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一児の母

 「いつまですねてんだい?」


 ナターシャは後ろのダイニングテーブルに突っ伏しているティナに呼びかける。


 ウォーカーは1人で外出中。レンは修行に行っている。だから、今ナターシャの家には2人きりだ。


 「………」


 無言の返答。


 ナターシャはため息をついた。


 「いつまでも照れてないで仕事いったら?」


 「………照れてない」


 ──おっ今度は喋った


 しかし、ナターシャはあえて無視して話を続けてみる。


 「まったく。わざわざベッドを分けてやったてのに。一緒に寝たいんだったらそう言えばいいのに」


 ガタンッ!


 いすを倒して跳ね起きるティナ。

 

 「そそそそんなわけないじゃない!」


 照れか怒りかよくわからないが顔を真っ赤にして、声がふるえている。


 ティナはなおも言い募る。


 「あれは! あの人と会ったり、街を歩いたり、師匠に久しぶりにあったりして疲れてただけなの!」


 「はいはい。わかったわかった」


 ナターシャはそれをさらっとながす。


 「そもそも何で途中で起こしてくれなかったんですか! そのせいで私は、ウォーカーさんに……、あんなことを……」


 怒りの矛先がこっちに来たと思ったら、勝手に落ち込んでしまった。


 時刻は、朝10時を少しすぎた頃。


 なぜティナは照れたり怒ったりしてるのか。なぜこの街に来たばかりで、街のこともよくわかっていないウォーカーが独りで外出しているのか。


 ことの原因は朝の8時までさかのぼる。





              *


 《朝8時》


 「………ナ…、……ティナ」


 誰かに肩を揺さぶられている。


 とてもきれいな女の人。ぼやけていたがそれが美しい女性と言うことはわかった。


 「ぉかあさ……ん」


 つぶやいた。すると音がはっきり聞こえ、視界が色彩を取り戻した。


 「ティナさん起きてください。朝ご飯食べ損ねちゃいますよ」


 肩を揺さぶられている


 「ウォーカーさん…」


 ウォーカーだった。


 「おはようございます」


 「ぉはよ」


 ティナはゆっくりと体を起こす。


 まだ頭は寝ぼけているらしく。左右を見渡し、自分の乱れた寝間着をみる。


 徐々に頭がさえていく。


 そして、ウォーカーに起こされたこと、寝言を聞かれたこと、自分のパジャマが乱れていること。最後にウォーカーと一緒のベッドで寝てしまったことをティナは理解したようだ。


 顔が一気に真っ赤に染まった。


 次の瞬間


 「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ドッゴォ!

 「うっ!!!」


 バタバタバタッ!


 ティナは絶叫し、ウォーカーの鳩尾に渾身のエルボーを打ち込み、全力疾走で部屋を出て行った。呻くウォーカーを残して。




 《朝8時半 朝食》


 「…………」


 「…………」


 「…………ククっ!」


 ダイニングテーブルには、ティナとウォーカーが座っていて、キッチンにはナターシャが。


 ティナは顔を真っ赤にして俯いていて、ウォーカーはどうしたらいいかと惑っている。そしてナターシャは、笑いをかみ殺しながら食器を洗っている。


 テーブルで朝食を食べているのはティナとウォーカーだけで、ナターシャとレンはもう食べ終わったようだ。


 それから数分後


 「あ、あのナターシャさん」


 沈黙に耐えきれなくなったのか、ウォーカーがナターシャに話しかけた。


 「レンくんはどこに行ったんですか?」 


 起きてから1回もレンを見ていないことにウォーカーは先ほど気がついたのだ。


 なかなか気づかなかったのは彼にそんな精神的余裕がなかったからだが。


 「レンは修行に行ってるわ」


 ──修行?


 ウォーカーは古風な言葉に首を傾げる。


 そんなウォーカーの態度で察したのかナターシャは説明してくれた。


 「この街には、子供のための国や街が運営している教育機関、いわゆる学校てやつはないんだ。

 もちろん、最初からなかった訳じゃないよ。昔はあったんだが通う人がいなくて、廃校になったんだ」


 「なぜ子供が通わなかったのですか? それにその事とレンくんにどうゆう関係が?」


 ウォーカーにはいまいち話のつながりが読めない。


 「まあ順番に話すとだね。通う子がいなくなった理由は簡単さ。みんな仕事をしているからだよ」


 「そう言えば、ティナさんも10から働いているとおっしゃっていますからね」


 ウォーカーは昨日事を思い出して話す。


 「そ。この街の子どもはみんな、物心がつくと自分のなりたい職業探し始めて、その職業を持つ人に弟子入りするんだ。昼間みんなその職場に行って手伝いをしていて、一人前なったら独立する。だから修行って呼ばれてるんだ」


 「なるほど。レンくんはどんな職場に修行に行っているんですか?」


 確かに気になってくるところだろう。しかし、ナターシャから正確な答えは得られなかった。


 なぜなら。


 「実は私も知らないんだよね~」


 実にあっけからんとナターシャは言った。


 「え?」


 ウォーカーは一瞬ポカンとしてしまった。


 すぐにハッと我に返り驚く。


 「えぇ! 何でしらないんですか!?」


 「なんでって言われてもな~」


 頭をかきながら困ったように笑うナターシャ。


 「自分の子どもが働くことになる職業が気にならないんですか?


 「いや、私もレンが職業を決めたって言う日に聞いたんだけどさ~。そしたら 『教えない!』 の一言ですまされちゃって。それ以降はなにやっても教えてくれなかったから、今はもう待つことにしてる。いつかはわかることだからね~」


 これまたあっけからんと言いながら、笑うナターシャ。


 実の母親がこう言っているのだから部外者の自分がとやかく言う事ではないと思い、ウォーカーはそれ以上は聞かなかった。


 しかし、ウォーカーにはまだよくわかっていなかった。もし、彼がもう少し大人で、妻と子どもを持っていたら、ナターシャの笑顔の意味が分かったかもしれない。


 母親が自分の息子が何をしようとしているか気にならないはずがない。

 

 














 

 

読んでくださってありがとうございます!


今回は割と早く更新できました!

この話は大きく話の流れを変える、起承転結で言う『転』にするはずだったのですが、その前に一組の親子についてかかせていただきました。

次回にもこの話を続けるのか、違う展開に持って行くのかはわかりませんが、気長にお待ちしていただけるとうれしいです。


ではまた次回会えることを祈って!

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