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第十九話 残酷な天使のオジちゃん呼び

村をウロウロ回ですm(__)m



 赤い夕焼けに体を染めながら村の中心部を目指すアイバーことおっさん一行。


「ああ言われたし、まずは宿だな。やっと現地通貨が使える機会だ。

 それで大体の価値も分かるだろ」


「ガウ」


「…ペット同伴可かな? 割増料金?」


 そんなことを考えていると前から子供連れの若奥様が歩いて来ていた。

 ある程度長い髪を後ろで束ねた男か女か分からない子供はシューにロックオンしているが、お母さんが上手く手で制しているようだ。


 革鎧に鉢金、刀に投げナイフのベルトを帯びたいかにも冒険者風な、少年に近いとは言え男である。ファンタジー世界のお約束にあるように冒険者に荒っぽい者が多いとすれば係わり合いになりたくないのも道理であろう。


「ワンちゃん♪」「ダメ!!」


 素直に興味を口にするお子様。

 制止するも言ってしまってからしまったとばかりにアイバーを見るお母さん。

 顔に出すぎです…

 にしても家畜化された犬は存在するのか!? 魔物とは違うのだろうか? 魔石の有無ってヤツかい?


「…どうも」


 ペコリと会釈して気にしてませんよ~、と示したつもりだったのだが望んだ結末は得られなかった。

お母さんの表情から強張りが消えない…


 イジメないで、ぼくわるいひとじゃないよ!?

 本当の善人はそんなこといわない。


「ワ~ンちゃん♪」「あっ」


 お子様が突進してきた。さすが幼児の集中力、俺とお母さんとの間にある気まずい空気など一蹴だ。


「キャウ~ン」


 当のシューは当初から足元に隠れるようにしていた。村を見つけてからの反応を見るにおそらくだが、人が怖いようだ。

 俺は従魔と主人の関係だからだろうか?


「オジちゃん、ワンちゃん撫でていい?」


 おっさんの足元にかがみこんで尋ねてくる幼児。一瞬シューを身売りして安全ですよ~アピールをしようかとも思ったのだが、


「あー、ごめんね!? この子はちょっと人間さんが怖いみたいなんだ。もう少し慣れたら触らせてくれるようになるかもしれないから、今はやめてあげてくれる?」


 と、相棒の意志を尊重してやった。

 決してオジさんと呼ばれたからじゃないですよ!? 呼ばれ慣れてますしね…

 

 返事をする前から手を伸ばしていた幼児はこっちを見てブーたれた。


「えー? ワンちゃん、マーちゃんこわいの? マーちゃんこわくないよ!!」


 そうかいそうかいマーちゃんは怖くないですか。やっぱり幼児は引いてくれないなぁ。


「す、すいません!! うちの子が!! ほら、こっち来て!! もう帰るんだから!!」


「えー、ワンちゃん撫でたい…」


「いえいえ、こちらこそ」


 すいませんと頭を下げながら去っていく親子に軽く手を振っておく。

 こちらとしてもシューに負担はかけたくないのでお母さんの行動は願ったりだった。


「クゥ~ン」


「どういたしまして。にしても…やっぱり冒険者って嫌われてんのかねぇ? 底辺労働者的な感じ?」


 ちょっと不安になるおっさんだった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後進むにつれて人とすれ違うことが多くなっていったのだが最初の親子…主にお母さんにだが…ほどに露骨に避けられる事は無かった。


 あれか? 駅から歩いて帰宅したら、たまたま同じ方向になって段々人気がなくなっていくのに、いつまでも付け回されてる的な女子の気分だったのか? 

 あれってそういう状況になっちゃった男の方もキツいんですよ。そうなっちゃって逃げられるのもヤだから早歩きで追い越ししたりする時とか妙に変な気分になるし。追い越ししようとする気配を察して相手も早足になったりするとすぐ後ろにいる時間が増えて余計スリリングな気持ちにさせられたり………夕方という一日の終わりの時間が俺を憂鬱にさせる…夕暮れ症候群…


 パンパン!!

 はい!! 切り替えていこう!! 過去は過去!! 今を、今を生きよう!!


「お、なんかいかにも中心部って感じのところに着いた」


 中心に据えられた円形の舞台、その延長上に広く取られた空間。そのさらに外周を幾つかの店舗らしき建物やテント張りの露天商が配置されている。そして四方に広がる道。


「円形交差点? ラウンドアバウト? ロータリー型交差点? なんかそんなんあったけどそんな感じだな」


 馬車が走ってるなら一方通行で行けそうだ。

 つっ立っていても仕方がないのでまだやっている露天商に話しかける。


「お姉さん、これちょうだい」


 そこは肉串を焼いて提供する屋台のようだった。すでに火は落とされており片付けを始めている。

 よく日に焼けた豪快な中年女性である。


「おや、こんなオバサンに嬉しいね♪ もう火は落としちゃってて肉も冷めてるけどいいのかい?」


「片付け中にすいませんね。実はちょっと聞きたい事がありまして、ただで聞くのも何なのでせめて売り上げに貢献しようかと♪」


「あらあら♪ えらく正直な子だねぇ♪ ま、お代によるけど何が聞きたいの?」


「とりあえず1本ください。おいくらですか?」


「冷めてるから半分の銅貨1枚でいいよ♪」


 ボロ袋に手を入れ、探すふりをしながら手元に銅貨2枚を引き寄せる。

 今最高に異世界っぽい交渉兼俺Kakkeeeしてる!!


「はい、じゃ、2本分。

 実はさっきこの村に来たばかりでして宿を探してるんです。良い宿とその場所を教えてもらえたらなぁ~と♪ あ、1本は下のチビにやりたいんですけどいいですか?」


「へ? ああ、犬連れだったのかい。かまわないよ、はいよ2本ね」


 一応店主の許可を取ってシューにあげるおっさん。元気がなかったシューだが、この時ばかりは嬉しそうである。おっさんの足元で肉串にかじりついている。

 しかしお子様に次いで2回目の犬認定かぁ、もちっと頑張んないと狼に見られないぞシュー。

 昨日今日で大分食ってるけどまだ痩せ犬ならぬ痩せ狼なんだよなあ。この食事ペースなら標準にはすぐ戻ると思うけど。


「良い宿かあ、この村には宿は2つしかないんだよ。1つが冒険者ギルドがやってる簡易宿泊所、もう1つが宿屋兼食事処をやってる『清湖亭(せいこてい)』だね。

 とにかく安さって言うならギルドの方、そこそこお金があって快適さを求めるなら『清湖亭』だね」


 なら清湖亭1択だな。神様に交換してもらったお金あるしノックスさんも良い部屋取れるみたいな事言ってたし。

 何より布団かベッドで寝たいんだ!!


「ありがとうございます。あ、あともう1本ください。これはおまけなんですけどこの村のお店とかってどれくらいまでやってるんですか?」


「ほい毎度!! 

 変な事を聞くニイちゃんだね!? 普通日暮れまでだろ? ここの露天組は売るもんがなくなりゃ帰っちまうし、売れなきゃ夕方には店仕舞いさ。

 日が落ちてからやってるのはせいぜい酒場と娼館ぐらい、あと冒険者ギルドもかね? 

 田舎じゃそんなもんだろ…あ、ニイちゃんサイアンからの出向組かい? でも今日は船来てないよねぇ?」


 出向組ってなんだ? この村どっかから人員が補充されてるのか?


「いえ、違いますよ。森に迷って何とかここにたどり着いたんです。行くぞ、シュー。

 それじゃありがとうございました。あ、『清湖亭』ってどっちですか?」


 道を教えてもらい冷めた肉串をかじりながら宿の方向へ向かう。冷めてはいたが転生後初めての肉である。鶏肉のような味がして旨かった。

 途中シューにも残りの1本から肉を外して食べさせる。歩きながら食べれるよう少量づつ与えるおっさん。


 夕刻になると道中の各所で篝火を用意している人達がいた。ノックスさん達と同じ規格の鎧なので警備隊の人達なのだろう。

 夜になってもすぐに真っ暗という訳では無さそうだ。まあ夜通しでなく最初の数時間じゃないかな?


 そして目的の場所に到着するとほぼ同時に夜の到来である。


「ここかあ~あ、看板の文字、知らない文字なのに『清湖亭』って読める!! 異世界言語補正スゲー♪

!! てことはノックスさん達と初めてしゃべった時も知らない言葉しゃべってんのに日本語として自動変換してたのか!? しまった~口元よく見ときゃ良かった~!!」


 変な事に感動するおっさん。


「ガウウ…」


 おっとすまんなシュー。さっさと入ろう。


 扉を開け中に入ると奥にカウンターがあり、その手前のスペースは食堂のようだった。4~5人が座れそうなテーブルと椅子のセットが10個程あり、半分以上が埋まっている。


「いらっしゃいませ~♪」


 エプロンに三角巾赤毛を三つ編みにした、いかにも看板娘って感じの娘さんが声をかけてくる。なかなか可愛いらしいお嬢さんですなぁ♪ グフフ♪

 おっさんと足元のシューに視線を向け、


「お食事ですか? それともお泊まりですか?」


「あー、泊まれますか? こいつも一緒に」


「クゥ」


 やはりまだ人は怖いようだ。恐れが伝わってくる。


「はい、そのサイズの従魔ちゃんでしたら同室で可能ですよ♪ 可愛い狼ちゃんですね♪」


「あれ? こいつが狼…キッズウルフって分かるんですか? 見る人みんなワンちゃんって言われたんで…」


「職業柄そういった従魔を連れている方々を見ていますので♪ 大型の子ですと馬屋等にお願いするのですが。

 念のためお聞きしますが従魔の、その…おトイレは大丈夫でしょうか?」


 そう言えばシューがそういうのをしてる場面に出くわした事無いな? 

 主人の方がよっぽどである。


「大丈夫だよな?」


「ガウ!!」


 なんか力強く頷かれた気がする。

 にしても、宿屋の娘さんも侮れんなぁ…一流のホテルスタッフはお客さんの仕草や好みを記憶したり行動を先読み出来るなんて聞いたな。

 ホスピタリティーだっけか?


「お泊まりですね。シングルでよろしいですか?」


「シングルの他には何があるんでしょう?」


「失礼いたしました。ダブル、ツイン、特別室をご用意させていただいております♪」


「えっと、特別室って?」


「はい♪ 間取り自体は他の部屋と変わりませんが、シングル、ダブル、ツインの各1部屋にはシャワー設備が付属しております♪ 定量ですがお湯も出ますよ♪ 女性のお客様や汗を流されたいお客様にご好評いただいております♪」


 おお、素晴らしいじゃないか♪

 あれ? そう言えば風呂文化ってどうなんだ? 確認しておくか!!


「すいません、お風呂って無いんですか?」


「お風呂…ですか? 浴槽という事になりますと相当の富裕層、貴族様や豪商の方々のお宅出ないと無いと思われますけど…」


 なるほど、それぐらいの認知度か。


「いかがなさいますか?」


 一応各部屋の料金を知りたいなあ、と思って聞いたところ、快く教えてくれた従業員教育のなっている宿だ♪


 シングル:銅貨50枚=大銅貨5枚

 ダブル:銅貨80枚=大銅貨8枚

 ツイン:銅貨80枚

 各特別室:上記料金+銅貨50枚


 憶測だけど銅貨1枚=100円くらいの値段設定のようだった。

 銅貨の上には大銅貨=1000円

 大銅貨10枚で銀貨=10000円

 さらに上に大銀貨と金貨があると教えてくれた。一桁づつ増えていくらしいので庶民はせいぜい銀貨までで経済活動を行えるらしい。

 前生と比べると比率レートおかしいと思ってしまうが野暮は言うまい。原価(それ)を言ったら日本銀行券だってそうだからなぁ…


 それはさておき。


「シングルの特別室をお願いしたいんですけど空いてますか?」


「はい宿泊可能です。銀貨1枚先にお支払いいただきますがよろしいですか?」


「はい」


 先程と同じようにボロ袋に手を入れて銀貨と念じて手先に呼び寄せる。


「はい確かに承りました♪ お食事はどうなさいますか? 1泊で朝夕の2食付きますので今から食べていただくことも出来ますが?

 夕飯は18時~21時の間、朝食は6時~9時の間に食堂でお持ちします♪」


「部屋で食べる事って出来ます?」


 シューの件があるので人のいるところは避けたかった。


「はい、出来ますよ♪ ただ、余裕があれば部屋までお持ちしますが、忙しい時間帯にはご自身で持ち帰り下さい」


「わかりました。じゃあすぐ作ってくれますか? 案内してもらったらすぐ取りに来ますんで。あと別料金でいいので、こいつが食べられそうなものを…従魔にも詳しそうなのでおすすめで適当に」


「ありがとうございます♪ お姉ちゃ~ん、わたしお客さんお部屋に案内してくるから!!

 お父さん、夕食一人前と従魔用のAセット半量お願い!!」


 お、今までプロの接客だったのが、家族に向けた気安さで一気に親しみを覚えてしまったぞ!! やるなあ看板娘♪


「こちらです♪」


 案内されたのは一階の角部屋だった。

 中はシンプルなベッドと小さなテーブルと椅子。壁に小さな棚が2つ。奥に扉があるがそれがシャワー室だろう。開けて見たら洋式トイレもあった。共同じゃないのは嬉しい。


「こちらが鍵になります。外出時は宿屋側に返却をお願いします。それでは失礼いたします。

 食堂でお待ちしていますね♪ またね狼さん♪」


 部屋から離れていく看板娘さん。

 お客とはいえ男と2人で部屋にいたら危ないもんな。部屋には入って来ずに入り口の扉を開けたまま待機してたなあ…別に何もする気は無いけど。


 なんにせよ3日振りのベッドだ!! 

 ちょっとだけダイブさせて欲しい。


お読みいただきありがとうございましたm(__)m


お金の設定難しいです。悩みました。

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