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第十話 頑張ってもそれが普通と言う上司

タイトル頭文字、か行からガ行になってます。

「…そろそろ夜明けか?」


 何度目か分からない目覚めだ。土壁からわずかに覗く外気の様子を確認する。

 最初こそ闇魔法のお陰で安眠出来たものの、慣れない環境への不安と拭いきれない外敵への恐怖は否応なしに神経を刺激する。


「寝足りない感じはしないんだけどなあ…」


 横に寝返りは打てるぐらいのスペースはあるが半回転するだけの幅には足りない中、アイバーことおっさんは不眠時のクセで小刻みに体を震わせる。

 そも夜更けとほぼ同時、しかも森の中で平地等に比べればはるかに早い夜の帳の中寝床に入った訳である。以前の生活習慣と比べれば推奨睡眠時間以上はバッチリとれているが、寝るのが早すぎて深夜に目が覚めてしまっているのである。


「なんか、出張前日にいつもより早く目が覚めて朝まで待っている感じだ…出発時の1時間前までは寝てたいなあと思うけど、寝れなくて10~20分の浅い眠りを繰り返すような。

 結局寝れなくてしばらくすると諦めてスマホで適当に興味のある記事探したりしてたなぁ。気になったアニメの感想欄とか、大作ゲームのレビューとか…」


 ダメ人間あるあるの典型である。


「なぜか『クソ』とか『アンチ』とかの悪い方の記事とかレビューの方が気になってたな、なんなんだろネットの闇の吸引力って…」


 急速に進んだネット社会の深刻な問題であった。


 以前のおっさんならここで自分の現状や将来への不安に悩まされていたのだが《孤独耐性Lv6》のお陰かあまりそういうことは感じていない。代わりに身の安全への危険は感じているのだが。


『スキル適正【闇魔法:E】を取得しました。』


「え!?」


 心に直接語りかけるかのような感覚。

いきなりの事におっさんの認識が追いつかんし!!


「えっ!? なに今の!! あ、この世界天の声システム実装なのか!?」


 先程までの鬱々とした気分は何処へやら、一気に鼻息荒らして興奮する。


「ステータスオーポン!!


【 名 前 】アイバー

【 年 齢 】15

【 性 別 】男性

【 職 業 】市民 ※異世界転生者 ホームレス見習い

【 L V 】1

【 H P 】130/130

【 M P 】105/105

【 STR 】120

【 VIT 】90

【 INT 】277

【 MIN 】58

【 DEX 】112

【 AGI 】184

【 スキル 】《経験値獲得2倍》《鑑定》《体術Lv2》《刀術Lv2》《投擲Lv2》《回復魔法Lv1》《土魔法Lv3》《闇魔法Lv1》《MP自動回復Lv2》《統率Lv1》 《孤独耐性Lv6》《冷徹》《算術Lv5》《努力の才》

 

あれ?これだけ!? 【称号】と【スキル適正】は?」


 ステータスオープンを噛んだ事にも気付いていないおっさん。

 転生してからMPの減り具合を確認したりちょこちょことステータス閲覧をしていたが、MPのみに集中していたため全容の確認はしていなかったのである。

 【称号】【スキル適正】は※印で転生部屋以外では閲覧不可の注意換起がされていたのだが、思い出すまでに少しの時間を要していた。


「…思いおこせよ梅の花、じゃなくて、あーそう言えばそんなのがあった気がする…他人には閲覧不可だったような気もするけど思い違いかぁ」


 引用した歌は『匂いおこせよ』であるが、おっさんは長年間違えて覚えており社会人時代に取引先の担当者から指摘されてからもあえて誤用で使っている。

モチロンその場はへりくだって『えっ!? そうだったんですか!? 私、ずっと間違えて使っておりました!! これから先も恥をかくところを~~様に救っていただき誠にありがとうございます♪ 以前お伺いしましたが、~~大の教養学部出身だとか、流石ですね♪』と、更には古典だ仮名だ平仮名の歴史だ等の会話を引き出し新規の契約をゲットしたものである。

 営業目的じゃなくて更新内容の説明と細かい詰めだけのはずだったのに、おだてに弱くて助かった。

 あの時が勤め人としての最大コミュ力だったな、その後は鳴かず飛ばずだったヤ、ムチャしやがって!!


「盛大に脱線したなあ。まあ【スキル適正】も新たに取得できることがわかったし、なんかちょっと変わってるところや数字があるなぁ…」


 まず【職業】に『ホームレス見習い』が追加されている。

 転生部屋から旅立つ前にも※印に『異世界転生者』が追加されてたけど不自然じゃないので気にしてなかった。神様が仕込んでたのはこれか…

 ※印がついてるけどこれ鑑定とか身分照会の時に見えるのかな? 見えるとしたら厄介なことが起こりそうな匂いがプンプンするぜぇ~~


「最初の身分照会時には気を付けよ…だがそれよりも…MINが増えてる♪

3増えて58になってる♪」


 小躍りして喜び肘や膝、足先が木の洞内部にぶつかるがおかまいなしである。

 それほどおっさんの心に深いダメージを与えていたMIN55。己の敵は自分の弱い心を字でいくおっさんであった。


「しかしまあ、ネットの闇とか考えてて精神力とか闇魔法関連が上がるって、現代日本どんだけだよ…」


 日本の企業戦士達の闇が深刻な件。いつか明ける日が来るのであろうか?

 そんなこんなしていたら夜が明けた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




「あー、良くは寝…たな。睡眠時間はとれてるだろ」


 正面の土壁だけ《落穴》で相殺する。拠点をでる前には武器を身構えて様子を伺うがなにもいなかった。

 布団替わりの布製品をボロ袋に収納し、その下のシダ植物っぽいのはそこらに廃棄する。布団は万年床でも気にしていなかったがこれは放っておくと虫が涌きそうでイヤだったおっさんである。

 因みにシダっぽいのを鑑定してみると『ナツシダ』だった。説明を読むと元の世界のシダと変わらないような内容だったのでシダと呼ぶことにした。


「ん~、罠はどうかな…」


 昨晩寝る前に作っておいた落とし穴式の罠を確認するがなにもいなかった。

 複数回の《落穴》で広げた穴の底に《土魔法Lv3》の《土槍(アースニードル)》を3本程立てておいたのである。


「昨日は時間なかったから穴丸見えだしな…今度は上に木の枝とか葉っぱでカモフラージュしておこう…スキル《隠蔽》とか取れるかも♪」


 欲望丸出しのゲスい笑顔で改善点と希望を口にする少年然とした中身おっさん、周りに人の目がないと身嗜みや表情を気にしなくなってしまう為気を付けよう…


「MPは満タンね…昨晩寝る前にMP使いきって0にしたけど気絶とかはしなかったからそこは心配しなくていいな。MP自動回復は時計がないから体感だけど10~15分で2MP回復してた。けど最初の安眠後は…体感で四時間ぐらいだけど全回復してた。しっかりと睡眠を取ればMP回復のスキルがなくても回復するのか?要検証だな」


 真面目なおっさんもいるのである。

 人は誰しも二面性を持っている、いや!! 人は全てを内包しておりそれが見えるか見えないかだけなのである!!


「技術系や魔法系は使い方が分かる親切設計だけどスキルには鑑定が効かないんだよな…仕様か?

 ある程度字面で判断して、この世界の人からの情報で内容を補強していくか、スキルをまとめたりした本とか経験則的なモノがあんだろ」


 検証と再確認を終え朝食のビリーを摘まみながら大岩に向かい、昨日と同じように登る。

 昨日の再現かと思われたが、てっぺんまで登るとズボンの前部分を引き下ろし自分の大事な部分を取り出す……


「アイバー流秘技!! 小便スプラーッシュ!!」


 ……放尿を始める15歳、中身はおっさん。

 婦女子には理解不能かもしれないが、高所からの立ちションは爽快である。ストレスや老廃物を膀胱に貯めて一気に体外へ放出する感覚…爽快である。

 大上段に、大きく振りかぶって、言える事である!!


 名前をつけて叫ぶのはどうかと思う。


「キレがいい。

さてと、どの方向に行くかな?」


 一応スプラッシュのためだけに登った訳ではないようだった。体の調子も確認出来たようだ。


 軽く全方位を眺めた後、何処を選んでもわからんもんはわからんと思い、ならばと大岩と拠点の木の洞を結んだ直線上を探索することに決めたおっさん。

 理由は無く、強いて言えば拠点があったからである。そこに山があるからならぬ、そこに拠点があったからである…ちょっと違うか?


「よっし!! 気合い入れて行くか!!

フォレストブレイク作戦開始!!」


 これから行く道は未知の危険を伴う場所、ともすれば萎えそうになる心を鼓舞する為大声を出す!!


 右手で土魔法を使い土操作でおっさんが歩いた後にモコモコとモグラ道が出来ていく。やぶは足元が見えない為避けつつ、迂回後は先と同じ方向と思われる方へ歩いて行く。

 太陽光の角度を計算しつつも正確な方向を知る術はない為、ほぼ勘である。


 《土操作》の消費MPは1、継続時間は1回で約1分弱。総MPと自動回復を含め約二時間程が進める時間。

 食料や水場については帰路をメインにし出来るだけ進むつもりでいた。

 歩きながら警戒し、時おり後方も確認しつつ投擲用の石を拾って行くおっさん。歩みは遅い。


 そして…


 体感で一時間程歩いたところで、





「……ゴブリンA・B・Cと狼があらわれた……」





 恐れていた存在が現れた。


  














おっさんの思い違いではなく作者の思い違いですm(__)m

書いてる途中で第五話のステータス設定を変更・更新しましたm(__)m


申し訳ありませんm(__)m



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