些細な変化
「ティナさん! あれはなんの店ですか?」
ウォーカーが初めてのおもちゃを見たときの子どもみたいな目をして訪ねてきた。
「自分でいって確かめてきたら?」
ぞんざいに返すティナ。
さっきからウォーカーが珍しい店を見つける度に同じ質問をしてくるので、ティナも辟易としているのだ。
今、2人はシャルアートの中では外側に位置するところを歩いていた。
シャルアートは円状の街なので、ティナはいつも時計回りに街を回っていた。といっても、外周はゆうに100キロは越すので、とても1日では歩ききれない。だから、ティナは行けるところまで行くと、近くの宿に泊まり、また次の日から続きを歩くと言う生活を送っている。
しかし、今回はウォーカーがナターシャの家に泊まっているので、ある程度行ったら引き返すつもりだった。
今の進行スピードなどから、どこまで行って引き返す事になるかティナが考えていると、
「ティナさん? どうかしたんですか?」
右手にシャルアート名物の、《ブラックポーク》の串焼き、左手にシャルアートの迷物の《邪蛇》の眼球団子を持ってウォーカーが戻ってきた。
「どーゆう組み合わせよそれ……」
ウォーカーの奇行に思わずつっこんでしまうティナ。
「なんでシャルアート1の名物と迷物をいっぺんに持ってんのよ……」
周りのシャルアートの住民も目を丸くしたり、クスクス笑いながら通り過ぎて行く。
「? なにかおかしいんですか?」
唯一事情を把握していないウォーカー。
ため息をつきながらティナは説明する。
「あのね、ブラックポークの串焼きは、安くて旨くて量が多いと言う3拍子揃った、シャルアート1の名物なのよ?
それに比べて、邪蛇の眼球団子なんて、まずいしたかいし気持ち悪いからほとんどだれも食べない。いわば、シャルアート1の迷物よ?
そんな2つを同時に持っていたら誰だって不思議がるわよ」
「そうなのですか。でも、両方とも美味しいですよ?」
そういって、2つを同時に食べるウォーカー。
蛇の眼球が噛み潰されるいやな音に顔をしかめるティナ。
「ウォーカーさんって味覚おかしいんじゃないですか?」
ティナもローリアの弟子だったとき両方食べたことがある。
ブラックポークのほうは確かに美味だった。シャルアート1といっても良いほどに。
しかし、邪蛇の方は……。思い出せない。なぜなら口に入れた瞬間、卒倒したからだ。気づいたら師匠の家に帰っていて、ベッドで寝かされていた。
余談だが、ローリアの家は見た目こそあれだが、ローリアの食事は美味しい。まぁ、何十年と生きているのだから当然かも知れないが。
「よくその2つを同時に食べようと思ったわね」
続けて言うティナ。未だに嫌悪感が消えていないみたいだ。
「そんなに変ですか………?」
ウォーカーはさっきの言葉が響いているらしく、落ち込んでいるようだ。
「へんよ」
とどめを刺すティナ。
その人ことで完璧におれたウォーカー。
「仕方ありません。もっと味わって食べたかったのですが…」
そう言うと、両方ともいっぺんにたいらげてしまった。
グロテスクなもの(邪蛇の眼球団子)が視界に入らなくなったティナはしかめていた顔を戻した。
「珍しいねぇ。ティナちゃんが男つれてるなんて。彼氏かい?」
その時、からかうような野太い声が聞こえてきた。
「違いますよソールさん。この人はただの旅人です」
声が聞こえてきた方を振り返りながら返事をするティナ。
そこには、筋骨たくましい男の人が立っていた。頭には白い布を巻いている。
「ただの旅人ってのもおかしいような気がするが……」
首を傾げるソール。
その言葉は無視してティナは言う。
「それと、さっきの質問、ソールさんで16人目です」
そう。さっきから会う顔なじみの人、なおかつ男の人は必ずと言っていいほど、この質問をしてくる。
最初の方は照れて、
『ちちちちがいます! こここの人は!』
などと、テンパりまくっていたのだが、16回目ともなるとさすがにもうなれてしまったようだ。
「なんだ、面白くねぇな。みんな言うことは同じだな」
ガハハと笑うソール。
「ほんとですよ。なんでみんな私が男の人と歩いているだけで驚いたり、冷やかしたりするんですか」
ティナは怒っていると言うよりも、もはや呆れているようだ。
「そりゃあ、ティナちゃんもお年頃だからねぇ。……っとあれ?さっきの男は?」
ティナも言われてみていつの間にかいなくなっていることに気づく。
しかし、ティナは慌てなかった。
「大丈夫ですよ。そのうち戻ってきますから。それにこれで5回目ですから」
「ティナさーん」
言ってるそばから呼ぶ声が聞こえてきた。
「読んでいるようなので行きますねソールさん。また魔法瓶買ってくださいね」
苦笑いしながらお辞儀をするティナ。
「もちろんだ」
それを聞き、今度は満面の笑みを浮かべるティナ。
「ありがとうございます! ではまた!」
ウォーカーに追いつくため走っていくティナ。
姿が見えなくなったあと、ソールはふと気づいた。
「そういえば、1回もした噛まずにしゃべってたな」
読んでくださってありがとうございます!
この話はティナのちょっとした変化を書いています。お気づきになられたでしょうか?
次回からはティナ本人の話にふれていけたらと思っております。(なんだかんだで結局コメディになりそうでずが)
まぁ、何が起こるかは神のみぞ知ると言うことで!
ではまた次回あえることを祈ってます!