第十八話 そうくるかぁ~なるほどぉ
取り調べすぐ終わります。
「気になる事を調べないといけないのが俺たちの仕事なんでな、ちょっと付き合って貰うぜ!?」
「はい、もちろんです」
雰囲気からも断れるような感じじゃないしな。
長く滞在するかは分からないが、官憲の類いに疑いを持たれたままなのはよろしくない。
「まずは………あー、なんだ、お前のこれまでの生い立ちみたいなのを聞かせてくれねえか?
その上でこちらの気になる点を聞かせてもらうわ……」
「ごめんなさいねぇ~♡ ノックスちゃんはちょっとおバカなの♪
要点がまとめられないのよぉ♪」
「うるせえよ!!」
おバカでもオネエのセクハラよりはましである。できれば後ろにも立たないでいただきたい。
現在小さなテーブルにてノックスさんとは差し向かい、シュミーズさんは後ろに立っている…正直落ち着かない。別に俺の後ろに立つな的な事を言う訳ではないのだが……ねえ?
シューは椅子に座った主人の足元で丸まっている。
転生部屋での神様関連の出来事をお祖母ちゃんとの生活に置き換えて、以降大岩からの出来事は正直に語った。
「……ふうん、魔物の死骸や採取物なんかはその時の物か、まあ不自然ではないな。
下で丸まってる子狼、シューだっけか? それについても問題はねえ。 冒険者の中には時おり従魔を飼ってる奴はいたしな」
あ、やっぱり従魔っているんだ。いい機会だからちょっと尋ねておこうか。
「従魔ってどういうものなんですか? 急になったんでよく分からないんですけど、職業とかスキルとか関係あるんですか?」
「…今聞き取り中なのはこっちなんだがなあ…俺は従魔持ってねえから詳しくねえけど、持ってる奴はその魔物が襲われてるとこを助けただとか、飯をくれてやったとか、三日三晩戦い続けて4日目の朝にだとか言ってたかな? 職業は従魔を持ってから調教師ってのになったみたいな事を言ってたな、スキルは関係なかったと思うぞ?」
ふ~ん、《統率》スキルは関係なかったか。話を聞くと魔物の好感度次第かな? 前者2つは自身に当てはまる、最後のは分からんけど夕陽の下で殴りあって友情芽生えるとかそんな感じかな? 調教師は従魔を得た結果、なるっぽい。
「話がズレたが、聞いてみて大分わかったよ…まあそれでも納得しずらい部分もあってなぁ…まずアイテムボックスってのがなあ」
「お祖母ちゃんの遺言にあったものですんで、なんとも…中身に関しても同様ですし…よく知らないんですけど珍しい物なんですか?」
この世間知らずキャラでどうにかゴリ押しするしかないな。
「ああ、大分辺鄙なところに住んでたんだっけか?そりゃどこだ? 『湖水の森』の奥地にでもいたのか?」
「この森ってそういう名前なんですか?」
初耳だ。ここは『湖水の森』だったのか!?
「自分のいる場所も知らねえのかよ!? お前のバアさん何なんだ?」
ノックスさん、話が飛ぶなあ…確かにシュミーズさんが言ったような雰囲気がある。
「う~ん、思うんだけどぉー、この子どっかの貴族の訳あり…とかじゃないかしらぁ♪
お金やこれだけの武装一式なんてなかなかの資産よぉん♪」
おっ、ナイスフォローシュミーズさん。とんだオネエだと思ってたけど良いとこあるじゃない♪
「まあそりゃそうだがよ…」
「彼自身も出自に関しては知らないみたいだし、確証は取れないけれど、そこは重要じゃないでしょう? 私たちの仕事はこの村を守ることで、この子についてはこれまでの態度やお話で悪い子じゃないって分かったんじゃない?」
おお、なんて頼もしいんだ!!
シュミーズさん、ステキ、だ…いて欲しくはないな、うっかり思ってしまっただけで実現してしまいそうな恐ろしさがある。
「そう…だな、武装解除等にも素直に応じてくれたし、特別妙なところはなかった。気にはなるが…
シュミーズもこう言ってるし、ここまでにするか…」
やった無罪放免だ、別になんもやってないけどね♪ ここに来る前に毒関係の採取物は捨てといて正解だったかも。
あっでも、
「村に入るのにこれだけでいいんですか? お祖母ちゃんの遺言には町とかに入る時には魔法の道具で調べられるって…」
もし無かったら怪しまれるかな。けっこうギリギリを攻めてしまったが、好奇心には勝てなかった。
「それは知ってんのか!? モノの教え方がよく分からんバアさんだな?
ボウズが思ってるようなのは、よほどデカい街にしかねえな。ここいらだと領都と迷宮都市ぐらいだな」
勝てるとは思ってたけど賭けには勝てたな 。
それにしても、またまた心をくすぐるワードが出てきたぞ♪
「ありがとうございました」
「こっちこそわりいな。まあ、先にも言ったが仕事なんでな、勘弁してくれや。
んじゃモノは返すぞ。アイテムボックスにナイフ、それに刀か…最初に見たときに思ったんだが、けったいなモノを得物にしてんだな?」
「あれ、やっぱり刀って珍しいんですか?」
薄々思っていたんだが、今まで検証の機会が無かったんだよね。神様が装備一式に入れてくれたからそれなりに知られてはいると思ったんだけど。
「それも知らずに使ってたのか? ああ、まあ、世間知らずのなんだったな…一時期、つっても百年以上前になるらしいけどよ、刀が流行した時があったんだよ」
「今ではすっかり廃れちゃってるけどねぇん♡ なんでも当時、フラっと西方から現れて単独で竜殺しを達成しちゃった冒険者が使ってたのが刀だったらしいわよぉん♪ みんなこぞって真似したのねぇ♪」
「だが、実際使ってみると扱いづらくてな、すぐ折れる、巨大な魔物には通じにくいってんで敬遠されちまってんだ。
まあ武器としてはそんな扱いなんだけどよ、その独特の外見から美術品としての需要があったり、一緒に伝わった刀鍛冶の製法がスゲえってんで根付いた訳よ。
ドワーフの鍛冶士達の腕試しってんでたまに打たれて市場に出回んだ。ボウズのはまあ、鈍刀の類いだがな」
へーそんな事情なのか。刀で竜退治なんて…その人転生者とかじゃないかな?
それにやっぱりドワーフもいるのか!! エルフいたしな。
鈍刀なのは鑑定済だから仕方ない。
「貴重な知識ありがとうございます。そういう常識にうといもんで…」
「礼なんか言うんじゃねえよ、そこらでちょっと聞きゃあ分かることだ」
そう言いながらも鼻を擦って照れているノックスさん、口は少し乱暴だけど田舎の気のいい兄ちゃんって感じだ。
こうやって情報を集めて行くのもファンタジーの楽しみ方だよな♪
すぐにゲーム気分が顔を出すおっさんである。
「あ、ついでと言ってはなんですが、この村って…」
「アイバーちゃん♡ 初めてで色々聞きたい事があるのは分かるわぁん♪ 初心者はがっついちゃうものね♡
でも、そろそろ暗くなるし、初めてなら腰を落ち着けるところを確保したほうがいいわよぉ♪
暗くなってから宿を探すのは大変でしょう♪」
「ああ、そ、そうですね」
なんかいちいち性的なアレを連想させる言い方だよな。
とはいえ言っている事も事実である。村に入る時点で日は傾き始めていたし、この取り調べでも時間はかかっている。
現代日本の感覚では夜といっても外灯やネオンの看板がそこいら中を照らしてくれているが、この世界では夜の光源は篝火程度かもしれない。魔道具の光源の可能性もあるが…
ましてや、見るからに田舎の様相の村である。
「そうだな、まずは宿を取っておけよ。
金も持ってるようだし、銀貨1枚ありゃ上等な部屋に泊まれるぜ」
「この街道沿いに真っ直ぐ進めば村の中心よ♪ 小さいけれど一通りのお店や施設は揃っているからねぇん♡」
…いかがわしいお店もありそうだ。いや、偏見だな、いかんいかん。
「大人のお店もあるわよぉ♡
成人したてだからってはまっちゃダメよ♪」
あ、あるんですね。
興味はあるけどしばらくはいいかな?
さて、暗くなる前に宿を見付けなくては。
出来れば冒険者ギルドもだな♪
今後の予定を考えながら詰め所を出るおっさん。門から続く街道がそのまま村側に続いていることを確認する。
「じゃあ、ここで解放だ。分かってるだろうが面倒は起こすなよ!? 外敵だけじゃなく村内の治安維持も警備隊の仕事だ。分かるな?」
頷いて了承の意を示すおっさん。
釘を刺されたようである。
「もぉ、くどい人。そこがリーダーなんだけどねぇ♡
私からも、分かってると思うけどその袋、気を付けるのよ…あと田舎じゃあ気にされないと思うけどシューちゃんには従魔の証として首輪か何かプレゼントしてあげなさい♪
女の子なんだから可愛いヤツよぉ~ん♡」
「テメーの方がくどいじゃねーか…」
軽口を叩き合う同僚だな…憧れるわ。
シューは相変わらず足元から離れないけど、シュミーズさんには多少気を許しているようである。従魔の絆で何となく分かる。
「じゃあ行きますね、また♪」
「おう、門番してっから会うこともあんだろ。酒場で会ったら奢れよ♪」
「じゃあねぇ~、気を付けるのよ~♪」
手を振りながら村に向かう。
「そうだ!! 重要な事を言い忘れてたぜ!!」
ノックスさんが両手でメガホンを作りながら叫んで来ている。
なんだ?
「ここは東サイアン開拓村だ!! 旅の方、ようこそ!!」
そうくるかぁ~なるほどぉ♪
なかなかお約束を分かってる人達だ♪
考えてみれば異世界で初めて遭遇した人達か…詰め所での出来事もあって忘れられそうにないな…
「ガウウ…」
「シューはずっと大人しくしてたな、怖かっただろうけどエラいぞ♪」
「ガウ!!」
頭を撫でながら夕闇に影を伸ばす一人と一匹だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
アイバー達を見送った警備兵は迫る夜に備え、篝火の準備を始める。
「…で、どうだった?」
「中で言った通りよぉ、悪い子じゃないわね。他国の間者とかの可能性はまず無いんじゃないかしら?」
詰め所横の軒下から薪を拾い上げ門へ向かう。屋根のないところに薪を積むと雨にさらされてしまうため建物の軒下に積むのが普通である。
「それはそれだろ。本人にその気が無くても利用されてる、とかどこかに紐が繋がってたりとかよぉ」
「そういうのも感じなかったのよねぇ」
「ふーん、まあお前の《直感》スキルがそう言うなら大丈夫なんだろ!? お陰で俺らも助かってる訳だし。
おーい!! ネール!! 降りて来て、着火頼む!!」
「…了解」
「あんまり頼りにされ過ぎてもプレッシャーだわ♪ いつも言うけど絶対じゃないのよ!?」
「こっちも言うが、少なくとも俺らん中じゃ絶対だよ。これから先お前が間違ったとしたって恨みゃしねえ」
櫓から降りてくる小さなお尻を見上げながら、金属製の籠に薪を入れる。その籠を金属製の台座に乗せて火種を待つ。
「…なんか邪な視線を感じた…」
「気のせいだろ。ほら、火」
「…《着火》」
エルフの指先から青い炎が上がり薪に当てる。煙の後無事着火完了したようだ。
「ネールはあの子達どう思ったの? 遠くからしか見ていないでしょうけど♪」
「悪い子じゃない」
パチパチと火のたつ音がする。もう一方の篝火の準備の為、門の中央を横断して逆側へ歩く。
「そうなのよぉ♪ 何か隠し事はあるみたいだけど、人に言えない事なんてみんな1つや2つはあるもんでしょう♪」
「そりゃな…その何かが気になっちまうんだよ、仕方ねぇだろが!!」
「…シュミーズネエさんの言うことだからもあるけど、私にはモフモフが正義、それだけ」
「………あっそ」
今日も夜半の交代までの勤務が長い警備隊であった。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




