漂流者 ~海の国~
世界に海の国はいくつかあれど、そのどれもが必ずしも同じ文化を築いた訳ではない。しかし、世界の平和が固まりつつある今の時世では、どの国も外へと関心が向いていた。大陸から忘れられた端っこ、大陸の大きな国から見れば山向こうにあたる海の国も、そんな国のひとつだった。しかし文化や開国の遅れなどで、さらに世界から忘れられようとしていた。
小さな海の国は、灯台の代わりでもある背の高い城と、城下町があるだけだった。交流は主に近くの山の国だけで、商店と品も少なく、流通や交易も幅が小さかった。
というのも、王様はとても強情で、古風な考え方を持つため、今王の時代は進展と言えるものがあまりに少なかった。女しか生まれない自分の血筋から後継者を見出したのも、六〇過ぎた今の年齢である。二三になる姫が選ばれ、今から後継者として、女王としての勉強が始まるのだった。
そのお姫様は、異国から娶った王妃様から継いだ赤髪に、骨ばった鼻筋と厳しい目元の王様に似た面持ちの、お世辞にも可愛らしいとは言えない容姿だった。海の国に多い銀色の髪を持つ姉と妹は妃に似た美貌で、赤髪の姫はその中でもひとり浮いた存在だった。
「いいの、私は! 私は私の……道を行くんだから!」
幼い頃、誰かに言われた売り言葉に買い言葉で言った、頭の悪い決意を貫き通したと言っても過言ではなかった。自分に出来ることをと、外見で人を判断する周囲の人に、何も言わせないようにひたすら努力した。現状の資料と過去からの統計、そこから見いだせる解決策を現在に当てはめ、実行する。王が言わずも、ひとりひたすら勉強していた。その様子を、王族たちは「氷の王」と評された今王の二世だと言われたが、姫はこの賞賛を快く思っていなかった。
いつもは静かな城は、今日は少しだけ騒がしかった。相変わらず部屋で勉強をする姫は、その騒がしさに、勉強に集中出来ていなかった。騒がしさもだが、今日の出来事を考えれば、この家で騒がないのは王くらいだろう。態度には出ないが、姫もそわそわとしていた。あまりにも落ち着かないので、勉強を切り上げたくらいだった。
常に巻き上げてまとめている髪に金色の花の髪飾りを刺し、比較的ラフなドレスにティペットとコルセットをつけ、正装に見えなくもない格好にする。通常ならば不躾だが、今日は身内なので、あまり飾りたがらない姫は最低限に着飾る。
すると、パタパタと軽い足音が近づいてくる。元気な足音の持ち主が誰か分かり、勉強していた机を片付け出した。そしていつもより強いノックが聞こえ、返事も待たずに走り主が入ってきた。
「カミュお姉様! ミラお姉様が帰ってきましたわ!」
はつらつとした笑顔で入ってきた、人形のような愛らしさを持つ銀髪の少女――ユミリアが姫の裾を引っ張る。ユミリアは正装ではなく、カジュアルフォーマルなパーティーで着るような格好だった。すらりとした自慢の脚線美が際立つ、黄緑の短い折り返しワンピースは、若い妹ならではだろうと思いながら、
「相変わらず可愛いわね、ユーミー」
「ありがとう! カミュお姉様も、金色の花がとっても素敵!」
赤い頬で笑った妹にふっと力が抜けた表情を返すと、姫も妹に続いて、部屋を出て行った。




