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【旧版】魔法世界の錬金術士  作者: エナ・フリージア
国境都市レインフォード
13/25

A-013 森の中で3

 あれから数日、無事、ポーション作りをルルに押し付け、じゃなかった、伝授した僕はいつもの広場でジェネリックポーションの販売に勤しんでいた。


「ポーション五つですね。いつもありがとうございます。明日から販売場所を変えるので間違ってここに来ないようにしてくださいね!」


 ルルのお父さんが使っていた部屋を借りることになり、生産できるポーションの総量が大きく増加したことから、売り切れるまでには結構な時間が掛かるようになった。

 そこでルルの希望通りにポーションの販売も彼女の家で行うことにし、僕はお客さんにお店が移動することを伝えながら出張販売を行っていたというわけである。


「ただいまー」

「おかえりなさい、ルートさん」

「常連の人には大体伝わったと思う。後は口コミでなんとかなるでしょ」

「そうですね。今日はこちらにも何名か来てもらえました」

「良かった、大丈夫みたい。じゃ、ちょっと二階で作業してくるね」

「わかりました」


 ルルのポーション作りの腕前については、なんというか、成功率は三割に留まる。

 そんなわけで、しばらくの間は用意した材料の半分をルルが使用し、残りの半分を僕が担当することで全体の数を確保することにした。

 もっとも、ポーション作りには簡単かつ時間の掛かる作業が多く、そういった部分なら彼女にも十分こなせるため、僕はほとんどの作業から解放されていた。


「ここをこうして……。よし、こんなものかな」


 完成したポーションを目測にて正確に五十ミリリットルずつ注いでいく。

 今日の成果は四百本。近頃は供給も安定してきたので即完売といった事態になることは少なくなったが、冒険者達がポーションの使用を極力控えた末の結果であるので絶対的な必要量にはまだ達していない。

 しばらくはルルの成長と、街に住む錬金術士達の反応を待ったほうがいいだろう。

 さて、ここで重要なのは、今までずっと一人でポーションを作り続けていた僕の負担が軽減され、晴れてまとまった自由時間を取れるようになったということだ。

 そろそろ頼んでいた弓を受け取りに行きたい。あれからすでに十日は経過している。

 完成したポーションを持って1階へと移動し、ルルに渡して在庫に加えてもらう。

 ちなみにララさんはやはり、カウンター席の奥にある厨房で鍋をかき回していた。


「お出かけですか?」

「うん、ちょっといってくる」

「気をつけてくださいね」

「了解。閉店の時間までには帰ると思うから」

「はーい!」


 僕は表に出るとそのまま裏通りを何本か抜け、先日訪れた武器屋へと足を運んだ。

 相変わらず高そうな装備品の並ぶ店内には、ほのかに鉄と油の匂いが漂っている。


「おう、お前さんか」

「こんにちは」

「品はとっくに出来てる。ちょっとまってな」


 それからしばらく、グリッドさんが併設されている工房から運び出してきたのは、僕の身長の半分に届くかといった大きさの銀色の弓。恐らくは鉄を主体とした合金製。

 滑車を用いた構造によって使用者の負荷を軽減し、高い命中精度を誇るその弓は、元の世界においてコンパウンドボウという名で広く認識されていた一品だった。


「すばらしい出来ですね」

「ひさびさにいい仕事をさせてもらったわい」

「手にとってみても大丈夫ですか?」

「もちろんだ。なんなら今すぐにでも使い始められる」


 グリッドさんから材質や手入れについて軽く説明を受け、実際に弓を構えてみる。

 やはり鉄を多く使っているためか、想像以上に重い。小さめに作って正解だった。

 だが、弓の強さはちょうどいいくらいだ。飛距離は最大で二百メートルほどか?


「材料が余ったから矢は多めに作っておいた。こいつはサービスだ」

「ありがとうございます」

「しっかし、ずいぶん面白い形をした矢だのう」

「えぇ、私は錬金術士ですので。それなりの戦い方をしようかと」

「そうかい」

「では、早速ですが試し撃ちにいってきます」

「おうよ。気をつけてな」


 手に入れた弓を携え、部屋に戻り装備を整えてから街の東へと向かう。

 精霊の森までは大した距離ではないが、ルルのように草原でいきなり襲われるといったケースも存在するので油断は禁物だ。実際、盗賊に遭遇したくらいだからな……。

 まぁ、さすがにそんなことが何度も起こるはずもなく、今回は無事草原を抜けることができた。だが、自然豊かな精霊の森には野生動物が多数生息している。ここからが本番というべきだろう。いきなり狼に襲われそうになった出来事は記憶に新しい。


「よし、いくか」


 一度気分を落ち着かせ、装備をしっかりと確認してから森の中へと歩みを進める。

 ほどなくして、はるか遠方で以前襲われそうになった黒い狼、シャドーウルフの群れが移動しているのが見つけた。以前ならば絶対気づかなかった距離だが、今は話が違う。

 体内を循環する計算機であるNGEは、使用者の緊張状態──より正確には、その結果分泌されたアドレナリン──を検知して警戒を強め、視界の端に映るわずかな影でさえも逃さずに僕へと知らせてくれる。


「──っ!」


 その姿に、初めてこの世界に来た日の記憶が呼び起こされ、思わず体が強張る。

 だが、ここでリベンジとさせてもらおう。早速、静かに弓を引いて狙いを定める。

 強力な環境認識と身体制御の恩恵により、放たれた矢はもはや必中とさえいえる動きでシャドーウルフに襲い掛かる。

 初撃は頭に命中、完全に致命傷だ。こう考えると魔物化したビッグフットがいかに異常だったかを思い知らされる。平気な顔して追いかけてたからなぁ……。

 攻撃に気づいたシャドーウルフ達は大きく動き回り、二撃目はむなしく空を切った。

 三撃目は行動パターンを学習しての予測攻撃、腹部に命中する。絶命こそしなかったが動きを封じることに成功した。

 四撃目、群れの一匹がこちらの存在に気づいた。すぐさま沈黙させるも時すでに遅く、群れ全体が僕との距離を詰めながら前進をはじめる。


「まずいな……」


 シャドーウルフの三割を仕留めた頃、群れとの距離は当初の半分にまで縮まっていた。このペースでは僕が襲い掛かられるのも時間の問題だろう。

 いまさらになって後悔の念を抱くも、もはや敵を倒すしか道は残されていない。

 練習を重ねてきたとはいえ、一人で挑むにはこの森は難易度が高すぎたのだろう。

 残りの距離が三十メートルを切った。敵の数は、まだ半分しか倒しきれていない。


「そろそろ限界か」


 最初から、弓だけで倒しきれるとは思っていなかった。

 武器を折りたたんで腰へと戻し、精神を集中させる。

 少し前から感じていた体の変化。

 覚えているだろうか、この森が魔力に満ちているということを。

 すなわち、ここでなら僕にも魔法が使えるということを!


【サンダーストーム】


 天を切り裂くような閃光、そして轟音。一瞬にして周囲は焦土と化した。

 またやらかしてしまったらしい。緊張しすぎて威力の調整にまで気が回らなかった。

 樹木は黒く焼け焦げて炭化し、生えていた草は吹き飛ばされて土が顔を出している。

 改めて魔法の威力を目の当たりにし、若干引きながらもこの惨状をどうしようかと頭を悩ませていた時、背後から聞き覚えのある声が投げかけられた。


「なにが起こったのかと思ったら……」

「ん?」

「やっぱり君かぁ。相変わらずめちゃくちゃな魔法使ってるねぇ」

「あぁ、エリクシールか」

「久しぶりだねー。えっと、えーっと……」

「流渡だよ」

「そうそれ! 今日は何しに来たの?」

「ちょっと魔法を試しにね」

「ふーん。やっぱり街では魔法使えなかったんだ」

「エリクシールの予想通りだね」

「あれからどう? 上手くやっていけてる?」

「それがなぜか、錬金術士としてポーションを作ったら大儲けしまして」

「やるねぇ……。ルートって意外と優秀?」

「元の世界ではそれなりには頑張ってたほうかなぁ」

「ほえー」

「で、この惨状ですがどうしたらいでしょうか」

「どうしようもないんじゃない?」

「ですよねー」

「まぁ、この辺は魔力多いしほっとけばそのうち何とかなるでしょ」

「そういうものなんだ」

「そういうものなのです!」


 ここにいても何の解決にもならないらしいので、エリクシールの後を追いながら適当に森の中を散策することにする。

 彼女も話し相手に飢えているのか、レインフォードについてあれやこれやとさっきから質問を連発してきた。


「へぇ、フレアと会ったんだ」

「そっか、雷属性の使い手は珍しいんだっけ」

「そうなんだよねぇ」

「フレアさんともよく話したりするの?」

「えっ、そもそもフレアは私の姿を認識できないんだけど」

「そうなの? じゃぁ何で知ってるのさ」

「これが彼女の先祖の人とちょっと縁があったんだよねー」

「つまりエリクシールが一方的に気にかけてるだけなのか」

「うーん、もうちょっと頑張ってくれれば見えるようになると思うんだけどなぁ」

「まぁ、電気を直感で理解しろというのも無理な話かと」

「私自身も完全に理解できてないくらいだしね!」

「いいのかそれ……」


 雷の最高精霊がこんなので大丈夫なのだろうか。

 若干この世界の命運に不安を感じつつ周りを眺めていると、ふと、森の中ではそれほど存在しないであろう赤い物体が木にぶら下がっているのを見つけた


「おぉ、なんか木の実が成ってる。食べられるかなぁ」

「どれどれー?」

「右側の……、説明がめんどいな。こんな感じか?」


【ウィンドカッター】


 風の刃を飛ばし、リンゴによく似た何かを切断して空中キャッチを決める。


「それなら食べて大丈夫ー」

「どれどれ……。うん、甘くておいしいね」

「へぇー、ルートって風属性も使えるんだ」

「実は全部使えたりしないかな?」

「それはさすがに」


【ファイアボール】

【アクアウェイブ】

【アーススパイク】


 すでに成功していた雷と風に続き、火、水、地属性の魔法を連続で発動させる。

 威力を極限まで抑えられた攻撃魔法が、近くの樹木に微妙なダメージを与えた。


「なんか大丈夫っぽい」

「うわぁ」

「これってすごいことなの?」

「普通、自然属性を三種類も使えれば一流の魔術士を名乗れるんだよ」

「くっ、なぜここでしか魔法が使えないんだろうか」

「まぁまぁ」

「他の属性は何があるん……、あれ?」

「どうしたの?」

「いやさ、さっきからあの辺の木の陰でチカチカしてる光は何だろうと思って」

「はい……?」

「ほらあれ、なんか光ってない?」

「…………」

「えっと、気のせい?」


 なにかまずいことを聞いてしまったのか、エリクシールからの反応が途絶えた。

 彼女の目の前で手を振ってみたりしてみてもぴたりを固まったまま動く気配が無い。


「もしもーし?」

「…………」

「エリクシールさんはいらっしゃいませんかー!?」


 急に黙り込んでしまった彼女が返事をするまで、それから五分の時間を要した。

2014.04.23 本文修正

「基本属性」⇒「自然属性」

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