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第十五話 さっさと森を抜けましょう

今年最後の投稿です。

 アイバーことおっさんを先導するシュー。

 念のため土魔法による道標は続けているが、何となく要らないような気がしてきている。


「期待してるよ、シュー」


 時折後ろを確認してくるシューに手を振って応える。シューが先導に集中しているように見えるため周囲の警戒を強めるおっさん。


 拠点の大岩を出発して体感20分程歩いたところでその歩みが止まる。

 進行方向左側へ唸り出すシュー。その先は(やぶ)


 素早く左腰に帯びた刀を抜き地面に刺しておく。本当なら居合で一閃をしたいのだが、こっそり練習して出来なかったのだ。練習の継続と刀術のLvアップに期待だ。

 ボロ袋から石をつかみ胸元で構える。


 数瞬後…


「ブモオオオォォーーーー!!」


 ドドドドドドッと地響きをたてるように迫る巨大な体躯に鋭い牙、興奮したかのような赤目の(いのしし)だった。

 猪突猛進の言葉通り、真っ直ぐにアイバーに迫りくる。


「チィ!!」


 手に持った石を投擲するアイバー 、直進する猪は近付いてきている訳で当てるには雑作もなかった。

 だが巨大な体躯に相応しいタフネスなのだろう。頭部付近に着弾したにもかかわらず、お構いなしに突っ込んで来る。


「ウォッ!! ヤベ!?」


 次弾を掴む暇もなく体を翻してかわす。かろうじて刀を掴んだものの、ボロ袋に関しては手離してしまった。


「警戒してたのに不意討ち貰っちまったか……要反省だな」


「グルルルル!!」


 横目で確認するとシューも無事のようだ。最初の突進はかわせたようで今は通り過ぎた猪相手に唸り声を上げている。

 当の猪はこちらに向き直っていた。

 闘牛がするような前足で地面を引っ掻くような仕草までしていやがる!!


「ガウ!! グルルル、ガオゥ!!」


 シューが吠えたてて牽制している間に鑑定を行う。


『ビッグボア:大陸全土の森林や山岳に生息する魔物。巨大な体躯と牙を持ち、突進による防衛行動を取る』


 ほぼ予想通りの内容。だが、ビッグとついているとなると少しばかり上等な魔物にも思える。今のLv3のおっさんにはキツいかもしれない。


「1当てしてダメなら……考えよう、シュー!! 退()いてろ!!」


 猪の前方で吠えたてるシューだったが主人の命令に従いゆっくりと後退する。ある程度下がったところで横に飛びすさった。

 好機と思ったのか、アイバーに突っ込んでくる猪。


 刀を横に構えスレ違い様の一閃を狙う。


「フッ!!」


 小さいステップで体をずらし、相手の突進を外しその勢いを利用して斬りつける。体表面に刃を流すようなイメージの斬撃………


「ブモッ!?……ブモモォォ!!」


 目論見は上手くいったもののその手応えには落第点をつける他なかった。

 明らかに浅い、と感じる手応え。体表の剛毛や脂肪、筋肉によって有効打を防がれてしまっている。


 このまま続けても活路が見えないと思ったアイバーは次の手札をきる。


 再度、なんとかの一つ覚えのごとき突進。


「《土壁》《土壁》《土壁》」


「グモォッ!?」


 ガゴンッとぶち当たる衝突音とガラガラと崩れる破砕音。そこへ、


「《土槍》《土槍》!!」


「ブモォォォォォォォーーーーーー………」


 断末魔の雄叫びが止まる。

 《土壁》で足を止めたところに下方からの《土槍》。魔法を検証した際に思いついていたコンビネーションである。


 見れば2本の土槍は腹部と後ろ足付近に命中しており、貫通こそしていないものの深く突きたっている。大量の出血と共に時折痙攣がみられる。


「えっと、たしか…仕留めたら心臓が動いてるうちに血抜きするんだっけか? 首の頸動脈…だったような…」


 猟師のジイ様とうろ覚えのマンガ知識頼りに獲物の処理を行おうとするおっさん。

 せっかくなのでお肉食べたい気分なのである。ゴブリンは勘弁だが、いかにもイノシシっぽいこれなら美味しくいただけそうである。


「キャン♪ キャン♪」


 シューもすっかりその気である。

 痙攣が弱くなってきた猪の首にナイフを差し込む。すでに大量の出血がある為意味がないかもと考えたが、次回の為にもと経験しておく事にした。


「う~ん、やっぱりあんまり血ィ出ないな…まあいいか」


『レベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』


『従魔のレベルが上がりました。ステータスを確認して下さい』

 

 ここでレベルアップの天の声。


「お、レベルアップ!! シューもレベルアップか。

パーティ内には均等に経験値が入るシステムなのかな? シューなんも…あ、でも奇襲前の索敵してくれたな、あれがないと奇襲でやばかったかも、感謝しかねえな♪」


 かいぐりかいぐりとシューの頭を撫でる。

 シューちゃんもシッポフリフリご満悦である。


「これ食べるときは美味そうなところあげるからな♪ んじゃ行こうか」


「キャウン♪」


 ボロ袋を回収して猪の死体を収容、歩みを再開する。


 嬉しさの名残かシッポを左右に振りながらのシューの先導を受け、先の戦闘の問題点やその他の事を内省していくおっさん。


 奇襲を予測出来たにもかかわらず、満足な対応が出来なかった自分。

 投擲、刀術の弱味…両者共にテクニカルな戦闘方法であり基本人型、もしくはせいぜい中型程度の体躯相手しか想定していなかった。Lvの向上や武器の性能いかんでなんとかなるかもしれないが…

 初の実戦での魔法ということで多目に重ね掛けをしてしまった気がする。ケチって危機に(おちい)るよりは良いが、MPが生命線といって過言でない状況での無駄打ち…


「まあ、ほぼ経験なしの事柄をやってるわけだ!! 失敗、反省は当たり前だな。

 前生での仕事もそうだったし、慣れだ慣れ♪」


 実際、会社内でも幾つかの部署を回された…人手不足で社員1人の仕事割り当てが増えていただけである…時にも、新しい仕事に関しては前任の方々に迷惑を掛けながら、時間を掛けることでなんとかしていった。先輩方もそういうモノだと笑っていた。

 …中にはそうでない人もいたが。

 

 歳の近い社員には始めて直ぐに仕事に馴染める人もいたが、そういうのは例外である。


 続けている事である程度はどうにかなっていくものである。もちろんそこから先の結果を出そうとするなら向き不向きや相応の努力が必要になっていく訳ではあるが…そんな経緯からおっさんは悩むのは止めた。

 経験上これ以上考えても悪い方向にしかいかないからである。


「ガゥゥゥ…」


 シューの唸り声を聞き意識を現実側に戻すおっさん。


「さて、今を生きますか」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 その後、ゴブリン2匹の群れを2回相手にした。いずれもシューの早期発見による先制を取れた為、投擲と追い縋っての斬撃で仕留める事が出来ている。

 猪相手にはいささか不安な攻撃手段ではあったがゴブリンには有効らしいので意識して継続していくおっさん。


 長く継続して使っていくことでスキルのレベルアップを期待である。

 また、1回目のゴブリン戦後にシューのレベルが1つ上がった。


「今、一時間半くらいかな?」


 昨日と比べて戦闘の比率が多いような気がしているが、シューとゴブ3匹、復路でゴブ1匹に遭遇したと思い起こすとさほど変わった頻度でもないかと思い直す。


「シュー、そろそろMPが切れそうだぞ~」


「クゥ」


 心配すんなと言いたげに軽く鳴くシュー。ヤレヤレだぜ…


 歩みを進めると心なしか先行きの木々の間隔が広くなっているような気がする。


「ちょっと森の雰囲気変わったか!? 前が(ひら)けてくるって事はそこに広い空間が…」


 街道来ちゃう? 街道来ちゃう?と期待するおっさん。


「ガゥ!!」


 一声鳴くと走り出すシュー。


「待て待て!! 走ると…別に大丈夫か!?」


 未だ使い続けている《土操作》は手先の動きに連動している為、走っても道標は途切れたりはしない。多少線が乱れたりもするが問題は無いだろう。


 シューを追いかけ走るおっさん、やがて……


「おお!! スゲえ………広い湖………」


 街道ではなかった。


「ヘッヘッ♪」


「シューちゃぁ~~~ん!? どういう事かなこれはぁ~!?」


 湖岸で戯れる子狼シューちゃん。

 かたや肩をぶつけられたそのスジの職業の人のように因縁をつけ、迫るおっさん。


「クゥ~ン?」


 なにかへんなことした? と首をかしげて不思議がっているようなシュー。

 あざとい!!


「いや、てっきり街道に案内してくれているのかと思ってたんだけど……

 まあ考えて見れば一言も街道とは言ってない、ていうか人語を発してないよな…なんかそれっぽく感じ取っただけで」


 自身の期待と違うものだとしてもそれに腹を立ててはいけない。

 友人にコンビニへ買い物に行ってもらう時に『肉系の弁当頼むわ』と言って本人の中では牛or豚の焼肉だろうと思っていたのにとり(めし)を買ってこられたとしても事前に詳細を伝えきれていない自分の落ち度なのだ。それが嫌なら自分でやるか、あらかじめ細かく条件を詰めるべきであろう。


 他人に任せた以上その人の判断に文句を言ってはいかん!! 

 自身の満足度の7~8割を満たせば良しとするべきである!!


「それに水場も確かにありがたいし…あ、ひょっとして初日に水場を探して欲しいみたいな事を言ったからそれを継続中だった!?」


 あり得る話ではある。

 シューを仲間に加えた後、手を洗いたいから水場を欲しがった。 念を押すように水と連呼した。それを守っているシュー。


「よけいに怒るわけにはいかんわな…」


 首をかしげたままの姿勢で待機するシュー。

 近付いて撫で回してやるおっさん。


「ありがとな、シュー♪

でも次は人が通る道を探してくれ。道だぞみーち♪

なんなら一足跳びに町とか村でもいいぞ♪ わかるか? まーち、むーら♪」


「クゥ~ン?」


 ちがったの? と言いたげなシューはおもむろに湖の側へ向かって吠え始める。

 

 あらあら機嫌そこねちゃったかしら!? となぜかオネエ口調で思うおっさん。

 そんなに吠えたってしょうがないじゃないか!! と幸せで楽しそうな中華料理屋のムスコ口調で思うおっさんはシューを止めようとする。


「そんなに吠えてどうし………あ!?」


 湖側に向かって吠えるシュー。

 その方向にはかすかにだが木材で建てられた人工物、有り体に言えば人家っぽいものが見える。その他にもおぼろげながら桟橋や船のようなモノ。

 

 渡る湖岸には村があり!!


 優秀なシューちゃんはちゃあーんとダメご主人の顧客満足度を100%満足させるよう動いていたのである。


 俺の従魔がこんなに優秀なのは間違っている、と流行りのラノベタイトルのような感想を胸にorzするおっさん。

 たのしそうと思ったシューが両前脚を肩に乗せてきた。

 


お読みいただきありがとうございましたm(__)m


皆様、良いお年をm(__)m

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