友達の定義
とある企画を考えてましたが、多分流れたかとw
今回は友情をテーマに。
高校一年生になり、山岡龍太は友達作りが苦手なまま冬を迎えた。年明けてすぐの新学期そうそうにスキー授業という催し物が行われる事となっており、その授業は合宿のように、一泊二日を予定している。
山岡には友達と呼べる人物は五人ほど居たのだが、今回の件でその認識を改めざるを得なかった。
「雪国と言えば誰でも滑れるという認識が広がってるのがまず間違ってるんだよ」
こう断言するのは友達の渡部芳雄。何かと気が合うので特に親しい、親友と呼んでも良いのかも知れない存在だ。
「まあ、そう言うモンかもねぇ」
「龍太は滑れるって言ってたよね、羨ましいわ」
男女合同で、そして一泊というイベントに校内は騒然としている、文化祭やら、体育祭やら、そういったもので盛り上がるのとは少し違う。
一泊旅行の様な感覚で班決めが行われ、その中には男子と女子が一緒の班という事実も、校内をざわめかせるのに一役買っていた。
そう、イベントというよりも旅行。修学旅行のような事をやろうというのだ。修学旅行はこの学校では二年生に一度あるだけだし、これで盛り上がらない訳はない。だが山岡は高校デビューという点では、ややしくじっていてこれに乗り切れない。
また、友達の渡部も滑れない事がネックのようでこれまた乗り切れないでいた。
「ちょっと楽しみだな……、こういうの」
「そりゃあ龍太が滑れるからだろ、俺はなんだか不安でいっぱいなんだが」
「俺は、滑れるけど……一緒に滑るって人が居ないしなぁ」
「なんなら初心者コースでも来る?」
結局噛み合わない。こんな友達との掛け合いも、もしも女子が混ざっていたら盛り上がるのだろう。だが、それもない。
デビューでしくじり、これでもしかしたら挽回も出来るかもなんて甘い考えを抱く山岡も、実はこんな心配は無用だったと後で気付くことになる。
スキー授業の前日、急に腹が痛くなり親を起こす事になった。つまり出席出来なかったというオチである。これは酷いものだ。
全く抑えられない痛みで、どうしようもなく起こしているにも関わらず……「どうすればいいのかねぇ」等と呑気な事を言っている母。
「とりあえず電話だろ!」
「病院にかけたりしても、なんて言われるか分からないし……」
「消防とかか?」
とぼけた事を言う両親だなと、言われるままに消防に電話してみる。
「もしもし、あの、腹痛いんですけど……」
電話して、その後やはり病院にかけ直す。その間ももちろん腹は痛いまま。
「まだ腹痛いの治らないの?」
「いつもと全然違うから起こしてるんじゃんか……」
そうこうしている間にもただ痛みは増していくばかり、病院に電話を済ませて、両親に車を出して貰う事となった。
病院に着き、軽く診察した結果、どうやら広く知れまわっている病気の盲腸のようだ。
「虫垂炎のようですね、カンタンに言うと盲腸です」
その医者も相当とぼけているように感じた。ちょっとジャンプしてみて、と言われるからしてみる。「……普通、虫垂炎の患者さんはジャンプなんて出来ないモノなんですけどねぇ」
お前が飛んで見ろって言ったんだろうが!!! 多分そうだと判断しながら、ジャンプさせてこの言いよう。腹を立てたいところだが、それ以上に腹が痛いという悲しい現実に軽く絶望。
「検査をして明日の昼前には手術になるでしょう」
医者って、もうちょっと言い方あるんじゃない? 確かに、お前が居なければ俺は助からないよ? でもさ、その言い方ってどうよ? などと世の中の理の片端を垣間見る山岡であった。
手術自体は珍しいものではないので、成功した。だが、どうにも医療に関わっている人間というような気がしない先生方がチラホラと見える。
例の初診の時の医者だ。
あれはあんまりだろうと思う山岡の唯一の救いは、看護師さんが若い女性という事だけであった。その救いとあの医者のギャップが売りなのだろうか……この病院は。
病院に入院し、3日目渡部が見舞いに来てくれた。大量のマンガを持って。
「いやー、暇かと思ってさ、マンガが一番いいでしょ」
「ありがとね、ホント、まだ痛いんだけど痛み止めが効いてるからね」
マンガは確かに暇つぶしには最適で、快適な入院ライフを満喫する事が出来た。それが見舞い初日の事だった。友達が入院とかしたら、やっぱり心配してるよって言うようなポーズくらいは取るよなぁ。まあ渡部はその中でも別格だけども。
二日目も渡部は来てくれた。三日目にも今度は友達で来れる人数で来てくれた。四日目にも友達と名乗る人達が心配して来てくれていた。
渡部だけはずっと毎日来てくれた――――。
友達だとは思っていたのだが……これはもはや親友だよな。来てくれた回数が多いから親友だとかそういうんじゃなくて……。
いや、その回数もあるのか……。
普通に「友達だよな俺たち」というセリフがあったとしても、これは時と場合によっては脅しにだって使われる言葉だ。例の某青いロボットが未来からやって来た物語においても、そのセリフの使われ方は様々だ。
友達だよな? と言って遠慮なく借りて行く、これはもう友達じゃない。
では、改めて考えてみる。……友達の定義とはなんぞや?
もうすぐ退院を控えながら、そんな事を考えている山岡。今回の入院については本当に急だったし、スキー授業というイベントと重なったせいもあって、見舞いは二日間は親しか来れない状況だったのだが、三日目以降は……結構な見舞い客があった。
見舞いに来てくれた人、それがそのままイコール友達?
少なくとも来てくれるという誠意があるのだし、これはもう友達としか言い様がない。だが、この認識も間違っていると気付くのは……それは、もう登校しても良い状態になってからであった。
クラスの全員が心配してくれていたのだ。
「ヤマさん大丈夫だった?」「私たちも心配してたんだよ?」「見舞い行けなくてほんっとゴメン」皆が、一声かけてくれて……それは嬉しい事だった。
山岡は自分がなんと愚かだったのかと後悔した。
そう、クラスメイト全員……友達じゃないか。
自分から友達だと名乗って微妙な顔をされる事よりも、相手にそんな想いをさせてしまう方がよっぽど失礼だし心が狭いんじゃないか。
山岡は思う、これからは……知り合ったやつはみんな友達だって名乗ろうと。
読んで頂きありがとうございます!
実は実話なんです……90%程。<これが本当のオチ。