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残った部品/抜けないネジ 下

作者: フィノ
掲載日:2026/04/28

 飛び出した後は、はっきり言えばよく分からない。黒々とした視界の中で時折他の球体が見える。一瞬光ったのは・・・、死んだか。いいことだ。早く楽になれた。下された命令は前に進み撃つのみ。この黒々としたものがなにか知るのは、すべてが終わった後だった。


 他の球体からの通信なんてものはない。不快感だけが膨れる中で時折ユキシマからの指示があり、それに答えて撃つ。俺とユキシマでは見えているモノが多分違う。女は後ろで男が前。


 攻撃と索敵と言うらしいこの仕掛けは、女は活かせと言う命令からだろう。部品を作るにしても男より女の方が価値が高いらしい。


『92度!36度!140度!』


「分かった。」


『56度!10度!25度!』


 分かった、そう返す。淡々と言葉を返す。ただ、ユキシマの声が途中から涙声になる。的確に攻撃はしている。ただ、黒々とした視界の中でどうなっているかはわからない。


『ねぇ、ナガサキ・・・。63番が泣きながら死んだ。』


「そうか。」


『32番も98番も46番も27番も死んだ。他にもたくさん・・・。』


「俺にはそれが聞こえない。聞こえるのはユキシマの声だけだ。俺とお前、ここにいるのは2人だけだ。」


『・・・、うん。今の私にはいる理由がある。・・・、37度に避けて!』


「分かった。」


 避けて・・・、避ける意味はあるのだろうか?ただ、ユキシマが避けろと言うから俺は避ける。そして、後ろにいるユキシマがついてくる。避けた後を太い光の帯が通り抜け、それと入れ替わるように黒々い視界が晴れる。


 抜けた先には火花を散らす、俺達が乗る物よりも更に巨大な球体が・・・。画面に『目標』と表示されるからには、あれを撃てばいいなだろう。ただ、晴れた視界の中で見える球体は数個。連携なんて言葉は知らず、ただ自分達の行動を淡々とこなす。


 見えていた1つの球体が一気に加速し、それに合わせるように後ろの球体も加速する。それに合わせるように他の球体も・・・。俺もあれに続くべきか。ユキシマからの指示はないが、他の球体がそうしているなら・・・。


「ユキシマ。」


『・・・、て。』


「なんだ?」


『ナガサキは今後ろにいるの!だから・・・、他の球体を守って!』


「分かった、指示を。」


 同じ球体なら追いつける。ただ、先を行く球体は回避などせずに一直線に大きな球体を目指す。多分白い玉を食べたんだろう。捨てずに取っておけばよかった。


『前は無視。後ろだけ届かせて。』


 俺のところにはユキシマの声しか聞こえない。だが、ユキシマのところには別の声が聞こえるのだろう。部品が取り付けられ、前へ進む。進んだ先になにがあるのかは知らない。世界を取り戻す・・・。その世界はあの穴蔵で、この球体の中だろう。


 加速する玉は次々と落とされる。光の帯で切られる何番か、光の帯を正面から受けて後ろごとなくなる何番と何番か・・・。ユキシマの撃てと言う指示でその方向に攻撃する。落ちるなにかはよく分からない。似た様な球体に見える。


 そんなおり、火花を吹いていた大きな敵が真上に向かい光を放った。乱れ咲くような光・・・。ユキシマの回避指示・・・。無音の中で突如として鳴り響く轟音・・・。元から上下なんて分からない球体が激しく揺れ、どこもかしこもぶつける。ドロリとしたモノが頬を伝い、頭からも流れ目に入るが、その程度で目を閉じていいと言われたことはない。


 ただ、その衝撃の後は無音・・・。


 黒い靄を抜けたはずが、また黒い靄が現れなにも見えない。どうする?進んで死ぬのは構わない。ただ、闇雲に飛んで目標を見失う事は避けたい。どうせ死ぬんだ。他の番号と同じように一瞬がいい。


「ユキシマ・・・。ユキシマ!」


『き・・・、こ・・・。』


「ノイズが酷い。・・・、いや。片方の鼓膜が破れた。ユキシマ、大声で指示を。」


『な・・・、く・・・。』


「なく?」


『と・・・、ま・・・。』


「とま?分からん・・・。止まらず進めか、シンプルでいい。」


 他の番号は見えず、後ろにいるユキシマと飛ぶ。なにもユキシマは話しかけてこない。本当に静かで、暗く、自身が死んだんじゃないかと言う重いとは裏腹に、慣れ親しんだ指の痛みは俺が生きていると知らせてくる。


 ・・・、どれほど飛んだだろう?そう遠くない所に巨大な球体はあったはずだ。しかし、俺とユキシマは辿り着けない。加速はしている。加速はしているが・・・。ユキシマが指示を誤った?


「ユキシマ、これは合っているのか?」


「・・・、し・・・、た・・・、う・・・。」


「下を撃て・・・、か?」


 ゆわれるがままに光を下に放ち、直後・・・。



________________________

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「どうなったんです?」


「敵が死んだ。以上だ。」


「えっ!それは・・・。」


「それだけだよカツラギ。ただ、それだけ。」


「ユキシマさん、それはあまりにも・・・。」


「最初の光で司令がいたところも、他の基地もなくなってた。私達はその後球体の真上まで飛んでトドメを刺した。そして・・・。」


「そして?」


「なにも無くなった、だ。なにも無くなったことを得た。」


「それは・・・、ナガサキさんの言うじ・・・。」


 言い終わる前に私の頬をユキシマが打つ。憎悪、怒気、悲壮、そしてなにより・・・、終わる場所が無くなった悲しみ・・・。どれもが噛み合わず、どれもが正解ではない。


「犬小屋のない犬は自由か?工事から出荷され、出荷された先で残った部品に価値はあるのか?・・・、いや。ユキシマ、行くぞ。」


「煩くなるね・・・。」


「あぁ・・・。」


「待って下さい!球体は!あなた達が乗った球体は!」


「それが狙いだろう・・・、日本人モドキ!言ったはずだ!なにも無くなったことを得た、と!いくらでも見た!すべての基地が壊され、データもなくなり、更地となった日本で唯一価値があるのが、俺とユキシマで球体だと!誰からも言われたさ!なにが英雄か!なにが覇権への導き手か!」


「私達は憎悪するよ。貴方も、この島も、この世界も・・・。」


 バキリ・・・。立ち上がる彼等を追おとした時に、私の膝からそう、音が響き遅れて来た痛みと倒れる感覚で膝を壊されたと知った。


 泣きそうなほどの痛み・・・、その視線の先でナガサキが前で後ろをユキシマが歩く。あぁ・・・、なにも終わってないんだ・・・。


「ユキシマ・・・、横を歩け。」


 扉を出ていったナガサキから、そう声が聞こえた気がした。

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