1話
町外れ、森の中を二人は彷徨った。
いざ抜け出したはいいものの、行くあてもないからだ。
一人は黒髪のロングに、白いワンピースの少女。肩にポーチをかけている。
もう一人は、癖のある茶髪に、擦り切れた黒のTシャツ。首に十字架をかけている。
少女の名前はメリーといった。
少年の名前は被験体Aという。
「そんなの、名前じゃないよ。もっと名前らしい名前を考えよ?」
メリーは言った。
「そんな名前、嫌じゃない?」
別に、嫌じゃない、と被験体Aは首を横に振った。
「え~……じゃあ、私が嫌なの。ってことで、いい?」
君が嫌なら、君が決めればいい。
「え、私が決めるの?そうだなぁ、ライ、とかどう?」
それでいい、とライは首を縦に、頷いた。
「じゃあ、ライ。今夜泊まる宿探さないとね」
そういえば、とライは思った。この世にはお金なるものが存在すると聞いている。それはどうなんだろう。
「お金ならあるよ。家出するときに、たくさん持ってきちゃった」
メリーはそういうと、ポーチからはち切れんばかりの封筒を取り出した。
「お母さんのへそくりなの。こっそり取ってきちゃった」
メリーは少し恥ずかしそうに笑う。
ライにはへそくりというのが分からなかったが、メリーの笑顔を見て質問するのをやめておいた。
「あのね、私、どうしてもあの家を出たかったの」
唐突に始まった話に、ライはふと違和感を覚えた。まだ会って間もないが、口調からして、罪を暴露するかのような、そんな口調だった。
「親はすごい権力者でね。私はずっと政治の道具に使われてきた。物心ついたときは平気だったんだけど、大きくなってだんだんわかってきたの。私に自由はないって」
寂しそうなメリーの話に、ライはゆっくり歩きながら耳を傾ける。
「ある時ね、親の仕事で外に出た時、あなたを見たの。倉庫に閉じ込められて、うずくまってた。それでね、思ったの。助けたいって」
サッサッと地面を踏む音が森に溶けていく。
「偽善だってことは分かってる。あなたはもしかしたら出ていくことを望んでいないかもしれない。私は自分が助かりたいっていう願いを押し付けているだけかもしれない」
それは違うよ。ライは答えた。君に会わなかったら、僕はあそこで死んでいた。逃げようとも思わなかった。
「でも、私が・・・」
俯くメリーの目には、涙が溜まっていた。慰める方法が分からずに、ライはオロオロするだけだ。
こんな時、どうしたらいい?普通の人なら、どうする?
こんがらがった頭に浮かぶのは『抱きしめる』。触れたら灰になる。でも、抱きしめてあげたい。
「はは、みっともないとこ見せちゃったね」
あれこれ考えているうちに、吹っ切れたのか。気がつくとメリーは笑っていた。
「ごめんね。あ、宿が見えてきたよ」
メリーが指差す方向を見ると、木造の大きい建物があった。
「さ、行こう」
メリーは一瞬、手を出したが引っ込めた。少し微笑んで先を歩いて行った。
触れたいと思うのは同じだ。そのことは素直に嬉しい。だけど、触れたら―――――
そこまで考えて、急に怖くなった。それを追い払うかのように、ライはメリーを追いかけた。
世界観としては和洋が混合したようなイメージをしています。そのへんも詳しく書けたらな、と思います。ご感想、ご指摘のほどよろしくお願いします。