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第十一話 ギギギ、これはただの栄養剤じゃ

初戦闘です。


※人によっては嫌悪・不愉快な表現があるかもしれません。御注意くださいm(__)m

 出来るだけ慌てないようにして、だが素早く近くの木の影に体を寄せる。


「ギギッ!!」

「ギゲギャッ!!」

「ギーグア!!」


 少し離れた窪地にはゴブリンとしか言い様のない人型の生き物がいた。

 緑色の肌に剥げた頭髪、横に広がった耳に乱入杭歯、粗末な腰布に粗雑な棍棒…まごうことなき真性のゴブリンだ。


「よし、気付かれてはいない…」


 3人…いや3匹だな、どこぞの人権団体に非難されようともアレを人のカテゴリにいれたくない。生理的嫌悪ってヤツだろうか、Gを見つけた時のような叩き潰さないと感を感じる。頭文字だとゴブリンもGだしな。


 因みに田舎の人間にはGを見つけたところで『キャー!!』等と叫ぶ人間はいない!!(地域差があります) 冷静に、目を離さずに得物を取りに行き、仕留める!!(人によります)

 おっさんのオススメは雑巾や濡れタオルである。新聞紙やハエ叩き等に比べ柔軟性と相対面積に優れ、湿っていればそれなりの重量になる。操作性においても必ずしも振りかぶる必要はなくスナップを効かせればGに悟られることなく攻撃することが出来るのである。問題はその後使用する気がおきるかどうかだが。

 今年の夏は不眠を利用して1~2時間おきに台所へ行って灯りをつけると、シンク周りにウロウロしていたものだ…田舎の夏はGとの戦争、サマーのウォーズである!!

 大物を中心にぶっ潰して庭に捨ててやったら翌朝には蟻に集られて日光にあぶられてカラカラになっていた。害虫死すべし!!


「熱くなるな、オレ…」


 台詞はなかなか良いが対象がGではいささか情けない…


 そんなおっさんの憎悪を受けるゴブリン達が何をしているかと言うと…3匹で小柄な狼を襲っていた。


「グルルルル…ガァ!!」


「ゲギャ」「ゲギ♪」「…ギギャギャ♪」


 子狼が唸って威嚇するがどうも効いてはおらず、ゴブリンは侮っているような感じだ。

 特典の異世界言語補正はゴブリン語等の魔物言語には対応していないようだが雰囲気からこんな感じだろうか?


『ちかよるな…ただじゃおかないぞ!!』


『へえ』『びびってんぜ♪』『…どうしよっかな♪』


 イメージは小学生にからむ中高生DQN。


「まあ、魔物同士の戦いなら俺に危険はないか……いい機会だ、《鑑定》しておこう」


 まず狼に焦点を合わせる。すぐにもやられちゃいそうだしな。


『キッズウルフ:大陸全土の草原や森林に生息する魔物の子供。群れ単位で狩りを行う習性がある』


 ん~ステータスは観れないのか。その種族全体の説明って感じだ。

 《鑑定》にレベルはないからINTやDEXとかのパラメータ依存で観れるか《ステータス閲覧》とかのスキルがあるのか? 《鑑定》取って満足しちゃったから他の情報系のスキル見なかったんだよなぁ…こうやって現場で使っていくと問題点とかがよく分かる。《スキル鑑定》とか個別専用系があったのかもなぁ。

 

 まあ、考え込むのは後回しにしてゴブリンの方だ。


『ゴブリン:大陸全土に生息する魔物。能力は低いが環境適応力が高く、多種間での生殖が可能』


 こっちも同じだな。念のため3匹とも鑑定してみたが普通のゴブリンだった。ゴブリンソルジャーとかが混じってないか不安だったのだ。

 内容も想像通りのようだ。


「…男はエサ、女は苗床みたいな展開か…女勇者や女騎士が何てのも…くっ、静まれ俺のムスコよ…」


 エロ展開万歳!!


「っとっと、下手したら俺もエサになるわけだ…浮かれてる場合じゃないな」


 すぐに顔を出すゲーム感覚をたしなめ、これからどうするかを決める。


「…この世界で生きていく為には強さも必要だ。特に今の状態ではなおさら。

幸いレベルアップなんて分かりやすい成長指針があるわけだし、あいつらにはその試金石になってもらおう、成仏しろよ…」


 そう言っている間にもゴブリン達は子狼を包囲しチクチクと棍棒で打撃を加えている。子狼も反撃するが、一匹に飛びかかっても力が足りなくて攻めあぐねているうちに他からも攻め立てられてしまうな。

 子狼が生き延びるには逃げる方が手っ取り早いけど、出来ないって事はすでに脚でも痛めているのかもしれない。


 観戦しつつ気付かれないように窪地のフチ部分を移動 。魔物たちを見下ろせ襲撃が出来るような場所を探っていく。

 

「鑑定では能力低いってあったけど3匹だからな…数は驚異だし遠距離で仕留められる様にしよう」


 30mほどの距離をとり斜面の上に陣取る。道中集めてきた石を賽の河原のように積み上げ投擲に備え、刀もあらかじめ鞘から抜いて近くの地面に刺しておく 。正直に言えば刀で無双もしてみたかったが、初めての戦闘にそれは蛮勇過ぐると思い諦めた。

 ゴブリン達が子狼を仕留めた時が勝負。戦闘狂の道化師を相手にした少年主人公もそう言ってた!!


「キャウン!!」


 その時が早速来た!!

今までと違い、はじき飛ばされた子狼はそのまま横腹を見せて地面から立ち上がらない。

 生きているのか死んでいるのかわからないが死に体だ。生きているなら経験値的なモノが入るかもとコスい考えのもと、止めを刺そうとするゴブリンに向け、


投石!!


 ゴシャ!!っと音が聞こえてきそうな勢いで一番近くのゴブリンの頭部に命中、1匹が倒れる。

 喜ぶ間もなく投石!! 投石!! 投石!! 投石!!……


「グギィッ!!」「ゲギャー!?」「………」


 突然の事に驚いたのか立ち竦むゴブリン達。しかし、襲われていることに気づくと石が飛んでくる方向に向き直り俺を見つけた。

 その間にも投石を続け最初のラッキーヘッドショットとはいかないまでも手先や足の付け根等に当たるのが見えた。


「ギィーー!!」「ギリー!!」「………ヒャ…」


 一声づつ上げるゴブリン達、ヘッドショットゴブリンにも息があるのか僅かに息が聞こえた。

 こちらに向かって来るか? と思ったが奴等はきびすを返して逃げようとする。


「逃がすか!!」


 投石を止め刀を掴むとダッシュで追い縋る。逃がして後から仲間と一緒に帰還なんてフラグを立てっぱなしにするなんて冗談じゃない!!

 投石が当たった影響か元々か、足は速くない。すぐさま追い付いて勢いのまま背中に一刀!! また一匹倒れるが斬りつけた動作で足が止まる。もう一匹のゴブリンが離れて行くが走って近付いた為、この距離なら、


投げナイフ!!


 ゴブリンの後頭部にナイフが生える。本日2度目のヘッドショットだ。


 緊張か、全力で走ったせいか、荒れた息のまま左右を見渡す。

 生涯初めての戦闘と明確な殺傷行為。

 

「殺らなきゃ殺られる…今はそれでいい、それでいいんだ…」


 大きく息をついて、1度、2度。


「フーーーー、よ…」


『レベルが上がりました。ステータスを確認してください。』

『レベルが上がりました。ステータスを確認してください。』


「うおお!! なんだよ!!ってレベルアップかよ!?

ここは初めての殺生に殺す覚悟的なモノに折り合いつけつつ実は心に1刺しのトゲがとか心が軋む的な表現で後々の伏線を出すもんだろ!?

 なに事務的に対応してくれちゃってんの!!」


 …大丈夫そうなおっさんであった。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「とりあえず、狼と最初のゴブリンのところ行くか」


 仕留めた2匹を引きずって元の場所に戻るおっさん。

 ちなみに殺す覚悟は子供の頃にはニワトリを自分で締めたり、害獣の狸や大きいものだと猪も近所の農家兼猟師のジイ様が罠にはめてから締めたりするのを見ている元田舎在住である。

 さすがに子供に解体等はさせなかったし、近年では保健所とかに連絡して引き取ってもらっていた。


 というわけで『かわいそうではあるが仕方ないよね』という割りきりはある程度出来ているおっさんである。

 先程のアレは自分に酔ったゴッコ遊びに近いモノであった。厨二が抜けないアダルトチルドレン。


「さて、最初のヘッドショットゴブリンは………死んでるな、途中で息があったみたいだけどくたばったか。

 さっきは3匹分の経験値が入ったってことか」


 この世界でも頭部、脳は弱点として有効なのだろう。


「狼の方は………まだ息があるか」


 様子を見ながら近付くが、遅いかかかって来る様子もない。すでに立てないのか横になったままだ。


「…ヘッ………ヘッ…………ヘッ…」


 舌を出して呼吸をしているが、おっさんが知っている犬の呼吸に比べてかなり遅い。内蔵系の損傷かもしれないが詳しくはわからない。


「すまんね、運が無かったと諦めてくれ…」


 かわいそうとは思いつつも、刀を逆手にもって首にあてがう。あとは力を込めれば完了なのだが…


「…ヘッ……ヘッ…キュゥ~ン…」


「くっ!? それ卑怯だろ…その鳴きかた卑怯だよ」


「…キュゥ~ン……ヘッ……」


 魔物とはいえ見た目的には、幼犬からちょっと大きくなったぐらいの中型犬ぐらいのサイズである。つぶらな瞳で何かを訴えかけている無垢な仔犬。


「……なんか昔家で飼ってたチビを思い出すな…」


 おっさんの家で飼っていた犬の名前である。都会の犬のように愛玩用な目的ではなく、田舎での犬といえば誰かが来たら吠えて教える番犬目的で飼っていた黒毛の柴犬っぽい犬。躾とか全然しなかったからムダ吠えとかスゴいバカ犬だったなあ。

 狼のシュッとしたフォルムとは似ても似つかないが、老犬になって衰弱し子供ながらに心配して夜の犬小屋を見に行った事を思い出す。数日苦しんでからある朝には亡くなっていた時の苦しそうな様子…


「……………………………………………《小治癒》、《小治癒》、《小治癒》《小…」


 途中からはヤケクソ気味に《小治癒》を唱え続けるおっさん。やがて…


「あーもう、MP全部使いきっちゃった!!

なにしてんのなにしてんの俺!!」


 先程までの遅い呼吸は回復し、多少は安定したような子狼だがまだ立ち上がろうとはしない。

 もう毒を喰らわば皿までの精神で手持ちの薬草を取り出すおっさん。

 傷が見えるところには貼りつけ、残りは丸めて口の中に放り込もうとする。微かに抵抗をみせたが革籠手部分で口の奥を抑え噛みつかれないよう固定した。


「ホレ、飲み込め!! アイバー印の兵糧丸だ!!」


 途中、犬にとってのタマネギ成分が入ってたらどうしようとも思ったが抵抗に力が入ってきているので問題なしとする。

 丸薬状にした薬草を三つ押し込み四つ目にいこうとしたところで身をよじって逃げ出す子狼。


「キャウン、キャウン!!」


 距離を取り口元を前足でこするような仕草をし、犬特有のなんか歯にはさまった的な口の動き。

 やがてそれも治まるとジッとアイバーを見つめてくる。

 助けてしまった道義的責任もあり、とりあえずコミュニケーションを取ろうとジリジリ近付くおっさん。頭に手が届く範囲まで近付いても反応を見せずに大人しくしている子狼。


「ホウホウ、なかなか見る目のあるワンコじゃん♪ あれか、助けたらなつかれるお約束的なあれですか♪ いやまあ、ちょっと期待して無かったと言えばウソになりますけどね♪

 俺、犬より猫派なんだけどなぁ~♪」


 デレデレしながら手を伸ばし、


「ガウ!!」


 ガブッと手を噛まれた。

 


お読みいただきありがとうございますm(__)m

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