都市伝説「小人のはらわた」
pixivからの本人転載です。
ホラーです。
グロいです。
小人。
昔の人たちは人間の手のひらよりも少し大きい背丈で人の姿をした存在、小人が世界中に存在し、身近なところで人々の目につかないようにひっそりと暮らしていると、そう考えていた。
小人の目撃談は昔から世界各地にあり、
小人の世界を描いた絵本や童話、伝承が世界中に存在している。
しかし、実際に小人を見たことがあるという何人もの人間から話を聞き、
実際に目撃した場所の周辺をしらみつぶしにいくら探しても、彼らが存在したという痕跡すら見つからない。
小人は本当に存在するのか―
~・~・~
ネット上の動画投稿サイトにアップされた、ある5分程度の動画がある。
どこかの家の中のような場所で夜中に撮影された動画だ。
薄暗い部屋の中の様子と鈴虫の鳴き声がかすかに聞こえることから分る。
カメラが木造の扉の下部分を撮影するように固定されて撮影されたものだ。
動画開始3分ごろから少しずつ扉が開いていき、4分40秒あたりで小さな人の姿をした存在が数体、様子を伺いつつもヒソヒソと何かを話しながら顔を覗かせ、扉の陰に隠れ、扉を動かしながら中に入ってきて、全身が扉の陰から出て露になろうかというところで、そこですぐに動画が終わる
その動画を見たユーザー達からは「CGだ」、「人形を使ったアニメーションだ」
という意見が飛び交い、実際にCGの再現動画や人形アニメーションの再現動画も数多く作成された。
しかし明らかにCGの質感では無い小人の姿やリアルな動き、人形などではマネできない身体のパーツや衣類等の精巧さから、本当に小人の姿を捉えた貴重な映像だというユーザーも数多く現れるようになった。
真相はいまだ闇の中である。
動画投稿サイトに小人動画がアップされて少したってから、ある有名な掲示板サイトに次のような複数の情報が書き込まれた。
・小人動画は山奥にあるロッジの個室内で夜に撮影された
・昔から小人を捕まえて腹を裂き、生肝を取り出して食べると幸せがおとずれるという話がある
・小人は本物
その後小人を撮影し、はらわたを取り出して食べるために
カメラ、PC、スマートフォンなどの撮影用装備とナイフや包丁などを持って
日本各地の山奥のロッジに友達連中と泊りがけで遊びに行くという行為が一時的に流行った。
しかし友達同士でロッジの同じ部屋に泊まり、交代で一晩中室内に設置したカメラをチェックしたり、小動物用の罠をしかけたりしても誰も小人を捕まえる、いや見ることさえできなかった。
そしてそれらの一部始終を撮影し、動画投稿サイトにあげた連中がいたが、動画のどこにも小人が現れないのはもちろん、一部の動画ではオリジナルの小人動画の小人と同じ格好をした友人が扉を開けて入ってくるようなネタ動画さえ作成されて動画投稿サイトにアップされる始末だった。
テレビでも「小人探し」の特番が組まれ、自称「小人研究家」や民俗学者が呼ばれて色々意見を述べたり、赤外線センサーやモーションセンサーなどおおがかりな機器を使って小人を撮影しようとしたりしたが、やはり「小人」は見つからなかった。
しかしこの時期の各局の「小人探し」の特番は、軒並み視聴率が高かった。
その後、流行はおさまっていったが、流行を過ぎても小人の存在がUFOやネッシーのように扱われ、「小人のはらわた」という都市伝説となっていった。
~・~・~
2012年の夏休み。
ある少年がクラスメイトから罰ゲームとして都市伝説「小人のはらわた」の真偽を調べることを命じられ、自宅の自室で撮影用の道具などをリュックに詰めている。
自室にはテレビがあり電源が付いている。
放送中のニュース番組では一人で山に出かけたまま失踪している若い人たちがおり、警察が「小人のはらわた」と関連しているのではないか調査しているというニュースをやっていたが、少年はそのニュースを見ていなかった。
少年は学校でいじめにあっており、今回の罰ゲームというのも少年をいつもいじめている同級生連中から無理やりイカサマカードゲームに誘われ、当然のように負けて、金を持ってくるか罰ゲームを受けるかという選択を迫られた。
少年は仕方無く、罰ゲームを受けることを選んだ。
それが「小人のはらわた」の真偽を調べるというものだった。
少年も2年前の「小人探し」ブームのときはテレビの特番を見ていたが、今はあれから2年経過し、ちらほらと「小人探し」にいく人はいるもののもう流行遅れ感があった。
それに「小人」を撮影できた者がいるとは聞いたことがない。
だが、少年をいじめている連中は「小人のはらわた」の真偽を調べてくるよう言ったが、ちゃんと「小人」の姿を撮影してくるようにとも言った。
実行不可能な罰ゲームをさせ、結局難癖をつけて金を払わせるのが目的だということは少年も薄々感づいていたが、逆らえば殴られたり蹴られたりして痛い思いをする。
少年の身体には暴行を受けた傷跡があったが、少年は家族や学校の教師に言い出せずにいた。
リュックに撮影用の小型ビデオカメラを入れ、果物用ナイフを入れ、食料と着替え、スマートフォン等を入れた後、少年は両親に「友達と一緒に山に三日間のキャンプに行ってくる」と言って、自宅を後にした。
~・~・~
少年が住んでいる街から電車で3駅ほど行き、そこから古びたバスに揺られて30分ほどいったところに
標高600mほどの山があった。
そこはキャンプ地もあるが、少年が2泊の予約を入れたロッジがあるのはキャンプ地からけっこう離れた場所であった。
電車とバスで移動中も、山道を徒歩で移動している間も少年は学校での嫌なことは考えたくなかったが、どうすれば暴行も受けず、金も払わなくて済むかをひたすら考えていた。
そしてキャンプ地の脇を通ったが、キャンプ地には家族連れがたくさん訪れており、わいわいと楽しそうであった。
バーベキューのおいしそうないい匂い、カレーの匂い、子供たちの笑い声、笑顔で子供たちを見守る大人たちの顔。
少年は彼らの楽しそうな様子を遠目から見て、自分がどれだけ不幸な状況にいるのかを実感してしまい、泣きそうになった。
それでも少年は山道を歩いていく。
少年がこれから2泊しようとしているロッジはあきらかに最近建てられたものではない。
見た目はかなり古びていた。
電話で宿泊予約を入れた時は、相手が初老の男性であった。
念のため、他にも宿泊客がいるのか少年は確認したが、カップルが一組だけ予約を入れているとしか言わなかった。
ロッジの宿泊料金(個室)について確認したところ、ホームページにかかれた値段よりもかなり安い値段に負けてくれた。また風呂やトイレは一応ついているとのことだった。
少年は先週も学校でいじめの加害者達にお金を数千円献上しており、そのロッジ以外に選択肢がなかった。
そうこうして山道を歩いていくと、目的のロッジに到着した。
ホームページに乗っていた写真よりもさらに古く見える。
少年はロッジの中に入って辺りを見回した。
かなり年季が入ってそうだ。
掃除は有る程度されているようだが、壁紙が剥がれ落ちていたり、ひびが入っていたりしている。
宿泊料金が安いのも納得できる。
受付のところでベルを鳴らすと、オーナーの初老の男性が杖をつきながら奥からゆっくりと歩いてきた。
そして少年に話かける。
「2泊されるお客さんですか?」
「はい。」
「オーナーの島田といいます。
あなたの個室の鍵はコレです。
風呂とトイレは部屋の中にありません。共同で廊下の先です。
お客さん以外にはカップルの方が宿泊されますので、
風呂とトイレに入るときはかならずそちらの方が入ってないことを確認してください。」
「わかりました。」
「食事が必要な時は言ってください。別料金ですが作ります。おいしいですよ。」
「はい、ありがとうございます。僕は多分ずっと部屋の中にいて勉強をやってます。元々そのために宿泊しに来たので。」
「勉強熱心ですね。がんばってください。後、ドアの鍵は用心のためにかけておいてください。その他、何かあったら私は部屋にいますので呼びに来てください。」
「はい。」
オーナーから手短に説明を受け、少年は鍵を渡された後、自分の宿泊する部屋に入った。
~・~・~
少年が2泊する部屋の中には、机と窓とベッドしか無かった。
机はボロボロで、窓は汚れており、ベッドも少年が腰掛けてみると木造でミシミシと嫌な音を立てた。
布団とシーツはまだマシであったが。
持ってきたリュックを置き、少年はベッドの上に横になる。
まだ午後3時ごろだ。
まわりが木々にかこまれ、静寂がロッジを包んでいた。
こんな時、携帯ゲーム機とゲームソフトでもあれば時間を潰すのに最適であるが
それは先日ゲームショップに売却し、そのお金をいじめの加害者たちに
献上したのであった。
どんどんいじめがエスカレートしていったら、自分はどこかで自殺するんじゃないか。
そしたら楽になれるだろうか。
いや、残された家族は悲しむに違いない。
加害者達が憎い。
色々な思いが脳裏をよぎるうちに、少年は眠ってしまった。
~・~・~
少年が目を覚ましたときには午後7時ごろであたりが少しずつ暗くなっていた。
お腹も減っている。
少年は昼から何も食べてなかった。
少年はリュックからカップ麺を取り出し、クッキーの袋も取り出した。
飲み物は水筒にお茶を入れてきている。
カップ麺のお湯はロッジのオーナーにもらえばいいだろうと考えていた。
まずはその前に何かお腹に入れておきたかった。
ベッドの上に腰掛けクッキーを取り出して数枚食べているとき、一枚を床に落としてしまい、なおかつ誤って踏んでしまった。
「あーあ・・・」
少年はオーナーにお湯をもらいに行くついでにほうきとちりとりも借りられないか
聞いてみようと考え、カップ麺のカップを持ったままオーナーの部屋へ向かった。
廊下を歩いている途中で自分以外のカップルの客が泊まっていると思われる、
部屋の前を通るとき、中から話声が聞こえた。
「本当にこのロッジなの?」
「ああ、多分間違いないよ。あいつもここに行くっていってから行方不明になったみたいだし。」
「小人のはらわたねぇ・・・私も2年前テレビの特番見てたけどさぁ。」
「ここのオーナーは何か隠してる気がする。」
「・・・」
少年は、このカップルも同じ目的で来ているようであることを知り、少しホッとした。
そしてちょっと気になることを耳にしたが、もしかしたらこのロッジがあの動画のロッジなのかもしれないと、
希望を持ち始めた。
~・~・~
その後少年はオーナーの部屋を訪れ、オーナーに湯をもらったついでに
ほうきとちりとりを持ってないか尋ねた。
「あの、ちょっとお菓子の食べカスが部屋の中に散らばったので、ほうきとちりとりを貸してもらえませんか」
「ああ、わかりました。じゃあ、カップ麺はここで食べていきなさい。食べ終わってからほうきとちりとりをお貸ししましょう。それと、子供のうちからカップ麺だけじゃ栄養が偏ります。良かったらこれも食べてください。」
少年はオーナーの部屋で、オーナーの出してくれたハムエッグとサラダを食べ、カップ麺を食べながら、オーナーと少し話をした。
オーナーの部屋には家族の写真がかざってあり、娘や孫がいることや
オーナーの若いころの話。
このロッジの話。
少年の家族の話。
少年はオーナーと話をする内に、オーナーの人柄が見えてきた気がした。
~・~・~
少年はオーナーと30分ほど話をして、借りたほうきとちりとりを持って自分の部屋に戻ってきた。
「えーと、鍵は・・・」
少年が部屋の前でズボンのポケットから部屋の鍵を取り出そうとしていると、
扉が少し開いていることに気づいた。
(おかしい・・確かに部屋には鍵をかけてオーナーの部屋に移動したはず・・
なんで開いてるんだろう・・・)
すぐに扉を開けて中に入り、自分のリュックの中身を確認する。
財布や携帯などは無くなっていない。財布の中身も大丈夫だ。
少年はベッドの下も恐る恐る覗いてみたが、人が潜んでいるような事もなかった。
窓にも鍵がかかっている。
(扉の鍵が壊れているのかな・・・それとも・・・)
少年は念のため、部屋の鍵を内側からかけて扉が開くかどうか確認したが、
鍵はしっかりかかっている。
次に部屋の外に出てから、扉の鍵をかけて外から開くかどうか確認したが、
こちらもしっかり鍵かかかり、開けないことを確認した。
(となると、鍵をかけ忘れたのか、例のカップルがこの部屋にどうにかして
入ったのかも・・・。でも人を疑うのは良くないな。
多分鍵をかけ忘れたんだろう。用心しなきゃ。)
少年は鍵をかけ忘れたのだと思い、部屋の中に戻って内側から鍵をかけた。
そしてほうきとちりとりで先ほどのクッキーの食べカスを掃除しようとしたが、
食べカスの中で大きい欠片が無くなっていることに気づいた。
他の欠片を色々と元の形に合わせてみても大きい欠片が無くなっている。
ほうきとちりとりを持って、部屋の隅々まで掃除しながら見て回ったが、
大きい欠片が無かった。
(ん!?)
少年は掃除の途中で、部屋の隅の方で”まち針”のような物が落ちているのを発見した。
大きさは"まち針"だが、形状が異なる。
柄のようなものがついており、試しに自分の指をその"まち針"で突っついてみたところ先が鋭くなっており、血が出てしまった。
すぐに絆創膏を貼る。
よく見ると、"まち針"のように見えるそれは刃のような加工がされている。
(これは・・・RPGで良くあるような「剣」じゃないだろうか・・・。じゃあ、これってもしかして・・小人の「剣」!?)
少年は、
・自分が部屋を離れている間に小人がこの部屋に現れ、クッキーの食べカスのうち
大きい欠片をもっていった
・その時に自分の剣を落としたが、それに気づかなかった
ということを考えた。
少年は想像を膨らませ、興奮した。早速、部屋のすみにリュックを置き、まわりから見えないように撮影用のデジタルカメラなどを設置した。
バッテリーはフルに充電しても最長2時間程度だが、うまくやれば小人の姿を撮影できるかもしれないと考えていた。
そして興奮したまま、しかし何事も無かったかのように「剣」を元の場所に置き、
残りの食べカスだけはちりとりの中に入れた。
その後袋に残っているクッキーの数を数えてみたが、そちらは自分が食べた枚数と
床に落として踏んづけた枚数を足した分しか減ってなかった。
少年は胸の高鳴りを抑えながらベッドの中に入った。
しかし携帯電話で時間を見ると、まだ午後8時半ごろだった。
そこで風呂に入ろうと思い、着替えとタオルを準備し、デジタルカメラのスイッチをONにして部屋の電気をつけたまま部屋の外に出た。
そして外に出てちゃんと部屋の鍵をかけてから風呂に向かった。
~・~・~
ちょうど風呂は空いており、少年は風呂に入った。
少年はすぐにでも部屋に戻ってデジタルカメラを確認したかったが、我慢していた。
シャワーを浴び、身体を洗い、湯船につかりながらも落ち着かない。
そして20分程してから風呂を出て、ゆっくりと廊下を通って自分の部屋に向かう。
少年がカップルが止まっていると思われる部屋の前を通る時に、中から「ガタガタッ」と音がした。
少年が扉に耳を当ててみると、中から「ンー、ンー」という声が聞こえた。
扉のドアノブを回し、ゆっくりと扉を引くと扉が開いた。
部屋の中は電気がついていない。
暗闇の中で「ン〜、ン〜」という声がするので、そちらを見ると、
ぼんやりと人の姿が見えた。
少年はすぐに扉を開けて中に入り、部屋の電気のスイッチをつけようとしたが、
足を何かで切ってしまい、痛みを感じながらその場に倒れた。
すると、小さな何かの群れが暗闇から一斉に群がってきて、唇に痛みを感じた。
口を開けようとするも痛みで開けられない。
手足も何かが抑えつけているのか、動かせない。
徐々に暗闇に目が慣れてきた時、そこで見えたのはさるぐつわを噛ませられ、ロープで身体をグルグル巻にされて転がり、「ン〜、ン〜」と呻き声を上げる女性の姿と少年が撮影しようとしていた幾人もの”小人”の姿だった。
手のひらよりも少し大きいくらいの人の姿をした存在。
彼らは手に武器を持っている。
姿は人間をそのまま小さくした感じだった。
小人たちがそれぞれ話出した。
「島田の野郎、男と女が一匹ずつって言ってたけど、ガキもいるじゃねぇか。やはり嘘をついてやがったな。」
「奴隷の分際で、俺たちに嘘をついたな。」
「あの野郎、このガキを生贄にすることに怖気付きやがったな。」
「今まで散々俺たちに協力して来た癖に」
「まぁ、いい。まずはこの女から解体しちまえ。」
小人の一人が腰に付けていた剣を抜き、女性の所まで歩いていった。
女性は涙を流しながら今まで一番大きい声で「ン〜、ン〜」と呻き声を上げたが、
小人が女性の首の頚動脈あたりを剣で切った後、首から血を流してその声は途絶えた。
そして他の小人達が一斉に女性の死体に群がった。
ある者は、木こりが二人がかりで大木を切る際に使うノコギリを、彼らのサイズに合わせて小さくしたもので女性の首を切断し始めた。
ある者は女性の服を剣で切り裂いていき、女性の裸体が露になった後
その肌に剣を突き立てて皮を剥ぎ、肉をそぎ落とし始めた。
中にはそぎ落とした肉を食べている者もいる。
「速く解体して加工しねーと、何日経っても終わらなくなるだろうが」
「すいません。さっき別の部屋で拾った何かの欠片を食べたんですが、
すぐに気分が悪くなって吐いちまって。腹がペコペコなんでさぁ。」
肉を食べていた小人がリーダー格の小人から怒られ、
すぐに肉をそぎ落とし始めた。
女性の頭部は切断されている途中に目玉がくり抜かれ、
耳と鼻は削ぎ落され、歯は抜かれて袋につめられていっている。
髪も何かに使うのか、女性型の小人が一定の長さで切断している。
女性の耳についていたピアスを巡って、小人同士が取り合いの喧嘩を始めた。
少年はその一部始終を目撃し、恐ろしさのあまり声を出せずにガタガタと震え、失禁した。
「リーダー、このガキどうします?」
「まぁ、待て。一度に解体して食料にするよりも、生かして必要になってから解体した方がいい。」
「そうですね。予定に無かった食料だし、長老をお呼びしてどう使えばいいのか相談しましょう。」
「ああ、それがいいだろう。それよりも、まず島田をどうするかだな。あの野郎、もう片足を切断するくらいじゃ済まさねーぞ。あいつの娘と孫のところにも俺たちの仲間がいることを忘れたらしい。」
女性の死体が小人たちによって”解体”されていく。
それは、かつて人々が捕鯨を行い、捕まえたクジラを解体しているかのような光景だった。
女性の死体が少しずつ、人の姿で無くなっていく。
少年はいつ自分が殺されるのかと気が気でなかった。
身体は小人たちの作った鎖上のものでがんじがらめにされて動けない。
そこへ廊下からゆっくりと杖をつく音と足音が近づいてきて、着ているエプロンの
いたるところに血痕をつけたオーナーが部屋に入ってきた。
オーナーは部屋の中で小人たちに捕まっている少年を目撃して声を漏らした。
「ああ・・・何ということだ。君まで捕まってしまったか。小人の皆さん、お願いです。男性の方はロッジの裏で私が殺しました。この少年は見逃してあげてください。」
「俺たちに嘘をつきやがって!覚悟はできてるんだろうなぁ。お前の左足の足首から下は俺たちの腹の中に納まったが、今回はそれだけじゃ済まねー。お前の子供と孫のところにも俺たちの仲間がいるが、いつでもそいつらに襲わせることができるんだぞ!」
「お願いです。私はどうなろうと構いません。その少年と私の家族を殺すのは止めてください。」
「ふん!知ったことか!」
オーナーがリーダー格の小人に懇願している時、サンタクロースのような白い髭を生やし、眼鏡をかけた小人がゆっくりと部屋の中に入ってきた。
「おお、長老だ」
小人たちが声を漏らす。
そしてその「長老」と呼ばれた小人がオーナーの前にいき、口を開いた。
「島田さん、この少年は我々がここにいることを知ってしまった。この建物に我々がいることを知っている人間は少ない方がいい。無論、食料は必要じゃからあなたのように"動画サイト"やら"掲示板"やらで人間が定期的にここを訪れるような罠も張れる人物が良い。そうすると、この少年を食料にしてあんたが今まで通り我々に協力するか、あんたが食料になって新しい協力者を作るしかないのぅ。」
オーナーはその言葉を聞き、しばらく黙り込み少年の方をじっと見たり、頭を抱える素振りをしていた。
少年は固唾を飲んで状況を見守る。
やがてオーナーは口を開いた。
「わかりました、長老。その少年を新しい協力者にしてあげてください。私があなたたちの食料になりましょう。その代わり私の家族には絶対に手を出さないでください。」
「うむ。いいじゃろう。」
「田中君(少年の名前)、私の代わりに彼らに協力してくれ。私のことを非道い人間だと思うかもしれないが、家族と一緒にいられる時間の大切さは、人を罠にはめて殺すことへの罪悪感に勝るものだ。今はわからないかもしれないが、君もいつか結婚して自分の子供や孫を持ったときにそれがわかるだろう。もし彼らが私の家族に手を出そうとしたら止めてくれ。お願いだ。」
そう言った後、オーナーは跪いて目を閉じた。
少年は唇の痛みを抑えながら、「ひまださん(島田さん)・・・」とだけ呟いた。
するとリーダー格の小人がオーナーの身に付けているエプロンをよじ登っていき、
肩口に到達して剣を抜いた。
そして首の頚動脈の部分を切り裂き、オーナーは床に倒れた。
~・~・~
長老が少年に話しかける。
「お主、田中と言ったの。お主は見たところ、嫁や子供を持っておらんようじゃ。嫁や子供がおらんということは、どこかで裏切る可能性がある。島田さんの場合は嫁や子供がおったから裏切ることが無くてのぅ。うむ、それではわしらに古くから伝わるまじないを使うことにしよう。お主も聞いたことがあるかの。人間がわしらの身体から生肝を取り出して飲み込み、わしらがまじないをかけることで良縁や子宝に恵まれ大きな財を成すこともできるのじゃ。お主にはそのまじないをかけてやろう。ただし、わしらを裏切れば不幸や死がお主に訪れる。いいな。」
少年はあまりに非現実的な光景ばかりを目にして思考が麻痺したのか、また助かるという希望で安心してしまったのか、無言で何度も頷いた。
そして小人たちの中から生贄が一人選ばれて-。
~・~・~
2学期が始まった。
少年は夏休みのロッジでの出来事が何かの夢じゃなかったのかと思うことが時々あるが、自分の右足のくすり指の部分に接地感が無いことで、あれが実際に起こったことだと思い出せる。
少年はあの日、小人の生肝を飲み込み、まじないをかけられた後約束を違えることが無いようにと右足のくすり指を小人に切断されたのだった。
ロッジの全ての鍵は少年が持っており、月に一度土日を使ってロッジの清掃を行い、各種支払いや手続きもうまくやっている。
そして少年は、夏休みの間に少年をいじめていた連中に小人が写った動画(小人と仕組んだ)を見せて例のロッジに誘き出し、小人たちと一緒になって殺害した。
連中の血肉は彼らの食料となり、食料にならない部分はロッジの裏にあった焼却炉で燃やしたり、山中の奥深くに埋めた。
もうこの時には、少年は人間の死体が原型を止めない状態になったのを見ても何も感じなくなっていた。
少年は警察から連中の失踪事件の件で事情聴取を受けたり、例のロッジ周辺も一度警察が捜査したりしたが小人たちと一緒に徹底した証拠隠滅やアリバイ工作を行なっていたため、警察が真実に迫ることは無かった。
連中を殺害した後あたりから少年に幸福が訪れるようになった。
別のクラスの女子といい雰囲気になって付き合うことになったり、少年の父親の会社が大幅な黒字を出し、父親の給料がアップしてお小遣いが増えたりした。
それからも幸福な出来事は続いている。
また少年は一度だけ付き合っている女の子に、真実を話そうとしたことがあったが突然心臓発作が起きて病院に運び込まれてしまい、それからは二度と誰にも真実を話すことは無かった。
~・~・~
例の小人たちは本来山中の森の中に住居を作り、野生動物や木の実などを食べ、人間の肉を食べることは無かった。
小人たちには人間の肉を食べると呪われるという言い伝えがあった。
だがある年の冬、小人たちは貯めていた食料が底をつき餓えに苦しんでいた。
そんな時、ある若い女性が真夜中に山を訪れ、山の女子トイレ内で出産した。
女性は子供を産んでもどうすればいいか分からず、生まれたばかりの子供を放置して立ち去った。
子供は泣き続けていたが、冬の山中で真夜中ということもあり誰にも発見されることなく死んでいった。
小人たちは餓えが限界を超えていた状態でその子供の死体を発見した。
そして、彼らはその子供の肉を-。
それから小人たちは呪われて人の肉しか食べられないようになってしまった。
~・~・~
2012年の冬休み。
動画投稿サイトに新しい小人動画が投稿された。
それを機に再び都市伝説「小人のはらわた」が人々の話題になっていっている。
小人グッズなんて物も若者を中心にヒットしている。
今度またテレビで「小人探し」の特番が組まれるらしい。
失踪事件は何件か立て続けに起きてニュースでも報道されているが、失踪した人間が発見されることは無かった。
あのロッジ以外にも「彼ら」の仲間がいるのかもしれない。
そして「彼」と「彼ら」の共存関係は未だ続いているようだ・・・
完
第二処女作です。
感想お待ちしてます。