夢を売る者
「なんでウォーカーさんは師匠が若返ってるてわかったんですか?」
──私も気づけなかったのに
とゆう言葉を飲み込んで聞いてみる。すると、
「僕も治癒魔術師ですから」
とても簡潔な答えが返ってきた。
「へぇ~……。って、えぇ!?」
ティナは驚きはしたが、若干そうではないかとも思っていた。
ウォーカーが治癒魔法について妙に詳しかったからだ。
ちらりと師匠の方を見てみても、案の定、驚いた様子は全く見受けられない。
分かっていたような風情で、優雅に紅茶を入れている。
師匠が口を開く様子がないので、仕方なくティナが質問する。
「治癒魔法を使えるって本当?」
「はい、本当ですよ」
ティナは別に疑ってはいなかったが、念のため確認をしておいた。
「治癒魔法が使えるってことは、《ソーサラー》なの?」
《ソーサラー》とは、この世界を現在進行形で統治している五つの国が運営している《五行連盟》から任命された魔法使いのことである。
《ソーサラー》になれるのは、B級以上の魔法をつかえる人だけだ。
治癒魔法はA級と認められるため、《ソーサラー》に任命されやすい。
そもそも、治癒魔法を扱える《治癒師》自体が数少なく、希少で、どこの国も治癒師は喉から手が出るほど欲しい代物だ。
「確かに僕は治癒魔法を使えますが《ソーサラー》ではありません」
――やっぱり…
これにもやはり、ティナもローリアも驚きはしなかった。
ウォーカーの持つ、独特な雰囲気が、《ソーサラー》それとは程遠いものだったからだ。
「なぜ、《ソーサラーにならないんだ?」
そこでずっと傍聴していた。ローリアが口を開いた。
「確か、ソーサラーになったら、《五行連盟》に加盟している国への入国が簡単になるはずだ。旅はその方がやりやすいんじゃないか?」
100年以上生きた年の功なのか、ローリアはソーサラーにも
詳しかった。
「僕には向いていませんので」
苦笑いしながら答えるウォーカー。
「じゃあどうやって国境をこえるの?」
今度はティナが質問する。
「親切な人が助けてくれました」
さも当然のように満面の笑みで返される。
ティナはそこで呆れながらも納得した。
この人は恐らく無償でいろんな人を助けてきたんだろう、となんとなくわかったからだ。
「ティナ。もういいだろう?そろそろ本来の目的を果たしたらどうだ?」
──本来の目的………?
私の表情から察したのか、師匠はため息をついて言った。
「《魔法瓶》を見せてやるんじゃないのかい?」
「あっ! そうだった!」
私は懐から瓶をだすと、師匠に言った。
「じゃあ、いつものようにお願いします」
「わかった、炎魔法だね?」
ローリアは腕を前に伸ばし、手のひらを上に向けた。
それだけで、ローリアの手のひらから炎の玉が出現し、燃え盛る。
呪文なしで魔法を使えるのは、ティナの知る限りでもローリアだけだ。
ティナには、まだ無言で魔法を使えることはできない。
それに、魔道具である魔法瓶には、呪文を唱えるだけで使えるよう設定しているので、どうしても使用者が呪文を唱える必要があるのだ。
「《アブソーブ》」
ティナが、瓶の口を炎に向けて唱える。
すると、炎が不自然に揺らぎ、次の瞬間、赤い光の玉となって、ティナが向けた瓶に吸い込まれていった。
次いで、ティナは唱える。
「《ボトルアップ》」
すると今度は、瓶の口あたりが輝き、と思ったら、もう瓶は仄かに光を放つコルクでふさがれていた。
「すごいですね…」
一部始終を眺めていたウォーカーは呟いた。
ウォーカーの頬にはかすかに汗が伝っていた。
しかし、同時に瞳は少年のようにキラキラしていた。
「これがティナさんの《魔法瓶》なんですか?」
「は、はい」
あまりにも真剣な瞳で見られてティナはたじろいだ。
すると、
「とてもおもしろい魔道具ですね」
と、とても素直な言葉で褒められた? のだろうか。
「え、えっと…。ありがとうございます」
良く分からないまま礼を言うティナ。
「このような魔道具を十歳で創れるなんてすごいですね」
そんなことを言われても、目の前の旅人、そして師であるローリアは、ともにS級の魔法を使える人物だとゆうことを考えると、褒められても微妙な気持ちになるティナだった。
「あんたも治癒魔法を使えるんだろう? てことは、……あんたも若返ってんのかい?」
ローリアにとっては、ティナとはまた違った意味でウォーカーに興味があるようだった。
いくら永く生きているとはゆえ、自分と同じS級、しかも治癒魔法を使う人と会うことは初めてなのだろう。
「いえ、僕は本当に十七年しか生きていませんよ」
「…嘘をつくなよ。十七年程度で治癒魔法が習得できるわけ無いだろう?」
ローリアはニヤリと笑っていた。しかし、それは見た人を恐怖に陥れるような冷たい表情が浮かんでいた。
「……っ!」
直接向けられてはいない、ティナまでもが、ローリアの放つ雰囲気に圧倒されていた。
ウォーカーにはわかっていただろう。ローリアの放つそれが、殺気と呼ばれるものだということを。
それでもウォーカーはこう言った。
「嘘なんてついていません。僕は本当に十七年しか生きていないんです」
黙って睨み合う二人。
唐突にローリアは、ふっと息を緩めると言った。
「ならそういうことにしておこうか」
そこでティナに話しかける。
「ティナ! あんた、ちゃんと自己紹介したのかい?」
「そーいえば……まだだったような……」
黙って拳を振り上げるローリア。
「まってまってまって!今から、今からするから!」
そして、コホン、と咳払いをしたあと、ティナは言った。
「改めまして、ウォーカーさん。私の名前はティナ。瓶に詰まった《魔法》を売る、《魔法瓶売り》です!」
読んでくださってありがとうございました!
そして、遅くなって申し訳ございませんでした!
いいわけをすると、なかなかティナの魔法の構成を考えるのに手間どってしまい、書き進めれ無かったのです(泣)
さて、やっとこの巻で主人公の仕事がはっきりしてきました。
これからは、どんどん本編らしくなってくると思うので、長い付き合いになると思いますがよろしくお願いします!
では、また次回あえることを祈っています!