第九話 これが若さだったか
地獄のクリスマスが終わりましたm(__)m
以前ほどキャッキャウフフな雰囲気は無いみたいですね♪
日本風クリスマスなんて滅べばいいのに♪
「…大自然には勝てなかったよ…」
計画完璧だろ!!宣言をしたアイバーこと、おっさんはうなだれていた。
先程までの自信満々ぶりから見事なまでの掌返し、手首がネジ切れんばかりである。
「夜営のやり方とか知るわけないし…」
脱出計画を練って満足していたおっさんに待っていたのは夜の営み問題である。
魔法の検証でかなりのMPを消費した為、本日の探索はあきらめ大岩の拠点化と食料調達に取りかかろうと決める。
大岩を拠点とすると決め、さあやるかと意気込んだがそこで初めて何をどうすればいいのだろうと思い至ったわけである。
「やべえ…テントもない、寝袋もない…どうする?」
計画を練っていた際に気付けといいたいところであるが森からの脱出にばかり気をとられその他の細かい部分に目を向けられなかったおっさん。
《冷徹》さん仕事しろ、などと思ってはいけない。
なんの機材も無し森の中で夜を明かすのはかなり難易度が高い。
ましてや、キャンプに行くとしたらあらかじめテントや食料等を準備していったり、キャンプ場等の設備の整ったところで行う的な感覚が染み付いている元日本人である。
見知らぬ森の奥地に刃物1つ程度の装備で完全自給自足を行うなど自衛官かよほどキャンプ慣れしているサバイバーぐらいでは無かろうか。
「気温…は今の時点で冷えてるほどじゃないから凍死まではいかないと思う。
虫とか蛇とか獣に襲われたら…しかも異世界だから魔物や盗賊の類いも…」
青褪めるおっさん。
何か使える知識はないかと記憶を探る。
見知らぬ森…迫る夜…夜明けまで待つ…!!
「木の洞で夜を明かすのはどうだろう!?」
いかにも名案を思い付いたと根性をすえて大岩周辺の木の根本を探し始めるおっさん。幸運な事に人一人が横になれ、大岩を正面に見ることができる洞が見つかり中を覗いて見る。
「リスぐらいならいいけど、蛇とか…臭っ!! なんか臭う…」
生木の中に存在する空間には成長時に剥がれ落ちた樹皮や吹きこんだ枯れ葉が、長年の風雨によってカビたり腐敗して堆積しているようである。
「なんかムダにリアル…現実なんだけど…
剣と魔法のファンタジーなんだから非実在性設定がまかり通っててもいんじゃないかなぁと思う俺です、神様」
出鼻をくじかれた気分になりながら恐る恐る中の様子を確かめ、安全を確認すると臭いの元は出来るだけかき出しておく。
その後、アイデアの元になったマンガではシダ植物っぽいのを敷いていたなあと思い周辺から採取し敷き詰める。葉っぱの裏に虫のタマゴとかがないか確認を忘れない細かいおっさんであった。
「それっぽく出来た。どれ、寝心地は…カプセルホテルとかちっちゃい船の船員スペースみたいだな。
下の葉っぱもビミョーにチクチクして気になる…」
装備一式の中に布製品…マントやローブや予備の平服が幾つかあったため、幾つかボロ袋から出して敷布がわりにする。
外に出てもう一枚布製品を取りだしパタパタと扇いで申し訳程度の換気を行っておく。
「入り口付近に《土壁》立てとけば外敵の侵入防止できるかな…即興で思い付いたわりにはイケてるんじゃね?」
仮住まいの出来に満足する。これでいつホームレスに転落しても安心である。
「後は出来るだけ食べられるモノを確保しないとかぁ…」
《鑑定》を発動させ周囲の植物を確認していく。《鑑定》スキルは常時発動可能ながらも意識しなければ情報を読み取る事はないようである。目にするもの全ての情報を常時表示して情報過多で酔ってしまうかも、などと考えていた基本ネガティブなおっさんだった。
目につく植物やキノコ、木の実を鑑定していく。
『薬草:苦味のある植物。摂取または患部に直接付着させると少量のHPを回復させる。』
『スズラン:白い花をつける植物。毒性がある』
『魔力草:葉に魔力を帯びた植物。摂取すると少量のMPを回復させる。』
『ウマ茸:強い芳香成分のある菌類。特定の針葉樹の根本で生育する傾向がある』
『イク茸:根本のコブ状突起に胞子を溜め込む特徴のある菌類。胞子には弱い毒があり外部からの刺激に反応し傘部分から飛散させる』
『魔力茸:淡く発光する白い菌類。魔力を帯びており毒性があるが摂取するとMPを回復させる。』
『ドン茸:傘部分が光沢のある茶色なことが特徴の菌類。大量に摂取すると男性機能の減衰を引き起こす』
『ビリー:酸味のある果実。様々な亜種が存在する』
『リンゴ:赤く酸味のある果実。寒冷地での栽培に適正がある』
『メンゴ:青く苦味のある果実。種子部分に強い毒性とSTR増強の成分がある』
ファンタジー定番の魔力シリーズと元の世界で存在したのと同じモノ、それと…なんというか、そこはかとなく神様がおふざけで作った感のあるラインナップである。
「ではあるんだけど…無視できない1文もあるんだよなあ~。とりあえずイク茸以外は全部ボロ袋に入れとこ。
毒性について触れててくれるから食べるのは確実に害のないモノだけにしておくか」
目につくものは片っ端からボロ袋に入れていく。食料確保の意味もあるが、無事に町などに到着できれば冒険者ギルドの常時依頼テンプレが出来るんじゃないかと期待しての事である。
「薬草の採取とかゴブリン討伐して耳そぐとかテンプレの可能性大だ♪
今後も目についたら採取しとこう♪」
思っていたよりも簡単に食料の採取に成功したこととテンプレへの希望が見えてきた事で気分がアガってきている様子である。地道でコツコツとした行為も先に楽しみが見えると楽しく感じる。
勤め人時代にも、新人の頃は仕事を覚えることで給与を貰えることが嬉しかった覚えがある。だが慣れと惰性、時代背景からの昇給の減り幅や社会保険料の増額によっていつしかその事を忘れてしまっていた。雇用側にも言い分はあるのだろうが、やはり雇われの身としては不満が溜まってしまっていたのだろうなぁ…
幸い魔物や獣に襲われることなく採取は進んだ。実は結構気にしていたのだが…
しばらく採取をしていると日に陰りがみえてくる。森の中は木々が光を遮る分暗くなるのが早い。早めに拠点へ戻り日のあるうちに食事をしておく。
「…といっても、火もおこせないからな。生のまま食べられそうなモノはリンゴにビリー、薬草と魔力草ぐらい…薬草と魔力草はHPとMP回復の手段としてとっておきたいから、リンゴとビリーだな」
今後も順調に採取出来ればいいが採れなければ後者を食べる、火をおこしてウマ茸の摂取。
それでもな場合は大量摂取しなければいけそうなドン茸と実の部分には触れていないメンゴだ。正直男性機能の低下 …インポか種無しか分からないが絶対にゴメンだし、種に毒があるようなモノも食べたくはない。もっともメンゴは他のモノに比べると採取量が少ないからその心配は杞憂かもしれないが。
稀少種で鑑定のあの1文…ニヤリ♪
ともあれアーニス初食事といこう!!
ビリーはぶっちゃけ元の世界でのベリーであろう。テレビで観たフィンランドのベリー摘みのヤツにそっくりであった。おそらくレッドビリー、ブラックビリー、ラズビリー等がある様に思える。『ベ』が『ビ』になるだけで人名感がスゴい…何処のビリーだと思ってしまった。
服の袖で軽くこすって口に入れると酸っぱい中にもわずかな甘味を感じたが、おっさんはブルーベリージャムの印象しかないので少しもの足りなく感じてしまう。
「スッパ!!」
リンゴは装備一式から出したナイフで皮を剥いて食べてみたのだが正直酸っぱい。品種改良していないかもしくはそういう品種なんだろう。こういうのは焼いてアップルパイにすると美味しいのかもしれない。
量だけは不足なく採取出来たので腹はふくれた。
「腹はふくれてるけど内容がな~、元日本人としての贅沢かも知んないけど…
あと同じモノばっかり食べてると壊血病みたいな特定の栄養素が足りない、みたいなのが怖いな…そうだ!!」
拠点の木の洞から少し離れたところに移動するおっさん。
「望み薄だけど一応、《落穴》《落穴》…………………………………………… 」
数回魔法を使ってから拠点前に戻ってくる。
「まあすぐに、最短明日で街道に出られて町やら村やらにつくかもだけど」
食事を終えるとすぐに夜の帳が下りて周囲は完全に闇に飲まれる。
微かな虫の音とフクロウっぽい鳴き声が聞こえてくる。完全に夜の森っぽい雰囲気だ。
「あー怖いなぁ、やることないし早いとこ寝よ」
拠点に潜り込むと蓋替わりの《土壁》を唱える。正面に一枚では何となく不安だったので最初の壁の両横に少し角度をつけた壁を作る。ハの字の中央上寄りに横棒があるような形である。
木の根っこや輪郭のせいで完全密封とはいかないが大分ましだろう。
《土壁》を壊そうとすればそれなりの音がするだろうし、一撃で壊せるような怪物がきたら…どうしよう?今さらどうしようもできないのでアイバーは考えるのをやめた。
「あ、そうだ寝る前にアレやっとかないと…………………………っし」
ボロ袋から出したマントで体をくるみ最後に《闇操作》を唱えて全身を包むように操る。
何かを確かめるように頷くと昼間より急速により濃く感じる闇のビロードの感触に身を委ねおっさんは眠りについた。
お読みいただきありがとうございましたm(__)m




