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第十七話 せめて人権らしく

タイトル通りの例のアレパロディネタがあります。

 森の中から村を様子を伺う不審者ことおっさん。


 いや、待て、ちがうんだ、話を聞いてくれ、通報はよせ!!


 などと一人遊びをするぼっち上級者のアイバーことおっさん、忘れがちであるが《孤独耐性Lv6》持ちである。この手の妄想による一人遊びは得意である。


「クゥン…」


 近頃はアニマルセラピーに癒されるようになってきている。


「勘違いするなシュー、これは決して怪しい変なオジサン的な事が目的じゃない。

 村が危険じゃないか確かめているんだ」


 本心である。

 以前おっさんが思ったように、ファンタジー世界の設定の中には村そのものが盗賊稼業によって生計を立てているなんて事もある。


 人を信じきれない臆病さ、と取るか生きたいという慎重さ、ととるかは他者に任せる。どうとでも取ればいい。どっちも正解でどっちも間違いだ。

 と、ニヒルなダンディーごっこをはじめるおっさん。テンドンである。


「クゥン」


「ノリが悪いなシュー? ん、どうした!? なんか元気ないな?」


 ノリで生きる人間は嫌いなクセに、自分のボケには他人にノリを求めるおっさん、人にやられてイヤなことを人にやってはいけない。

 

 シューはおっさんを見ていなかった。別にウザくて無視する反抗期ではない。

 村の中の何かに怯えている怖れの感情が伝わってくるのだ。何となくや雰囲気とは違った感覚であり、これが従魔と主人との絆的なモノかもしれない。


「ん~何かが怖いってのはわかるんだが…何かまではわかんないな……村の様子も怪しいところはそんなに無さそうだし」


「クゥ~ン…」


 怖がるシューの後ろに回り込んで後ろから抱えるように抱きつくおっさん、満員電車で女性にやったら一発アウトなのだが狼だから犯罪じゃないもん♪ 心なしかシューの怯えが和らいだ気がする。


 そのまま観察を続けるおっさん。

 湖岸の集落は村と言って差し支え無さそうな規模だった。夕方近くになっているからか、人通りは少ないものの小さな畑等もみられる。

 が、おそらく農作は主産業ではないのだろう。畑の広さもそうだし作付がかなり多岐にわたっているように見える。近所のジイ様がやっていた、新しい作物が土壌に合っているか調べる試験のようにも見える。


 よくみるとこの村が新しく出来たばかりの開拓村的なモノなのではと思うおっさん。

 まず村の外縁であるが、森と接している部分に簡素な柵がある。その柵そばの木、村に面している側の枝振りが弱く村方面に伸びている枝が少ないのだ。密集していた木々を一方向から切った際にみられる傾向である。

 木材で建てられた家屋も使い込まれたモノ特有の色褪せがまだ弱い。

 

 また、村の規模に反して船着き場らしき場所だけやたらと立派である。今湖に出ている小さなボートや小型の帆船(はんせん)にはもったいない規模だ。


「なんかチグハグだけど…盗賊の隠れ家って感じには見えないんだよな」


 森の中から様子を伺っているため、必然的に確認出来るのは村の外れになってしまう。比較的大きな建造物や運良く外縁近くにあった畑の様子等は見れたが、人通りが少ない為住民の様子を詳しく見ることが出来ない。


「…危険は少なそうだし、行ってみるしかないか。

ゴメンなシュー、怖いかもしれないけど一緒に行くから付き合ってくれ、な?」


「クゥン」


 ずっと後ろから抱き付いていたせいか、少し安心してくれた様子である。了承の意を感じる主人。


「サンキュ。

 じゃあここからじゃなくて村の正門とかの入り口的なところを探そう。ここから入ると、なんかあった時に不法侵入とか言われそうで面倒だしな。

 なかったら…それっぽいところだな」 


 湖の岸沿いに歩いて来た為、今のままだと森の中からこんにちはである。

 他所のお宅の玄関のインターホンを押しても反応がなく、庭沿いに縁側や窓から中に人がいないかなぁと確認しているようなモノだ。田舎ではよく見られるが都会だと不審者扱いである。


 ファンタジー世界なら正規の入場口的なモノがあって、番兵や守衛みたいなのがいてもおかしくは無いだろう。どうせなら正規の手順を踏んだ方が後々の面倒事も少ない。


「よくある犯罪履歴とかのチェックとかもあるかもだし♪」


 実は楽しみにしているおっさんである。

 城塞都市の門かギルドの登録時かのお約束でしょ!!


 森と村の境界に沿って歩くアイバーとシュー 、特にシューは最初にあった時のように足元に擦りよって離れたがらなかった。歩きづらかったが怖がっているのも相変わらずなので『今回だけだぞ』と許可すると、


「クゥン♪」


 と嬉しそうだった。

 一応村の外縁の証である簡素な柵からはギリギリ見える程度の距離を取ってある。村の方から発見されて不審者扱いされたら嫌だからである。


 さほどしないうちに柵から丸太で作られた(へい)らしきものに変わっていき、その先には同じく丸太で作られた両開きの門が見えた。森の木で見えにくいが(やぐら)のような見張り台もあるようだ。

 門は開きっぱなしになっており、門前には二人の兵士らしき…


「おい!! 森の中からこちらを伺っている奴!! やましい事がないなら返事をしろ!! 返答がなければ容赦はせんぞ!! さっさとしろ、5、4…」


 カウントダウンに焦るおっさん。弓や魔法が飛んできたらアカンと直ぐ様大声を上げる。


「待ってください!! 道に迷った者です!! 怪しい者じゃありませーん!!」


 口から出たのは最低限の設定だった。色々自身の設定についても考えたのだが正直に転生者ですなんて言うと怪しまれそうだし、練りに練った設定はこの世界の事を知らないと墓穴を掘りそうであった。

 辺鄙なところでお祖母ちゃんと暮らしていた世間知らずの若者で通すことにした。お祖母ちゃんが亡くなって、遺言で指示された町の方向に行こうとしたけど道に迷った、という生い立ち設定にしていく。


「…とにかく森から出て姿を見せろ。妙な動きはするなよ、弓で狙いをつけている」


 そこそこシブいバリトンに促されて門正面の街道に出る。両側はすぐ森だがそこそこ広く圧迫感は感じない。

 ポーズはもちろん両手上げである。

 あー、シューがかなり怯えてるわ。足に震えが伝わるわ。


「おい、名前と目的を言え、あと足元の魔物はなんだ? それも説明しろ!!」


 バリトン兵士さんが尋ねてくる。

 守衛に2人の櫓に1人、同じ規格品の金属鎧に前者は槍、後者は弓矢で武装し先端はどれもおっさんを狙っていた。


「名前はアイバーで、15歳。

 目的は道に迷ったので人里を探してここにたどり着きました。

 足元のは森の中でなついたキッズウルフで名前はシューです!!」


 自分でも忘れそうな年齢設定もちゃんと言えた。

 急なプレゼンの仕事等もあった為、最低限伝える事をまとめる社会人スキルはまだ健在だったようだ。


「…わかった、では入村が目的だな!? だったら簡単な質問と荷物検査を行わせて貰う。文句はないな?

 ゆっくりとこちらへ来い」


 最初の警告より幾分穏やかになったバリトンボイス。

 シューは相変わらず足元にピッタリだった。ゴメンなぁ…

 守衛2人に近づくと武装解除を求められたので刀と投げナイフ、一応ということでボロ袋も預けさせられた。


「わりいな、これも職務でな」


 素直に応じている事からか大分気安い雰囲気になったバリトンさん。

 いえいえ、お仕事ですもんね♪ 

 警察は違反切符切られたりで好きじゃないけど、必要な仕事だって事もわかってる。一時停止違反をやりそうな場所で待ち伏せされた恨みは忘れんがな。


「ネール!! 門の警戒を頼む!! 俺とシュミーズは中で尋問にあたる!!」


「…了解」


「アアン!! 聞こえねーぞ!! もっとでかい声で言えや!!」


「了解って言った。 体力バカはこれだから…」


「聞こえてんぞ!? 誰が体力バカだ!!」


「それが聞こえるなら最初の返事も聞こえたらはず…陰湿リーダー」


「うるせぇ!! この根暗エルフが!!」


 櫓の上の弓士さんに報告したらギャーギャー言い合っているが仲間同士のじゃれあいといった空気だ……ちょっとうらやましい…でも尋問ですか? ちょいと物騒に聞こえるんですが…


 バリトンさんがこの警備チームかなんかのリーダーでちょっと脳筋気味。

 櫓の上にいるのが女性でネールさん、しかも……エルフ…だと!? 尋問あの人が良いなぁ~♪

 んで、まだしゃべってない褐色肌の大柄な男性がシュミーズさんか…あれ? なんか…


「ったく、おお、わりいな、そこの詰め所で話を聞かせて貰うぜ。

 なに、簡単なもんさ♪」


 門のすぐ側に建物がありそれが詰め所らしい。前生基準だと交番とか派出所とかのイメージだ。

 派出所と聞くと最近連載終了した某有名漫画を思い出してしまうな…俺の人生もあれぐらい長く続けばいいのに………おっとイケない!!


「入ってくれ、中で身体検査と物品の確認を行う。心配しなくても全部お前の目の前で行うからな。中のモンをちょろまかしたりはしねえよ。

 あとその子狼、暴れさせんなよ。大人しくしてりゃいいが、暴れるなら討伐対象になるかんな」


 そう言って押収したボロ袋と装備を掲げて見せるバリトンさん。

 アイバーもシューに大人しくするよう念で念押しする…ダジャレじゃないねん…スマヌ。


「さっきから全然しゃべってねえな? 緊張してんのか?」


「まあ、それもあるんですが……出来ればお名前を教えていただけると…」


 バリトンさんでもいいけどね。


「お、そうか………まあいいだろ、俺はノックス、この村の警備隊の分隊長だ!! つってもそんなに偉くはねぇけどな♪

 そっちは隊員のシュミーズ、で見張り台の上にいたのが同じく隊員のネールだ」

 

「どうも、アイバーです」


 バリトンさんあらためノックスさんにあらためて名乗る。


「さっき聞いたよ♪ じゃあシュミーズ、身体検査を頼む。

 俺は袋の中身の検分を…ってこれアイテムボックスかよ!? おでれーたな!!」


 あ、アイテムボックスってやっぱ珍しいんだ。

 次々出して詰め所内のカウンターに並べていく。まあ、ノックスさん()い人っぽいから任せていいだろ。

 こっちはこのシュミーズさんから身体検査だ。聞いたときから思ってたけど『シュミーズ』ってちょっと発音しづらい。響き的にもご婦人用の下着を連想してしまうなあ。今の若い人には分からないかな?

 なんて考えていると、


「それじゃおっぱじめるわよぉ~~♡ 

ヤングなボーイと可愛いワンちゃんねぇ~~♡ 役得だわ♪」


 ………ちょっと待って欲しい。

 目の前の褐色大柄筋肉さんからはあり得ない、カン高いけど野太い声が聞こえた気がする。

 幻聴だよね!? 最近狼の声が聞こえる気がするくらいだ人の声が妙に聞こえたところで不思議は…


「ああ、不気味に思うかもしれねえが心配は要らねえぞ。さすがに一線は越えさせねえからよ………まあそれ以外は色々諦めてくれ。

 …妙に武器が多いな…うお!? ビッグボアの死体ってずいぶん食い散らかされてんなぁ」


「失礼ねぇ~♡

 私がするのは極めて常識的なボディチェックよ♡ 危険物を隠してないかね♪ あらあなた、股間に危険なモノを隠していそうねぇ♡ 念入りにチェックしなくっちゃあ♪」


「ノックスさん!! アイテムの検分をしながらじゃなくて目を見て言ってください!! 全然心配要らなくない雰囲気なんですけど!?」


 すでに体をまさぐられながら、心なしか鼻息が荒くなってる気がするぅぅぅ~!!

 シューは少し離れて不思議なモノを見るかのように首を傾げている。いつの間にか怖がらなくなったのはいいけど主人のピンチだよ!? 助けて!!


「う~ん、潜在能力(ポテンシャル)はあるけどまだまだ鍛練不足な肉体(からだ)ねぇ………こっちのポテンシャルは未知数だわ♡」


 そこ触らないで!! あと余計なお世話、まだ異世界来て未使用なんですぅ!!


「セクハラだ!! 人権団体に訴えるぞ!!」


「セクハラとかジンケンダンタイって何かしらぁん♪

 それにこんなことになったのはあなたが森の中に潜むなんて端から見れば不審な事をしていたからよぉ~ん♪

 残念ねぇ~~ん♡ これは私達警備隊のご褒美…じゃなかった、職務なのよぉ~♡」


「そういうこった、ボウズ、諦めろ

…ずいぶん採取してんだな」


「絶対ウソだ!! よしんぼボディチェックが必要だとしてもこれはな…アフッ、ケツの割れ目に手を這わすなぁ!!」


 嫌ぁ~!!

 やめてよしてさわらないで何かできちゃう~!!


「せめて必要ならエルフのネールさんにお願いしてぇー!!」


 その後身体検査という名の精神的凌辱はしばらく続いた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「はい、もういいわよぉん♡ 名残おしいけどノックスの方も終わったみたいだしねぇ♪」


「汚されちゃった…俺の体が、汚されちゃったよぉ」


 シクシクと泣き真似をするアイバー。涙は出ていないが精神はごっそり汚染されている。膝を抱えてうずくまってしまいたいぐらいだ。

 相棒のシューちゃんはさらっとボディチェックを終えており、オネエのシュミーズさんにも少し慣れているようだ。途中干し肉もらってたな…


「まあ、なんつーかお疲れさん?

 で、だ…持ち物について幾つか聞きたいことがあるんでな、お疲れのところわりいがこっち来て座ってくれ」

お読みいただきありがとうございましたm(__)m


オネエキャラって動かし易いです。

他の作家さん達が使うのも納得。

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