海の国 ~三人の姫~
姫と妹が大広間へ行くと、大きな笑い声が聞こえた。メイドたちと立ち話している、真っ赤で豪華なドレスを着た、一際目立つ人物が居る。彼女が話すとメイドたちがくすくすと笑い、その笑いに彼女が大きな声で笑う。メイドのうち数人は面白く笑っているものの、ティーセットを押車に載せたメイドと荷物持ちのメイドは、困ったように笑っていた。
姫は状況を理解し、ユミリアは走って駆け寄る。
「ミラお姉様! お帰りなさい!」
「あら、ユーミー! 久しぶりね! カミュも久しぶり。元気だった?」
ミラことミリアーシュは、ユミリアと似た笑顔で、妹を抱きしめた。
整った品のある面持ちと、落ち着いた雰囲気はユミリア以上に母親によく似ていた。しかし笑う表情は妹と同じはつらつとしたもので、初めて会う人からは破天荒な印象を受ける。銀色の髪は何もつけないことを生まれつき決めていたようにまっすぐで、シャープな顔と体をより一層引き立てていた。ユミリアをビスクドールとするなら、ミリアーシュは着せ替え人形だった。
「姉さん、相変わらずね」
「あなたもね、カミュ。いい人見つけた?」
「そんな話はともかく、リビングに行きましょう。メイドが大変そうよ」
姫の言葉に「そうね」と頷きながらメイドの手元を見て、ようやく困っていることに気付き、詫びる様子もなく笑って、ユミリアと共に部屋へと入る。そんな様にメイドは呆れたような笑いを見せ、姫にお辞儀して通るのを待った。
「そういえば、お父様は?」
「相変わらず、仕事よ」
王家用のリビングで、三人は卓を囲む。メイドが紅茶を注ぎ終わり、扉の前にひとり待機していた。寒さが残る春とはいえ、暖炉には灰が積もるだけで、薪はくべていなかった。
仕事の鬼と言える王様――三人の父親は、書斎か王の間に居るだけで、食事も一緒にとろうとはしないほどのワーカーホリックだった。姉妹は幼い頃に父親の家庭を顧みないことに慣れ、より母親に甘える生活になってしまった。
そして母親はユミリアが五歳の頃に海難事故で行方不明になり、帰らぬ人となった。それでも父親は王としての仕事を努め、姉妹に触れなかった。姉妹は哀しみを感じながら、父親の崩れそうな顔を見て歩み寄ろうとしたが、変わらない生活を送り拒絶する王に、絶望するしかなかった。
「ジューンも後日来るから、その時くらいには挨拶してほしいんだけど」
「そういえば、どうして後日なの?」
ジューンとはミリアーシュの夫であり、大陸内でも強国の時期王だ。父と比べると、王として機能するのかと言えるほどの柔和さを持ち、威厳やカリスマと言えるものが皆無だった。しかし機転も利き器も大きい、優しさの使い方を心得ている性格で、姉妹は好感を持っていた。
ミリアーシュは紅茶に口をつけ、降ろしたあと、
「急な仕事が入ってね。一日遅れで来る予定だったのよ。でも、今日はほら、嵐が近づいているでしょう? おそらく別の港に寄って、しばらく見合わせると思うの」
その言葉に聞いていた二人は、むっと表情を曇らせる。ユミリアは前のめりになって姉に言う。
「というか、ミラお姉様、嵐の中を来るなんて無茶すぎるわ」
「この海域はまだ荒れているだけだったから、大丈夫よ」
「そんなこと言って――――」
そこまで言って、ユミリアは口をつぐんだ。紅茶を飲んでいた姫は横目でそんな妹を見て、ミリアーシュは口をつぐむ意味が分からず、きょとんとしていた。
「まぁ、無事で何よりよ」
どうしようか悩んでいた空気に、姫が口を挟む。
「お姉様は、子どもは作らないの?」
普段話題を出さないどころか、下手をすれば夜の会話になりかねないワードが出て、ユミリアは姫を見返した。そして少しだけ目を伏せる。姉は意に介さない様子で、
「まだ授からないのよね。お義母様からも催促が来るんだけど。コウノトリは気まぐれね」
戯たようにのたまった。姉は天然な上に浅学だが、時折冗談なのか分からないことを言う。二人はとりあえず流すことにした。
「可愛い子が生まれるといいわね」
「産まれたら連れてきてね。というか産まれそうなら報告してね、行くんだから」
「ええもちろん。それに私の子よ、可愛いに決まってるわ」
変に自信満々な笑顔に、きっとそうだろうと思うと同時に、似たような破天荒だったら大変だなぁという考えが一瞬にして浮かんで、口に出す前に姫は紅茶に口付けて一緒に飲みこんだ。




