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『あの日1』

【五年前】

「………っ」


当時、十歳だったティナは、街を歩いていた。


それをみて、ティナのことを良く知る人物は、「あぁ、今日なのか」と、温かく見守り、ティナのことを街で見かける人は「どうかしたんだろうか?」と、首をかしげ、街に来た観光客は、チラッとみて通り過ぎて行った。


なぜか。


それは、ティナが、いや、ティナの表情が変に強ばって、緊張している、もしくは怒っているように見えたからだ。


では、なぜティナはそのような表情をしているのか。


それは、今日が、ティナの就職試験日だからだ。


これに落ちれば、ティナは仕事をすることが出来なくなる。


もっとも、それは一時的な話だ。


試験に落ちれば、確かに仕事は認められないが、たとえ落ちたとしても、半年間経てば、また試験を受けることができる。


よって、今日の試験で絶対受からなければならない、とゆうようなことはもちろんない。そもそも、いくらシャルアートが、商業の街だからといって、未だ十歳の少女が働くとゆうことが、当たり前なわけではないのだから。


それなのに、ティナは、これから死地に赴く騎士のように、十歳の女の子には、不釣り合いな、緊張と恐怖が入り交じり、それでいて覚悟を決めた表情をしていた。


なぜなら、先ほどの余裕を持った考え方は、あくまで心身共にある程度成長した人がするものだ。


ティナは未だ十歳。


身体も心も、まだまだ成長途中。そのような楽観的な考え方ができなくても、無理はない。


…ましてや、書類審査が落ちたすぐあとでは。


書類審査が落ちたと聞いて、ティナが激しく落ち込んだわずか二日前。


そのショックが未だ抜けていないのだ。


もちろん、ナターシャもローリアも止めた。そんな状態で行っても、上手くいかない、と。


それなのに、ティナは、二人の静止を振り切って今日の就職試験に行こうとしている。


それには、三つの理由がある。


一つは、ティナの気持ちが。焦っていたこと。


書類審査が落ち、このまま一生仕事を認められないのではないか、と不安になっていたのだ。


二つ目は、子供らしい意地。


大人ふたりに止められて、見返してやりたくなったのだ。


三つ目は、意地ともほとんど大差のない、小さなプライドだった。


たとえ、街の人々がわかっていてくれても、自分はまだ仕事を公に、認められていない。そのことがティナ自身我慢ならなかったのだ。


――だいじょうぶ、だいじょうぶ。魔法はしっかり練習してきたし、魔法瓶も持ってきた。ししょーとおばさんだって、だいじょうぶって言ってた。

だいじょうぶ、だいじょうぶ……


ひたすら頭の中でそんなことをつぶやき続ける。


そして、言い聞かせることに集中し過ぎて、前を見ることがおろそかになっていた。その結果……。



ドシンッ!



「おっと」


「あイタ!」


見事に人にぶつかってしまった。


その人はティナの方に背中を向けていた為、ティナに気づかなかったようだ。


「あぁ! ゴメンなさい!」


ティナはすぐさま、その人に頭を下げた。


その人は気を悪くした風もなく、振り返ってこう言った。


「いや、こちらこそすまない。このような道の真ん中で突っ立ってしまって」


頭をあげたティナが見たもの。それは、とても背の高い男の人だった。ティナの頭の位置が男の腰あたりに来る程だ。


それに…もっとも特徴的だったのは、服装だった。


男は、メルクリウスの役員の服を着ていた。しかも、それは、就職試験の試験管の服装だった。もっとも、ティナが、そのことに気づくのは、後になってのことだったが。


その時のティナは、ただぼーぜんと豪華な服を着た長身の男の人を見上げていた。


「なにか私の顔についているのかな?」


からかうような口調で言う男。


「あっ! ゴメンなさい!」


また謝ってしまったティナ。


「ところでなにかあったのかね?」


「?」


突然何かあったのかと聞かれて、なんのことだか分からないティナ。


「ふむ。なにか『だいじょうぶ、だいじょうぶ』と、自分に言い聞かせるように言っていた声が聞こえていたのだが…」


「っ!!?」


どうやら、ティナは、頭の中だけでつぶいやているつもりだったようだが、漏れてしまっていたらしい。


「えっと…、あれは…」


独り言が聞かれていて恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしている。


「私は、就職試験に行こうとしていて、それで……、あの…」


だんだんと声は小さくなっていく。


しかし、男は頷いて、


「なるほど。それで試験が上手くいくかどうか不安で、自分に暗示をかけていたとゆうことですか」


ティナが言いにくいことを、あっさり言ってしまった。


「いや、暗示なんてそんなたいそうなものでは…」


小声で反論するティナ。


「おや? 自分自身に催眠魔法をかけていたのではないのですか?」


「違います…」


「なるほど、失礼しました。では、さしずめ心の中で自分に言い聞かせるように言っていた言葉が思わず口に出てしまった、とゆうところでしょうか」


まるで、心を読んでいるかのように、事実を当ててしまう男。


「なんでわかるんですか?」


「なるほど。図星でしたか」


と思ったらカマをかけられたようだ。


「あなたはなんで立ち止まっていたんですか?」


少し悔しくなって、聞き返すティナ。


「あぁ、私は単に道に迷いました」


淡々と述べる男。


続けて男は言う。


「しかし、これも何かの縁。よければ連れていってもらえませんか?」


「え? ってことはもしかして…」


「はい。私も就職試験会場に用があるんです」







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