第16話 褒美何にしよう
それは姫乃達が湧水の塔へと向かっている最中だった。
「忘れてたわ」
そんな中、セルスティーが呟いた。
「貴方への報酬を、すっかり忘れてたわね」
考えていた事は、仕事の報酬についてだったらしい。
ちなみに、今回の旅の報酬は完遂した時に後払いで、何を支払うかとかはまだ考えていない。
「私は別にもらわなくてもいいと思うんですけど」
「そういうわけにもいかないわ、労働への正当な対価よ」
姫乃としては別に気にした事はなかったのだが、彼女の気はそれではすまないらしかった。
「何か、ないかしら」
「ええと、急にそう言われても……」
何も思いつかない。
未利となあちゃんは衣食住の食と住だったが、姫乃は今は困っていない。
「そういえばセルスティーさんからもらった魔石の指輪、あれは報酬にならないんですか? あ、でもこれは……」
「そうだったわ、業務に対する必要な道具を借し出したにすぎないのよ」
そうだった。
作業時以外もつけてるのでうっかり忘れそうになるのだが、これは借りものだ。
「ふぇ、なあ聞いたの。でもセルスティーさんあげたようなものだ……」
「服にゴミがついてるわね、とっておくわ」
なあちゃんの言葉が遮られる。
セルスティーは何かを誤魔化したようだった。
「何でもいいじゃん何かないの? このまま時間が経ちすぎて酒の席での思い出話になるより、なんかもらっといた方がいい」
未利がそういうが、思いつかない。
「もう少し考えさせてもらってもいいですか?」
「ええ、いいわ。けれど、エルケに帰る頃ぐらいには聞かせてほしいけど」
「はい、それまでは……」
この旅が終わる頃くらいには何か思いつくかな、と言ったん保留にする事にした。