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17/19

17:カッコ悪すぎ

 ジギリート流の道場で、ソーマに貸してる金をヴィリイさんに立て替えてもらい、ついでにレニっていう性別不詳の少年魔術士(?)からバンレッシィ・ミリエ嬢に関する情報提供と協力が得られることになって、早速その日の夕刻。

 いったん家に戻って軽く身支度と準備を済ませた俺は、レニに教えられた、彼女が泊まっているという宿に向かった。


 いやまさか彼女、バンレッシィの屋敷じゃなくて傭兵宿にいるなんて……嬉しい誤算だったぜ。

 レニから聞いた話ではどうも彼女、あんまりバンレッシィの家に戻る気がないらしく、郊外のなんとかいう施療院で看護婦?みたいな仕事をするつもりだか既にしてるんだか、よく分かんないけど、まあとにかくそんな感じらしい。まさに天が俺に味方しているとしか思えん展開…

 これを『攻め落とせ』という啓示に違いないと解釈した俺は、当然のように彼女を食事に誘うことにした。

 ……ホントは、こないだ彼女に高いドレス売りつけちゃった販売会のことが気になってなくもなかったんだけどね…悪い印象持たれてるかもしれないし、ちょっと会うのが怖かったけど、それ以上に、もう一度会いたい気持ちのほうが大きかった。

 いつもの俺なら、もっと軽~く会いにいけるんだけどね。女の子に会うのが怖いって、そんなこと思うの初めてかもしれん。

 なんだろねぇ~コレ。

 いわゆる恋ってヤツ?うわぁ…全ッ然ガラじゃねえし!なんかこっぱずかしい!


「んっふふふ~呼んで来たったよォン♪」

「お、おう…」

 そんなわけで、わけもなくソワソワしながら俺は彼女を待っていた。隣でレニがなんかニヨニヨしてて、ちょっとイラッときたが、気にしてる余裕もなかった。


 ほどなくして、彼女が階段を下りてきた。

 現れた彼女は、いつぞや見た質素な服にマントを羽織っただけの、つまり最初に会った時とほぼ同じ姿だった。ただし今日はこの前と違い、高い位置でまとめた髪をさらに編み込んで丸く一纏めにしていた。おかげで白くなめらかそうな首元や小さくてかたちのいい耳がスッキリ見えた(※かわいい)

 これは…そう、まさに働くお姉さん的な…イイ…キャップかぶせてナース服着せたい…

 ……いやまあそれはともかく。


「あっミリエこっちこっち!このお兄さんがネー、食事をおごってくれるっていう下ごk…じゃないや親切なアル兄さんだヨ」

 ニヤニヤ笑いながらレニは言った。おい、オマエ今何言おうとしやがった。ていうか明らかに面白がってるだろ。

「…………こんばんは」

 俺とレニを見た彼女は、ものすごく怪訝そうな顔をした。そりゃそうだろ。何日か前、自分にドレスを売りつけた相手が、なぜか夕食を誘いに来てるんだから。よくわからない状況だよな。俺もそう思うわ。


 ところが、ですよ。


「……こ、こんばんわ…」

 情けないことに俺ってば緊張して、せっかく彼女に会えたのに、何からどう説明したらいいか分からなかったのですよ…

「あ~その…ヨォラ・アルキンといいます」

「……バンレッシィ・ミリエです」

 ハイ知ってます。

「あ~…っと……とりあえず移動しますか?店は予約してあるので…」

 とりあえず名前だけ名乗って、あとはそそくさと呼び止めていた馬車に案内した。マジ情けねえ…

 目当ての場所まではすぐだったけど、馬車の中でもやっぱりロクに口をきけなかった。なんか、こないだしみじみ身分が違うかもとかグダグダ考えちゃったからそのせいか…?何やってんだよ俺らしくねえ…


 んで。


 知り合いがけっこう有名な麺料理屋で働いてて、ツケもきくからたまにデートで利用してた。少し高めだけど美味いその店を選んだ自分の判断が間違ってたとは思わない。美味しい食べ物は体ばかりか心もほぐしてくれるからな。まあ基本戦術だろ。

 惜しむらくはレニも付いてきたことだが、まあ最初だし、致し方あるまい。

 そう、レニが付いてくること自体は一応納得ずみだ……だが…しかし……


「ん~まいっ!さっすが、三鳥街で今いちばんオイシイって噂のお店!あっミリエ今日はアル兄さんのおごりだからネー!遠慮なく食べちゃっていいヨ!」


 オマエなにその食べたものが異空間に消えてるとしか思えない異様な食いっぷり!!

 どうでもいいけどこれがいわゆる「痩せの大食い」ってやつ!?マジでどうでもいいけどっていうかマジ…ちょ、おま……あああ今オマエがさりげなく平らげたのは一皿58ゲルもするパスタ……しかもおかわりかよ!?やめろ給仕呼び止めんな!

 いやミリエ嬢に取り次いでくれる見返りにメシをおごる約束はしたよ!?したけどね!?


 ああっ!マジでやめて給料日前なの!私のサイフ(の中身)はとっくにゼロよ!!

 とか俺が引き攣った笑いを浮かべてると。


「……あの……」

 俺の向かい、レニの隣にいたミリエ嬢が、食事の手を止めて、俺を見た。

「……何か?」

 すかさず引き攣り笑いを引っ込めて客向けスマイルを浮かべる俺。

 フッ…これは自慢なんだが、俺はけっこう見目がイイ。たいていの女はこのスマイルに見とれ…見と、れ……てるの…かな?

 ミリエ嬢は、先日と全く変わらない無表情(※かわいい)で俺を見て、ぽつりと呟いた。

「……ここの、お料理…とても美味しいのですが…そんなに、高いのですか?…もしも、貴方のご負担になるのでしたら私、食事代は自分で」

「えっ、いやその……ははははは」

 ギャース!!!!!

 よりにもよって惚れてる女の子に気を使われちまったァァァ!!!カッコ悪いっていうか恥ずかしいィィィ!!!

「ははははは……オキニナサラズ。コレデモボクハケッコウカセイデマシテネ、コノクライタイシタフタンデハアリマセン」

 ものすごい棒読みで答える俺である。

 フフフ…なんか冷や汗出てきた…せっかく今日ヴィリイさんから、ソーマに貸してた金のうち500ゲルを回収できたってのに…レニが食った分だけでそれもなくなりそうだよチクショオオオ…

「そだヨーミリエ。アル兄さんはこう見えてあの王室御用達の高級衣装屋、アサラサスの売り子だからネー、いっぱいお給料もらってるんだって!」

 もぐもぐ食う合間に説明するレニ。やかましい!おまえは黙ってろ!ていうかそもそも食うなそれ以上!テメェコノヤロウよく見てりゃ高いモンばっか頼みやがってェェェ…

「……ええ。それは知っているわ」

 ちらりとレニのほうに視線をやってから、再び彼女はこちらを向いた。ギクゥッ!!

 アハハハハ…ソウデスネ~先日貴女にドレスを売りつけたのは俺ですもんね~…

「……その節は、ドレスについて、興味深いお話を、色々していただいて…私、とても、楽しかったです」

「……へ?ああ…いや、それは…どうも」

 えっもしかして…こないだの販売会、あんまり悪い印象にはなってない…のか?

「そんな…悪い印象だなんて……私、貴方にとても、感謝しておりました。私が知らないこと、知ろうともしなかったことを、教えていただけて…」

 そう言いながら俺を見つめる(※かわいい)紫の目元は、心なしかほころんでいるようにも見えた。

 えっ……な、なにこの都合良すぎる展開…嫌われてないどころか……めっさ好印象っぽいんですけど!?

 か、神!?神様ってやっぱりいたの!!?


 と再び脳内でリンゴォォンと祝福の鐘が鳴り響くのを感じつつもなんかデジャヴだな~とか思ってると。

「……プッ…くふふ……おっかし~い!アル兄さんもミリエも!」

「へ?」

「…………あ」

 食べながら(だから食べんな!)俺らの様子を見ていたらしいレニが笑って言う。その隣でミリエ嬢も、なぜか驚いたように目を微かに見開いて(※かわいい)いた。

「……何がだ?」

 何のことだかよくわからなかった俺は聞き返した。

「え~だってアル兄さん、ミリエとフツーに会話が成立してるな~と思って」

「……?……フツーに?」

 え?なんか俺らの会話に、おかしなトコでもあったの?

「ウフフ…だって、さっきからアル兄さん、ほとんど口きいてないじゃん」

「…………あれ?」

 言われてみれば、そんな気もするよーなしないよーな……え?

 俺は思わず、目の前に座っている彼女のほうに目を向ける。すると彼女は、なんだか困ったように少し視線を揺らして(※かわいい)それから口を開いた。

「……あの、勝手に『聞いて』しまって……申し訳ありません…でした……貴方の声は、よく『聞こえる』ものですから……」

 ……んん?それってつまり……その、いわゆる…噂になってる彼女の例の能力……

 え?えっ?

 じゃあアレ、もしかしなくても今まで俺が考えてたことって筒抜…け……

 俺と目が合った彼女は、ほんのちょっとだけ眉尻を下げて(※かわいい)呟いた。

「……その……ごめんなさい……」


 キャアアアアアアアアアア!!!!!イヤァァァハズカシイイイイイ!!!!!


「…………うわぁ…マジで?ちょっと、俺…かっこ悪すぎじゃね…?」

 思わず、今まで取り繕っていた客向け丁寧口調もかなぐり捨てて、頭を抱えてぼやく俺なのだった。つーか……ああもう今更だな。

「アル兄さん言葉遣い」

「うるせー俺は今日仕事休みだし彼女も今は客じゃねーし……ああぁ……ていうか…何から話せばいいんだ……」

 せっかく高いメシでも余裕でおごれる懐の広い男を演出しようと思ったのに余裕がないのもバレバレだったよチクショウ!あっそうかだからさっき気を使ってくれたのか…ウワアアアアア……恥ずかしすぎだろ……

「アル兄さん落ち着いテー…あっすいませェん今日のオススメってまだ残ってます?」

 いかにも棒読みっぽく俺にツッコミを入れていたレニだが、給仕が通りがかったのを目にするや呼び止めやがった。つかテメエ完璧に食い気しかねえだろ!俺をサイフ扱いしやがってェェェ!

「オイ!まだ食う気か!ていうかオマエもう食うな!」

 しかし逆に言えば、こっちの懐事情を彼女が知ってるんであれば、変にカッコつける必要もないってことだ。フ、フフ…フフフ……情けなすぎて逆に笑えてくるぜ……泣いてないもん……

1ゲル≒40円

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