架空の旅人
読者が感情移入しやすいように意識して本をかきました!
「お姉ちゃーん!魔法ちょーだーいっ!」
右も左も煉瓦づくりの家が立ち並んでいる住宅街を歩いていると、後ろから男の子が大きな声で呼ぶのが聞こえてきた。そして、私がきずいたことがわかると、雪が薄く積もっていて滑りやすくなっているにもかかわらず、ダっと駆けよってきた。
「レンくん!雪つもってるのに走ったら危ないよ!」
転けなかったことに若干ほっとしながら優しく注意する。
「僕こけないもん!」
自信満々に否定された。
私はレンくんの格好をみやる。レンくんは半袖半ズボンでなぜかマフラーはしていた。ちなみに今は真冬だ。
「……レンくん、寒くないの?」
「ぜーんぜん!寒くないよ!だって、僕強いもん!」
──この子はいつもにこにこしてるなぁ。
そう思いながら、レンくんとしゃがんで目線を合わせた。
「で、どうしたの?魔法ほしいんじゃないの?」
すぐに本題のことを話さないと、この子は何をしにきたか忘れてしゃべり続けてしまう。私から聞かないと日が暮れてしまうほどだ。
「え?あっ!そうだ!お姉ちゃん魔法ちょうだい!」
「それはさっきも聞いたよー。何の魔法がほしいの?」
「ん~とね!忘れた!」
がっくりと内心脱力する。予想はできていたが。おおかた町のどこかにいる私を捜している途中に忘れてしまったのだろう。
「おかあさんのお使い?」
「そーだよ!えらいでしょー!?」
──何を買ってくるか忘れてなかったらね…
思っても口にはしない。お母さんも大変だろうなぁ、としみじみ思う。
「えらいねぇー!買ってくるもの紙に書いて持ってたりしないかな?」
「ないよ!」
即答だった。
「ちょっと後ろ向いてくれる?」
ためらいもせずに後ろを向いてくれる。
マフラーの後ろをさわってみる。案の定、お母さんが書いたと思われるメモがあった。ついでに私へのメッセージも。
『メモみつけてくれてくれると思ってた!多分あのこ、買ってくる魔法もメモも忘れると思ったから、勝手にマフラーに入れといたの。ありがとね!』
──さすがおばさん。レンくんのことよくわかってるなぁ。
この親子とは長いつきあいだから、これくらいのことはわかる。
ただ不思議なのは注文された魔法だった。
メモに書かれていたのは、やはり炎魔法だった。それはいいのだが、どうも量が多い。こんなに注文されたのは初めてだ。持っていないわけではなかったが、少し気になった。
私は一度だけ入らせてもらったことのあるレンくんの家の間取りを思い浮かべた。
──やっぱり少し多い。あの家を暖めるのに、こんなに炎魔法はいらない。それに料理をするにしても………
「ねぇレンくん」
「なぁに?」
レンくんは後ろを向いたまま答えた。そして、後ろを向かせたままだったことを思い出した。
「もうこっちむいていいよ」
「わかった!あれ?どうしてメモ持ってるの?」
振り返って不思議そうな顔になるレンくん。
「ふふふー、なんででしょう?それより、今、おうちにお客さんとかきてるの?」
──本人に聞いてみるのが一番はやいかな。
そうおもって聞いてみた。
なんでもすぐに忘れてしまうレンくんもそれは覚えていたみたいだ。
「うん!お兄ちゃん泊まりにきてるんだ!」
私の記憶ではレンくんは1人っこのはずだ。つまり、泊まりにきてるのは、レンくんのお兄ちゃんではなく、お兄ちゃんと呼べるくらいの若い男言うことだろう。
──おばさん世話好きだからなぁ…
苦笑混じりに思う。
レンくんのお母さんである、ナターシャは、極度の世話好きだ。おそらく、宿に泊まる金もなさそうな旅人かなにかを向こうの意志に関係なく無理矢理泊まらせるつもりなのだろう。
「そっかー!じゃあ、はい、炎魔法わたすね。お金もらってる?」
「うん!」
レンくんはさっきからずっと右手に握っていたお金をわたしてきた、少し暖かくなっている。
ちゃんと足りていることを確認したあと、書かれているより、少し多めに炎魔法が入ったビンを布袋に入れてわたす。
「ちょっとおまけしとくね。落としたらだめだよ!お母さんによろしく!」
「うん!ありがとー、お姉ちゃん!バイバイ!」
「気をつけて帰るんだよー!」
また走って帰って行った。
──さっき言ったこともうわすれてる。
苦笑いしながら、自分も家路につく。
レンくんの所に泊まることになった『お兄ちゃん』はどんな人だろうと架空の旅人を想像しながら。
読んでくれてありがとうございます!
これは私が執筆している、『ライフ』に登場予定のヒロインを主人公に変えて書いたものです!
ので、世界観を共有しています!
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