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『あの日3』

――ここから先は一人で行かなきゃダメなんだ……


入口の前に立ち呆然と立ち、そんなことを思うティナ。


――……でもなんでだろう。私、すごく落ち着いてる……。さっきまで心臓バクバクいってたのに


不思議と、ティナは不安や孤独を感じていなかった。


胸に手を当ててみても、心臓は平常運転で、一定のリズムで鼓動している。


クスリっとティナは笑ってしまう。


ここに来て、急に落ち着いた心臓が、自分のことなのに、妙に頼もしく感じておかしかったのだ。


そんなティナを、他の受験者は、変なものを見るように通り過ぎていく。


――大事な試験まえに何を笑っているんだ、とか思われてそう


そんなことを考えるのはティナだけで、実際は、なんでこんなところに子供がいるんだろう、と思われていて、誰もティナを受験者とは考えもしなかった。


ティナを追い越して、他の受験者たちはどんどん入っていく。


ほかの受験者たちは、服装はみなバラエティにとんでいて、見たこともないような道具をもっている人も珍しくない。


ティナも、商売道具である、魔法瓶を持ってることには持っているのだが、ティナの魔法瓶は、普通の小さな瓶とほとんど変わらない。サイズも小さく、円筒状なのでポケットに入ってしまう。


簡単にゆうと、手ぶらにしか見えないのだ。加えて、周りは大人ばかり。ティナを除いた、一番若い人でも、十代後半か二十代前半程の人しかいない。


そんな中でティナを見ても、誰も受験者に思わないのは仕方ないことだろう。


――やっぱり浮いちゃってるよぉ


好奇と懐疑の視線にさらされながら歩き始めるティナ。


しかし、みんな見るだけで話しかけたりするような人はいなかった。


それも当然だ。ここにいる人の殆んどは、書類審査が通らず、仕事を認められなかった人達だ。気になるからと言って、他人に話しかける余裕などある筈がない。


そんな周りの空気に気圧されたのか、落ち着いたはずのティナも、少しずつ緊張してきていた。


しかし、再び冷静になるまでの時間はもう与えられなかった。


ほかの受験者についていくように歩いていった結果、試験会場についてしまったのだった。しかも、運の悪いことに、試験の順番を決める抽選で、ティナは一番を引いてしまっていた。


試験会場のドアの前に立つティナ。


部屋の中から「どうぞ」と声がかかったあと、部屋の中に入り、試験が始まる。


試験と言っても、実技試験だ。


ここに来る人は、先ほど言ったように、殆んどが書類審査が通らなかった人が来る試験だ。


そして、書類審査が通らなかった人とゆうのは、審査員に書類が見られている、そして、既に『仕事』認めることはできないと決められた人、とゆうことなのだ。


さらに厳しいことに、書類審査と実技試験の審査員は同じ人物が行うように決められている。


つまり、書類審査を落ちて、その上で実技試験を受けた者は、一度不可と決められたものを、決めた審査員自身の手によって覆させなければならないのだ。


なぜ、これが難しいのかピンと来ない人もいるだろう。


多くの方が見過ごしているかもしれないが、『審査員』もまた『仕事』なのである。仕事である以上、審査員を務める人達にも仕事に対する『プライド』や『ポリシー』があり、『責任』もある。それは街の職人達が持つものモノと何ら変わらない。


それを覆させるとゆうことは、ある意味自分の信念を曲げることに等しい。


それがどんなに難しいことかを、受験者達はよく知っている。


しかし、知っていても、理解できていても、自分には自分の信念がある。


試験とゆうのは、言うなれば、『信念』のぶつけ合いなのだ。


そんな風に言うと、審査員と受験者や街の職人の仲は険悪なのか、と思われそうだが、そんなことはない。


審査員も受験者も根幹の部分は同じ。


両者はお互いを認め合い、尊重しあっている。


だから、両者の仲は良好と言っていいくらいだった。


そんなことを自分に言い聞かせるように思って、必死にティナは緊張を紛らわそうとしていた。


ティナにとって一番困るのは、審査員が初対面とゆうことだった。


書類審査をしていると言っても、顔を合わせたことはないので、これから初めて会うことになるのだ。


なぜティナは初対面だと困るのか、それは一部の例外を除いて、ティナは極度の人見知りだからだった。


セシルの時は、思わぬハプニングによる出会いだったので、打ち解けることが早かったが、これから会う相手とは、初対面な上に、審査員と受験者とゆう立場で向き合わねばならない。


審査員と向き合ったときいかにうまく話せるか、ティナの不安はその一点に集約していた。


「は、ははじめままして、ししけんなんばっ、ぃちばん、てぃなです」


小声で最初の言葉を練習するティナ。が、


――だ、だめだよぉ。しゃべれる気がしないよぉ


あまりの不安にその場にうずくまりそうになるティナ。


――どうしよう……。


手が嫌な汗でぬるぬるする。それを服で強引に拭うティナ。


その瞬間。


「どうぞ」


「はひゃい!」


扉の向こうから、入室を促す声がかかってきた。


とっさに変な声で返事をしてしまうティナ。


――終わった…。わたしの試験…


早くも諦めかけて、絶望するティナ。


ガチャ



「失礼しま…」


それでも試験を受けないわけにはいかない。


意を決して、ドアを開いて……固まるティナ。しかし、これはティナが極度の人見知りだから起きたわけではない。


純粋に驚いたのだ。部屋の奥、審査員の座るべきであろう椅子に座っている人を見て。


彼は…。

「セシル…?」












読んでくださってありがとうございます!

そして遅くなって申し訳ありませんでした。


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