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【旧版】魔法世界の錬金術士  作者: エナ・フリージア
国境都市レインフォード
15/25

A-015 召集命令

 魔法──それは紛れも無く自然法則に縛られた事象の一部である。純粋なエネルギー体なのか質量も大きさも測定不可能ではあるが、そこには確かに情報量が存在している。

 恐らくは物理的な実体に付属し、化学反応と同じく様々な組み合わせで効果を発揮する魔法はさながらプログラムのような、いや、それこそが本質なのかもしれない。

 つまり、何が言いたいかというと必ずしも魔法は万能ではないということだ。使用者の心を反映するため極めて自由度が高いが、定められた限界を超えることはできない。


「マジックポーションが完成したのはいいけど……」


 エリクシールに教えてもらった魔力回復用ポーションの作成、作業自体は大した問題が発生することもなく順調に進んだ。

 通常のポーションに比べるとやはりレシピは秘匿されている傾向にあったが、断片的な情報が集まればある程度の補完は可能だからね。

 そうそう、ポーションの種類が増えたので名前も少し変えることにした。ジェネリックポーションは総称となり、商品名はヒールポーションとマジックポーションになる。


「だけど、まさか自分だけがその恩恵を受けられないとはなぁ」


 さて、ヒールポーションと同じく、マジックポーションの効果も長時間に渡り持続的に発揮される。これが悩みの原因だった。

 自身の持つ魔力が周囲の環境と同期するという特性は、街中で魔力を回復したところですぐに流出してしまうということでもある。

 時間当たりの回復量をもう少し高められれば簡単な魔法くらいなら使えるようになると思うのだが、近頃は忙しくてなかなか改良に取り掛かれていない。


「ルートさん。マジックポーションをお願いします」


 おっと、別のことを考えてる場合じゃなかった。今は手伝いに集中しなくては。


「あ、さっき渡したので全部だ。もう売り切れちゃった?」

「はい」

「うーん、明日からは購入制限を三個にしようか」

「わかりました」


 ルルは先程から店中をせわしなく歩き回っている。半月ほど前までお客さんがほとんど入っていなかったこのお店も、今や立派に人気店の仲間入りを果たした。

 当初はポーションだけを買いに来る人も多かったのだが、ルルがぜひお母さんの料理も食べていってもらいたいと話していたので、少し付加価値を付け加えてみたのだ。

 つまりは、「料理を頼んだ人にはポーションを一割引で販売」とのサービスを実施してポーションを買いに来た人をそのまま引き込んだのである。

 結果人手が足りなくなるのは当然の流れで、夕食時にはルルは接客、僕は会計の仕事を担当することになったのがここ数日の出来事だった。


「ルルちゃんは今日もカワイイねぇ」

「ありがとうございます!」

「正直、ルルちゃんを見に毎日ここに来てるといってもいいぐらいだ」

「えっ?」

「お前それ本当かよ」

「俺は本気だっ! ぜひ付き合ってくれ!」

「あっ、うぅ……」

「やめろバカ、ルルちゃんが困ってるじゃないか」

「こいつ酔ってるだけだから、気にしないでいいよ」

「全くだ。そもそも歳が違いすぎる。オレは断然ララさん派だな」

「おい、ララさんは既婚者だろ」

「違いねぇ」

「オレはあきらめないぞ」

「だめだこいつ」

「がっはっはっは」


 今日も変わらず、楽しそうにトークを交わす常連四人組にルルが巻き込まれていた。

 ハーフアニマであるルルとも分け隔てなく接してくれているし、話の内容も冗談半分で言っているだけなので放っておいても大丈夫だろう。


「そういうてめぇはどうなんだよ」

「俺か? 別にその二人には興味無いぞ?」

「なんだよつまらねぇ」

「もっと人生を楽しまなきゃいかんぞ」

「いやいや、俺にだって気になるやつくらいは……」


 うん、彼から意味深な視線を感じる。深く考えないほうがいいよね。

 ポーションを渡すときやたら接触が多い気もしていたが、きっと偶然だろうなぁ。


「ご来店ありがとうございました」

「またきてくださいね」


 しばらくして、本日最後のお客さんを見送り閉店を迎えると、僕達は二階の実験室へと移動してポーションの作成に取り掛かった。

 製薬作業は大体半日で終わるため、ポーションの販売は朝と夜をメインに行っている。最近、あまりにもここでの作業が多いためギルドの宿泊をキャンセルしてルルの家の空き部屋を貸してもらえることになった。

 黙々と仕事をこなし、明日売る予定のポーションが完成させられるよう仕込みを終えて少し休んでいると、一階からララさんの声が聞こえてきた。


「ルートさん、お客様がいらしてますよ」

「僕にですか?」

「えぇ、ギルドの職員の方みたいだけれど」

「わかりました。すぐいきます」


 ギルドからと聞いてなんとなく予想はついていたが、一階で待っていたのはフレアさんとアリスさん、そして意外にも受付のリサさんの三名だった。


「珍しい組み合わせですね。何の用でしょうか?」


 面倒ごとが持ち込まれそうな気配を感じつつも話を促してみる。

 最初に口を開いたのはリサさんだった。ギルドからの連絡があるらしい。


「本日、ギルドでは緊急依頼への参加要請を発令いたしました」

「緊急依頼というのは?」

「極めて優先度の高い依頼のことです。緊急依頼の対象者は他の依頼の成功報酬が七十五パーセントまで低下し、現在受注している依頼を無条件に破棄して緊急依頼へと変更することができます」

「なるほど」

「今回の緊急依頼は大量発生した魔物の討伐、対象者はランクC以上です」

「しかし、ランクFである僕に頼みたいことがあるということですか」

「えぇ、その通りです」


 冒険者のランクは完了した依頼の難易度に応じて上昇する。

 当然、ポーションの作成以外何もしてこなかった僕は初期値のままだ。


「詳細については、依頼者の方から直接お聞きください」

「何かと縁があるわね、ルート」

「そうですね」

「実はあなたに折り入って頼みたいことがあるのだけど……」

「結局、何が起こってるんです?」

「まずはそこからでしょうね。アリス、説明をお願い」

「かしこまりました」


 同時に、アリスさんは大きな紙を取り出して机の上に広げる。周辺の地図のようだ。

 精度は微妙だが、おおよその位置関係が分かるようになっているので商人や冒険者には必須の代物らしい。


「三ヶ月ほど前のことです。レインフォード北部に位置するノーザリスの森で魔物の目撃情報が多発するようになったのが始まりでした」

「魔物というのは、この前のビックフットみたいなやつですよね」

「その通りです。しかしながら、ノーザリスの森に生息する凶暴な野生動物が魔物化した場合、危険度はビッグフットとは比較にならないでしょう」

「すぐには討伐しに行かなかったのですか?」

「いいえ。先程申し上げたように目撃情報が多発しているのです。魔物は一匹や二匹ではありませんでした。おそらく、魔物化の原因となる何らかの要素を孕んでいるのかと」

「大規模な討伐依頼の裏で調査を行うというわけですか」

「原因究明に越したことはありません。ですが、実際は魔物がこれ以上増え続けないよう時間稼ぎをする意味合いが強いのです。先日ルートさんが出会ったビックフットも、魔物同士の縄張り争いで追い出された個体のようでした」


 ふむふむ、状況は大体分かった。だけど僕に依頼する内容があるようにも思えない。

 魔物化の原因の調査はどちらかといえば魔術士や魔法学者に頼むべきだし、戦力として参加するにしてもビッグフットに後れを取っているようでは話にならない。


「アリス、そのくらいでいいわ。ありがとう」

「はい」

「それで、僕に何をやらせたいんです?」

「作業自体はいつもと同じポーションの作成よ。ただし、現地に行ってもらいたいの」

「討伐隊のバックアップですか」

「そういうことね。ノーザリスの森までは最低でも三日は掛かるし、現地での活動は十日以上を予定しているからポーションの供給がどうしても足りなくなるのよ」

「うーん」

「幸い薬草は現地にも生えているようだし、曲がりなりにも魔物を行動不能に至らしめたあなたならきっと、私達についてこられるだけの能力を持っていると信じているわ」


 彼女達には助けられた恩もあることだし、出来るだけ力になってあげたいと思う。

 でも、長期間の野営生活なんて経験したことないし、命の保障があるとも限らない。


「少し、考えさせてもらってもいいですか」


 重苦しい雰囲気の中、とりあえず結論を先延ばしにしようと言葉を発する。


「残念だけどルート、最初からあなたに選択肢は無いのよ」


 ところが、葛藤する僕に突きつけられたのはフレアさんの否定の言葉だった。


「現在、聖属性魔法が使える魔術士に対して召集命令が出されています」

「はぁ」

「そして、錬金術士の中でもルートさんだけには同様の措置が取られました」


 リサさんの淡々と読み上げる事務的な連絡が耳から耳へと通り過ぎていく

 そうか、ポーションを大量に集めていた理由はこの依頼のためだったのか。

 まてまてまて。錬金術士全員ではなく僕個人に召集が掛かっているだと?

 依頼者は彼女達で間違いない。しかも、命令を出せる立場の人物だという。


「参考までに聞きますが、命令を無視した場合は?」

「そうね、捕縛されたり命を狙われる事態にはならないとは思うけど」

「おそらく、レインフォードには居られなくなるでしょう」

「うわぁ」

「冒険者としての信頼度も下がるので依頼も受けづらくなります」

「まじですか」

「本当ならこんな方法は取りたくないのだけれど、私には皆を守る責任があるのよ」

「二つ名を持つ冒険者として、ということですか?」

「本陣の守りには万全を期すし、出発までに戦闘での立ち回りも教える用意もある」

「…………」

「回復魔法は人数の関係から本陣でしか使用できない。戦闘中の冒険者の傷を癒す手段はあなたの作るポーションしか思いつかないのよ」

「錬金術士なら他にもいるはずです。何故僕だけなのでしょうか」

「長旅に耐えられるだけの若さを持つ錬金術士はこの街に一人しかいないの」

「なるほどね」

「だからお願い。街を守るために戦う冒険者達にあなたの力を!」


 三人の真剣な眼差しが僕に突き刺さる。とても断れる雰囲気ではなかった。

 それに、ポーションを買いに来てくれた冒険者の人たちの助けになりたいという気持ちは僕も同じだ。

 迷ったならとりあえず挑戦してみよう。なぜなら、僕達はいつもそうやって前に進んできたのだから。


「わかりました。任せてください」


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