第二十六話『放出試験』
本日一話目の更新です!
荘隆の開始の合図に先に仕掛けるのは華原。ものすごい速度で黒羽との距離を詰めると、腹に拳をねじ込もうとする。黒羽はそれに合わせて体をずらし、彼女の攻撃を捌いていく。
何度も早い攻撃が急所にめがけて繰り出され、黒羽は内心ヒヤヒヤしていた。今まではずっと対戦相手は陸か荘隆だったが、彼らよりも華原の方が明らかに攻撃の早さも重さも違う。
そんなことを考えている間に、華原はほかの攻撃方法を探っている。一度黒羽から距離をとると、体制を低くして彼の周りをまわり始める。そこで、黒羽は彼女が自分の隙を探しているということに気づき、自分から距離を詰めに行く。華原は一瞬驚いた表情をしたが、すぐに体制を立て直し、黒羽を迎え撃とうとする。
黒羽は、この一年で教わったことをすべて思い出しながら、相手の急所をめがけて素早く攻撃を仕掛ける。しかし、何発目かで彼女に拳を止められ、そのまま顔に向かってパンチを繰り出そうとする華原。黒羽は急いで態勢を低くすると、相手の足を払おうとした。
しかし、それはうまくいなされてしまい、気づけば黒羽の目の前には寸止めにされた拳が。
その場にいた誰もがこの勝負を見守っていた。無論、誰も黒羽が勝つとは思っていなかった。しかし、彼の努力を一番近くで見てきた人たちだからこそ、勝負の瞬間は、二人が戦っている音しか聞こえていなかった。
「そこまで!」
荘隆の合図で、張りつめていた空気は温かいものへと変わった。見守っていた面々は黒羽のもとに集まり、口々に褒めちぎる。黒羽もまんざらではなさそうに非常にうれしそうにしている。
「さて。次が今日の最後の試験だ。前に私は君に、『衡力放出で衡力がここの天井に届くまでになったら、軍嶺立ちとの遠征を解禁とし、衡具の使い方を教える』という話をしたね。さっき計った君の衡力量であれば、今までの訓練が身についているなら衡力は天井に届くはずだ。それを確認したい。」
「…わかりました。」
黒羽は今までにないほどに緊張した面持ちになった。今までやってきた試験は、成長を実感していたため、そこまで心配なことはなった。しかし、衡力放出はまだ精度が甘く、今まで毎日放出を行っていても、天井まで届いた試しがなかったのだ。
黒羽は、今までのトレーニングの通り、座って目をつぶる。緊張しすぎず、リラックスして、でも袋は壊さないように、そしていつもよりも衡力を少し多く放出できるように。何度も深呼吸して、精神を安定させる。
(大丈夫。俺ならできる。)
そう言い聞かせ、衡力放出を開始した。華原を除いた五人は、まだ彼の衡力放出を見たことがなく、彼の周りに霧が発生した時点で、「大したものだ」と感心する。華原には逆に、今までの黒羽を見てきたからこそ、黒羽と同じように緊張が走っていた。彼女も当然、彼が今まで衡力を天井に届くほど放出できていないことを知っていた。だからこそ、手に汗握る思いで彼を見守っている。
――シュー――
音と共にだんだんと黒羽の頭上の衡力の範囲が上へと広がっていく。ゆっくり、しかし確実に。黒羽の額にはすでに汗がにじんでいる。この汗が、緊張からなのか、疲れからなのか、はたまたその両方か。
だんだんと、だんだんと、上に上る衡力。
そしてついにその時は来た。彼の衡力が、訓練場の天井に届いたのだ。
「――…おめでとう。試験合格だ。」
華原のその声掛けに、黒羽は衡力の放出をやめ、満足げにその場にあおむけに寝転がった。
「やった…やった!!」
嬉しそうに声を上げる黒羽。満足げな華原。そして、あり得ないものを見るようなほかの面々。当たり前だ、彼らは黒羽と同じところまでたどり着くのに、10年は修行をし続けたのだから。それを彼はわずか一年でクリアしてしまったのだ。
「さて、約束通り、これから君には今までの訓練に加えて、遠征と衡具の生成の訓練が加えられる。言葉遣いも申し分なく、葉港も教えるべきことは教えられたと言っていたから、座学の時間を衡具生成の時間に変えよう。遠征は週に二回。最初は戦えないだろうから、しっかりと二人の戦い方を学びながら、空き時間に基礎トレーニングと衡力放出トレーニングを欠かさずやるように。いいね。」
「はい!」
「よし!まだ時間は少し早いが、たまには休むことも重要だな。今日はこれで終わり!各自自由に時間を過ごしてくれ。」
華原の解散の声に喜ぶ面々。黒羽も喜んでいたが、華原が訓練場から去るとき、黒羽に耳打ちをした。
「白翔、後で私の部屋に。少し話しておきたいことがある。」
黒羽の一日はまだ終わらないようだ。
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