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『あの日2』

自分も就職試験会場に用があると言った男。


それに対してティナは…。


「じゃあ、あなたも試験を受けに行くんですね!」


一気に表情が明るくなった。


男はその言葉に苦笑し、こう言った。


「まぁ、試験には行きますよ」


その微妙な言い回しは、テンションの上がっているティナには気づけなかった。


「よかったー! 一人じゃ不安だったんです! てゆうか、道に迷うなんて、結構おっちょこちょいなんですね」


同じような人を見つけて安心したのか、ティナの口は一気に軽くなった。


男もあえて何も言わず、苦笑しながら返す。


「まぁ、この街には始めてきたものですから。それより、歩きましょう。試験に遅れてしまいますし、なにより…」


そこで、一旦言葉を切って、ティナをチラリとみて笑う。


「注意が散漫している人にぶつかられるかもしれませんからね」


「……結構根に持つタイプなんですね」


男はなんことでしょうか、とでも言うように、両手を左右に広げ肩をすくめた。









「あなたはどんな仕事をするつもりなのですか?」


試験会場に向かう道中、男と一緒に歩いているティナ。


「私は、その、《魔法瓶》を売る仕事を…」


少し照れながら話すティナ。


「《魔法瓶》?」


聞きなれない単語を聞いて、思わず聞き返す男。


この様子だけ、ほかの人が見たら、親子とでも間違えられそうなほど、年の離れているように見える二人。


「えっと、私が作った魔法道具で、それを売る仕事です」


「なんと……! そのお年で魔法道具を作れるとは素晴らしい」


しかし、親子に見られる可能性は皆無だろう。


男の、青と白を貴重とした、きらびやかな服が、ティナとの身分の差をあらわしている。


「素晴らしいだなんて! 私なんかまだまだです。師匠の足元にも及ばない」


「なるほど…。その魔法瓶とゆうのは、どんな魔法道具なのですか?」


ティナの言葉を謙遜と受け取ったのか、それ以上は追求せず、話題をかえる男。


ティナは、突然カバンをゴソゴソしたかと思うと、一つのガラス瓶を取り出して、男に見せた。


「これです」


そう言って、それ以上何も言う気配がない。


「……………」


黙り込む男。


「どうかしましたか?」


首をかしげるティナ。


男が口を開く。


「いえ、できれば、魔法瓶の実物だけではなく、魔法瓶がもたらす効力のことも聞きたいのですが…」


――……えっ?


「ああああ! すいません! 魔法瓶とびゅ!」


慌てて説明しようとして舌をかんでしまうティナ。


「プッ………!」


悶えるティナを見てつい笑ってしまう男。


「笑わないでくださいぃ」


涙目になって訴えてくるティナ。


「あぁ、すみません。面白くてつい」


そう言って笑う男。


その笑顔が、さっきまでと違い、とても人間くさく、年相応見えて、男へのティナの好感度がまた上がった。


男はまだ、青年だった。落ち着いた雰囲気や服装、礼儀正しい言葉に惑わされそうだったが、顔はまだ幼さを残す、爽やかな好青年だった。


――大人っぽくてかっこいいけど、ちょっと子供らしいところも残ってるなぁ


そんなことを考える十歳。


思わずぼーっとしてしまったティナに、笑いながら青年は言う。


「説明お願いします」


「あ、はい! 実はですね――」


説明をしてる間、青年は黙って聞き手に徹していた。


余計な質問は挟まず、ただ、ティナが話しやすくなる時だけ、相づちを返す。


そのおかげで、ティナも随分楽に説明できた。








すべての説明を聞き終えると、会場にはだいぶ近づいてきていた。


「面白いことを聞きました。ありがとうございます」


今、二十代前半と思しき青年の目は、十代の少年のような輝きに満ちていた。


「まさか、このような仕事をお持ちの方がいらっしゃるとは」


大げさに褒める青年。


「まだ、仕事をもてたわけじゃありませんけどね」


笑いながら訂正するティナ。


「何を言いますか。あなたの仕事が認められなくて、一体誰が認められるとゆうのですか?」


と、他の受験者の前では絶対に言えないようなことをいう。


「この街には、私以上に素晴らしい特技や技術を生かした仕事を持った人がたくさんいます。私なんかまだまだですよ」


この街の人々をフォローするように反論するティナ。


「あなたがそう言うのでしたらそうなのでしょう。では、またいつか、その人達を紹介してください」


「もちろんです! なんなら試験が終わったあとにでも……」


そこでティナは言葉を止めてしまった。気づいたのだ。自分が、このように積極的に人に関わろうとしたことなど初めてだとゆうことに。


自分の心境の変化に戸惑っているティナに、青年は言う。


「それはたいへん嬉しいお誘いです。是非、承りたいのですが……。それは難しいでしょうね」


青年は残念そうに首を振る。


「え、なんでですか?」


「私は試験が終わったあと、本国―つまりはメルクリウスの首都に帰らなければなりません」


――っ!!


「もう少しこっちいられないんですか?」


なぜこんなにも、今日会ったばかりのこの青年のことを気にしているのか。その理由もわからないまま、ティナは青年を引き留めようとする。


青年は諦めたように言う。


「無理でしょうね。私の仕事は向こうが主になりますから」


「そんな……」


もう、目の前に試験会場となる建物が見えてきている。


ティナは、このまま青年との時間が終わってしまうことを、とても哀しく思っていた。


それを察したのか、ティナに笑いかけながら、青年は言う。


「大丈夫です。私の仕事は、確かに向こうが主になりますが、今日のように、ほかの街に行くことも少なくないと思います。これで一生会えないなんてことはありません。…………それに、後一回は必ず会うでしょうし」


最後だけ小声で呟くように言う青年。


「でも……」


最後の言葉は聞こえなかったのか、涙目になっているティナ。


――こうゆう時は十歳らしい子どもだな


しゃがんで、ティナと目線を合わせる青年。


わがままを言う子供をあやすように、青年は言う。


「今君がすべきことは、試験を受けて、仕事を得ることです。そうでしょう?」


「でも―」


「でもではありません。

目的を間違えては行けません。ここまで一緒に来たのは、私が道がわからなかったからです」


こんな言い方をするのは卑怯だな。と青年は思った。


しかし、効果はてきめんだった。


「……」


その言葉で、ティナも冷静に戻ったようだ。


さっきまでの、気弱な十歳の少女はいない。いるのは、一人の職人だった。


青年は立ち上がる。


入口の前で、ティナは思い出したように言った。


「そういえば名前を聞いてませんでした」


言われて、青年も気づく。


「言われてみれば、ですね。

では、私から。私の名前は、セシルです」


青年―セシルは右手を差し出した。


「わたしはティナです。ではまたどこかで」


握手をして、それぞれ別々の入口に向かっていった。


二人とも、振り返ることはなかった。





読んでくださってありがとうございます!

これでギリギリ五万字を超えることができました!

今回は3話更新したので、『天井』からお読みいただければ続きからになると思います。

おそらく、次の話までは、ティナの過去の話になると思いますが、ストーリーでは大事な部分になってくる(はずです)ので、ウォーカーや、リアが好きな方にはゴメンなさい!しばらく出せません!


では、また次回会えることを祈って

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