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 笑顔の仮面

 「どうしたの? 急に…」


 ナターシャに「仕事を認めてもらいにいかないか?」と言われたとき、ティナは笑ってそう答えた。


 「急でもなにもないだろう。あんたが試験を受けてから、もう5年もたってるし、あんただってもう15才だ。いい加減受け直してもいいだろう?」


 「…………」


 ティナは黙っていた。顔には、ただ何の感情もない笑顔が張り付いていた。


 ナターシャがこの言葉をティナに言うのは二度目だった。三年前、ティナの12才の誕生日の日に、ナターシャは同じことを言ったのだ。


 その時も、ティナは今とまったく一緒の、何の感情もない…からっぽの笑顔を浮かべていた……。まるで笑顔の仮面をつけているように。


 「………っ!」


 そのとき、その笑顔を見てナターシャはショックを受けた。


 それから三年間。

 

 その笑顔を見たときから、ナターシャは、ティナにこの話をしなくなっていた。


 怖かったのだ。あの笑顔が。


 なぜ怖いと思ったのかナターシャにもわからない。


 ただ、ティナに二度とこんな顔はしてほしくないと思い、見たくないと思った。  

 ──けど今は違う


 「あんただっていつまでもコソコソこの街で生きていきたくなんかないだろう? ちゃんとした『仕事』もってそれで──


 

 ガタンッ!




 ナターシャの言葉は、突然の音によって遮られた。 


 ティナが急にイスから立ち上がったのだ。


 「ごめん。私仕事いってくるね」


 そう言ってティナは部屋を出ていった。


 独りになった部屋でナターシャは静かに思う。 


 ──あともう一押し……


 説得はうまくいかなかったが、ナターシャは落ち込んでいなかった。


 今、ティナは確実に変わってきている。成長……とは言わない。


 ティナは本来の自分を取り戻そうとしているのだ。5年もかけて。


 でも、戻ってしまうことに恐怖だって感じている。だからこそ、ティナはこのままの状態で停滞していたのだ。


 ナターシャは、ティナを前に進ませる方法がわからなかった。


 ただ時間が解決してくれるのを待つという選択肢しか選べなかった。


 解決策などとうの昔に探すことを諦めていた。


 それなのに、それは唐突にやってきた。


 そいつはいきなり現れてティナの停滞を少しずつ解いていった。


 ウォーカーである。


 ウォーカーとは昨日会ったばかりのはずなのに、ティナは自分の事の暗い部分、『仕事』の事まで話してしまった。


 ティナとウォーカーの2人は異常なまでの早さで仲良くなった。


 ティナに試験を受けさせたい。


 ナターシャの思いは、現実になろうとしていた。


 

 ──それなのに


 「……どうゆうことだいこれは?」


 ナターシャは帰ってきたウォーカー+αをみてつぶやいた。


 「この娘は、僕の同行者……みたいです」


 自分でも確証が持てていないような曖昧な答えを返す。


 「なんじゃそりゃ……」


 思わず口にしてしまうナターシャ。


 疑問に思っていることは他にもある。


 ウォーカーは家を出たとき、確かに手ぶらだった。


 それがなぜか、荷物を持っている。それも大量に。


 確かに初めてあったときは、旅人にしては荷物が余りに少ないと思った。


 しかし今は、旅人にしては、荷物があまりにも多すぎるような気がする。


 「その荷物は?」


 「僕が街に着いたとき持っていたものです。

 街に着いたとき、この娘と一緒にはぐれてしまっていて」


 「それにしても多すぎるでしょ!」


 「その多すぎる分は、この人がここに来るまでの間に買ったものよ」


 そこで、傍らに立っているリアという少女が口を挟んだ。


 「あんたは?」


 イライラしているナターシャはついとげとげしい言い方になってしまう。


 それに少女もカチンときたのか、語気を強めて言い返してきた。


 「初対面の人にいきなりあんたとはご挨拶だね。人に聞くならまず自分が名乗ったら?」


 ナターシャはその言葉を聞いて冷静になったのか、自分がとても失礼なことをしているのに気づいた。


 「あぁ、すまない。ちょっと気が立ってたんだ。

 私はナターシャ。南側で宿を営んでいる。ウォーカーとは偶然この街で会ってな、宿を探しているみたいだから泊めてやったんだ」


 謝罪しながら、自己紹介をするナターシャ。


 しかし──、


 「ふーん、そ。私はリア。ウォーカーと一緒に旅をする予定なの。──よろしくね…。お・ば・さ・ん」


 まだ少し腹の立っていたリアは最後に嫌みっぽく付け加えるとそっぽを向いた。


 その言葉に一度冷静になったナターシャにも火がついた。

 

 「誰が、おばさんだって?」


 「あれ? この場で、おばさんって呼ばれるような女の人は、あなた以外いないと思うんだけど?」


 その人を挑発するような言い方に、とうとうナターシャもキレた。


 「なにをこのガキがっっ! 私はまだ29だ! デるとこデてないようなガキが、ひがんでんじゃないよ!」


 この言葉にリアもキレた。


 「なっ! ひ、ひがんでなんかないわよ! そんな動きにくそうな脂肪の塊、願い下げだわ! それに私はまだ15歳! これからまだまだ成長するんだから!」


 いらないと言っておいて、成長すると言っていることの矛盾には気が付かないリア。


 「──ぁ」


 「まあまあ、2人とも落ち着いて」


 その矛盾を指摘しようと、ナターシャが口を開いたところで、ウォーカーが間に入った。


 「ウォーカー! なんなんだい!? このガキは!」


 「ウォーカー! なんなの!? このおばさん!」


 2人同時に叫び、その矛先はウォーカーに向けられている。


 ウォーカーも律儀にそれを返す。


 「リア。この女性は、僕を無償で泊めてくださっている人です。

 ナターシャさん。この娘は僕の旅の同行者になる予定の人です」


 「「そんなことはわかってる!!」」


 これまた異口同音に返され、困ってしまうウォーカー。


 2人に責め立てられ、困り果てたウォーカーは話を変えようと先ほどから気になっていることを聞いてみた。


 「ティナさんはどこにいったんですか?」


 これに対して、ナターシャは、仕事だっ!とだけ言い、リアは、誰それ! あなたまだ他に女の子の知り合い作ったの!? とさらにうるさくなった。


 そこでウォーカーは、さらに良い案を考えた。


 それは──。


 「そういえば、もうお昼時です! ご飯にしませんか?」


 「まだ食うのか!」


 と、リアにつっこまれてしまうものだったのだが。




 とは言ったものの、提案そのもに反対はなかったようで、ひとまず場は収まった。


 しかし、


 「なんであんたの分まで用意してあげなきゃ行けないんだい?」


 と、ナターシャは当たり前のように、イスに座ったリアに言った。


 リアは売り言葉に買い言葉で、


 「別に用意してくれなんて言ってないけど? それともなぁに? この家は客人に対して、イスも座らせてくれないのかな?」


 2人はにらみ合ったあと、2人同時にそっぽを向いた。


 「「フンッ!」」


 と言ったように、2人のやりとりは相変わらずで、ある意味、なにも解決はしてないように思えた。


 ウォーカーはもう聞こえないふりをしている。


 しばらくしてから、昼食が用意された。

 

 なんだかんだ言ってた割に、ちゃんとリアの分も用意されていた。


 「あれ? レンくんとティナさんの分はどうしたんですか?」


 テーブルに出された3人分の食事を見て首をかしげるウォーカー。


 リアはティナと言う名前に眉をピクッと動かして反応する。


 ウォーカーはそれには気づかず、違うことを心配していた。


 ──まさかこれは僕とナターシャさんとティナさんの分なのでは?


 ウォーカーの心を見透かしたようにナターシャは答える。


 「安心しな。これはこの場にいる3人の分の昼食だよ」

  

 「では2人の分は?」


 「レンは修行先で食べて、そのまま夕方まで帰ってこない。修行している子どもの殆どは、その修行先で昼飯を出されるんだ。

 弁当を持たせるところもあるが、いずれは住み込みになるからね、そこの飯に慣れるように私はしていないんだ」


 「住み込みになるんですか?」


 「あぁ。ある程度子どもが育ったら、そこに住み込みで働くようになる。

 まぁ所謂いわゆる奉公ほうこう』てやつだよ」


 「なるほど」


 「ティナはいつも仕事中に買い食いをして昼飯にしているから用意していない。あの子もここに住んでいるわけじゃないからね」


 「わかりました。ではさめないうちにいただきましょう」


 「……いただきます」


 「どうぞお上がり。

 ……いただきます」


 こうして、3人の静かな昼食が始まった。

 







 

読んでくださってありがとうございます!

少し遅くなった分、今回はなんと! 初の2話同時投稿です!

いやぁ、疲れました。

アリアンローズの締め切りまであと少し。

五万字まであと、約一万字。

十万字まであと、約六万字。

がんばって最後まで書きますのでよろしくお願いします!


あと、また次回あえることを祈って!

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