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契約のためなら人探しもします

 宝物庫の前に行き私は辺りを見回した。

 

 姫とモンタギュア王子の捜索が一緒になって起きているせいであろう

 宝物庫の前には誰もいなかった。

 

 扉の前に立ち、馬の形をした取っ手の頭を撫でる。

 錠が解除されるガシャリとした金属の擦れ合う音が聞こえた。


 中に入り、奥に進む。

 体を揺らすとちゃぽりと胃の中のワインが音を立てる。

 少し飲みすぎたのだろうか。


 宝物庫などというご大層な名前の割にはかなり地味な部屋だ。

 貴重な絵画が壁に所狭しとかけれれているが、埃よけの布がかけられているせいで、今はその美しさを見せびらかすこと敵わぬ哀れな姿になっている。

 他にも、たくさんの光り輝く金銀財宝があるはずなのだが、綺麗に整頓されているようで、その魅力は箱や布に覆い隠されてしまっている。

 

 宝箱がうず高く積まれ、それらが壁となり、まるで迷路となっている。


 迷路の奥にある目当ての宝箱を見つけた。


「葉出巣です。姫様。おられますか?」


 音量に気をつけて宝箱に話しかける。


「はよう、出してくれ。ここはきつい」


 声が心なしか元気が無い。

 ちょっと長く閉じ込めすぎたか。


「お疲れ様です」


 そう言って、私はさきほどパーティーの一角からくすねてきた食事の入った箱を渡す。


「ご飯を持ってきてくれたのか。ハデスは優しいの」


「いえいえ」


「まだ、そんなに時間が経っていないのに物凄く疲れたぞ。同じ態勢でいると体が動かしたくてたまらなくなるな」


「そういうものでございます。お食事が済んだら、もうしばらくここに身を隠していてください」


「まだ舞踏会は終わらんのか」


「それは我々のせいでしょうね。主役が行方知れずでは、終わらせたくても終わらせられません」


「それもそうじゃのう」


「すみません。ここからはビジネスの話になるのですが」


「む、食事中だぞ」


「いえ。火急を告げる要件ですので早くしたいのです」


「よかろう。申せ」


「モンタギュアの者が城内に侵入したようです」


「ほう。それはまことか」


「はい。確認なんですが、姫様は結婚の妨害を私にお望みですよね」


「その通りじゃ」


「ですが、モンタギュアの者がもし引っ立てられた場合、結婚の妨害の意味がなくなるやも知れません」


「なぜじゃ?」


「今のキャピュレイトとモンタギュアの関係上、かの城内の侵入は一種の挑発行為と捉えられかねません。最悪、交戦事由になるかも」


「……ん。そうだろうな」


「姫様は結婚=戦争という懸念を持って、私と結婚妨害目的の契約をしました」


「なるほど。賊が捕まると、結婚に関係なく戦争へ繋がるかもしれないということじゃな」


「契約通りなら、私はこれからも坦々と結婚妨害の職務を遂行すればよいのですが……」


「ならぬ。わらわの望みは、あくまで平和じゃ。わらわの結婚が戦争を引き起こす可能性があるから妨害してほしい、というのが本来の目的のはず。結婚の中止は戦争を止めるための手段に過ぎぬ。その賊とやらが捕まって戦争になるなら、結婚妨害に意味がなくなり、当然、契約は破棄になるの」


「や、やっぱり」


「他の者より早くその賊を保護するしかなかろう」


「善処します」


「ならぬ。絶対だ」


 急いで宝物庫から出た。

 何ということだ。仕事が増えてしまった。


 取り合えず、個人的火急用件を済ませよう。

 タダだからといってワインを飲みすぎた。

 トイレだ。

 小走りで廊下を進み、右に曲がり目的地に着く。

 だが、中には先客がいた。


「おや。失礼」


「いいや。調子はどうだい?」


「まあまあですよ」


 私が用を足すと、先に入っていた男性が洗面器の前で何やら悩んでいた。

 非常に端正な顔立ちで、美しい長い髪が耳にかかっている。

 綺麗な形の眉を片方上げ、困った顔で俺に尋ねた。


「すまん。水の出し方が分からないんだが……」


「ああ、これはこうやるんですよ」


 そう言って私は洗面器に取り付けられている馬の頭をひと撫でした。

 すると馬の口からじゃばじゃばと水があふれ出してくる。


「なんだこれは」


「面白い仕掛けですよね」


「いやわが国ではこんな物を見たことが無い。魔法仕掛けか?」


「どうでしょうね。詳しいことは私も知りません。ああ、これは失礼を。私、葉出巣と申します」


「俺はロミオだ。よろしく」


 洗ったばかりの手が差し出された。

 まだ私は洗っていなかったため躊躇したが、握らないことは無礼である気がしたので握った。


「ロミオ様、もしかしてモンタギュアの?」


「その通りだ。何だ俺を知ってるのか? 参ったな」


「貴方は今、追われているそうですが」


「俺は咎人ではない。名高い美女ロザライン嬢の美しさに酔いに来ただけだ。悪いことなど何もしていない」


 これは困った。

 図らずも対象に遭遇したようである。

 幸運といえばよいのか、だが突然の幸運には戸惑いもつきものである。


「お一人でいらっしゃったので?」


「いいや、従兄弟ベンヴォーリオとブエロナ帝国の友人マキューシオが一緒だった。はぐれたのだ。すると何やら大勢の人から追いかけられて。どうにも参ったよ」


 まだ後二人もいるのか。

 面倒なことになりそうだ。


「ここまでどうやって来たのです?」


「ああ、非常口があったからな、そこから失敬した。ついでにトイレが見えたので、今ここにいる。何だハデスは質問ばかりだな」


 あの非常口か。

 なるほど。



 ――――――――


 ――――――


 ――――


 ――



「かび臭い部屋だ」


「そう文句を言わずに。捕まるよりはよっぽどマシでしょう」


 私は彼を宝物庫に連れてきた。

 考えてみたら、ここ以外私が連れてこれる所は無いのだ。


「まるで迷路だな」


「そうですね。かなり古い物もあるようですから、あまり触らないほうが良いです」


「なんだこの箱は、おお、たくさん金貨が入っている。うん? これはローレンス金貨じゃないか。お宝だぞ」


「ですから宝物庫なんですって。ここにある物は全部お宝です」


「何だと! 全部か? あれもこれも?」


「全部ですけど。ああ、ほら、触っちゃダメですって」


 大丈夫かこの人。

 入れちゃいけない人を入れてしまったような気がする。


「よくよく考えると、俺はモンタギュア城の宝物庫などに入ったことはないな」


「王子というお立場なら、そういうものでしょうね」


 ああ、そうだ。

 残りの二人の人相を聞いておかないと。

 人助けなどという違法なことをやって大丈夫かどうか自信がない。

 一抹の不安が脳裏をよぎるが、立場上見過ごすことが出来ない。


「それで、従兄弟と帝国のご友人はどういう背格好ですか」


「探してきてくれるのか? 助かる」


「追われている王子が大手を振って探すわけには行かないでしょう」


「それもそうだな――」


 ロミオ王子は二人の男の特徴を言った。

 私はそれをタブレットに情報として書き込み、該当人物の似顔絵をCGで作る。


「そっくりだ。すごいな。それもキャピュレイトの魔法か?」


「いえ、これは私どもの仕事道具でして」


 会話として成り立っていないように思えたが、まあいいだろう。


「では、今からちょっと出てきますが、勝手に出ちゃダメですよ。あと、奥には行かないでください。特に、奥にある宝箱には絶対触らないでください」


「分かった分かった」


 心配だ。


 私はあくまで悪魔である。

 しかし、サラリーマンでもある。

 人助けは確かに違法かもしれないが、仕事のためならそれを厭わない。


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