『あの日5』
――どうしたものかな
心の中で苦笑いしながらセシルは物思いにふけっていた。
今彼の目の前にいるのは、絵描き志望の男が一人いるだけで、既にこの男でセシルが審査した試験者は五人目だった。
しかし、この男より前にいた三人は、セシルの記憶にすら残っていなかった。とゆうのも―。
――今頃どうしてるかな……
と、最初の試験者のある女の子についてずっとセシルが考えていたからだ。
だから、仕事が全く手がつかない……とゆうことではなく、仕事はきちんとこなしていた。
先ほどの三人も、どんな仕事だったのか、男だったのか女だったのか、それすらも覚えていないが、セシルは確かに仕事をしたと言いきれる。
なぜなら、どんな仕事を持った人だろうと『不合格』と見なすのが、セシルの仕事なのだから。
だから、試験者がどんなことをやろうと関係ないのだ。
ただ、セシルは平等に同じ評価を下すだけ。
その筈なのに、
「……なにやってるんだか」
思わず漏れてしまった言葉。小さい声だったが、静かな部屋には響いたようで、絵描きの男がちらっとこちらを見る。
彼の前においてある机には、左側には先程の三人の不合格用紙が、真ん中には絵かきの男の用紙がそれぞれおいてあった。
そして、本来なら合格用紙が置かれるところ、しかし、決して置かれてはならない右側に、一枚の合格用紙が置いてあった。
――これを提出したら、まずクビかな? いや、どうせもみ消されるから意味ないか
「どうしたもんかなー」
今度は自らの意思で声に出して言ってみる。
絵かきの男は、今度は顔を上げなかった。
失敗した。とティナは思う。
ティナは自分の動揺を必死に隠し、抑えながらも試験を受けた。
考えていたとおりに、自らの商売道具である魔法瓶をだし、説明をして、実際に使って見せる。……はずだった。
しけし、ティナは、動揺を完璧に抑えることができず、震えた手で魔法瓶を数本取り出し、それを落としてしまった。
魔法の瓶と言っても、物理的強度は普通の瓶とかわらない。
案の定、すべての瓶は割れ、魔法が飛び出す。
魔法とは、人間の精神力を魔力とゆうエネルギーにして、具体的な形を持たせて顕現させるものだ。それは、炎であったり、水であったり、様々な効果を発揮する。
しかし、それは術者が魔法を使っている間だけなのだ。術者が集中を解いたり、魔力が尽きたりすればたやすく消滅してしまう。
ティナの作る魔法瓶とゆうのは、その魔法を術者から切り離して、再び使用する時まで魔力の供給がなくても消滅させずに保存しておくとゆうものだ。
基本的に、この魔法瓶に保存された魔法は、その魔法瓶を開けた人に使われるように設定されてある。
ならば、瓶が割れたときはどうなるのか。
簡単である。魔法が暴発する。
割れた瞬間、魔法はただの魔力、すなわちエネルギーに戻り、破裂する。
魔法瓶一本分だけのエネルギーなら、大したことは起こらなかっただろう。もちろん保存されていた魔法にもよるが。
しかし、ティナが取り出していた魔法瓶は、六本。しかも、派手さを求めるために、師匠にそれぞれとても強い魔法を入れてもらっていた。
そんなものが、全て、同時に、暴発する。
魔力の暴発とは、物理的な衝撃が起きるわけではない。だが、魔法使う者にとっては、それよりも大変なことが起きる。
魔法が使えなくなるのだ。
これはティナにとっても、予期しなかった、魔法瓶の副産物だった。誰のものでもない魔力は近くにいた生物、この場合は、セシルとティナに入り込み、魔法の使用を邪魔するのだ。
もちろん、一生使えないわけではなく、一時的なものだが、ティナにとっては、魔法瓶が、危険だと認識されるだけで終わりだった。
ティナは数時間前に歩いてきた道を今は一人で立っていた。
未だに魔法は使えない。
空は端の方からだんだんと深い藍色が侵食してきており、最後の抵抗と言わんばかりに、強い朱色の光が街を染め上げていた。
ふと空を見上げ、とゆうより今初めて空に気づいた様に、顔を上げるティナ。
「……もう帰らないと」
ポツリと声に出して呟く。
思ったことを声に出さないと、永遠に自分が止まったままのような気がしたからだ。
『どこに?』
独り言に返事が返ってくる。自分自身から。
自分で自分に問いかける。
『どこに帰るって言うの?』
「師匠とナターシャおばさんのとこ」
合わせる顔もないのに。
『試験は失敗したのに?』
「まだ落ちたと決まったわけじゃない」
あれで合格したら奇跡だ。
『本当にそう思っている?』
「本当にそう思っている」
嘘。
『ならなんでそんなにあなたは落ち込んでいるの?』
「……」
自分で、質問して、答えて、否定して。それを繰り返して。そして、とうとう答えることも出来なくなる。
それでも質問だけは続く。
『なにがしたかったの?』
「……」
仕事を認めてもらいたかった。
『諦めるの?』
「……」
諦めたくて諦めるわけじゃない。
『師匠やナターシャおばさんにはなんてゆうの?』
「……」
なんて、言えば、いいんだろう。
心の中に、言い訳めいた答えは浮かぶのに、それを声に出すことができなかった。声に出すことは、小さなプライドが止めてくれた。
頭がどうにかなりそうだった。自分自身の言葉の筈なのに、いや、自分自身の言葉だからか。その言葉は的確に、わたしの心をえぐってくる。
『あなたは所詮その程度なの?』
『あなたは幼い』
『あなたは弱い』
いつの間にか、その自問は、自問から、罵倒にかわる。
あなたは
あなたは
あなたは
あなたは
あなたは……
「わたしは」
自分にとって決定的な『なにか』を口にしてしまいそうになる。
あなたは
「わた…しは」
仕事なんて
「仕事…なんて……」
「ティナさん!」
セシルが息を切らして立っていた。
読んでくださってありがとうございます!
そして、本当に! ごめんなさい!
明日には投稿できるとか言っておいて、結局、3週間弱かかってしまいました。
自分で言った締切すら守れないとは本当に情けないです……。
しかし、それでも待ってくれた読者のかた。
本当にありがとうございます。
次は、できるだけ早く書き上げますので!
(いや本当に)
ではまた次回会えることを祈って!




