同行者2
「そういえば、荷物はどこに行ったんですか?」
ウォーカーがリアに話しかけた。
今2人は街の東側から南側に向かってあるいていた。
ナターシャの家に向かうためだ。
「私の友達のとこ。連中ぶちのめしたあとウォーカーがどっか行っちゃってたからさぁ、とりあえず宿探そうと思ったら、なんか偶然その友達と会って、宿探してるって言ったら泊めてくれたの」
──また言い方が悪くなっている…
思っても口にはしないウォーカー。言っても無駄だと思ったのだろう。
「ならまずそこにいきましょう。私の荷物もあるでしょうし。連れて行ってもらえますか?」
「おっけー! ここからなら結構近いよ。
……でもその前にその荷物どうにかした方がいいんじゃない?」
ウォーカーの荷物を見て若干顔がひきつっているリア。
それもそうだ。なんせ、最初はリアを見つけるための情報収集のために店に寄っていたはずなのに、リアが見つかったあともウォーカーは、気になった店を見つけては寄っていった。
それを繰り返した結果…。ウォーカーの荷物は信じられないくらい大量になっていた。……しかもそのほとんどが食べ物だ。
──これ……全部1人で食べるのかな…
当然の疑問をもつリア。
しかし、聞いてもこのとぼけた旅人は当然のように「はい」と言うのだろう。リアはそれくらいわかるくらいにはこの旅人を理解していた。
「そうでしょうか? 僕は全然大丈夫ですが」
「でも、まだ荷物もあるんですよ?」
「わかってますよ。でも、ここから僕が泊まっているところに戻ったりしていたら二度手間になりますから」
──いやまぁ、それはそうかもしれないけど
リアは恥ずかった。なぜならさっきから、すれ違う人すれ違う人にクスクスと笑われているからだ。
──恥ずかしい!! なんかものすごい恥ずかしい!!
少し離れて歩くことにしたリア。だが……
「リアさ……リア。待ってください。あんまり離れすぎたらまたはぐれますよ」
と言ってウォーカーは離れない。
──あぁーもぉー!
心の中で頭を抱えるリア。
「頭でも痛いんですか?」
と思ったらどうやら現実でも頭を抱えてしまっていたようだ。
「何でもない……。あと、もうすぐつくけどウォーカーは出てこないでね」
くぎをさしておくリア。
「なぜでしょうか?」
「色々あるから」
適当に答えるリア。
「わかりました」
すんなりと受け入れるウォーカー。
「なんでか聞かないの?」
「リアさ……リアの表情でだいたいわかりますから」
またこれだ……。とリアは思った。
この旅人はこっちが隠そうとしていることをいとも簡単に見抜いてしまう。周りの人間の感情にとても敏感なのだ。どんな詐欺師でも彼の前ではなにも騙せないだろう。
──これじゃあ、私の気持ちも筒抜けかもなぁ
リアが親元を離れてウォーカーに付いてきた理由は単純だ。
好奇心と……、一目惚れである。もっとも、リアは同年代の人の知り合いなど限られていて、自分が、恋心と言うものをよくわかっていないと言うこともわかってはいないのだが。
「そういえば、街がとても活気づいているように見えますね。それともこの街はいつもこんなに賑やかなんですか?」
ウォーカーが街を眺めながら聞いてくる。
「まっさか~。そんなことないわよ」
リアもそれには気づいていた。言いつつもリアも気になっていた。そして、あることに気づいた。
──もしかして……
近くにいた、道端で露天商を営んでいる女の人に聞いてみた。
「もうすぐ奏商祭なんですか?」
露天商の女性は、商品も買っていない、傍から見たら冷やかしにしか見えないリアにも優しく答えてくれた。
「えぇ。一週間後ですよ。今はどこの店も準備で大忙しです。私も当日には取って置きの銀細工を売るつもりです。是非いらしてくださいね」
その女性はケープのようなものを身につけており、フードをかぶっているせいで、表情はわかりにくかったが、薄く微笑んでいるようにリアには思えた。
「ありがとう! 楽しみにしています!」
心からそう言って、去ろうとしたとき、リアが女性に手招きされた。
「なにか?」
怪訝そうな顔をするリア。
「彼処にいる彼は貴女のお連れさん?」
ウォーカーを指さしながら女性は訪ねてきた。
「ええ、まぁ……」
認めたくないが認めざるを得ない。
今のウォーカーは目立ちすぎている。この女性も、喋っているところを見ていたのだろう。
「フフ。これは選別です」
女性は相変わらず微笑を浮かべたまま、二つの銀細工を渡してきた。それは不思議な幾何学模様をしていた。
「きれい……。いいんですか? 貰ってしまって」
「構いません。あなた方には、これから何かが起こるような気がしましたから。これはほんのおまじない程度です」
「何でそんなことが? それに…何か起こるって……」
訝しむリアに、女性は相変わらず何か含んだ微笑を浮かべている。
「実はわたくし、《占術》を少々かじっておりまして。副業として《占い師》を営んでおりますの。もちろん認可されていませんから、ほんの一部の人しか知らないんですけれど。
それであなた方の未来を勝手ながら占わさせてもらいました」
「へぇー! それで私たちになにが起こるの? ……ひょっとし、よくないことだったりする?」
『占い師』ときいて、一気に警戒を解くリア。
おおかた、彼女に対する警戒心よりも、占い師とゆう職業への好奇心が勝ったのだろう。
「一概に、良いとも悪いとも言えませんね。あなた方だけでなく、あなた方の周りの人たちにも関わってくることのように思われますから。
誰かにとっては良くても、他の誰かにとっては悪いことかもしれません。
何にせよ、お気をつけた方がよろしいかと」
「うん! わかったよ! ありがとう!」
満面の笑顔で頷くリア。
リアにとっては、占いの結果よりも、珍しいことをしたと言う経験の方が大事なのだろう。
「いえいえ。祭りの際は是非いらしてくださいね」
最初から最後まで、変わらぬ微笑を浮かべていた、露天商もとい占い師の女性は、慇懃無礼に礼をした。
「またねー!」
そう言ってリアも今度こそ露天商の女性のそば去っていった。
ある程度離れたあと、ずっと黙っていたウォーカーが口を開いた。
「不思議な女でしたね。」
「そうだねー。占い師なんて始めてみたよ~!」
「そーゆうとではないのですが……」
わずかに口ごもるウォーカー。
「そーいえば、何でずっとしゃべらなかったの?」
「いえ特に理由はありませんが」
「ふーん。そーなんだー…。
あ! あそこだよ。私の友達の家」
占い師とのことで少し時間がかかってしまったものの、目的の場所に付いたようだ。
リアは前方に見えてきた一軒の家を指差している。
ウォーカーもその指し示す家をみとめたようで、返事を返す。
「わかりました。僕はここで待っていますね。荷物はもってこれますか?」
「大丈夫! ……あと、重ねて言うけど絶対付いてこないでね」
念を押すリア。
「わかっていますよ」
既に関知しているといったウォーカー。
絶対だからねっ! と、それでも不安が拭いきれないのかリアはなおも念押しをしていき、家の方に向かっていった。
ウォーカーは先ほどの占い師のことを考えていた。
──あの女はいったい……
読んでくださってありがとうございます!
2話同時投稿なので、あとがきは続きで⇨