若き赤狼は黙り込む1
朝日がまぶしい。
満月の次の日の集落はいつも静かだ。
赤狼の集落は岩山を背にルーリーナ獣魔国の西側にある。
その岩山のすぐそばの大きな白い土壁に青い瓦のどこか日本家屋のような木造三階建てが今の我が家だ。
「おはようカルティス。」
お母様が食事の準備の監督をしながら言った。
使用人のイライザさんとアンジーさんが忙しそうに働いてるのが見えた。
私のうちは当代の長でおじい様のキルディスを筆頭にお父さまのガルファス、お母様のメマリー、二つ下の弟のメルファス、三つしたの妹アルシアに私の七人家族でおばあさまは去年死んで少しさびしい。
それにお父さまの腹心でアンリのお父さまのエルゼア・ピリルダおじさんが隣の離れに奥さんのポーシャおばさんとアンリとその妹で双子のミューゼリーとウイセニアと弟のヒイラが住んでいてアンリは未来の私の腹心らしい。
お祖父様の腹心はエルゼアおじさんのお父さまだったらしいけど大分前になくなったんだって。
「まっててね。すぐに出きるから。」
お母様がお皿をだしながら言った。
皿に美しく盛るのは貴婦人のたしなみでアルシアも去年からたまに手伝ってる。
「はい。」
うなづいて席につく。
「坊っちゃんは相変わらず無口ですね。」
ほうっとため息をついてアンジーさんが言った。
「見惚れてる場合じゃないよ!漬物切っとくれ。」
イライザさんが包丁を片手に言った。
イライザさんはお母様がお嫁に来るときに実家の里からつれてきた人でここで旦那さんのジェーラスさんと住み込んでる。
アンジーさんはその娘でお姉さんみたいな人なんだけど。
最近微妙に距離を感じるんだよね。
昔は普通に接してくれたのにな。
「近く王宮に行くカルティスは供をしろ。」
お祖父様がおいても鋭い眼差しで私を見据えて言った。
「はい。」
私はお祖父様の目を見ていった。
最近お祖父様は私をよく公の場に連れていってくださることが多い。
次代若長としての経験させてくれてるみたいだ。
王宮は初めてだけど赤狼の他の集落との交流会にこの間つれていってくれたしな。
おじい様が一番格の高い長で赤狼公レーイド家と言う事に王宮方面ではなってるらしいけどね。
「アンリもお供させてよろしいですか?」
エルゼアおじさんがそうにいうとアンリがげっと顔をした。
アンリは公の場独特の駆け引きが苦手らしい。
お父様の腹心のエルゼアおじさんと私の未来の腹心のアンリは朝食に同席するのは予定を確認するためでもある。
あとはいざというときの対応も含まれているようだ。
「許す。」
お祖父様が言った。
「ありがとうございます。」
エルゼアおじさんがアンリの頭を押さえて下げさせながら言った。
「息子が大きくなると寂しいな。」
お父様がスープをすすりながら言った。
「喜ばしいことではありませんの。」
お母様がきれいな仕草で焼きナスを取り皿にとってお父様の前においた。
「メマリーありがとう。」
お父様がそういって箸をつけた。
赤狼の食事は基本的に日本の食事とにている。
驚くほど肉ばかりじゃないし。
野菜も豊富に食べる。
「大にいさまはいいわね、王宮にいけて私も行きたいわ。」
アルシアが羨ましそうに言った。
「王宮にいって何をする?子供の遊び場ではないぞ。」
お祖父様がいつも通りの固い口調で言った。
王宮に憧れるお年頃なんだよね。
年頃だし、まあ腹の探りあいなんだろうな、実際は。
「アルシアはお子様だな、王宮なんか肩苦しくて仕方ないぞ。」
えばりたい年頃メルティスが人差し指を横に揺らして言った。
「ちいにい様のバカ。」
アルシアが膨れた。
可愛いなぁ…赤い巻き毛のちび幼児が今じゃ美少女なんだから私も歳とるはずたよ。
「メルティス。」
私はメルティスを見据えた。
まったくガキなんだから、まあやや茶色がかった赤毛のお母様に似た少年から青年への微妙なお年頃だしね。
「兄上だってアルシアがお子様なんですよ。」
メルティスが魚をつつきながら言った。
こっちも膨れ気味みたいだ、可愛いな。
「妹を大事にしろ。」
私は自分の皿に視線を戻しながら言った。
「申し訳ございません兄上。」
メルティスが頭を下げたのでうなずいて対応した。
素直で良い子だよ。
「大兄様は優しいわ。」
アルシアが機嫌を直したようで笑った。
二人とも可愛い私の弟と妹だから仲直りしてくれてうれしいな。
前世では一人っ子だったから可愛くて仕方ないよ。
お母様が美しく盛った個別のお皿には卵焼きと白身魚の粕漬けと青菜のお浸しが並んでいる。
大皿は味噌で味付けした焼きナスの皿とカブの漬物の鉢でそれぞれ綺麗盛り込まれている。
炊き立てのご飯とだしのきいた塩味の根菜スープは朝の幸せを映しているようだ。
この幸せを守るためなら腹芸の一つや二つして見るよ。
前世のような寂しい一人での食事をとらずにすむ幸せはなにものにも代えがたいよ。
「正装準備させるわね、丈が足りるかしら?」
お母様が心配そうに言った。
ここ一二年で大分背が伸びたからかな?
「いざとなったらオレのを着ればいいよ。」
お父さまがご飯をたべながら言った。
「あら、あなたのは若者には地味なのよ。」
お母様が言った。
「仕立てさせればよい。」
おじい様がどくだみ茶を飲みながら言った。
「もったいない。」
私は漬物をとりながら言った。
イライザさん特製のカブの浅漬けはパリパリして美味しいんだよね。
正装何かそんなに着ないんだし着られればいいんだよ。
「カルティス、赤狼一族の次代がみっともない格好をすることは一族の恥となる。」
おじい様が鋭い眼差しで見据えた。
「申し訳ございません。」
私は頭を下げた。
そうだよね。
次代若長が汚い恰好じゃ不味いよね。
「アンリはオレの古でいいよな。」
エルゼアおじさんが言った。
「親父~、新調してくれないのかよ。」
アンリが山盛りご飯の器をもって言った。
あんなに山盛り良く入るな。
「アンリの分の新調せよ、理由は同様だ費用はこちらでだすがよい。」
おじい様がどくだみ茶の茶碗をおきながら言った。
「はい、御義父様。」
お母様がどこか嬉しそうに言った。
アンリがげっと言う顔をした。
おくればせながら仕立て時に色々面倒な布あわせがある事に気が付いたらしい。
「愚息までありがとうございます、お前からも言え。」
エルゼアさんがアンリの頭を抑えつけながら言った。
「親父、耳がひしゃげるだろ、ありがとうございます。」
アンリが苦しそうに言った。
よく見るとエルゼアさんによく似た茶色い犬耳がおさえつけられていたそうだ。
あそこは敏感だからな、私も悪さをした時親や大人に引っ張られた時は死ぬかと思った。
「二三日のうちに出発する準備せよ。」
おじい様が言った。
みんな頭をさげた。
私も将来あんな長になれるのかな?
今の幸せを守る為には頑張るしかないよね。
次代若長の品格をきちんともたないとね。