プロローグ 若き赤狼は月を見上げる。
新連載です間違いなく不定期投稿です。
申し訳ございません。
よろしくお願いいたします。
今日も月が綺麗だ。
まるであの日に還ったみたいだ。
一族の集落側のある岩山の上から思った。
満月に照らされて家々の屋根が見える。
「こんな日は遠吠えをしたい気分だなカル。」
幼馴染みのアンリが笑った。
「べつに。」
私は呟いた。
満月が赤狼族の大人たちを照らす。
月に吠えたいのなら吠えればいい。
私は吠えたくない。
あの日を思い出すから。
あの日…端が断崖絶壁の山の道路を駆けていた。
山道を一人あれからおわれるように『私』は駆けていた。
細い道を寒い空のした後ろからあれの気配におわれ逃げていた。
空には満月…そう今日のような。
捕まったら何をされるか分からない。
息の続く限り走った。
捕まった時の恐怖が背中を押した。
『捕まえた。』
あれの手が腕をつかんだ瞬間に私は全身の力で抵抗した。
『暴れちゃダメだよ。』
あれの手が緩んだ瞬間に私は再び駆け出した。
そしてそのまま崖のしたに…。
気がついたら病院だった。
消毒薬の臭い、忙しくうごく人の気配。
助かったでなく助かってしまったと絶望した。
あれに捕まるならしんだほうがましだった。
『あらお目めがあいたんでしゅか?』
誰かがのぞきこんだ。
う、ウサギ耳の看護師さん?
そこにはウサギ耳をした女性がナースジャケットをきて覗き込んでいた。
顔がなんかでかいよ?
ここはどこだろう?なんで赤ちゃんみたいな言葉で?
「うー?」
起き上がろうとしてるのに動けない声が出ない、いや出るけどしゃべれない。
なんか身体が頼りない大けがしたのかな?
「お父さまがきてましゅよ。」
ウサギ耳の看護師さんがベッドから私を抱き上げた。
私は女性に抱きあげられるほど小柄じゃないはずだけど?
視界が高くなったガラスの向こうに誰かがいるのがみえる。
「おとうしゃまでしゅよ。」
ウサギ耳の看護師がガラスの方へ近づいて行きながら言った。
お父さまはあれに私を売ったたぬき腹のバカのはずだ。
「息子!可愛いなぁ。」
だんじてガラスの向こうに貼りついて泣いてる長身の若い赤毛の犬耳の男ではない。
それに息子でなく女なんですが?
「若長良かったですね。」
もう一人のがっしりした茶色が強い犬耳のおじさんがお父さま?の肩をたたいて言った。
その時はまったく理解できなかったけど『私』は転生したようです。
あれに追われる女の『私』からルーリーナ獣魔国の赤狼の若長ガルファス・レーイドの長男カルティス・レーイドとして生まれ変わりました。
「カル走ろうぜ!」
アンリが言った。
満月の夜はじっとしていられないのが赤狼の性分だ。
「いや。」
走るより月を見ていたい。
走ってまた崖から落ちたくないから。
「まったく、お前が寡黙すぎるから女の子たちがキャーキャー騒ぐんじゃねぇか少しははめはずせよ。」
アンリが腕組みして言った。
「ああ。」
寡黙にしててなぜ騒がれるかわからない。
ただ単にしゃべりすぎると女言葉が出るからひかえてるだけなんだけどね。
180センチ越えの長身の眼光鋭い赤狼の男がキャーとかいうわけにいかない。
優男なら許される事がゆるされないってつらい。
「若者は駆けるか組み手をするかなんかしたらどうだ?未来の嫁さんを見つけないとな。」
お父さまの腹心のエルゼアおじさんが私の背中を力いっぱいたたいた。
「おじさん。」
たたらをふんで思わずにらみつける。
ここからおちたらどうする?
前世とちがって私は生きていたいんだ。
お父さまもお母様も兄弟姉妹もみんな大好きだから未来の若長としてまもりたいし。
「カル、怒るなよ良い男ぶりが台無しだぞ、アンリと走ってこい。」
エルゼアおじさんがまた背中をたたいた。
「いくか。」
仕方ない…走るのは大好きだ。
「行くぜ!」
嬉しそうにいってアンリが走り出した。
楽しげにゆれるアンリの尻尾をみながら岩山を走る。
あの日のような事はもう起きない。
あれとはもう会わない。
だって異世界で転生したんだから…。
月を見ながらそう思った。
駄文をお読みいただきありがとうございます。




