ようとするアイバー。
ふと思い付いて、ちょっとした置き土産をしていく。
「それじゃカーミラさん、行ってきます♪」
「…あ、はい、お気をつけて」
ニッと笑ってギルドを出る。
きれいな女性に行ってきますと言って朝出掛ける事。擬似嫁さんみたいでキモいって言われそうだけど前世からずっと憧れてたんだ。
やってみたいと思った事はやっておこうと思った。
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「変わった人ですね」
本日の勤務は早番の為、本格的な営業開始前の確認と整理を行っていた。
本来のギルド運営は24時間なのだが、この村では依頼の種類や重要度、また所属する冒険者の質もあり営業時間は大幅に短縮されている。
冒険者が姿を見せ始めるのはせいぜい新規依頼が貼り出される8時、もっと遅く来る輩も少なくない。
『でしたら8時営業でもいいんじゃないですか?』
そう後輩が言うのを全くもってその通りだと心の中で首肯するのだが、ギルドの体裁なのか6時には営業を開始しろと本部からのお達しである。
簡単な準備の後は実質休憩時間のようなモノである。早く出た分他の職員より退勤も早いので、別に嫌いな訳ではないが、朝のまどろみが恋しいのも事実。
「でも今日は開けておいてよかったのですかね?」
従魔を連れた若い冒険者希望の男。
初対面でいきなり種族名を聞かれた時は何かと思った。
王国法では種族による差別は禁じられているが人族の権威が圧倒的に強い世である。自然、人族至上主義者もいるしそういった目で蔑まれた事もあった。
ただ、あの目には好奇はあっても侮蔑はなかった気がする。
「このギルドで『初めて』冒険者登録を行った人ですか」
何事も『初めて』というのには皆ある種の期待、特別感をもつものだ……そのせいで少しばかり醜態をさらしてしまった気がするが気のせいだろう。
「15歳…にしてはなんだか落ち着いているというか枯れているというか」
妙な気配は時折感じたが、男が女に抱く劣情とは違った気がする。あの年頃ならもっと…こう、アレがアレな感じではないだろうか。
書物や友人の話からの知識だが。
「最後には、行ってきます、ですか」
なんだかよく分からない人なのである。
ギルド職員としては滞りがちな依頼を解消していってくれれば御の字程度の感想。
でもまあ、
「いつもと違うことがあったせいか目が冴えてますね」
今日は冒険者達に頑張ってぐらい言ってあげようかと思うカーミラだった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




