帰り道 1
「楽しかったですね~♪」
ウォーカーは上機嫌だ。
足取りも軽く、ニコニコしながら歩いている。
「よかったですね~……」
ティナは不機嫌だった。
足取りは重く、皮肉っぽく返事をする。
しかし、
「はい!とてもよかったです!」
素直に返される。
皮肉も通じず、ひとりため息をつくティナ。
ウォーカーとの初日は終わった。
2人は今、ウォーカーが泊まっているナターシャの家に帰るため、来た道を引き返していた。
進んだ距離は約12キロ弱。
歩き始めたのは昼頃で、4時頃まで進み、そこから引き返し始めてもう2時間ほどたつ。
「ずいぶん長く歩きましたね」
ウォーカーが帰り道の途中話しかけてきた。
さすがに6時ともなると、人が少ない。
夜になる方が人が多くなる所もあるにはあるのだか、ここはそうではないようだ。
だから、昼間よりも2人の距離は近く、言葉もはっきり聞き取れるのだが。
「そうだね……」
不機嫌に返すティナ。
そこで会話がとぎれてしまう。
いつものティナなら、と言うより普通の女の子ならみな、多少なりとも意識する状況だ。
しかし、ティナは消化不良のようなもやもやが残っていた。
そのため、この状況を少しも意識していなかった。
もやもやの原因。
それは、いつもより進んだ距離が短いせいだった。
ティナは来た道を途中で引き返すことを考えて、あまり進まなかった。
それに、いつもはティナひとりで歩いているため、だいたい1時間に5キロのペースで歩いているのだが、今日はウォーカーが一緒だった。
別にウォーカーは旅人なので、ティナのペースでも大丈夫だとは思うのだが、今日はウォーカーの街巡りも兼ねているためスピードをあげれなかったのだ。
それに、ウォーカーにとってはいろんな店が珍しいのだろう。
いろんな店で寄り道をしていたため、なかなか進むことができなかった。
しかし、帰りは一度通った道なので、ティナはスピードを元に戻して歩いていた。
進むときにゆっくり進み、しかも長くあるいたので、速く歩かなければ、日が暮れる前にナターシャの家つけなくなるからだ。
ウォーカーも察したのか、何も言わずついてきていた。
内心、ティナは感心していた。
ウォーカーは旅人なので当たり前かも知れないが、ティナの歩くスピードについてこれる人はそういない。
それなのに、ウォーカーはとても自然についてきていた。
いつものペースで歩いたことで、すこしはもやもやが解消されたのか、ティナがウォーカーに話しかけた。
「すごいですねー。私の歩くスピードに付いてこれるなんて」
感心したようにティナが言う。
「そうでしょうか? 僕は旅をしているときもだいたいこれくらいですけど」
「じゃあ、明日はこのスピードで進もうかな~」
ティナは意地悪く言った。
「そ、それは困ります! 店をじっくり眺めることが出来ないじゃないですか!」
ウォーカーは慌てて言う。
「ちなみに、明日は逆回りに行きますよ。東側はどちらかと言うと商人が多いんです。だから、珍しい物がいっぱいあるかも知れませんよ~?」
さらに意地悪く言う。
「よけいだめじゃないですか! ……方向によって商売の種類が変わってくるんですか?」
ウォーカーがすこしこの街に興味をだしたので、すこし得意になってティナは説明する。
「はい。東側は海に面しているので、海の向こうの国から、色んな商人と商品が入ってくるんです。
逆に西側は内陸から、職人がやってくるので、職人の店が固まりやすいんです。
南側は宿や住宅街になってます。これは南からは、旅人や北の方に行くために通る、南側の国々の大使さんが来るからです。ウォーカーさんがきたのも南側でしょう?」
「はい。僕は南のほうの村からきました」
満足そうにほほえむティナ。
「そうでしょう! 南の方には、《五行連盟》所属の大小さまざまな国々や村があります。だから、南側には、旅人や大使のための宿などが多くなりました。
北側はガジノ、いわゆる賭事をするところや、遊廓といった娯楽施設が集まった、歓楽街です。あんまり私の仕事には縁がないので、滅多に行きませんけどね。
こんな感じに東西南北に特色があるんです。どこもそれぞれの魅力があってあきることがありませんよ?」
まるで、自分のことのように自慢するティナ。
そこで、ふと疑問に思ったことがあったウォーカーは質問した。
「あれ? じゃあ、中央にはなにがあるんですか?」
「っ!」
そこで、ティナは一瞬、無表情になって固まった。
「あの、どうかされましたか?」
何かまずいことを言ったのではないか、とウォーカーは心配になる。
「いえ。なんでもありません」
すぐにティナは歩き出したが、明らかにさっきまでとは違っていた。
口調も表情も態度も。元に戻ったはずなのに。
空気が明らかに変わっていた。
ウォーカーは迷っていた。中央の話はもうやめた方がいいのではないかと。
しかし、予想に反して、ティナは話し始めた。
「中央にあるのは、この街を仕切る役所や大きな病院、図書館などの公共施設がほとんどです。あとは、街を取り締まる兵士も多いですね。
ウォーカーさんはこの街の政治体制がどうなっているか知っていますか?」
急に話を振られるウォーカー。
「いいえ。と言うより、国ではないのに政治体制があるのですか?」
「はい。この街はほとんど自治国のような成り立ちをしています。ただ、国を作るには土地も人工も少ないので、仕方なく《五行連盟》のうちの一角、《メルクリウス》に所属してるんです」
ティナ自身このことはあまりよく思っていないのではないか? とウォーカーは感じた。
次回に続く
読んでくださってありがとうございます!
そして、遅れてまことに申し訳ございませんでした!m(_ _)m
こんどこそ!速く書き上げますので!……たぶん
この話ではあえて何も解説せずにおこうと思います!
では、また次回あえることを祈っています!