第二十一話 ズルい女
村の説明回ですm(__)m
「冒険者ギルドの場所を教えて下さい」
宿を出て勇ましくギルドに行く宣言をしたアイバーことおっさんだったが、今は宿に引き返し看板娘長女のマナに冒険者ギルドの場所を聞いていた。
「何か~忘れ物したのかと思いました~♪ うっかりさんですね~♪」
イメージ的にはうっかりさんは貴女でしょと言いたい人に、笑顔でこう言われてしまった。
前生、35歳を越えたあたりから細かいことを覚えたり思い出したりするのに苦労した覚えがあるが、15歳の肉体になっても同じような事をするとは思わなかった。
自分の記憶力や注意力の低下は脳ミソの老化による肉体依存でなく、精神的なモノだったのだろうか? 昨日の露店商の婦人の時も危なかったし…
《冷徹》さんホントに仕事してよ!!
「冒険者ギルドは~、中央広場の~一番大きな建物ですよ~♪」
「そうですか、ありがとうございます」
ざっくばらんな説明ですが端的で分かりやすい。
今度こそ宿を出る。まだ早朝に近い時間だからか通りに人はいなかった。
「中央広場っていうと昨日のあそこだよな。どっちだったけ!?」
「ガウ」
「いや、本気で忘れてる訳じゃないですよ!? こういう時の様式美だって!! 先導しなくていいからシュー!?」
昨日1日で大分慣れたのか、昨日ほど怯えてはいないシューの様子である。単にまだ人の姿が見えていないからかもしれないが。
湖が近くにあるからか空気に水気が多い気がする。朝の湖に漂う霧なんて神秘的だなと夢想するが実際にはどうなのだろう?
霧による害とか無いのか?
「なんて考えてたら広場についたな。えっと冒険者ギルドは…」
村の中心部だけあって大きめの建物が幾つかある。
見た目完全に教会!!って建物もあるな。十字は磔刑の象徴だと聞いたがこっちでは違う意味があるんだろうか?
他に目につく大き目の建物というと2つあるが、どちらが大きいかというと迷うところである。わからんもんはわからんの精神で近くの方に入ろうとすると鍵がかかっていた。
外れを引いてちょっと落ち込むアイバー。
もう1つの方はきちんと解錠されており、中に入る。湖近くの為、湿気対策にでもなっているのか、床下ありで地面と段差のある造りになっている。
シューが登るのに苦労してヨジヨジしていた。階段使え。
「シュー、これからしばらく時間がかかると思うけど大丈夫か? よければ…」
どっかで遊んでても、と言いかけたがそれは無理かと思い直した。
「クゥ」
一声鳴いて、一緒にいるとの意志が伝わってくる。
「ありがとな」
扉を開けると1階部分の半分程のスペースが職員用のスペースになっているような造り、現代日本で言うと銀行の支店が一番近い例えになりそうである。
そんな中でスペースをもて余しているかのように一人の女性が書類仕事らしきものをしていた。開いた扉の音に気付いたのかこちらを見る女性。
「おや、お早いですね。本日の新規依頼はまだ貼り出されていませんよ?」
眼鏡に銀髪ポニーテール、褐色の肌に尖った耳。おっさんが思い描いていた通りのダークエルフであった。
「あの、つかぬ事をお伺いしますが…」
「なんでしょうか?」
「貴女はダークエルフですか?」
「……そうですね」
感動に震えるおっさん。
やっと、やっと、やっと間近で見られた見られたよ~~~~~~~~~~~!!
亜人とのファーストコンタクトである。警備隊のネールさんは名前と声を聞いただけだったし、ドワーフの存在等を聞いてから期待が刺激され膨らんで膨らんでいたのである。そこへ来て、ダークエルフはヤバかった。とにかくヤバかった。破壊力抜群であった。
落ち着け、集中しすぎて独り善がりの思考に陥ってしまうのは僕の悪い癖。
冷静に考えろ、目の前の女性の事をちゃんと見るんだ。《冷徹》さん頼むぜ。
「すいません、お気に触ってしまったら大変失礼しました」
「……いえ、大丈夫ですが。他の方に同様の質問はされない方が賢明ですよ」
だよなぁ、自分でもないわぁ、って思う。一応言い訳しとこ、男らしくないけど。
「そのぉ、人間以外の他種族の方を初めて目にしたもので、申し訳ありませんでした」
これ真実。
「謝罪は受け取りましたので、もう結構ですよ。それよりなにかご用事があったのでは?
このような早朝に来る方はそうそういませんので」
圧倒的クールビューティー感、デキル女の香りがするぜ!! 実際香水なのか良い匂いだし♪
「はい、冒険者登録をお願いしたいのですが、ここでよろしいですか?」
「はい、こちらで間違いありませんね。こちらの用紙に必要事項をお書き下さい。その後カードの作製と基本事項の説明に移らせていただきます。
代筆が必要でしたらお知らせ下さい」
用紙とペンを渡された為、窓口でそのまま記入する。まだ自分以外は誰も来てないからいいだろう。
名前、年齢、希望職種、保有スキル等の記入欄がある。
「あの、希望職種とか保有スキルって書かないと駄目ですか?」
「最低限名前と年齢だけでも結構ですよ。
希望職種と保有スキルに関してはギルド側が仕事やパーティー募集の振り分けを行う際の指針とさせていただいています。最初はともかく、ランクが上がれば指名依頼を受ける率も増えると思います」
ふーむ、どうしたもんかな?
職種は無記入でいいけどスキルはどうした方が良いだろう?
「お悩みでしたら白紙で良いと思います。後から足すことも可能ですし、仕事を受けるうちに自然と周囲には知れていく事が多いですから」
「そうですね、最初はまんべんなく仕事を受けていきたいと思っているので職種とスキルは白紙で」
「はい、アイバー様ですね。年齢は15歳。
申し遅れました。私は当ギルド職員のカーミラと申します。アイバー様の冒険者登録を担当させていただきます。
では少々あちらの席でお待ちください」
ふーん、カーミラさんって言うのか。
にしても転生してからの女性遭遇率高えな♪ みんな美人だし♪ これが主人公補正ってやつか♪
…いや、無いな俺みたいなヤツが主人公ポジにつけるはずが無い。美人はせいぜい遠くから眺める程度で満足しよう。宿屋の三姉妹も目の前のカーミラさんも仕事だから付き合ってくれてるだけだよ。
ありがとう《冷徹》さん、自分を冷静に見れたよ。
言われた通りに壁際の横椅子に腰かける。手続きに多少の時間がかかるのは承知の上だ。それに昔から待つことには慣れている。
カチコチカチコチ…二人でいるには広すぎる空間に時計の音が静かに響く…彼女に呼ばれるのを待つ静謐の時間。
ん?時計の音?
「時計あんの!?」
「? 時計ですか、でしたらそこに」
奥側のスペースにそれなりの大きさの振り子時計があった。文字盤も異世界文字だが12で一周するようだ。
彼女が準備の片手間に説明してくれたところ、時計はそれなりに高価だが存在するそうだ。機械式のならぬ魔導式らしい。ファンタジー万歳。
小型化には成功していないとのことだ。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
呼ばれて窓口に行くと、鈍色のカードと先端の鋭いレモン絞り器みたいなのがあった。絶対血を採るあれだ。
「申し訳ありません。当ギルド初の登録者の為、採血器が見つかりませんでした。お時間をとらせてしまいましたね」
ん!? 初の登録者!? どういう事だろう?
「これで血を採ればいいんですよね。後、初の登録者ってどういう事でしょう? 差し支えなければ教えていただけますか?」
「はい、この針で指からの血をお願いします。後、初の登録者とはそのままの意味ですよ。当ギルド設立以来貴方が初めてここで登録した冒険者ということです。といってもまだ設立から半年ですが」
そこんところの事情が聞きたいんだけどなぁ。
「おや? そう言われれば妙な話ですね。サイアンで冒険者登録をしてこなかったのですか?」
警備隊のノックスさんに話したのと同じ話をして自分のこれまでの経緯を説明しする。
するとようやく相手方も納得がいったようだった。
ちなみに人差し指で血を採ったが痛みはなかった。血糖を計る時に使う医療機具みたいな感じだった。
「カードに血液を付着させて同期を固定します。これで完了ですね。さて、基本事項の説明なのですが、その前にこの村についての説明も行いましょうか? 貴方の境遇ですと色々聞きたいのでは?」
「ぜひお願いします」
「分かりました。うまく説明できるか分かりませんが、お教えします。
まず、この東サイアン開拓村はガルド王国の北部領にあります。
北部領は中心に領都サイアンがあり、同名の貴族サイアン家が主として治めています。地理的には北のアームル皇国と国境を接していますね。
領の西半分は平原や小さな森等が広がっており皇国の侵攻ルートになったりもしていましたが、その分砦等を中心として都市群が発展してきました。現在皇国との関係は落ち着いていますね。
逆に東半分は北部に山脈があり侵攻ルートからは外れていましたが、山脈から以南の大部分が森林に覆われており、少規模の集落が存在する程度の未開地でした」
頷きながら話を聞く。
ふんふん、話が見えてきたぞ。
「森林には湖沼も多い為『湖水の森』と呼ばれており、その中で一際大きな湖が領都にも西端が届いているサイアン湖です。ここ東サイアン開拓村は逆の東端部分に位置しています」
なるほど、そのままの名前だった訳だ。
サイアンは西サイアンじゃないんだな。まあ領都って言うから中心なんだろ。ここが西東京みたいな扱いなんだろうな。
「前々から森林地帯の開拓はサイアン家の懸念事項ではあったのですが、現当主のナーシェス様肝いりの事業として半年前から入植が始まりました」
やっぱり初めて村に来たときの予想は当たってたのか♪ テンションアガるぅ~♪
「移住希望者も募っているのですが、未開の地としての不安もあり捗っていません。
なので先ずは村・町としての体裁を整える為にサイアン家の要請や依頼による人員を送り込んでいるのです。
私たちギルド職員や統治に必要な役人、警備の兵士達がそのいい例ですね。
その他にも生活必需品を扱う商会、新規宿や鍛治士、冒険者等にも一定の便宜を図って入植を勧めているのです。
有り体に言えば、私たちですと一定期間ここで勤務すると特別報酬やその後の出世に良い影響があるということです。
市井の方ですと特別報酬や税の免除等。
冒険者の方々には月単位の滞在という形の依頼が領都のギルドから出ています。ここで定められた期間定められた仕事を達成すると領都に戻った際に追加で報酬が出る、という類いです。
この村の住民は何らかの形でサイアン家の支援を受けている、という事ですね」
なるほど…まあ前生での転勤と移民政策と技術者の海外派遣を合わせたような感じかな?
「なるほど…」
「サイアン湖には大型の船舶が浮かべられるので、月に1度の頻度で領都との連絡船が到着するのです。人員の補充・交換や物資の補充・搬出もその時に行っていますね」
湖岸の設備はその為か。
「ここで最初の話に戻るのですが、ここに来る冒険者の方々は領都で依頼を受けて来る方なので、すでに登録を終えているのです。ですので貴方が初めてになったという事ですね。
本来は移住者の方が冒険者になることを想定していたのですが…」
「図らずも俺が初めての男になってしまったということですか♪」
我ながらおっさんくせえと思った。
軽く口から出た言葉だったが、予想外の反応を引き出してくれた。くれちゃった。
「は、は、は、はじめてのお、お、男!? な、な、何を言ってるんですか!?アナタ!!」
わあ~、まさかの耳年増おぼこちゃんだった!?
ちょっと前までクールビューティーだったのに褐色の肌に赤みが差して涙目になってる。
ズルいなこの女、可愛いわ♪
「落ち着いて下さい。ちょっとしたジョークのつもりだったんです。他意はありません!!」
他意の使い方これで合ってるかな? 実はよく知らないんだよな…
「あ、え、あ、っそ、そうですか。コホン!!
とにかくそういう事です。この村の現状については分かっていただけましたか?」
取り繕うクールビューティーカーミラ。
うん、結構いろんな事が分かった。
「ありがとうございます。丁寧な説明だったと思います」
「そうですか、よかったです。
では続いて冒険者としての基本事項について説明させていただきます」
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




