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【旧版】魔法世界の錬金術士  作者: エナ・フリージア
国境都市レインフォード
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A-006 国立図書館

「ここがレインフォード国立図書館よ」


 冒険者登録を終えた僕は、フレアさん、アリスさんと一緒に図書館を訪れていた。


「国立なんですね」

「貿易で発展した街だからね、商人達のために資料が必要だったのよ」

「なるほど」

「おかげで蔵書数は十万冊にも及ぶわ。たしかグレイス帝国で書かれた本の数に関しては首都の図書館よりも上だったはずよ。最近では、魔法石の採掘権を争いで交易が止まってしまっているけど……昔のルミナスとグレイスはもっと仲が良かったって聞いてるわ」

「十万冊……」


 たしか、市立図書館の平均がそのくらいだったか。

 星戸学院連合の図書館は一千万とか聞いたような気がする。

 最近は電子化で数が減っているという話だけど……。

 それはともかく、印刷技術のほうはわりと発展しているみたいだ。


「ルート、行きますよ」


 そんなことを考えていたら、フレアさん達が図書館の中に入ってしまっていた。

 アリスさんに呼ばれてあわてて後を追いかける。


「あ、すぐ行きます」


 図書館の入り口には改札のようなゲートが存在していた。

 ここでは入場と持ち出しのチェックを行っている。

 他の部分も、僕の知っている図書館と比べて特に違いはない。


「ようこそいらっしゃいました、レインフォード国立図書館へようこそ。ここで入館証の確認をさせていただきます」

「えっと、入館証の作成をお願いします」


 ゲートのチェックをしている係員の青年に話しかける。


「了解しました。利用者の方には年間一万ルクスを図書館の維持費としてお支払い頂いておりますがよろしいでしょうか?」

「はい、これでお願いします」


 ここに来る途中でフレアさんにもらった金貨を手渡す。

 この世界で使われている通貨は主に銅貨、銀貨、金貨の三つだ。

 それぞれが日本で言う一円玉、百円玉、一万円札に相当する。

 高額の取引では別のものが使われるらしいが、僕には関係ないかな。


「こちらが入館証になります。裏面に有効期限が記載されていますのでご確認ください。紛失された場合も新規扱いとなり、期限内であっても同様の金額が必要となります」

「わかりました」

「では、こちらからお入りください」


 入口のゲートを通り、図書館に入った僕は真っ先にある場所へと向かった。


「あー、そういえばそうだったわね」

「絵本コーナー……ですか?」


 ギルドの受付のやり取りを知っているフレアさんは納得した様子だが、あの時、二階に残っていたアリスさんには意味が分からないようだ。


「実は文字が読めないんですよね」

「そうでしたか」


 この世界の識字率はあまり高くない。

 ただし、決して低いわけでもなかった。

 冒険者は依頼を探すのに読み書きは必要だし、貴族達も当然のごとく習得している。

 自分で作った設定と矛盾しているが、勉強をサボったと説明して事なきを得た。

 研究は実験主体だったことにするしかない。


「とりあえずこれにしよう」


 一番目立つ場所に置いてあった本を適当に取り出す。

 表紙には剣を持った青年が何かと戦っている様子が描かれている。

 そして、青年の周りを色とりどりの光が囲んでいた。


「なるほど、『エレメンタルマスター』ですか」

「子供でも知っている有名な伝説ね」

「読み上げてもらっていいですか?」


 内容はありきたりなもので、精霊と勇者が魔王を倒しに行くという話だった。


『むかし わるいまおうがいて みんなかなしんでいました』

『あるとき まおうをたおすため ゆうしゃがあらわれました』

『ゆうしゃは すべてのせいれいと ともだちでした』

『ゆうしゃとせいれいは ちからをあわせて まおうとたたかいます』

『やみのせいれい だむどは まおうのかくれる やみのせかいをおしえます』

『ひかりのせいれい るーちぇは くらくてみえない やみのせかいをてらします』

『ちからのせいれい きねしすは そらのつばさで きぼうのゆうしゃをたすけます』

『いやしのせいれい あしすたは つよいおもいで きぼうのゆうしゃをまもります』

『いかずちのせいれい えりくしーるは かみのいかりで やみのまおうをとめます』

『きぼうのゆうしゃ じぇねしすは みんなのねがいで やみのまおうをたおします』

『ほのおのせいれい いふりーとは じこくのごうかで やみのまおうをもやします』

『だいちのせいれい のーむは まおうのはいから あらたなだいちをつくります』

『みずのせいれい うんでぃーねは あらたなだいちに めぐみのあめをふらせます』

『かぜのせいれい しるふぃーどは あらたなだいちに いのちのもとをはこびます』

『まほうのせいれい あいりすは あらたないのちに まほうのちからをあたえます』

『ゆうしゃとせいれいは あらたなせかいで しあわせにくらしました』


 パタリ──本を閉じる音が辺りに響いた。

 いたよエリクシール……、本当に五大精霊に入ってたんだ。

 新たな世界という描写が出ている点からして、創造神話みたいなものか?

 詳細な描写は避けられているが、かなりの人間が死んでいる様子も描かれている。

 残った人間はごく一部だけ。

 そう考えるとノアの箱舟に近い話のようにも聞こえるな。

 さて、問題の文字の読み書きについてだ。


「簡単じゃないですかー」


 幸いなことに、発音と文字とが対応する表音文字が使われていた。

 要するに、ひらがなやカタカナのように使う文字のことだ。

 文字の数も全部で数十文字程度で、英語のように単語を覚える必要もなかった。

 もちろん、漢字にあたるものも存在しない。


「フレアさん、アリスさん。僕が本を読み上げるから正しいか確認してくれますか」

「わかったわ」

「了解しました」


 棚から数冊の本を選んで読み上げていく。

 すらすら読めるようになるまでは少し時間がかかった。

 全部ひらがなで書かれた文章を想像してもらえれば分かると思うが、区切りが分からなくて非常に読みづらいのだ。

 本によっては適度に空白が入れてあって読みやすくなっているので、ここが作家の腕の見せどころだというわけなのだろう。


「もう完璧ね。そろそろ本来の目的を果たしましょうか」

「はい」

「薬草関連の書籍はこちらです。ついてきてください」


 二人に付き添われ、薬草について書かれている本をいくつか選ぶ。


「へぇー。薬草をいくつか混ぜ合わせてポーションを作るんですね」

「薬草の組み合わせや量によって色々な効果のポーションができるのよ」

「効果の高いポーションの配合については錬金術士が秘匿しているのです。また、そこに書かれている方法も専門的な知識と技術がないとなかなか成功しません」

「それが原因で品不足に陥っているというわけですか」


 主な薬草の見た目とその効能を頭に詰め込んでいく。

 正直、有用な薬草を覚えるのには一時間もかからなかったが、よく似た毒草もいくつか存在していて、見分け方を調べるのに時間を取られてしまった。


「よし、大体わかりました」

「まだ三時間もたってないじゃない」

「試してみましょうか。ルート、この薬草の効果は分かりますか?」

「えーっと……、これ薬草じゃなくて毒草では? よく似てるけど葉っぱの先がギザギザしてるのが特徴だったような。死にはしないけど、間違えて使うと麻痺して動けなくなるから気を付けないといけないって書いてありました」

「あら、引っかかりませんでしたね」

「意外だわ」

「なんか僕の扱いひどくないです?」

「いえ、この毒草はレインフォード近くに生息していないから良いのですが、専門家でもたまに間違えるほどには判別が難しいのです」

「もしかして。ルートって意外と優秀?」

「それなりにできるほうだと自負してはいますが……」

「これは期待できそうかしらね」


 あとは基本的なポーションの調合方法をメモして図書館を後にした。


「そうだ、ルートにはこれを」


 外に出たところで、フレアさん達に金貨三枚とポーションを渡された。


「これは?」

「ポーション作るにも道具が必要でしょ? 今回は私の貸しにしておくわ」

「本当ですか? ありがとうございます!」

「それじゃ、私達にも予定があるからここでお別れね」

「ポーション作成の依頼は近々ギルドに申請しておきます」

「はい! 色々とお世話になりました」

「言っておくけど、借り逃げなんかしたら容赦ないわよ?」

「だから、僕を何だと思ってるんですかね……」


 でも、なんだかんだいってフレアさんたちはとてもいい人だったな。

 僕を助けてくれた上にお金まで貸してくれるとは。

 実は、お金持ちだったりするのかもしれない。

 たしかに、あの強さならありえないことでもないかな。

 ポケットに入っている金貨をいじりつつ冒険者ギルドへ足を運ぶ。

 とりあえず、しばらくはあそこを拠点にしてポーションを作ってみよう。


「こんにちは、冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか」

「宿泊をお願いします。とりあえず十日ほど」

「宿泊ですか。めずらしいですね」

「そうなんですか?」

「はい。ギルドの宿泊料が宿屋より若干安いのは確かなのですが、食事が出ないのです。大抵の宿屋は食事と宿泊をセットして安く提供しているので、食費まで考慮するとギルドの方が高く付いてしまうといった場合が多いのですよ」

「うーん。でも、まだ街の地理がよく分かってないのでしばらくここでお願いします」

「わかりました。初日が四千ルクスで、以後一日につき二千ルクスが追加となります」

「はいー」


 部屋を確保したところで、ギルドと街を何度か往復して道具を集めに走った。

 試験管やビーカーなどの実験器具の代わりにできそうなものを探し、理科室を再現してみた僕の判断は間違ってないと思う。


「そうだ、完成品をもらったんだった。お手本をチェックしておこうかな」


 ポーションのふたをあけ、軽く口に含んでみる。


「────!?」


 ありえない。ありえない味だった。

 具体的に言うと草をすりつぶして水に溶いたような味に近い。

 むしろそのままのような?

 どうやったらこんな味になるのか。

 試しに道具と一緒に買ってきた薬草を使い、本の通りに作業を行ってみる。


「まずは薬草をすりつぶして」


 数種類の薬草を順番にすりつぶしていく。

 草の持つ独特の匂いが部屋に広がった。


「そして煮出していくのか。あれ、この薬草だけは水出しなんだ?」


 薬草によっては熱を加えてはいけないものがあるらしい。


「最後にこれを混ぜ合わせて、粗めの網で残った草を取り除けば完成……っと」


 こうして出来上がったのは、濁った緑色のドロッとした液体だった。


「ちょっとこれは……これで完成なの?」


 効果を確認するため、試しに軽く腕を切りつけてからポーションを飲んでみる。


「いたっ……うえぇ……」


 痛い、不味いの二重苦だった。

 しばらくして傷の修復が始まる。

 ポーションというのは飲んだ瞬間に怪我が治るというものではなく、体に吸収されるまでに時間差があるのだと書いてあった。

 効果が出始めてからも目に見える速度で回復するというわけではないが、三十分くらいたった頃には傷は完全にわからなくなっていた。


「効果はバッチリだし、うまく作れたみたいでよかった」


 薬草を煮出す時間や温度調整がそこそこ難しかったくらいか。


「さて」


 元の世界にはこんな便利な薬は存在しなかったはずだ。物理法則が同じだということは分かっているので、ポーションには魔法的な要素が働いているとみていいだろう。

 ただ、温度や時間が関係しているということは特定の物質に魔法の力が付与されていると考えるべきで、僕の持っている化学の知識がある程度役に立つはずだった。


「この程度で満足しているなんて許せない。なにより味がひどいし……」


 魔法が織りなす未知なる技術、それが僕の好奇心に火をつけた。


「絶対に有効成分だけを取り出してやる」


 目指すのは、栄養ドリンクのような飲みやすい味。


「さぁ、実験をはじめよう」

2014.01.12 レイアウト修正

2014.01.14 全体的に改行を調整

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