14:性別不詳少年レニ
「……いやホント、すまん!…あ、そうだおまえ朝飯まだか?食ってくか?」
「あざーす!遠慮なくいただくッス!っていうか、いい加減ソーマのクソヤロウどうにかならないんですか!?」
案の定道場に上げてもらえることになり、内心ヒャッホウとか思いつつも、顔はしかめたまま俺はヴィリイさんに続いた。
「だよなあ…そろそろ絞め殺しといた方がいいか…」
ポリポリ頭を掻きながら軽く言うヴィリイさん。
「あ、絞めるときは教えてください。俺も見物したいんで」
「絞めるより焼き殺すほうがいいヨ〜だってそのほうが処刑っぽいでショ?」
「ふむ、確かに…って…………誰?」
前触れなく俺らの会話に混ざり込んできた声に、思わず足を止めて後ずさった。おい、俺今確か、ヴィリイさんの半歩後ろを歩いてたよな…隣には、誰もいなかったよな…なのにいつの間に……俺の隣にいやがるんだこの…………女…?
「うふふ、ビックリした?したかナ?ごめんネー美人のお兄さん」
俺の隣で、ニコッと無邪気に笑う茶髪ボブの少女。だが、その髪型と声には覚えがある…そうだ、十日前、傭兵ギルドでバンレッシィ・ミリエ嬢と一緒にいた…
「レニ…一般人相手に、気配消して近づくのは止めろと言ったろ。あと、ちゃんとご挨拶しなさい」
「はぁ〜い」
ヴィリイさんに咎められて、少女?は再びニコッと笑った。
「初めまして。ボクは、ティーガ・グレンファーギ。レニって呼んでネ!あ、いちおう男の子だヨ」
やっぱり…あん時の女装少年?か。
「あ〜ども。俺はヨォラ・アルキンっていうんだけど」
と俺も名乗りながら、改めて少年?を観察した。大きめの瞳といい、リンゴみたいに紅い唇といい、どう見ても女の子だ。声も女っぽいが…言われてみりゃ、女っていうには少し低いか…も?
ちなみに服は、女物のシャツに膝下までのスリットスカートだが、よく見りゃ足にレギンス着けてた。全体的に肌の露出が少ないから何とも言い難いが…ホントに男か?いやでも自分で男って言ってたし……まあとりあえず男ってことにしときゃいいか。
とか俺が観察してる間、相手も俺を観察してたらしい。ふふふ、と女の子みたいに笑いながら言う。
「お兄さん、かなりの美人さんだネー。モテるでしょ?」
「お?おうよ…」
むむ…誉められるのは嬉しいんだが…美人ってなんだ美人って…せめてイケメンと言ってくれ…
……どうもなんか、特殊な言語感覚の子みたいだな〜。
「うふふ。ボクねぇ、キレイなモノとかカワイイモノとか、ダイスキなの!だからお兄さんの顔も好きだナ!…でもお兄さん、髪の色がちょっとハデ過ぎだネ。そこだけオシイ!」
「何が『惜しい』だ。この無礼者が」
「ぃだっ!?」
俺が少年?の発言にツッコミ入れる前に、ヴィリイさんの肘鉄が彼?の頭頂部にガツンと落ちる。ていうか、マジでガツッて音したぞガツッて。うわぁ…痛そう…
けど、ヴィリイさんが普通に肘食らわすってことは、マジで男なんだなコイツ…ああみえてヴィリイさん紳士だから、女性には絶対手は上げないし。
頭を抱えてプルプル震えてる少年を見下ろして、ヴィリイさんは溜め息をついた。
「……あ〜、なんか、その…重ね重ねすまんなアル。こいつは見ての通り、礼儀も常識も弁えないガキで」
「うぅ…ひどいよぅヴィル兄ちゃん……母ちゃんに言い付けてやるぅ〜」
とかブツブツ言ってる少年を無視して足を進めるヴィリイさん。しかし、ヴィリイさんがお説教を省略するとは珍しい…が、理由は何となくわからなくもない。だってこの子、説教とか全然聞かなそうだもん。
「あぁそう、朝飯な。食堂はこっちだ。たいして美味いもんないけど」
「いや、何でもいいっす。ゴチになります」
腹減ってたし、なんかさっき失礼なこと言われてた気もしたので、俺も少年を無視してヴィリイさんに続いた。
「――んで、ソーマがおまえから借りてる金だが……とりあえず俺が立て替えとくよ」
朝飯をごちそうになってる俺に、既に食べ終わってたらしいヴィリイさんは茶をすすりながら告げた。
「え、いいんすか。助かります!」
よっしゃ!これでとりあえず金の心配はしなくてよくなったぜ!いや〜やっぱヴィリイさん良い人だわ〜ちょっと説教臭いけど。
「まあ、身内のしでかしたことだからな…」
「ヴィル兄ちゃん、面倒見よすぎだヨ。あんなクズ男、もう放り出しちゃいなヨー」
「そうもいかんだろ。面倒みてやれって師匠の遺言もある……けど、そうだな…今回は炎蛇の縄張りに放り込んで『魔玉』採ってこさせるか。幸いあいつは魔術が効かない特異体質だから、炎蛇の《炎の吐息》も気にしなくていいし」
いつのまにか女装少年レニが復活して普通に会話に混ざってたけど、まあヴィリイさんも普通に応対してたし、気にする理由もないので普通にスルー。
「でも、魔術効かないのってクズ男の体だけだったジャン。服とかは燃えちゃうんじゃないかナ?魔玉探して全裸で炎蛇の縄張りをうろつく不審者になるんじゃナイ?」
「…………少年。服など飾りだよ。お客様にはそれが分からんのだ。男なら裸で勝負すればいいのさ…………プッ…くくく……クハッあははははは!!!」
レニの発言に、思わずソーマのその姿を想像してしまった俺は、当然ながら吹いた。
……やべえまじうける笑いがとまらねえっていうか笑いすぎておなかいたいタスケテ…
「おいアル、おまえそれ服屋が言っていいセリフじゃねえぞ」
ヴィリイさんが至極まともなツッコミを入れてくれたが、笑いの発作に襲われて返事ができない俺だった。
レニ(CV:石○彰)