第二十九話『悩み』
本日一話目の更新です!
結局、黒羽は衡具生成訓練の時間である二時間では、少しだけ圧縮できた、レベルにとどまった。
「まぁ、最初はそんなものだ。むしろ、初日から少しでも圧縮できたことを誇っていい。衡具生成で躓くものは少ないとはいうものの、それは、衡具生成あたりからどんな印もちも師を持つようになるからだとも考えられている。そして、衡具生成にかかる時間は平均で半年。早くても五か月はかかるといわれている。圧縮に四か月~五か月。衡具を安定させるのに一か月~二か月。そして、これはあくまでも衡具を生成できるようにするまでの時間であって、それから衡具をしっかりと使えるようになるためには、少なくとも実戦経験を二年~三年は積まなければならない。君が足を踏み入れているのはそういう世界なのだから、少しうまくいかなかったからといって後ろ向きになるんじゃないよ。」
「はい。」
正直に言えば、黒羽は少し気落ちしていた。というのも、今まで出された課題は、どれも黒羽にとってそこまで難しいものではなかった。数日もすれば形にはなる、というレベルだった。だからこそ、彼は多少自身の力にうぬぼれている部分もあった。
しかし、衡力圧縮は、一週間後、いや、一か月後にすらできている自信がわかなかった。少し残念に思うと同時に、自分が自身の能力に胡坐をかいていたことを恥じた。
その後は、予定通り、衡力放出の訓練を受け、一日が終わる。
その日の夕食時、黒羽はともに食事をしていた華原に、「明日は遠征がある」という旨の話をされた。確かに黒羽の耳には入っていたものの、彼の頭は衡力圧縮のことでいっぱいで、食事もあまり喉を通らなかった。
お風呂を上がってから寝るまでの間、彼はどうしたらうまく圧縮できるか考えていた。衡力を自身の中に引き込みすぎてしまえば、圧縮するまでの衡力が足りなくてうまくいかないだろうし、かといってぎゅうぎゅうに詰めようとするのもうまくいかない。
どうすればいいかどれだけ悩んでも結局答えは出ないままに、気づけば日付を超えていた。
翌日、朝の食卓には一緒に遠征に行く予定の軍嶺と司漣もいた。
「今日は一緒に遠征だな!」
「お兄さんたちのかっこいいところ、見せちゃうんだから。」
「…うん。」
軍嶺と司漣は、黒羽と共に遠征に行けるのが楽しみで仕方ないといった様子で、ウキウキで黒羽にそう声をかけるも、心ここにあらずの様子の黒羽。その様子にお兄ちゃん気質の二人はひどく心配する。
「…どうかしたか?緊張でもしてるのか?」
「具合でも悪い??今日の遠征、延期するように華原に話しておこうか?」
「…いや、大丈夫。」
お互いに顔を見合わせる軍嶺と司漣。やはりどこか様子がおかしい彼は心配だ。
「どうする?華原に掛け合ってみる?」
「いやぁ~でもな、あいつも白翔の事わかったうえで予定立ててるだろうし。」
「まぁ確かにいつも通りの時間にも起きてきてるしねぇ。あ、待って服のボタン掛け違えてる。」
「あれか?遠征用の服始めて着たから着慣れてねぇんか?」
そう二人でこそこそと話をする。黒羽の今の服は、中世の騎士のような格好で、黒い上着にはボタンがついている。その服が今日着たばかりなのもあって、どうしようか判断がつかない。
「…ねぇ白翔君、何か、悩みでもある?」
その言葉に黒羽は少し顔を上げる。司漣はその反応で、彼が何か悩みがあって今の状態であることにすぐに気が付き、話をすすめた。
「まだ、出発予定時刻よりも少し時間があるから、お兄さんの部屋でお話ししない?力になれることもあるかもしれないし。」
「俺も一緒に聞いてやるからな!」
黒羽は、彼らの呼びかけにゆっくりと頷いた。彼はいまだに相談をするべきか、自分で解決するべきか悩んでいる。そして、自分でもどうしてここまで衡力圧縮のことで心がみだされているのか、よくわかっていなかった。だから、少しこの優しいお兄さんたちに、すがりたくなってしまった。
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