百合ゲーの世界に転生したんですが、元の世界に戻ることはできますか?
百合系恋愛シュミレーションゲーム「リリー・エンジェル」
私はそのゲームのFDである「リリー・エンジェル:プラス」
というゲームの世界へ転生してしまいました。
事の起こりは二日前。百合ゲー大好きな女子高生である私は、某密林ネット
販売店でこっそりと買いその二日後――つまり今朝届き、私は部屋に鍵をかけ
真っ先にインストールしてゲームを開始した。
前作のサントラのリミックスバージョンがイヤホンを通して耳に届き、高鳴
る鼓動を押さえながら私はスタートボタンをクリックした。
――前作で落としたメインキャラとの甘いアフターストーリー
――前作のサブキャラとの、本編では触れられなかった主人公とのナイショ
の数日間
――本編で主人公リリアが攻略した、魅力的な女の子たちに囲まれるエンディ
ングをご用意しております!
最高よ! 本編はディスクがすり減るくらいプレイして、攻略キャラ全員と
のハッピーエンドは全部見た。そのかわり一部のキャラとのバッドエンドも少
なからず見てしまったけど、それくらい余裕よ。
ハッピーエンドも見てないキャラとのアフターなんてやったって何も面白く
無いもんね!
プロローグ映像が流れ終わると、私は設定画面を開きスキップ解除テキスト
オート、全キャラフルボイス、選択肢直前自動セーブを確認しいざ本編スター
トをしようとした時、ふと見慣れない設定が目に入った。
「白百合体験ON/OFF?」
デフォルトではOFFになっているが、これをONにすると何が起こるんだろう。
説明書の画像にはこんなの書いてないし、とりあえずONでクリック……と。
突然画面が虹色に光った。そのまま画面が吸い込まれそうなうずまきを見せ、
私は画面を見たまま激しい光に目をやられてしまい、気を失ってしまった。
「ん~……?」
気がつくと私はベッドの上で寝ていた。
「あれ? 私何してたんだっけ……」
私はしばらくボーっとしてから自分が何をしようとしていたのか思い出し、
慌ててパソコンの前まで行こうとしたが――
――あれ? 私こんな服着てたっけ?
私はどこかで見たことのある制服を着ていた。それに何だか家具とか窓も何
だか嘘っぽいっていうか、立体感が無くホコリ一つ舞っていなかった。
私は机のパソコンを開き電源ボタンを押そうとした時、画面に映った自分の
顔に仰天した。
「え!? これ私?」
私はすぐさまそばにあった姿見の前に行き、自分の姿を写して私は唖然とし
た。
鏡に写っているのは、私がさっきインストールした「リリー・エンジェル:
プラス」の主人公、藤咲リリア本人の姿だったのだ。
――え? 何かの冗談だよね。
鏡に写った自分の姿は、二次元特有の綺麗な黒髪に整った逆五角形の輪郭、
化粧なんかしなくても十分このまま外を歩けるだけの――
程よくピンク色に染まった頬、細くて綺麗なマユ。パッチリした大きなお目
目。そして何より長くて綺麗な可愛らしいマツゲ――
視線を下ろせば文句なしの立派なボディが可愛らしい制服に包み込まれてい
る。
お腹はペッタンコだし、腰周りとか胸囲は破格のサイズ。しかも超ミニスカ
ートでも中身が見えることは無く、真っ白な細くて綺麗な長い脚がスラッと床
まで伸びている。細い割にはほねぼねしく無く、プニプニして触り心地も良く、
キュッとしたニーソックスにピッチリと包み込まれている。
私は鏡に写った自分の姿をもう一度じっくり眺め、誰もが羨ましがるような
容姿に何とも言えない優越感を感じ、それと同時に自分に起きたありえないは
ずの現実に頭を抱えた。
「えーと……整理すると、私は何故かゲームの世界に転生してしかも主人公の
藤咲リリアになっているってこと?」
現実に起こっている自分でも信じられない。だってゲームでしょ? 二次元
じゃん。どうして三次元の世界の住人である私がこんな世界に――
階段を登ってくる音がした。――確か義理の妹の藤咲ミミってキャラで……
――メインの攻略キャラじゃん。
「お姉ちゃ~ん」
透き通るような茶髪をツインテールにして、これまた現実ではありえないよ
うな可愛らしい中学の制服に身を包んだ妹ミミが、ドアを開けると私に近づき
――
「お姉ちゃん大好き♡」
ギュッと抱きしめられた。――なるほど、藤咲ミミルートのアフターに私は
入り込んでしまったのか、良かった……藤咲ミミは大人しくて問題を起こすよ
うなキャラじゃ無いから、特に問題なくこの世界でも生きていけるかも……
「リリアちゃんっ!」
あれ? おかしいね。もう一人の攻略キャラ、幼馴染の新堂カレンまで部屋
に入って来た。アフターって通常は一人の娘との甘いルートをいくつもプレイ
するわけで、本編と違って時間軸は混合しないはずなんだけど……
「リリア~……私のバスタオル知らない~?」
素っ裸で身体から湯気を出した、藤咲リリアの義理の姉――藤咲ナナカまで
現れた。
――もしかしてこれは……
私はプロローグ時に流れた文字を思い出してみた。
「――本編で主人公リリアが攻略した、魅力的な女の子たちに囲まれるエンディ
ングをご用意しております!」
うん。確かにこう書いてあった。――状況を整理しよう。
私は藤咲リリアでこのゲームの主人公。攻略キャラは七人、でもメインキャ
ラとしてパッケージに書いてあるキャラは四人。
藤咲ミミ、新堂カレン、藤咲ナナカ――それと確かトゥルーエンドで攻略で
きる真のヒロイン、猫山ミィ。
猫山ミィに関しては多分出てこないだろう。全員を攻略することで異世界の
魔女の呪縛が解け、自宅で飼っていた猫が実はお姫様だった――って落ちだっ
たから、今回も多分個別エンドか全部のエンドを見たら登場する――って感じ
の立ち位置だと思う。
でもよりによって何でハーレムエンドなの? このエンドは最後にやろうっ
て決めてたのに! 百合ゲーの神様のバカっ!
私は頭を抱えてベッドに座った。どうしよう、このままこの世界で生きてい
かなきゃならないのかなぁ……
私が本気で困っていると、突然誰かに肩を掴まれ――
「ちゅぅ……ちゅぅぅぅ……♡」
藤咲ミミに吸い付くようなキスをされ、
「リリアちゃん……大好き」
新堂カレンに背後から抱きしめられ、
「リリア……早くしましょう……♡」
藤咲ナナカがベッドの上でエッチなポーズをして寝転がっていた。
私は思わず「ゴクリ」と喉を鳴らした。――逆に考えるんだ。この世界で生
きていかなくちゃ――じゃ無くて、一生美少女に囲まれて過ごせるんだ――と。
ミミの甘いキスの後は振り返り、カレンと優しいキス。カレンとのキス中に
ミミは手際よく私の制服を緩め、キスが終わった頃にはスカートとニーソック
スは綺麗に抜き取られていた。
「リリア……私も寂しいよ」
人差し指をクイッとして、ナナカ姉さんが私をベッドへと誘った。
私はミミに下着を、カレンに制服の上着を脱がされ――ナナカ姉さんの身体
の上に覆いかぶさった。
「じゃあ私が上~♡」
女性声優さん特有の甘~いボイスが耳をくすぐり、私の背中の上にミミの柔
らかい感触と温かさを感じた。――ミミもお洋服を脱いでしまっているらしい。
「姉妹丼かぁ~……リリアちゃん! 私も入れてよ~」
私と同じ制服をスルスルと脱ぎ捨て、カレンもまた一糸まとわぬ姿になると
私の横に寝転がり、
「リリアちゃんにだったら……何されても良いから」
極上のトロ甘ボイス。――そういえば本編でもカレンの甘え声は凄く可愛く
て、キャラソンとかボイスアクセとか買っちゃったんだっけ。
そんな理想の声を生で聞けるなんて――
「リリア……♡」
「リリアちゃん……♡」
「お姉ちゃん……♡」
私は三人の女の子に囲まれながら、天国のような百合畑で甘く刺激的な時間
をたっぷりと過ごしました……
どうするんだろう、この後。私はいわゆるジゴ――事後ってやつを体験して
いるが、FDのシナリオとしてはこれで最後なのだ。
本編なら、女の子とちょっとイチャイチャして楽しい学園生活を満喫し――
大好きなキャラと仲良くなってハッピーエンドルートへ――でいいのだが、FD
はアフターなわけでこれ以上する事が無いのだ。
強いて言えば残すメインキャラである猫山ミィとのイベントがあるが、私が
飛ばされた世界はごぞんじハーレムエンドルートだったわけで、シュミレーショ
ンゲームの説明書に隠しキャラの出し方が載っているはずも無く、猫山ミィを
出す方法も分からずしかも他の個別エンドを見ることも出来ず。
――私は元の世界に帰れるのか本気で心配になってきた。
ベッドに転がって数時間は経った。ヒロインたちのシナリオは終了している
ため、姉妹を含む誰一人として今この世界には存在していないだろう。
誰でも恋愛シュミレーションゲームの主人公になりたい! って夢は一度は
見るだろうけど、イベントシーンの後何があるか――何も無いのだ。
イベントの最後はデート、キス――はたまた行為の事後、将来の甘い生活―
―とユーザーから見れば華やかな素晴らしい未来を私たちに見せ、そこで終わ
ってしまうのだ。
もしこのゲームのハーレムエンドのエンディングの後のシーンが、何年も後
の甘い生活エンドだとしたら、それまで私はこの部屋で一人で待ち続けなけれ
ばならないのかもしれない。
――このままもう戻れないのだろうか……?
「ガチャリ」
ドアが開き、見たことの無いキャラが部屋に入って来た。トンガリ帽子を深
くかぶり、星のついた長い棒のような物を持っている。
――いわゆる魔女さんですね。
「藤咲リリアになってみてどうでしたか?」
私はベッドに寝転がったまま、
「楽しかったけど……もう元の世界に帰りたいです」
魔女さんはベッドの脇まで来ると、私の顔を覗き込み、こう呟いた。
「私の事……憶えて無いですか?」
私は記憶を辿ってみたが、思い出すことができなかった。というかこんなキャ
ラ「リリー・エンジェル」に出てきたっけ?
――でも少し、声は聞き覚えがある気がした。
魔女さんは少し残念そうに、
「戻る方法ですけど……白百合体験モードをOFFにすれば戻れますよ」
「そんな事どうやって……」
そう言ったところで私は思い出した。この部屋には藤咲リリア本人のパソコ
ンがある。――ディスクさえあれば、設定を変えることができるって事。
私は急いでパソコンを起動させると、ディスク挿入口を開け中身を確認した
が――
「うそ……」
ディスクは入っていなかった。それ以前にインストールもされておらず、
「リリー・エンジェル:プラス」のデータフォルダは影も形も無かった。
パソコンの前で落胆する私の肩に、魔女さんがそっと何か固くて薄いものを
乗せた。
「ここにありますよ」
私はディスクを受け取りパソコンに入れると、すぐにインストールを開始さ
せ起動させると、さっき自分の部屋で聞いたのと同じリミックスバージョンの
サントラが部屋に響き渡った。
プロローグシーンが流れ、見慣れた文字が画面に流れ……
――前作で落としたメインキャラとの甘いアフターストーリー
――前作のサブキャラとの、本編では触れられなかった主人公とのナイショ
の数日間
――本編で主人公リリアが攻略した、魅力的な女の子たちに囲まれるエンディ
ングをご用意しております!
設定画面を開き、白百合体験モードの設定をONからOFFに戻し、設定の終了
ボタンをクリックした。
「本当にOFF化してよろしいですか」
ONにするときには出なかった警告文が出て、私は魔女さんの顔を見てお礼を
言い――
「魔女さん……ありがとう」
私は「はい」を押した。
私が次に気がついた時には、自室のパソコンの前でボーっとスタート画面を
眺めていた。設定画面を見ると、白百合体験なる設定は存在せず――ああ、夢
だったのかな……? なんて思いながらアルバムモードをクリックすると――
「あれ……」
ハーレムエンド中のイベントピクチャやムービーがちゃんとセーブされてい
た。――夢じゃ無かったんだ……
私はアルバムモード内の登場キャラ立ち絵を開き、さっきの魔女さんの正体
を確かめる事にした。すると――
「ああ……!」
さっき出会った魔女さんの立ち絵の下には、
「猫山ミィを猫にした異世界の魔女。前作には立ち絵が存在しなかったが、人
気投票により立ち絵が追加された。――猫山ミィルートの回想シーンにのみ立
ち絵で登場:(フルボイス)」
思い出した……前作でも声だけは出てたから、聞き覚えだけはあったんだ。
「良い魔女さんだったんだ……」
その日はずっと「リリー・エンジェル:プラス」をプレイしていた。部屋か
ら一歩も出ず――食事と生理現象だけは出ますよ?
メインキャラの個人エンド――私は三人のエンドを見たあと出た、猫山ミィ
のシナリオをロードした。
「私はこの魔女によって……」
猫山ミィの独白とともに、画面には猫山ミィとさっきの魔女さんの姿が――
声も前作と一緒、何で気づかなかったのかなぁ……」
私は画面に写った魔女さんを見て、湧き上がる感情を抑えながら――画面に
向かって手を振った。
「ありがとう……魔女さん、貴重な体験ができてとても楽しかったわ」
画面の魔女さんがウィンクをした。――シナリオ上そういう場面だからなの
だが、私は自分に向けての魔女さんからのお返事だと思う事にして――
私は心から嬉しさの感情が湧き上がった。