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01:ヨォラ・アルキン

 俺の名前はヨォラ・アルキン。

 いわゆる王室御用達の衣装店で、販売員のはしくれをやってる。

 王都じゃ、ちょっとは名の知れた『アサラサス』って衣装具屋だ。お得意先は、王族は当然ながら、上流階級の貴族連中を手厚くカバーする。残念ながら庶民はお呼びじゃない店だな。

 ちなみに中/下のほうの階級は、同系列の『リャンサス』がやってて、俺ホントはそっちで働きたかったんだよね。まあ修行中の身じゃ選択の余地もないけど。


 そんな俺の養家は、旧都チュラの生地仲買商だ。

 15の年に、オヤジの紹介でこの王都に修行に来た。奉公先が王室御用達店だと知った時はビビったよ。

 いや、だって俺、自慢にならね~けどオヤジに拾われるまでの数年間、ほとんど路上のチンピラみたいなもんだったし。

 つ~か一度ヤクザの鉄砲玉やらされて死にかけたこともあるし…アレはマジでヤバかったよな…姉貴とオヤジがいなかったら確実に俺今生きてねえ…

 ……姉貴、元気かなぁ…そういや、こないだ4人目ができたって手紙の返事出したっきりだ…それにトオルも元気にやってっかな…

 っとと、それは置いといて、だ。


 まあそういう俺なんだが、一応オヤジに礼儀作法やら色々叩きこまれたとはいえ、いきなり王室御用達の店で小僧やれとか言われた日にゃ…いいのか?大丈夫か?とか余計な心配しちまった。

 いやマジで無駄な心配だったけどな。あのクソ狸爺じゃなかった大旦那様には要らん御世話だったよ…

 つか、ヤクザも確かに怖かったが、大旦那様もたぶん…ある意味ヤクザと同rいやなんでもない。


 ま、どのみち小僧じゃ、下働きみたいなもんだし。

 掃除洗濯使い走り…最初の頃は朝から晩までいろいろやらされたな。逃げ帰った同期もいたっけ。

 でも逃げるヤツはだいたい、そこそこの店の跡取りって相場が決まってた。そんなに辛かったかねえ。

 寝床も着る物も食事も全部保証してもらえるし、罵詈雑言浴びるわけでもないし(ヘマやらかした時はぶん殴られたけどな)月に一度くらいは休みもあったし、微妙に奴隷っぽい扱いだったけど、ホンモノの奴隷と比べたら桁違いに良いのにねぇ…とか思っちまうのは俺が下の身分出身だからだな。


 まあそれはさておき。


 そんなチンピラ上がりの俺だが、ここアサラサスで丁稚の小僧から始めて早8年…1年前からは、一部お得意様の御用聞きを任されるまでになり、販売員としての評価は…最近、まあまあイケてるんじゃないかと思ってる。

 ……たまに狸爺が「どれ、ゲンの小僧の今月の売上は…フーンなるほどねぇ…」とか含みがありそうな微妙なセリフ吐くけどな。

 くっそ…ていうか、いい加減小僧扱いすんなジジイ!俺には「アルキン」っていう名前があんだよ!

 そういや、狸爺もとい大旦那様には一度も呼ばれたことねぇ…チクショウいつか独立して自分の店持ってジジイの店よりでかくしてやる!その時刮目して思い知るがいい!ヨォラ・アルキンの名を!

 ……あれ?俺オヤジの『ヨォラ商会』継ぐんだっけ?

 まあいっか、おいおい考えれば…


 さて、そんな俺が、今現在どこで何をしてるかといえば。


「お、ヨォラ君じゃないかアサラ屋の。何、またソーマを搾り上げに来たのかい?」

「……人を借金取りみたいに言わんでくださいよ…いや、今月分の請求書を取りに来ただけですって!」


 ここは傭兵ギルド南町支部。

 うちの店の警備とか、隊商を出す際の警護その他もろもろの業務を任せてるのがここの傭兵ギルドなんだが、その経費の請求書を取りに来たんであって、ここに所属するダチに貸した金を取り立てるのはついでだ。

 全く、ソーマの野郎…「飲み代のツケを払うから貸してくれ」とかしれっと借りたままもう1ヶ月だぞ?

 それと、昔あいつに貸したキロゴ製ナイフが未だ戻ってこない件について。

 くっそ~、あのナイフ買うと高いのに…

 しかもアレは俺が、店の得意先の某未亡人に気に入られた時に、うまいこと騙sじゃなかった二人の思い出の品が欲しいと頼み込んで貰ってきた戦利品もとい名のある逸品なんだぜ…いざって時は質草にもなるのに…


 いやそれはとりあえず置いとこう。


 顔見知りのオッサン(一応警備隊長)と立ち話をそこそこに切り上げ、俺は借りパク野郎ソーマを探し…じゃなかった、とりあえず経理部に顔を出した。

「こんちは~ッス。アサラサスですが、マプさんは…」

「あらヨォラさん。…あぁ、請求書ですね、えーと……ハイこれ」

「ども。…あれ、マプさん髪切りました?」

「え~よくわかりましたね!どうかしら?」

「いやぁ、若返りましたねぇ」

「ちょっと!どういう意味よ!オバサン怒りますよ!」

 と声を上げつつ、意外と楽しそうでもあるこのご婦人は、4人の子供を女手一つで育ててる肝っ玉未亡人だ。

 同じ未亡人でも、どっかの貴族よりマプさんの方がよっぽど好きだけどね、俺は。

 ……しかし実際食ったのはどっかの貴族。全く我ながら…いや、止めよう。考えてると虚しくなる。


 まあ、それも置いといて。


 マプおば様との世間話も適当に切り上げ、今度こそソーマもとい俺の金を持ち逃げしてる盗人を探す旅に出る。

 畜生ソーマどこだこの野郎。お前が今日ギルドに来ることはわかってんだよ。

 返せ!せめて先月貸した500ゲル返せ!


 とりあえず上の階から(経理部は建物最上階にある)順に見て回るが、なかなか見つからない。

 アレ?あいつ今日が装備の点検日(ギルドから装備を支給されてる傭兵は半年に1回は点検を受ける義務がある)だって言ってたよな確か。

 う~ん…とりあえず受付で聞いてみるか?

 ちょうど一階に着いたので、知り合いの受付嬢ナリーンに向かって手をあげた。それに気付いた彼女も、軽く目配せしてくれたが、あいにく接客中だったので、終わるまで待つことにした。

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