残った部品/抜けないネジ 下
飛び出した後は、はっきり言えばよく分からない。黒々とした視界の中で時折他の球体が見える。一瞬光ったのは・・・、死んだか。いいことだ。早く楽になれた。下された命令は前に進み撃つのみ。この黒々としたものがなにか知るのは、すべてが終わった後だった。
他の球体からの通信なんてものはない。不快感だけが膨れる中で時折ユキシマからの指示があり、それに答えて撃つ。俺とユキシマでは見えているモノが多分違う。女は後ろで男が前。
攻撃と索敵と言うらしいこの仕掛けは、女は活かせと言う命令からだろう。部品を作るにしても男より女の方が価値が高いらしい。
『92度!36度!140度!』
「分かった。」
『56度!10度!25度!』
分かった、そう返す。淡々と言葉を返す。ただ、ユキシマの声が途中から涙声になる。的確に攻撃はしている。ただ、黒々とした視界の中でどうなっているかはわからない。
『ねぇ、ナガサキ・・・。63番が泣きながら死んだ。』
「そうか。」
『32番も98番も46番も27番も死んだ。他にもたくさん・・・。』
「俺にはそれが聞こえない。聞こえるのはユキシマの声だけだ。俺とお前、ここにいるのは2人だけだ。」
『・・・、うん。今の私にはいる理由がある。・・・、37度に避けて!』
「分かった。」
避けて・・・、避ける意味はあるのだろうか?ただ、ユキシマが避けろと言うから俺は避ける。そして、後ろにいるユキシマがついてくる。避けた後を太い光の帯が通り抜け、それと入れ替わるように黒々い視界が晴れる。
抜けた先には火花を散らす、俺達が乗る物よりも更に巨大な球体が・・・。画面に『目標』と表示されるからには、あれを撃てばいいなだろう。ただ、晴れた視界の中で見える球体は数個。連携なんて言葉は知らず、ただ自分達の行動を淡々とこなす。
見えていた1つの球体が一気に加速し、それに合わせるように後ろの球体も加速する。それに合わせるように他の球体も・・・。俺もあれに続くべきか。ユキシマからの指示はないが、他の球体がそうしているなら・・・。
「ユキシマ。」
『・・・、て。』
「なんだ?」
『ナガサキは今後ろにいるの!だから・・・、他の球体を守って!』
「分かった、指示を。」
同じ球体なら追いつける。ただ、先を行く球体は回避などせずに一直線に大きな球体を目指す。多分白い玉を食べたんだろう。捨てずに取っておけばよかった。
『前は無視。後ろだけ届かせて。』
俺のところにはユキシマの声しか聞こえない。だが、ユキシマのところには別の声が聞こえるのだろう。部品が取り付けられ、前へ進む。進んだ先になにがあるのかは知らない。世界を取り戻す・・・。その世界はあの穴蔵で、この球体の中だろう。
加速する玉は次々と落とされる。光の帯で切られる何番か、光の帯を正面から受けて後ろごとなくなる何番と何番か・・・。ユキシマの撃てと言う指示でその方向に攻撃する。落ちるなにかはよく分からない。似た様な球体に見える。
そんなおり、火花を吹いていた大きな敵が真上に向かい光を放った。乱れ咲くような光・・・。ユキシマの回避指示・・・。無音の中で突如として鳴り響く轟音・・・。元から上下なんて分からない球体が激しく揺れ、どこもかしこもぶつける。ドロリとしたモノが頬を伝い、頭からも流れ目に入るが、その程度で目を閉じていいと言われたことはない。
ただ、その衝撃の後は無音・・・。
黒い靄を抜けたはずが、また黒い靄が現れなにも見えない。どうする?進んで死ぬのは構わない。ただ、闇雲に飛んで目標を見失う事は避けたい。どうせ死ぬんだ。他の番号と同じように一瞬がいい。
「ユキシマ・・・。ユキシマ!」
『き・・・、こ・・・。』
「ノイズが酷い。・・・、いや。片方の鼓膜が破れた。ユキシマ、大声で指示を。」
『な・・・、く・・・。』
「なく?」
『と・・・、ま・・・。』
「とま?分からん・・・。止まらず進めか、シンプルでいい。」
他の番号は見えず、後ろにいるユキシマと飛ぶ。なにもユキシマは話しかけてこない。本当に静かで、暗く、自身が死んだんじゃないかと言う重いとは裏腹に、慣れ親しんだ指の痛みは俺が生きていると知らせてくる。
・・・、どれほど飛んだだろう?そう遠くない所に巨大な球体はあったはずだ。しかし、俺とユキシマは辿り着けない。加速はしている。加速はしているが・・・。ユキシマが指示を誤った?
「ユキシマ、これは合っているのか?」
「・・・、し・・・、た・・・、う・・・。」
「下を撃て・・・、か?」
ゆわれるがままに光を下に放ち、直後・・・。
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「どうなったんです?」
「敵が死んだ。以上だ。」
「えっ!それは・・・。」
「それだけだよカツラギ。ただ、それだけ。」
「ユキシマさん、それはあまりにも・・・。」
「最初の光で司令がいたところも、他の基地もなくなってた。私達はその後球体の真上まで飛んでトドメを刺した。そして・・・。」
「そして?」
「なにも無くなった、だ。なにも無くなったことを得た。」
「それは・・・、ナガサキさんの言うじ・・・。」
言い終わる前に私の頬をユキシマが打つ。憎悪、怒気、悲壮、そしてなにより・・・、終わる場所が無くなった悲しみ・・・。どれもが噛み合わず、どれもが正解ではない。
「犬小屋のない犬は自由か?工事から出荷され、出荷された先で残った部品に価値はあるのか?・・・、いや。ユキシマ、行くぞ。」
「煩くなるね・・・。」
「あぁ・・・。」
「待って下さい!球体は!あなた達が乗った球体は!」
「それが狙いだろう・・・、日本人モドキ!言ったはずだ!なにも無くなったことを得た、と!いくらでも見た!すべての基地が壊され、データもなくなり、更地となった日本で唯一価値があるのが、俺とユキシマで球体だと!誰からも言われたさ!なにが英雄か!なにが覇権への導き手か!」
「私達は憎悪するよ。貴方も、この島も、この世界も・・・。」
バキリ・・・。立ち上がる彼等を追おとした時に、私の膝からそう、音が響き遅れて来た痛みと倒れる感覚で膝を壊されたと知った。
泣きそうなほどの痛み・・・、その視線の先でナガサキが前で後ろをユキシマが歩く。あぁ・・・、なにも終わってないんだ・・・。
「ユキシマ・・・、横を歩け。」
扉を出ていったナガサキから、そう声が聞こえた気がした。




