老獪な魔法使い1
「僕は外で待っています」
きっぱりとした口調でウォーカーは言う。
「どうして?」
「言わなきゃわからないんですか?」
──いえ、わかっています……
ウォーカーはさっきから苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
それも当然だ。
なぜなら、これから入ろうとしている家はこれでもかと言うくらい怪しかったからだ。まともな人ならまず入ろうとはしない。
それは小さな小屋だ。いや、『だった』と言うべきだろう。
元々は木でできていたであろう小屋は、完璧にツタで覆われており、素通りしただけでは、小屋があることすらわからない。しかも、周りにはなぜかたくさんの不気味な彫刻のようなものや、鉄柵が突き刺さっていたり、墓地でもないのに十字架がたっていたりする。
ここまで、不気味だと、若干わざとらしくも感じる。
しかし、師匠はここに住んでいて。それはティナが一緒にいた頃。2年前から変わっていない。
ティナは今更驚くようなことはないが、ここに入るところを誰かに見られたくなくて、いつも1人できていた。
だから、ウォーカーの反応はすこし新鮮で………、かなりショックだった。
「やっぱり、変ですよね……ここ」
がっくりとうなだれるティナ。
「変…ですね。……かなり」
とても素直な感想を言うウォーカー。
「い、いやなら外で待っていてもらっても」
「けど、中に入らないとお仕事を拝見できないんですよね?」
困ったようにうなずくティナ。
そうなのだ。師匠の家にきたのは、魔法を仕入れるため。
仕入れるためには、中に入らなければならない。
だから、『仕事をみたい』とゆう、ウォーカーの頼みを叶えるためには中に入ってもらわなければならない。
ティナがしばらく考え込んでいると、
「わかりました……」
何かを決意、と言うより、注射を我慢する子供のような声が聞こえてきた。
「もともとは、僕がお願いしたことです。見た目には目をつむります。それに案外、中はふつうかも知れませ──」
「中は、至る所に赤黒いシミがあり、いつも、暖炉の所で紫色の液体が煮えていて、壁には動物の干からびた死体がつるしてあり、棚には丸い眼球が浮いているビンが並べてあって、食器類はなぜかすべて骨でできていて、食べ物は……」
「すみません……もうそれ以上は言わないでください」
弱々しい声で止められたので、ティナはあと12個ほど残っていたものを思い出さずにすんだ。
「やっぱり、無理しないほうが」
ティナは旅人が心配になってきた。
この程度でこんなになってしまっては本人にあった瞬間、吐くか気絶してしまうと思ったからだ。
「いえ、大丈夫です。いざとなったら五感をすべて封じますから」
それは大丈夫なんだろうか、とティナは思ったが口にはしないでおいた。
「じゃあ、入りましょう」
「……はい」
ティナはツタまみれの小屋に埋もれてしまったドアノブを捻った。
そして、開いた瞬間、
「ティナじゃーん!ひさしぶりぃー!」
「し、師匠!」
飛び出してきた師匠に抱きつかれた。
*
「で?この男は誰?」
敵意向きだしの口調で師匠に聞かれる。
会っていきなり抱きつかれたと思ったら、隣にいるウォーカーを見た瞬間固まってしまった師匠が、とりあえずいすに座ったティナに言った言葉かこれだった。
「旅をしている人で、私の仕事を見たいって言うから」
引きつった笑みで答えるティナ。
師匠は眉をひそめると今度はウォーカーに聞いた。
「あんた名前は?」
「ウォーカーと言います」
一方、ウォーカーはさっきからずっと緊張していた。
「そーか…。最初に言っておくがウォーカー……。
ティナは私のもんだ!お前みたいなどこの馬の骨ともわからん奴には絶対嫁がせんからな!」
「なっ…!」
「………」
師匠のとんでもない物言いに、ティナは絶句した。
ウォーカーさえ驚いて声が出ないようだ。
「何言ってるのよ!この人はそんなんじゃない!」
ティナはすぐに反論した。しかし、顔が真っ赤なので少しも説得力がない。
「いや、どんな理由があろうと、私のティナに近づく男は消し炭にする」
さらにとんでもないことを言う。
「怖いこと言わないでよ! あと、私は師匠のものじゃない!」
「師匠じゃない! ローリアと呼べと言っているだろう!」
「師匠は師匠です!」
しばらくにらみ合ったあと、師匠、もといローリアは、ため息
つきいすに座ると聞いてきた。
「で? 今日は何しに来たんだい? 用もないのにくるところでもないだろう?」
「じつは……」
「炎魔法の在庫が尽きたから新しく調達したいってか?」
先に言われてしまった。
「わかってるなら聞かないでよ! で、炎魔法を受け取るところをこの人に見せたいの」
「まぁ、確かにあんたが作った魔法道具は誰でも作れるような代物じゃないからね~。興味を持つ人がいても仕方ないか」
「そーなの?」
「そーよ。あんたには自覚がないでしょうけど、魔法道具、いわゆる、魔道具を作るのはとても難しいのよ。魔法自体あなたが自分で開発したものだから、あなた以外には作れないでしょうし」
そもそも15才の時点で既に自分で魔法を開発して、なおかつ、それを魔道具に応用できていること自体異常なのだ。オリジナルの魔法や、魔道具の開発など、十年に一人とも呼べるような天才が作るものだ。
それをティナは師匠と2人で、しかも10才で魔法を開発したのだ。
「へー」
自分がどれだけすごいことをしているのか全く理解していない無自覚天才少女は、気の抜けたような返事を返す。
「そんなにすごいことなの?」
「まぁ、こんなことが出来るようなやつは歴史上でも、20もいないだろうな……」
そこでナターシャはいったん言葉をきり、にやりと笑いながら言った。
「まぁ、私程のやつは、5人といないだろうがな」
ティナが自分の才能を自覚できないのは、師匠であるローリアのせいだろう。
「すみません」
いきなり、ウォーカーが話に入ってきた。
「あ、あぁ! ごめん! すぐ魔法道具をみせるね!」
慌てて言うと
「いえ、そうではなく」
「? 何か気になることあった?」
気分でも悪いのだろうか?とティナは心配した。
やっぱり無理に来させないほうが良かったのではと思ったのだ。
しかし、ウォーカーが次に言った言葉は信じられないことだった。
「ローリアさん。あなた本当は何歳なんですか?」
読んでくれてありがとうございます!
そして、すこし遅くなって申し訳ありませんでした!
やっと書き上がったのはいいんですが、おそらく、この話だけだと何のことだかわからないことと思います。
次回はこの話でできた疑問を解決できるような話にしたいと思っているので、お許しください!
ではまた次回!