第十二話 グルーミン★UPじゃじゃ狼
前話に引き続き人によっては嫌悪・不愉快に思われる表現があります。御注意くださいm(__)m
プラプラしている。
何が?
子狼が。
「このヤロウ…」
野生動物にみだりに手を出してはいけないという啓示であろうか?
出した手をスルリとかわした子狼は腕の外側に回り込み、革の籠手に牙を立てていた。本気で噛みついている訳では無さそうなのだが、離そうともせずにいたため腕を上げると咬合力でプラプラと腕にぶら下がっている。
さながら警察犬の訓練で腕に噛みつくような…お父さんの腕につかまって遊んでいる幼児のような…
「俺は君のお父さんでも警察犬訓練士でもありません!! 放しなさい!!」
なぜか敬語で一喝するが放さない子狼。
「あ、前脚の先が丸まっててカワイイ♪ あ、あと君、女の子だったのね」
ぶら下がっていたので腹側が見えて気付いたのだが、それを言った瞬間口を放して降り立つ子狼。おまけに…
「フゥゥゥー!!」
四肢をふんばって毛を逆立てる威嚇のポーズまでしてきやがった!!
「なんで俺がセクハラしたみたいになってんの!? 狼じゃんよ!!
あ、あれか!? 月のお城のお姫様的なあれですか!? 真実を映す鏡的なあれですか!? 毒の沼地はどこだー!?」
錯乱するおっさん。
「くっ、近付くまで反応しなかったのは油断させるためだったのかい? お嬢さん!?」
「ガウゥゥゥゥ!!」
その気になって流し目をするおっさん。
獣相手になにしてんだ、という話である。
先のおっさんの台詞部分は謎だが、常識的に考えれば元々警戒していた子狼が噛みついて放し警戒し続けているのがおっさんの言動と重なっただけだと思えるが真実はいつも闇の中だ。
「しかし今の俺に戻してあげられる手段はない。
しばらくして人になれるようになったら恩返しにおいで」
「グゥ?」
途中からはおっさんの一人遊びである。狼とわかって言っている…はずである。
ファンタジー世界だから獣人のビースト形態かも、とか、だとしても子狼だからロリっ娘で手ぇ出せないじゃん、とか、何とかして鑑定誤魔化してるとかだったらいいなぁ~、とか断じて思ってない、ないったらないんですぅ~♪
「んじゃ、助かったと思ってもう行きな。群れからはぐれたんだかなんだか知らんけど、後はどうにでも生きなさいね」
アイバーとしてもいつまでも子狼に構っている時間はない。やることがあるからだ。
一応子狼に警戒しつつゴブリンの死体の側にしゃがみこむ。
一時の感情からとはいえ、せっかく助けた命を無為に刈り取る事も出来ない。だが襲ってくるようなら容赦なく切り捨てるつもりだった。
ゴブリンとの戦闘を見た上でおそらく可能だとも思っていた。
とある武神が本気の猫と人間が闘うなら日本刀をもってようやく互角みたいな事言ってたけどそれはあえてスルーの方向で。
また、逃げた子狼が群れを引き連れてきたらどうしようとかもスルーの方向で。
あれ? なんか急に不安になってきた…
「…まあ、よかったらゆっくりしていきなさいね!? あ、ゴブリンの肉食べる!?
用事が終わったら残りは食べてもいいよ!?」
懐柔にかかるおっさん。
子狼も肉に反応したのかピクンと耳を動かして2歩程ソロリと近づいてきた。
案外好感触、言葉通じてんじゃねーの!?
「ん、んん!!
気を取り直して、やるべき事をやっちゃいましょうかね。
あらためて向き直るとくっさいな、ゴブリン」
なるべく息をしないようにしながらボロ袋からナイフを取り出しゴブリンの両耳を切り取る。耳の先をつまみながら切ると1耳に1~2箇所筋ばっていた。これを2×3匹分。
まだ固まりきっていない血がドロリと垂れ出すが心臓が止まっているためかそれ以降は緩やかなモノである。
血の臭いにひかれたのか子狼がさらに一歩分近づいてきた。
「まだよ~まだまだ」
おあずけをさせるおっさん。掌を子狼に向けるとその場でおすわりした。
学習能力というか心読んでんじゃねと言いたくなる。なんで『待て』の姿勢知ってるの!? である。
「助かるけどさぁ、耳の次は…と。
せーのぉ、フン!! ハ!! グゥ!? うっ…さすがにこっちはグロいな、血臭もスゴい」
肋骨を断ち切るのに苦労した。
息を止めて胸部につくった切り込みから両手を突っ込み押し広げる…ブチブチと繊維質の何かが千切れていく感触。
その他色々じっくりとは見たくないものをかき分けあるいはナイフで切り裂いたりしながら目的のモノを探していくおっさん。
端からみればサイコにも見えるが以前に触れたニワトリの締め時に多少の耐性を獲得している。さすがに人に似た生物の解体経験はないので少しキツくはあるのだがソコは割りきってしまう他ない。
要は慣れだ。
「なんか外科手術…いや、検死解剖か? やってるみたいだな…
医者なんて高給取り、憧れてもいたけどやっぱ大変な部分もあるんだろうなぁ。
サラリーマンからの医学部合格みたいな本だか話あったけど色々キツそう、世代の差とか学費とか…」
おっさんも夢みないでもなかったが、結局はやらなかった。
前述の理由や心理的に越えなければいけないハードルが高過ぎる。
「お、これか? 取りあえず位置と回りの様子を確認して…ウエッ…グロい、臭い…」
親指大程の黒い光沢をもったガラス?のような鉱物がこの猟奇的なアイバーの目的である。
ファンタジーの定番、魔石である。マセキである。
決して大手○能事務所ではない。
「またオヤジギャグの虫が騒ぎだしたか…」
哀愁を感じるセンシティブな心のお年頃である。
「倒したらアイテム化は甘い夢だったかぁ…こればっかりは、現実は非情であるだな…まさかとは思うが、ギルドの受付嬢に魔物特有の胆石ですとか言われたら非情であるの極み乙女だぞ」
「クゥーン」
「ああ、ハイハイ子狼様。
こちらの個体はもういいですよ~、にしても完全に犬ですね…」
討伐証明の証し、であろう耳と魔石、であろうモノを取り出したゴブリンの死体を進呈する。
「ハウ!! ハッ、ガッ、ッガ♪」
おーおー、そんなところにかじりついちゃって♪
あら!? そんなモノまでひきずり出しちゃうの!? 食欲旺盛だね~♪
弱肉強食の真理を見せつけられながら他2体も解体する。ある程度目星がついたので早かった。
やはり慣れだ!!
「取り出し完了と、死体はどうするかなぁ…《落穴》で埋めるか?
持ち歩くのもなんだし残しとくと魔物が寄ってきそうだしな」
一応森からの脱出路の進路上にある場所なので魔物が寄ってきても困る。
ここら一帯に血の臭いがプンプンしているので今さらではあるが。
クイクイ
「ん? おやなんだい狼様?」
完全に慣れたのかズボンの裾を噛んで引っ張ってくる狼様。
おっさんの周りを尻尾降りながら回っては時折ゴブリンの方を向く。露骨におねだりされてるな…
『いらないならちょうだい♪』
って言いたいのがよくわかる。
気にして無かったけど狼様けっこう痩せてるね…飢えてるのかな!?
さっき渡したゴブリンを見ると…うん、まだ結構残ってる部分もあるじゃない!?と思うのだが食べやすい部分とか好きな部分とかあるみたいな事を聞いたことがあるからそう言う事なんですかね?
「じゃあこのまま放置でいいかな。
狼様とその仲間達が片付けてくれるでしょ♪」
どうぞ、と手で指し示すと積まれたゴブリンに駆け寄っていく狼様。
「じゃあ今度こそバイバイ♪」
仲間呼ばれたりしなくて良かった、とか思いながら戻ろうとするおっさん。《小治癒》でMPを使いきったため本日の探索は諦めて元来た道標をたどって大岩に戻ろうとする。
自動回復のお陰で少しは回復しており、魔力草を使えば無理は出来るが、それをやるとキリがない。退き時を見失ってしまいそうだったので初期値から0になった時点で戻るよう決めていた。
ここまで進んだ目印は窪地があるから今回は無しでいい。
「クゥ~ン?」
おっさんが離れようしたとき狼様から鳴き声が聞こえる。てっきりゴブリンに食いついているかと思ったのだが、振り向くとおすわりして見つめてきていた。
『いっちゃうの?』
幻聴が聞こえるかのようだ。なんか責められてるみたいなんですけど!?
すると…
『キッズウルフが仲間になりたそうに見つめてくる。仲間にしますか?』
…は?
今度は幻聴じゃないぞ!? 天の声じゃん!! しかも超有名国民的RPGのパクリじゃね!? 大丈夫か!!
え、今決めないといけない?
ん~直接的な戦力にはまだ早そうだけど斥候とかなら出来そうかな、猟師の猟犬的な。
システム的に仲間になるなら寝首をかかれる事もないだろう。幻聴が聞こえるくらい慣れてくれてるから心配いらなそうだけど。
助けてなつかれる展開にも憧れあったしな~
「んー、じゃあ『はい』で」
『両者の承認を得ました。キッズウルフをパーティーに組み込みます。パーティー内でのステータス閲覧が可能になりました』
…を!? なんかキたぞ♪
なるほどパーティーを組むとステータスの閲覧が出来るのか♪ ステータスを教え会うにはそれなりの信頼関係が必要ってことだな!! 悪用もされそうだからな気を付けよう。
「ガウッ、ガウッ」
あれ? またなんかズボン引っ張られてる、え!?一緒に行くからゴブリン持ってくの手伝えって!?
言葉は通じて無いけどなんかわかる気がする…ハア…
「なんか遠慮がなくなったね!?
ボロ袋には入れたくなかったんだけど…仕方なかねぇ」
ゴブリンの死体をボロ袋にいれる。
「あれ? これって状態保存ってついてたっけ!?重量軽減はついてたけど…ヤベ、聞いてないってことはついてないってことか?
戻ったら被害の少なそうな植物で腐ったりするか調べないと!!」
ゴブリンの死体が消えるのを見て、
『どこにやったの!? おにくどこにやったの!?』
と訴えてきているがジッと目を見るとなんか納得したようだった。
おっさんが歩き出すと足元を軽く掠めるようにまとわりついてくる狼様…嬉しいのは分かったけど危ないからしつけないとな。
「狼様じゃ呼びたくないから名前をつけるか………………………………………………………シューだな」
「ガウ」
特に異論はないようである。
おっさんの長い葛藤の間に何があったのか!?
こうである。
『なんかキャバクラの娘達がマカロンとかショコラとかデザート系の名前つけてたな…シュークリームのシューでいいや、体毛茶色だし』
安直な上にキャストの娘達はスウィーツと言っていた。細かいことを気にする男はモテないが細かいことを覚えられない男もモテないモノである。
「にしても…」
「ガウ?」
「こういうのって狼が仲間になるのは定番だけど、真っ白でちょっと特別なホワイトウルフとか逆にブラックウルフとか、銀狼のフェンリルの子供とかがなったりするじゃん!?
茶色でまだらに黒っぽい毛並みって…地味だよなぁ…」
自分のスキル構成を棚に上げてのたまうおっさん。
「ガウッ!!」
ガブ
とりあえずバカにされた気がしたのでシューは噛んだ。
お読みいただきありがとうございますm(__)m




