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13:借りパク野郎が捕まらない

 バンレッシィ家での販売会から早十日。

 今日は2週間ぶりの休みだった。

 といってもすることがない。せっかくなので惰眠を貪ろうと思ってたけど、普段の習慣で早起きしちまった……どうするよ…まだ店屋も開いてねえ時間だし…

 あ~腹減ったな…かといって部屋に食い物なんか一切置いてないし…こういうとき男の一人暮らしはつらいよな~。俺、自炊とか全然しないもん。嗚呼お嫁さんが欲しい…できれば黒髪サラサラで口数の少ないお嫁さんがいい…そうミリエちゃんみたいな…ていうかむしろミリエちゃんがいい…朝起きたら台所にミリエちゃんがいてパンを切りながら振り向きもせず「おはよう。朝ご飯すぐ作るから待っててね」とかあの少女みたいなそれでいてクールな声で言ってくれて以下略。


 ……まあ、現実逃避はそのへんにして。


 さてどうっすっかな。ていうか今日マジで何しよう?やりたいことも行きたいとこも特にないし…どうせなら女の子とデートしたいよな~でもこういう時に限って付き合ってくれそうな子に心当たりがない…そういや前回の休みは何してたんだっけ……あぁアレだ、ちょうど給料もらったばっかで、ソーマと一緒になじみの店に顔出して、かわいい女の子紹介してもらってそのまま朝までしっp…………ハッ!!?


「……かッ、金返しやがれェェェ!!!ソォォォマァアアア!!!」


 思わず、時間も近所迷惑も顧みずドス重い声で叫んじまった…いかんいかん。慌てて自分の手で口を塞ぐも、腹の底からこみ上げた苛立ちは収まらない。

 つか、スッパリ忘れてたよクソが!ソーマの野郎あんとき女の子に先払いって言われて「アッやべ金足んねえわ!アル悪ィけど貸しといて!」とかしれっとぬかしてやがったクソが!しかも俺も目前のエロスに急かされてつい払っちまったんだったクソが!そんであんときの女の子のテクがすごくてもう…あれはまさに職人技だったな。高い金払っただけの事はあったぜとかのんきに思ってたけど高かったのはソーマ担当の子の分も払ってたからだよクソが!

 くっそー……あんときは俺もかなり酔ってたとはいえ…こんな大事なことを今の今まで忘れてたとは…

 あンの借りパク野郎ォォォ!!!今日こそは逃がさねえぞォォォ!!!


 そうと決まりゃ、行くとこは一つだ。

 ソーマは南町のジギリート道場に居候ってか寄生してやがるので、とりあえず尋ねることにする。まあ道場なら朝練とかもやってるだろうし、この時間に行っても別に迷惑にゃならんだろう。

 ちなみに例の老け顔傭兵のヴィリイさんもあそこの道場で暮らしてるが、ヴィリイさんの場合は剣客っていうの?世話になるかわり剣術の指導もしてるんだ。あの人マジで鬼強いからね~。それでいて教え方は上手って、まさに剣術師範になるべくして生まれてきたような人だよな。ちょっと話が長いけど。

 そんなことを考えながら支度して、俺は家を出た。まだ朝靄も明けきらない中、南町を目指す。ついでだ、道場で朝飯食わせてもらおう。「おたくの門下のソーマが貸した金を返してくれないんですよ」とか嫌みったらしく言えばメシぐらいどうとでもなるだろ。

 フフン、ソーマめ。同門のやつらに締め上げてもらうといい!

 ……でもあいつ、アレで意外と強いらしいんだよな…なんかヴィリイさんの次だかその次くらいに強いとか…マジかよ…けど、あのクズっぷりで未だにジギリート流を破門になってないのも、強いからだってリアフも言ってたし……世の中間違ってるぜ…


 そんなこんなで辿り着いたジギリート流剣術道場『心技館』

 ちなみに王都下には他にもジギリート流の道場がいくつかあるそうだが、ここはその中で一番大きいらしい。

「たのもー」

 早速中に声を掛ける。本当はこんちわーとか普通に言うつもりだったが、なんとなく。

「……はーいはい。おはようごz…えっと」

「おとなしくオーボリ・ソーマを出しな」

「……えっと、金融業の方ッスか?」

「金を貸しているという意味では似たようなもんですが、違います」

 出てきたのは、ニキビだらけの顔の少年。たぶん門下生かな。しかし、ソーマの名前を出すなり金貸しかどうか聞いてくるあたり、あの野郎の悪行が知れるってもんだぜ…

「申し遅れました。僕はヨォラ・アルキンと言います。ソーマの友人なのですが」

「あぁ…失礼しました。ソーマ先輩ッスね、お待ちください、今呼んできます」

 笑いながらそう言って、少年は踵をかえして奥へ消えた。ソーマせんぱーい、とかいう声が遠くから聞こえてくる。どうやら居るらしい。ククク…今日こそは耳を揃えてキッチリ返して貰うぜェ!!

 ……ていうか、まるっきり借金取りじゃねえか俺。

 え、なにこの釈然としない立ち位置…悪いのは金を返さないソーマのはずなのに、なんか俺が悪者みたいなんだけど…

 そんなことをぼんやり思いつつ入口付近で待つが、どうしたことか、さっきの少年がなかなか戻らない。あっるぇ~?

 なんとなくイヤな予感を覚えつつも待っていると…

「……よぉアル。おはようさん」

「あ、ヴィリイさん。はよーございまっす」

 なぜか苦笑を浮かべながら、ヴィリイさんがさっきの少年を連れて姿を現した。…ものすごくイヤな予感がする。

「あ~、その…ソーマだけどな……すまん!……逃げた」

 俺に向かって頭を下げながら、ヴィリイさんは言った。

「…………は?」

「おまえも金貸してたんだってな……悪い、ヤツは今そこでメシ食ってたんだが、おまえが来てるってフィルが伝えたとたん、厠に行くっつって…そのまま…」

「…………はぁあああ!!?」

「すっ、すいません!ヨォラさん!!」

 さっきの少年、たぶんフィルっていう奴だろう、そいつも頭を下げた。どうでもいいけど腰をピシッと直角に曲げるのって意外と難しいんだよね。少年、おまえ今すんごい美しい動きで曲げてたけど、さすが鍛えてるな。

 いやそんなことより。

「あッンの……借りパク野郎ォォォ!!!!!」

 今度こそ、俺は近所迷惑なぞ一切気にすることなく(道場近隣は鍛錬場になってて民家はあんまりないのだ)腹の底から雄叫んだのだった。

オーボリ・ソーマ(23)

>>借りパク野郎,クズ,魔術無効化体質,意外と強い,実は異世界トリップした元日本人なのだがその設定が活かされる展開はこの話には全く無くしたがって出番もあんまり無い

※このキャラクターはフィクションであり、実在の地域・団体・固有名称とは一切関係ありません。

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