老獪な魔法使い2
最初に言っておくと、ティナの師匠である、ローリアはとても若くみえる。髪はすこし赤みがかったブラウンで、長さは胸までもある。眼や鼻はどれも整っていて、スタイルは抜群によく、ふくよかな胸が隆起している。
かわいいと言うよりは、美人と言うような大人の女性だ。年齢は20代後半から30代前半と言ったところだろう。
しかし、ティナは知っていた。
ローリアの年齢はそんなものでは収まらないことを。
本人は若作りをしていることを隠している。そして、ティナもそれを知っているので、今まで誰かに言ったことはない。
だから、もちろんウォーカーも知らないはずなのだが……。
「ローリアさん。あなたは魔法でだいぶ若返っていますね?」
家に入るまでのそわそわした態度は消え、いつの間にかとても鋭い目つきで真剣な顔つきになっている。
──若返る?若作りじゃなくて?
師匠のはあくまで若作りの範囲だと思っていたので、若返りと聞いたティナも驚いていた。
本人ともなれば、目を見開いて、口を開けている………なんてことはなく。ただ、眼を細めただけだった。
「ちょちょちょちょっとまってよ! なんで師匠が若作りしてるってわかったの? 若作りじゃなくて若返りなの? 魔法で若返ったりなんかできるの?」
なぜか、当人ではなく、ティナだけが驚き慌てている。
「落ち着いてください、ティナさん」
「落ち着けるわけないでしょう!」
「落ち着きな、ティナ」
ゴッ!ゴッ!
ローリアに殴られるティナ。
「何で2回殴ったの!?1回でいいじゃん!」
「そのほうが落ち着くと思ってな。しかし、まだ落ち着いてないようだな。もう1回殴るか……」
「落ち着きました。だから、その振り上げた腕をふり……おろさないでって最後まで言わせて! てか、落ち着いてるよね今!?」
ローリアの拳が凄まじい速度で降ってきて、慌ててよけるティナ。
「なんかのりで」
「のりで人を殴らないで!」
「まぁ、落ち着いたようだし、話を戻そうか」
流されてしまうティナ。
「それで?なんで私が若返っているってわかったんだい?」
──その言い方だとまるで
「本当に若返っているの!? 若作りじゃなくて!?」
「うるさいっての」
「………っ!!」
無言で頭を押さえてうずくまるティナ。
「ほ、ほんとに師匠は若返ってるの?」
涙目になりながら、ウォーカーに聞く。
「はい。ローリアさんの本当の年齢は恐らく、100は軽く越えていると思います」
「そ、そんなバカな! だいたい若返りの魔法なんて存在するわけが──」
「存在するのよ」
ティナの言葉をローリアが遮るにして否定する。
「厳密に若返りの魔法が存在するわけではないわ。けど、ある魔法を極めたら、若返りを再現する事が可能になるわ。もちろん私が成功するまでは、理論上の話だったし、実現させたのも私くらいでしょうけど」
あまりの事実に、絶句しそうになりながらも、ティナはなんとか質問を続けた。
「…ある魔法って?」
「治癒魔法です」
今度答えたのはウォーカーだった。
「治癒魔法って傷を治したりするだけじゃないの? それに、治癒魔法は魔法の中でも飛びっきり難しいんじゃないの?」
そう。治癒魔法とは魔法の中でも特に難しい。
この世界の魔法は、《五行連盟》によって、級わけされている。
級は全部で、A~Fまでの六級にわかれており、クラスが高くなるほど習得するのは難しくなり、威力も高くなる。
級は最高でもA級が限界とされている。
しかし、ごく希に最上級のはずのA級を越えるものがでてくる。
俗に、禁呪や古代魔法と呼ばれるものだ。
これらの魔法は例外なくA級を越えているとして、特別措置として《S級》を与えられている。
だが、治癒魔法はどちらにも属していなければ、S級にも認定されていないはずなのだ。
分類的にいえば、神聖魔法や精霊魔法に分類されるものなのかもしれないのだが、治癒魔法をより的確に表すとするならば、治癒魔法とゆう一つの魔法の分類があると言った方がいいだろう。
なぜならば、治癒魔法自体を使える人が少なく、未だ謎の多い魔法だからだ。
「治癒魔法は強力なものになると、A級以上の難しさになります」
例えるなら、世界中でA級を使える《天才》が、五十人だとするならば、S級を使える《天災》は、五人ほどしか存在しないだろう。
さらに分かりやすく言うならば、十歳でオリジナル魔法を創ってしまったティナほどで、やっとA級と言える。
「じゃあ、《S級》って都市伝説じゃなかったんだ……」
そして、閉口してすこし考え込んで……そして、ある事実に気づいた。
「ってことは、師匠って……少なくともA級以上の魔法を使えるってこと……?」
「そうなるわね」
………………。
すこしの沈黙のあと。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
今度こそ、ティナは絶叫した。
「うるさいわねぇ」
ローリアが耳をふさいでぼやく。
ティナはそんなことにも気が回っていない。
「だって! A級の魔法を使える人って、世界に20人もいないんだよ!? その中に師匠が入ってるってことなんだよ!?」
「それはあくまでたとえだから」
「なんでそんなに落ち着いてるの!?」
「あのねぇ、私が若返って何年になると思ってんの? 私が何年生きたと思ってんの? その程度のこと、とっくに理解してるわよ」
S級の魔法を使えると言うことを『その程度』と言ってしまう師匠に恐れおののくティナ。
「それに、他人事みたいに言ってるけどあんたが使ってる《魔法瓶》だってA級並のものよ? 自覚がないでしょうけど」
──……そっかぁ~。私って実はすごいんだぁ…
師匠に認められたような気がして、思わずにやけてしまう。
「まぁ、それでも私の足元にも及ばないけどね」
その一言ではげしく落ち込むティナ。
しかし、まだ疑問が残っていた。
──なんで何年も暮らしていた私でさえ、『若返り』に気づかなかったのに、ウォーカーさんは会ってすぐに気づいたんだろう?
読んでくれてありがとうございます!
今回は結構早く更新することができました!
しかし、文字数の都合上、また謎を残す形になってしまって申し訳なく思っております……
次回も早く投稿できると思うので、よろしくお願いします!