若き赤狼は黙り込む2
今日もいい天気だな。
まあ、一日王宮内だから関係ないけどね。
「レーイド公、お連れ様方、国王陛下がお会いになりますこちらへどうぞ。」
穏やかそうに見える笑みで侍従が言った。
まあ内心はなにを考えているか分からないが。
ルーリーナ王宮は木造5階建ての建物で無秩序な増築のせいで慣れないものにはわかりづらい構造になっている。
大昔の石造りの領主の屋敷が手狭になったので作り足していったと習ったが。
まあそんなの関係ないやそれよりはぐれないようにしないとね。
王宮の廊下からルリの森が見える。
初代女王クレハ・ルーリーナ・アルファンガス・宇水陛下が故郷のブルー・ルリーナを偲んで植えさせたそうだけど青緑の葉っぱがきれいだな。
「おいカル、はぐれるぞ。」
アンリが小声で言った。
今日のアンリはオレンジの布地に銀の刺繍のたて襟膝たけ横スリットの長袖長衣に細身のズボンの正装で筋肉質の身体を包んでいる。
一方、私は紫がかった赤い布地に金の刺繍で形はアンリとほぼ同じだけど丈がもう少し長くてスリットが後ろの違いがある。
「すまん。」
私も小声で謝った。
王宮内にはどこに目と耳があるかわからないからね。
今も廊下の端によって綺麗に礼をしてる侍女とか侍従とかいるけど表情はうかがい知れないし。
謁見室の壁には光の木と実の国旗のタペストリーが飾られていた。
その前の木製の光の木の彫刻を施され玉座にお祖父様と同じくらいの人間の血が強い当代国王陛下ルカ・ルーリーナ様が腰かけていた。
「キルディス殿久しいな。」
国王陛下がやっぱり真意が分からない笑みで迎えた。
「ルカ陛下ご健勝そうで何よりでございます。」
お祖父様がかっちりとした動きで赤狼の最敬礼をしたのでそれに習った。
「うむ、してその若き赤狼たちはそなたの孫たちであったか?」
国王陛下が言った。
「はい、孫のカルティスとその未来の腹心アンリでごさいます。」
お祖父様がそういって少し横にどいた。
自分で挨拶せよと言うことらしい。
「カルティス・レーイドともうします。」
赤狼の最敬礼をもう一度とった。
これで大丈夫かな?
国王陛下の眼力が半端ないんですが。
だけど赤狼の次代若長として怯えちゃダメだよね。
「アンリ・ピリルダともうします。」
アンリも無難に最敬礼をした。
「次代を支える若者がいて頼もしいな。」
国王陛下がやっぱり真意が分からない笑いを浮かべた。
「ありがとうございます。」
お祖父様がそういって最敬礼をしたので一緒に最敬礼をした。
「ゆっくりしていくがよい。」
国王陛下が言った。
ゆっくりするかどうかはお祖父様しだいだ。
多分他種族との情報交換をするつもりなんだろう。
謁見室をでて廊下を歩いているとやはり集落いると会えない他の一族が沢山いる。
緑竜一族の男性は鱗がキラキラしている。
あの鱗は抜けたりしないんだろうか?
抜けるなら妹たちのお土産に買いたいくらい綺麗だ。
時間をつくってお土産も買いにいかないとな。
「キルディス殿、今回は孫をお連れだそうだな。」
緑竜の男性が立ち止まって言った。
「シオン殿孫のカルティスとその未来の腹心アンリだ、これから度々連れてくる予定だよろしく頼む。」
お祖父様が心よりの笑みを浮かべたから気を許していい相手なのだろう。
「カルティス・レーイドともうします。」
私は頭を下げた。
「アンリ・ピリルダです。」
アンリも一緒に頭を下げた。
「カルティス君はキルディス殿の若い頃によくにているな。」
シオン殿が笑った。
緑の鱗が光を反射してキラキラしている。
「そうだな、カルティスはガルファスよりわしににているやも知れない。」
お祖父様がそういって私の頭を荒っぽく撫でた。
耳もかき回されて痛いが男は我慢だ。
「変わったことはないですか?シオン殿。」
お祖父様が眼光鋭く聞いた。
「変わったこと…そうですね。」
シオン殿が腕組みをして考え込んだ。
ルリの森の木の葉を透かして光がおどる。
大きな王宮なのに喧騒とは無縁な静けさに
シュルシュルとなにかが這うような音が微かにする。
なんだろう?
「そうだ思い出しました、蛇族のローム公家に『蛇王』が現れたそうです。」
シオン殿がそういいながら視線を廊下の奥に向けた。
蛇王?国王陛下はルカ様だが?
蛇族にそう言う存在がいるのか?
後で調べてみないとな。
シュルシュルというなにかが這うような音が近くなっていく。
私は少し寒気を覚えながらも好奇心にかられて振り向いた。
「蛇王ジャセル殿です。」
シオン殿が小さい声で言った。
廊下の奥の謁見室の方から下半身が蛇の一族が三人連れだってゆっくりと滑るように移動している。
一番手間の青みがかった銀の鱗の若い色気のある切れ長の紫の目の美貌の男性がこちら視線を向けた。
寒気がする。
なんでこんなに寒気するんだろう。
べつに蛇は苦手ではないのに。
ジャセル殿顔に笑みが浮かんだ。
シオン殿とお知り合いなんだろうか?
「ジャセル様なにかございましたか?」
水色の蛇体を持つ青い髪の中年の男が青銀の鱗の若い美貌の男のそばに来て聞いた。
「いえ可愛い狼がいただけですよ。」
若い男、恐らく蛇王ジャセル殿が謎めいた笑みを浮かべていった。
可愛い狼?それは私たちのことか?
それにしても寒気が止まらない。
横目でアンリをみても特に振るえてる様子はない。
私は風邪でもひくのだろうか?
「赤狼のレーイド公たちです。」
もう一人の卵色の蛇体を持つ金の髪の穏やかそうな男性が言った。
「ジャセル殿。」
シオン殿が取り繕った笑みで声をかけた。
「リース殿今日はよい天気ですね。」
ジャセル殿がシュルリとこちらに近づいてきた。
身体が振るえる本能が逃げろとささやく。
そんな失礼なことは次代若長の私にはできない。
「そうですねレーイド公は初めてですか?」
そういってシオン殿がお祖父様の方に視線を向けた。
「はい、紹介していただけますか?」
ジャセル殿がお祖父様をみて微笑んだ。
「キルディス・レーイド公です隣はお孫さんのカルティス殿とその未来の腹心のアンリ殿です。」
シオン殿が手で示しながら言った。
「よろしくお願いいたします。」
お祖父様が軽く頭を下げたので振るえをこらえて一緒に頭を下げた。
ジャセル殿の視線が私を見つめている。
なにか不審なところがあるだろうか?
「よろしくお願いいたします。」
ジャセル殿が優雅にお辞儀をした。
「ジャセル様お時間が。」
卵色の蛇体を持つ金の髪の穏やかそうな男性が促した。
「そうですね。」
ジャセル殿が私から視線を離さず言った。
「行きましょう。」
卵色の蛇体を持つ金の髪の穏やかそうな男性が促した。
「失礼いたします。」
水色の蛇体を持つ青い髪の中年の男がお辞儀をした。
蛇族の一族は動き出した。
シュルシュルという音が遠ざかっていく。
やっと振るえが収まってきた。
「大丈夫か?」
アンリがささやいた。
「ああ。」
なぜあんな気持ちになったんだろう?
自分を抱き締めたい気持ちを拳をにぎってこらえた。
「未熟者め。」
お祖父様が鋭い眼差しで言った。
「蛇族は印象深い一族ですからね。」
シオン殿がフォローしてくださった。
どうしてこんな気持ちになったか分からない。
私はいったいどうしたんだろう?