04:品出し
ちなみに倉庫には、交代で常に警備の傭兵が詰めていて、鍵も警備員が管理している。入退室時には入庫書にサインしなきゃいけないし、かなり面倒な場所なんだが…まあでも扱ってるものがモノだしな…
あと聞いた話だが、実は現金もけっこう置いてるらしい…銀行預けろよジジイ…いや銀行にもかなり預けてる(しかも一ヶ所じゃなく何ヵ所にも)のは知ってるけどさ…どんだけリスク分散?
それはさておき。
不寝番の警備員に、ハイここにサインよろしく、とかダルそうに話しかけられる。ついでに光球灯も借りようとして…気付いた。
「……あれっ…ヴィリイ、さん?」
そこにいた警備員は、本来ここの警備を任されてるはずのメンバーじゃなかった。
でも、知らない顔というわけでもなく。
「ん?……あぁ、ソーマのツレの…アルだったか」
「はい。ヨォラ・アルキンです。…ヴィリイさん、なんでここに?」
このヴィリイさんは、ソーマが武術を習った道場の先輩だとかで、基本フリーで働く傭兵だ。腕はかなりのもので、うちでは、年に2回ほど出してる隊商の警護助っ人を毎回頼んでる、半契約傭兵みたいな人だった。
それほどつき合いはないけど、一時期護身術を習ってたことがある。いや俺ケンカなら得意だけど、きちんとした武術的なのって教わったことなかったからさ。最初ソーマに教わろうと思ってたんだが、アイツ教え方ヘタクソでさぁ…たまたまその場にヴィリィさんがいて、見かねて指導してくれたわけ。ヴィリィさん、教えるのがうまいんだ。
それに、ソーマと飲みに行った時に偶然会って、飯おごってもらったこともあったな。基本的に面倒見がいい人なんだよね。
ちなみに、見た目ヒゲのオッサンだけど、俺と3つしか年が違わないらしい…
「当番のリアフがキナ貝に中って腹壊したとかでさ、頼まれたんだ。たまたま俺こっちに戻ってきてたし」
ちなみにリアフってのは、新人の傭兵だ。俺より若くて、よく飯をたかられる。
「うわぁ…大丈夫なんですかね?」
「一日中トイレとベッドを往復してるって聞いたぞ」
えぇ~俺キナ貝好きなのに…やめてよそういう話…
「しっかし、アンタもこんな時間まで仕事かい?販売ってのも大変なんだねェ」
鍵と光球灯を出しながら、ヴィリイさんは呟く。
「いやぁ…今回は、俺の実力が問われる最初の機会っていうか…」
「フーン」
ヴィリイさんはあんまり興味なさそうな返事だったが、なんとなく誰かに話したい気分の俺は、構わず話し続けた。
「明日、バンレッシィ侯爵家に御用聞きに行こうかって話になったんスけど…俺にその準備を任せるってことになりまして…」
「……バンレッシィ?」
「えぇ実は」
かくかくしかじか…って便利な言葉だな。
バンレッシィ家に行くことになったきっかけを話すと、ヴィリイさんは、偶然だなぁ、と感慨深げに呟いた。
「そのバンレッシィのお嬢さんを、スカヤ山まで迎えに行ったの、俺ら」
「……………えぇえええ!!?」
ちょ、おま…マジでか!
「あの黒髪で色白の美人の…」
「あぁミリエちゃんな。で、一緒にいた茶髪のガキが、俺の身内のレニって魔術士だ……ちなみに男だぞアイツ」
え、ちょ…えぇえええ!???
「アイツの一族はちょっと変わった風習があってな、子供が小さいうちは、男なら女の格好、女なら男の格好をさせるんだ。で、それが癖になったとか言ってた」
肩をすくめながらヴィリイさんは言った。ついでに光球灯も出してくれる。
マジかよ……完っ璧に、女にしか見えなかったぞ…ていうか、ツッコミどころが多すぎてもう何がなんだか…
……いかん、落ち着け俺。女装少年の件も気になるがとりあえず置いといて。
これはチャンスだ。バンレッシィ・ミリエ嬢に関する、ひいてはバンレッシィ家に関する情報を得るための。
俺は光球灯を受け取りながらヴィリイさんに尋ねた。
「へぇぇ~…いや、すごい偶然もあったもんッスねえ!……でも侯爵家のお姫様が、なんでまた出家なんかしたんスかね?」
「知らん。……ま、色々あったんだろ」
「ところで、千里眼っていうのはホントなんですか?」
「……あぁ、本物だぜありゃ。予知っていうのか…それに人の過去も見えるらしい」
「どんな子ですか?」
「ん~、無口で……真面目だな」
「恋人とかは?」
「いないんじゃないか?…つか修道女だぞ?いるわけないだろ常識的に考えて…」
「好きな食べ物は?」
「知るか!…っていうか何?おまえ、ミリエちゃん狙ってるのか?」
……ハッ!しまった!
すんごいナチュラルに仕事とあんま関わりない個人情報訊いてた!いっけね☆
「いやいや狙ってるだなんてそんな…ただちょっとお友達になれたらな~って…」
「おまえなぁ…リアフから聞いてるぜ?御用聞きに行った屋敷の侍女とか、果ては女主人まで食ってるって…」
……チッ。
リアフの野郎…余計なこと口走りやがって…キナ貝持って見舞いにいったろか。
「あんまし他人のすることに口出しはしたくないんだけどさ……アンタ、無駄に見目がいいから断っても女が寄ってくるクチだろう。けどこの店で、いや、こういう業界で上を目指したいんなら、もうちょい考えて行動したほうがいいと思うがね…」
そして、ヴィリイさんのお説教という名の余計なお世話のせいで、仕事を終わらせて家に帰るのが1時間遅くなった俺だった…
……え?何?自業自得なのコレ?